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紹サイド
「OK、じゃあまたね」
携帯を切った俺はさっそくハリーさん達の部屋に向かう、ドアをノックすると中から返事が返る
『どなたですか?』
『すみません、生見です、少しご相談が有りまして』
『ああ、今開けます』
そうしてハリーさんの部屋に迎え入れられる
『こんにちは、今日はちょっとご相談が有りまして』
『はい、どういう相談でしょうか?』
ハリーさんがそう返事を返す、居間で会議中だったのかテーブルの上には書類がちらかっていた。
『お忙しい所申し訳有りません、実は紹との連絡用に秘匿回線付きの携帯を用意したいと思いまして、それで知り合いからホワイトハッカーの方を紹介してもらったのですが・・・少し事情が有りまして』
そう言ってスタッフの方へちらっと目線を向ける、紹とアンジェちゃんの事はスタッフにも秘密で有る
『ああ、キム少し外してくれるかい?』
ハリーさんは意味をきちんと読み取ってくれたようで、スタッフの方にそう伝える
『はい、暫く外に行ってきます』
スタッフも慣れたもので、すぐに部屋を出ていった。
『すいません、実は・・・・・』
俺はハリーさんに先程の携帯でアンジェちゃんと話した内容を説明していく
『こちらが連絡先の番号です』
そう言ってメモした連絡先を渡す
『解りました、ロビンの事はアンジェから聞いています、すぐ連絡してみましょう』
そういって受け取ったメモを見ながらすぐに連絡を入れてくれた。
『こんにちは、ロビン君の携帯で間違い無いですか?以前は本当に助かったよ、アンジェから話を聞いてびっくりしたよ、まさか同級生だったとはね、実は今回お願いが有ってね、頼めるかな?』
『ああ、有難う、実は美和の関係者の数名に専用の携帯を持ってもらおうと思ってね、最近携帯のハッキングが多いらしいから、相談に乗ってもらえるかい?』
連絡が取れたようで話しが進んで行く
『ああ、それじゃあ宜しく頼むよ』
そういって携帯は切れたようだった
『協力してくれるそうです、僕もアンジェと連絡が取れないかと思っていたので、僕と他にリオンにも持たせようかと思っているので、そちらは1台でいいんでしょうか?』
そう訊ねられたので念のため、俺の分も入れて2台にしてもらった、これで安心してアンジェちゃんと話しが出来る。
『助かりました、連絡が取れなくって困っていましたので』
『ハハ、アンジェもこれで寂しく無いだろう』
そう言ってジムさんは笑っていた、さすが、子供の頃からアンジェを見て来ただけあるな、そう思ったのだった。
翌日は、こちらでの仕事だ、僕は少しだけ緊張してスタジオ入りする、カメラの前に立つと俳優、柏木 紹に戻っていく、結構長い時間が経っていたが、身に付いた習慣は簡単に忘れる事が無いんだな、そう思いながら仕事に没頭する。
数時間かかった、足への負担はやはり有ったけれど、何とか乗り切った。
インタビューをお願いされたけれど、仕事には入って無いと言う事で、生見さんが対応していた、半年ぶりの仕事が無事終わって僕はほっと息を吐くのだった、アンジェに会いたい。そう思った瞬間、ダメだと思いなおす暫くは会えない日々が続くのだ、こんなに早くこんな気持ちになってちゃダメだ、そう思ってきつく自分を戒めた。
数日後、秘匿回線付きの携帯が届いた
「紹、例の携帯が届いたぞ」
「有難う生見さん、早速アンジェに連絡入れるよ」
そう答えた僕に生見さんも嬉しそうに答えてくれる、やっぱり良い人だな
「うんうん、ゆっくり話せ、多分誰も来ないから」
「有難う」
そう言って僕は部屋に入りアンジェに連絡を入れる
「アンジェ?」
「ああ、紹久しぶり、元気にしていた?足の調子はどう?」
