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アイドルに憧れて  作者: 詩鈴
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 タブレットを入手してからの私の毎日は調べ物にほぼ費やされる事となった。

 紹君を堪能するのは週に1度と決めている。

 今までさんざん待ったのだ、週に1度でも我慢できる。

 制限時間も、来年就学すれば増えるはず、授業にも使うようになるしね!

 本格的にこの5年の間に忘れてしまった日本語の補完をしなければ・・・幾ら時間が有っても足りないくらいだ。

 今までは書き取りくらいしかできなかったがこれからは、直接日本語に触れる事ができる。

 いきなり日本語を話しはじめたらびっくりされるから、そちらはまだ秘密にしておかなければ。

 日本語は本当に覚えるのが難しい言語だ、そして美しい響きを持つ言語だと私は思っている。

 風情、詫び錆び、言霊 

 島国だからこその独特の文化それらは混然と一体化して自然と調和している。

 日本人は虫の声を聞くことができる、川のせせらぎを美しいと思う、海の寄せては返す潮騒を聞くと癒される、風の音を聞き、山の声を聞く、これは日本語で育った人とポリネシア人にしか理解できないそうだ、不思議だよね、理由は右脳で処理するか左脳で処理するかの違い。

 これらの音を言語として理解しているからだそうだ。日本人って本当に不思議だ、海外にいるからこそ強くそう思う。

 日本の事を新しくどんどん勉強して行きたい。

 

 それから暫くはタブレットと母のレッスンと何時ものルーティーンで日々は何事も無く過ぎて行った。

 そして物語のように突然に私の幸せで平凡な日常は終わりを告げる。

 5歳の誕生日まで2か月を切った頃それは起こった。

 私は何時ものようにタブレットに夢中だった、玄関のチャイムが鳴る、シッターのお姉さんが対応しているようだ。

 何だか様子がおかしいと思っていると、ノック無しにいきなりドアが開く、お隣のおばさんが駆け込んで来る、何事か?とおばさんを見上げる。

「おばさん、こんばんは」

「アンジェリーナお着換えして、おばさんとお出かけするわよ」

「え?何故?」

「途中でお話するから、とりあえず出かけましょう」

 と言われ立ち上がり着替える、その間にシッターを帰らせて家の戸締りをしてくれた。

 お隣の車に乗り込むと運転席にはお隣のお兄さんが座っている。

「リックさんこんばんは」

「やあ」

 と言ってすぐにお兄さんは車を発信させる、急いでいるようだ。とても嫌な予感がする。

「アンジェちゃん、落ち着いて聞いてね」

 おばさんがしゃべり始める

「お父さんとお母さんが乗った車が、パーティーに行く途中で事故にあったのようなの、今から運ばれた病院へ行くのよ」

「パパ、ママ」

 それだけしか言葉にできない。

 そんな私を見ておばさんは思わすといった感じで抱きしめ背中をやさしくさすってくれた、そうして

「大丈夫よきっと大丈夫」

 そう言ってくれる。

 5歳にならない子供にとって両親とは、ほぼ世界の全てだ、だが私には前世の記憶が有る、知識が増えるにつれて前世の記憶にひっぱられるように、考え方も大人になっていった。

 軽い事故ならば直接両親から帰宅が遅れると連絡が入るはず、なので両親は連絡できない程大きな事故にあって動けないのだ、最悪、最悪死んでいるかもしれない。

 おばさんは詳しい話は聞いていないらしい。

 ここまで考えていると突然涙が溢れ止まらなくなる、声を上げて泣き出す私、思っていたよりも今の両親を愛していたみたいだ、不安な気持ちと恐怖で頭がぐるぐるしてだんだん思考がまとまらなくなってくる。

 涙が止まらない、呼吸が早くなる、病院についても自分の足で歩けなかった、お兄さんが抱き上げて連れていってくれる、おばさんが廊下の先で待っていた医師と話しているようだ。

「Oh, my God」

 叫んでおぼさんが膝から崩れ落ちる。

 その意味を理解した瞬間私の意識は途切れた。



 目を開けるとそこは知らない天井だった。何処だろう?デジャブ?

 ああ・・・そうか、両親が、いなくなったのだ、唐突に思い出す。

 ベッドから起き上がるが力が入らない、涙が溢れてきて止まらない、泣き声が漏れていたのか、おばさんが入って来た。

「アンジェ大丈夫?」

 私は首を横に振る事しかできなかった。

 静かにおばさんが私を抱きしめてくれる。

「こんなに子供なのに可哀そうに」

 おばさんの声も涙で震えている

「貴方のお世話はおばさん達が全部するから心配しないで、今は沢山泣いていいのよ」

 涙は止まってくれる様子が無い、私は泣きづづけた、頭の中で叫ぶ

『神様!運も希望したよね!こんなの詐欺だ!神様のばかやろーーー』


 いつの間にかまた眠っていたのだろう、気が付けばおばさんの家のベッドだった。

 起き上がりぼ~っと窓の外を眺める、ふいに涙が溢れてくる、涙腺が壊れたように何時までたっても涙が止まらない。心に穴があいたようだ、胸が苦しい。何もする気にならない・・・でも考えなくちゃ、2人にはもう会う事ができないのだ。

 両親は今頃あのカウンターの列に並んでいるのだろうか?今頃は希望を聞かれている頃なのかな?

 私は、死後の世界が有る事を知っている、この世界から退場してもそれで終わりでは無い事を知っている。次生まれ変わってもまた彼らに出会いたい、そう思うくらい両親を愛していた。

 窓の外をぼ~っと眺めながら少し心の穴が埋まったように感じる、それでも涙はまだまだ止まらない。

 外に高級車が止まった、下りて来た人がこちらに向かって来る。

 おばさんの話し声が遠くで聞こえる、内容は解らない。

 まだふわふわする思考を縫い留めるように、2人が一緒にいるといいな等とたわいも無い事を考えると少しづつ心が軽くなってくる。

 ドアがノックされる。涙が止まらないので返事ができない。

「アンジェ入るわね?」

 そう言ってドアが開くとおばさんが部屋の中を覗く

「起きていたのね?ある人があなたを尋ねて来たのよ」

 そう言うと後ろにいる人を部屋に招き入れる。 1人の男性が入って来た。

『うお!イケメン』

 思わず声がもれそうになるくらいのイケメンだ。

「アンジェリーナだね?」 

 優し気な声が聞いて来る、黙ったままうなずく

「私は、君のお母さんの兄なんだよ。君の叔父だ」

 え?聞いてないぞ母、余りの驚きに思考が戻って来る。

「叔父さん?知らない」

「事情があってね、お母さんの弁護士から連絡をもらって飛んで来たんだよ、まさかこんな事になるとは・・・」

 そう言うとベッドに近づき私を抱きしめた。

「これからの事は、何も心配しなくていい、全て叔父さんにまかせなさい」

 いきなりな展開に声もだせず、唖然とその人に抱きしめられながら、またしても頭の中で叫ぶ、『神様?運が良いってこういう事??ありえねーし!!!』


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