たかだか1週間程しかたってないのにアンジェの声が聞けてすごく嬉しくなる自分が、ほんのちょっと情けない
「ああ、元気にしていたよ、一昨日は、仕事もしてきた、本当の復帰だね、多分近々日本に戻ると思う、斎賀さんが調整中だ」
僕がそう伝える
「そうなのね、お仕事復帰おめでとう、離れるのは寂しいけれど、また紹の仕事をしている姿が見れると思うと嬉しいわ」
彼女はそう言ってくれた、そうだ約束したんだ、頑張らないと
「これからは、何時でも好きな時に声を聞くことができる、何時でも連絡して来て、仕事中以外はすぐに出る事ができるからね」
僕がそう伝えると彼女は
「ええ、紹も何時でも連絡してね」
そう答える、会っていなかった間の話を少ししてから、
「それじゃ帰国が決まったら連絡するよ」
「わかった、それじゃあまたね」
そう言うと彼女は携帯を切った、時間はどんどん過ぎて行く、それでもお互いにやりたい事、やらなければいけない事、きちんとやり遂げなければ必ず後悔するのが解っているから、彼女も僕も頑張れる・・・・・そう思った。
部屋で寛いでいると、ドアをノックして斎賀さんが入って来る
ノックするなら、返事を待ってと言いたい・・・・・
「紹、事務所とも相談したんだが、一度日本に戻ってから、改めてこちらの仕事を受ける事にしたい、事務所側の意向だが、それでいいか?こちらの仕事が有る間は、多分行ったり来たりになると思う、日本での仕事はまだ入って無いが、リハビリ優先だ、リハビリの状態を見て日本でも仕事を入れたいそうだ」
「はい、解りました何時帰国しますか?」
「一応、明後日の予定だ、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です」
そう確認すると斎賀さんは戻って行った。アンジェに連絡を入れないと、そう思うがなかなか携帯に手が出ない、ため息を一つ落として僕は携帯に手を伸ばす、呼び出し音が鳴る
「ハイ、元気だった?」
何時もの挨拶だ
「ハイ、アンジェ、君も元気かい?」
何時ものように返す
「ええ、元気よ毎日紹の声が聞けて嬉しいわ」
少しためらってから僕はこう切り出す
「帰国の日が決まったよ、明後日だそうだ」
彼女も少し間を開けてから答える
「明後日なのね、解ったわ」
お互い少しの間話しが出て来ない
「明後日飛行機に乗る前に連絡を入れるよ」
「有難う、でも明日も声を聴かせてね」
「ああ、勿論だよ」
お互い、話しが続かないダメだと思っているのに言葉が出ない、会いたい、その言葉が出そうになるから
「そうそう、今日ね・・・・・・」
そうして彼女の方から話題を変えてくれた、気を遣わせた、愛しいアンジェ、頑張らなければ彼女の気遣いを無駄にしないためにも、そうして少しの間たわいも無い話をして携帯を置く、少し胸が痛む、これにも慣れないとな・・・僕はそう思いながら手元のタブレットの電源を入れ、中断していた曲作りに没頭するのだった。
アンジェサイド
紹君から連絡が入った。帰国が明後日に決まったらしい、こちらにいても会えないのだから、日本に戻っても何も変わらない、そう思う・・・けれど寂しい、会いたくてたまらない、どんどん我儘になっていく自分を戒める、そして言い聞かせる、大丈夫、大丈夫ずっと長い間紹君を眺めるだけで元気になれたんだ、少しだけ思い出せばいい、そう言い聞かせる。
そうでなければ、彼の気遣いを無駄にする、私には、やり遂げたい事が有るそれを応援してくれている彼の気持ちを、こんな日は昔の動画を見るにかぎる、そしてあの頃の気持ちを思い出すんだ、そうすれば大丈夫、私は大切に置いてある彼のオーディションの動画を再生する、そしてだんだんとあの頃の気持ちを思い出す、頑張れる、うん大丈夫
紹サイド
日本に帰国する日が来た、空港での手続きを手早く済ませ、専用ラウンジへ、ほっとひと息き付き僕は人が余りいない方の席へ移動した、アンジェに連絡する
「ハイ、アンジェもう少ししたら、飛行機に乗るよ、日本に着いたらまた連絡する」
「OKゆっくり休んで、連絡は落ち着いてからでいいから」
何時も気遣ってくれる
「解った、それじゃあ、念のため早めに切るね、愛してるよアンジェ、またね」
「私も、愛してるわ、またね」
そう伝えあって携帯を切る、プライベートラウンジでも絶対に安全では無い、美和の動画の騒動が落ち着くまでは、注目されていると思っていた方がいいのだから。
飛行機には何の問題も無く、快適に日本まで飛んでくれた、入国手続きもすんなり終わり、僕は事務所からの迎えが来ているはずだと思いながらロビーを見る、暁君が手を振っているのが見えた、斎賀さんも気が付いたらしく、3人でそちらに向かう、暁君はまだ、うちの事務所の人間だと顔ばれしていないようでマスコミも見当たらない、急いで駐車場に向かう、なんだか護衛の人がいないのには、違和感を感じるようになっている自分が可笑しかった。
車に乗り込み無事に事務所に着いた、入口に数人マスコミらしき人がいたので、何時ものように裏口へ、建物に入ってやっと一息付けた。
「なんだか、久しぶりな気がしないな」
のん気に生見さんがそう言ったのを聞いて僕も黙って頷く、そんなものかもしれない
「伊丹さんが会議室で待ってるそうだ、行こう」
斎賀さんがそう言った、伊丹さんに会うのも久しぶりだな、そう思いながらエレベーターに乗り込んだ。
会議室に入ると伊丹さんと他に2人の事務所の人が待っていた
「おかえり、紹 お疲れ様でした」
伊丹さんがそう言って出迎えてくれる
「ただいま返りました、色々ご迷惑かけて申し訳ありませんでした」
僕は頭を深く下げて皆さんに挨拶する、生見さんも横で頭を下げている
「いやいや、不運が重なっただけだから、それより紹が元気になってくれて嬉しいよ、生見君も良い仕事を見つける事が出来て、復帰について心配しなくて良くなって助かったよ」
伊丹さんは、生見さんにそう言った
「いえ、お聞きでしょうが、クレインさん経由で頂いた仕事です、僕は少しだけ話をしただけですので」
生見さんが答える
「そうだったね、クレインさんには色々世話になったと斎賀君から聞いている。ああ、こちらの2人には話しても大丈夫だよ、役職付きの者には通達が行ってるからね、それ以外には一切口外していないので、そのつもりでたのむよ」
伊丹さんがそう教えてくれた、横の2人は黙って頷いている
「解りました、宜しくお願いします」
僕は改めて、今里さんと鏑木さんに頭を下げるのだった。
「とにかく、リハビリ重視でやっていこうという事で事務所の方針は決まっているんだが、今現在の調子はどうだい?」
そう聞かれたので僕は正直に今の状態を報告する
「普通に歩く分には問題無いと思います、体力も60%くらいは戻っています、激しい動きはまだ不安が有ります、そんな感じなので軽い仕事は、余り支障は無いと思いますし、リハビリに関しては自宅でできる範囲で問題無いかと」
「そうか、一応斎賀君からも報告が有ったが、本人がそう言うなら問題無いだろう、それじゃあ明後日からになるけど、仕事を待ってもらってる所が有るからスケジュール組んでいくよ、無理しない程度で組むから、後で生見君に渡しておくので、確認しておいてね」
「解りました、色々有難うございます」
「生見だけ残ってね、紹は自宅に戻って休んで、自宅の方はすぐに生活できるように、予めスタッフを入れておいた、通いの家政婦さんも今日の昼からお願いしてあるから」
「はい、お言葉に甘えて自宅に戻ります、後で生見さん来るんですよね?」
「ああ、夜にでも訊ねるよ」
「それじゃあ失礼します」
皆さんに挨拶して、僕はとりあえず自宅に戻る事にした、会議室を出るとロビーで暁君が待っていた、自宅まで送ってくれるそうだ
「宜しくお願いします」
「はい、お任せ下さい車の準備をしてきます、さっきの所で大丈夫ですか?」
「ええ、お願いします」
僕達はエレベーターに乗り込むと先程の裏手の入口に降りる
「それじゃあ車取ってきますので、少し待ってて下さい」
「有難う」
そう行って僕は外から見えない所で暫く待った、車が止まる、急いで乗り込み自宅へと戻るのだった。
久しぶりに戻る自宅、家に帰って来たという実感がやっと湧いてくる
「お帰りなさいませ」
事務所が、お願いしていた家政婦さんだろう、何時もは余り顔を合わせる事が無いのだけれど、今日はお昼からと聞いていたのでこの時間にいるのだろう。
「どうもご苦労様です」
「夕食の用意は冷蔵庫に出来ています、お風呂も用意が出来ていますので何時でもお使い下さい、他に何か有りますでしょうか?」
「いえ、有難うございます」
「それでは、戻らせて頂きます」
そう言って家政婦さんは帰っていった、ふっと名前を聞くのを忘れたなと思い出す・・・少し疲れているのかな、とりあえず風呂が有難いので久々の風呂に入ってそれから色々考えるとしよう
久々の風呂は体から力が抜けていくようだ、リラックスできた、やっぱり日本人だなと思いながらゆっくりと入る
時差が有るから、アンジェには夜に連絡を入れようとそう思い、これからの事を色々考える、生見さんがスケジュールを持って来てくれる、ゆっくりできるのは今日だけだ、明日には気持ちを入れ替えて頑張らないと、
風呂から出て居間でゆっくりしていると、眠気がやって来た、時差ボケだ、なんとか目を開けておかなければ、仕事にも支障をきたす
僕はTVを点けてチャンネルを替えていく、久々に聞く日本語のニュース、なんだかほっとする、英語にも慣れて問題は無かったけど日本語のニュースの方がいいな、護衛の人がいないのが変な感じだとか、たわいも無い事を考えながらTVを見ていた。
気が付くと少しの間ぼ~っとしていたようだ、何時の間にか外が暮れ始めている、ベランダへ出てみる、夕焼けはあちらの方が綺麗だったな、ここは建物しか目に入らない、夜景はそれなりに綺麗なのだけれど。
チャイムの音が聞こえた気がして部屋に戻る、玄関の方を一応覗いてみるとドアが開く、生見さんだ、思ってたより早かったな
「思ってたより早かったですね」
僕はそう声をかける
「ああ、スケジュールの調整だけだからね、本当に無理の無い程度の仕事しか入って無かったので、早く終わったよ、後はアメリカでの仕事をどうするか、事務所の方で話し合いが有るそうだ、とりあえず、こちらで待ってもらってた仕事をこなしてから、だそうだ」
「そうですか、とりあえず夕食を一緒に取りながらスケジュールの確認を」
「了解だ、腹減ったよ」
生見さんがそう言ってキッチンへ向かう、勝手知ったるで、冷蔵庫から取り出した料理を温めてくれる、僕は飲み物を用意する、何時もの光景になんだかアメリガにいたのが夢だったように思えて来た
「なんだか、5か月近くもアメリカにいたのが夢だったような気がしてきましたよ」
僕は生見さんにそう告げる
「夢じゃ無いだろう?大事な物が出来たじゃないか」
そう言って生見さんが笑う
「そうですね、夢じゃ無い、大事な物が出来た・・・本当にそうです」
「とりあえず、飯食おう、さっさと確認して、連絡するんだろう?」
「ええ」
僕達はテーブルに付き食事とスケジュールの確認を進めるのだった。
「それじゃ、俺も家に戻るよ、明後日の朝に迎えに来るから、それまでに調整頑張れよ」
「はい、気を付けて、色々有難うございました」
僕はそう言って生見さんを見送る、アンジジェに連絡しなくては、携帯を取りに居間に行く
そして僕はアンジェに何時ものように連絡を入れるのだった。




