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紹サイド
早朝からバタバタと準備が進む、やっと退院する日を迎えた、少しでも早くホテルに入って、それからアンジェに会いに行くのだ、多分学校が有るから夕方少しだけになるだろうが、離れているのが辛い
ずっと一緒にいたい、そう思う、声を聞けば聞くほど会いたくなる、台詞には有ったけれど、演じる事はできていたはずなのに、こんな気持ちは初めてだ。
自分の気持ちに最近戸惑う事が多い、今後の役作りには、良い参考になる、頭の片隅で変に冷静な役者の自分がそう頷いている、なんだかな・・・・・と思うが僕もいい年だし、子供のように浮かれてばかり、とはいかないのだった。
ホテルに落ち着いたら、事務所への直談判も待っている、さてどうやって説得しよう、復帰の事も考えなくてはいけない、とにかくやらなければいけない事は山程有る・・・・頑張らなくては。
ホテルでチェックインを済ませ、部屋へ入る、護衛兼運転手の方はロバートさんと言う方で夜も護衛に付いてくれるそうだ、24時間体制である。
日本の芸能人で少しではあるが、名前も顔も知られている、この街では、何が有るか解らないからで、ロバートさん以外で昼夜交代制で2人の護衛が付く。
それが有名人に対する護衛の基本だそうだ、自宅では無くホテルにいる場合は、幾ら警戒しても外から人が出入りする事ができる、以前に映画祭で来た時は確かもっと護衛がいたなと思い出した。
そうか・・・・・こちらではそれが常識なんだな、アンジェにも何時も護衛がついていたものな、と思った。
授業が終わる時間になったのでアンジェに連絡を取る、1時間後に指定されたカフェでと言われた。
ロバートさんにカフェの名前を告げる、場所は知っているとの事、アンジェの学校や自宅近くは比較的安全で、そのカフェも安全に会う事ができるとの事。
移動をする、まだ車椅子だが、順調にいけばそんなに遠くないうちに松葉杖に変わるだろうとの事、リハビリが必要だが、今はそんな事でさえ励みになる、確実に良くなってると解るからだ。
アンジェの待つカフェに到着する。彼女は先に来て待っているはずだ、店に入ると2階へ案内された、案内してくれた人がドアをノックすると内側からドアが開けられた。
何時も来ている人では無い護衛らしき人が顔を出す、中からアンジェの声が、入室を促す。
『どうぞ』
生見さんに車椅子を押してもらい入室する
『やあ、アンジェ』
軽く手を挙げて挨拶をする、彼女が近づいて来てかるく頬にキスを落とす、僕も同じように頬にキスをする。
さすがに知らない人の前でいきなりベタベタする訳にいかない。
護衛の人達がドアの外で待機すると僕達は席に付き注文を済ませる、お茶等とデザートが運ばれてくる。
そう言えばアンジェはお茶派だなと、たわいも無い事を考える。
窓の外の景色は冬色に変わっている、ほんの少し残ったポプラの葉が風に揺れ今にも飛んで行きそうだ。
夕暮れがそろそろと空を染め始めポプラを彩る、葉の無くなった木々がなんとも言えず切ない気持ちにさせる。
もうすぐ冬だな、あの事故からあっと言う間に季節が過ぎて行った。色々あったが、大切なものを見つけた、ずっとその手を離さないでいたいと強く思ったのだった。
アンジェサイド
自宅に戻った私は、今日の事を思い返す、彼の足は順調に治っているように見えた。
今日も少しだけど足に触れた、窓の外を眺めていた彼は、どこか寂しそうに見えた。彼も色々と思い出していたのかもしれない。
ベッドに腰掛け、色々な事を思い出す、子供の頃から、どうにかして紹君の動画を探そうと知恵を絞って思いをめぐらしていた私、ママのパッドで紹君をやっと見つけたあの日、そして事故のあの日、未だに思い出すと胸が痛い、それでもだんだん両親の記憶は深い場所に沈み込み思い出す事は少なくなった。
クレイン家に引き取らてからの生活、本当に素晴らしい家族を与えてもらった。
初めて紹君に会った日、初めてのデート、事故に有ったと聞き心臓が張り裂けるかと思った日
そして病院で見た弱った紹君、抱きしめ口づけをくれた紹君、本当に色々な事が有った、自分でも今彼と恋人同士だと信じられない、夢を見ているようだ。
彼も私を愛してると言ってくれた、あの声を何度も思い出す、心が温かくなる、ずっとずっと彼の手を離したくない。
紹サイド
「伊丹さんお久しぶりです、お元気でしたか?」
僕は事務所に直接連絡を入れ、社長と話したいとお願いしたが、社長は多忙との事で伊丹さんが携帯に出てくれた。
「ああ、元気にしているよ、生見君に聞いたよ、退院おめでとう、それで話しって何かな?」
「実は、僕好きな人ができて、一応事務所に一言伝えておこうと思いまして」
「おっとそれは・・・・まあ、君の年を考えると、遅いくらいだが、君はどうしたいんだい?」
「彼女と今後の人生を歩きたいと思っています」
「これは、また・・・・・」
そう言った伊丹さんに色々と伝える。そして彼女とは結婚を視野に入れて付き合いたいのだと告げた。
「ふむ、年齢的にはそろそろ話しが出てもおかしくは無いんだけど、いきなりって言うのはどうかな・・・・紹は今までスキャンダルがほぼ無いしね、おまけに病気療養中だ、世間がどう見るかな?相手の人はどう言っているんだい?親や家族は?何処の誰だい?」
「伊丹さんも彼女には1度会っていると思います、お見舞いに来てくれた彼女と話しがしたいと言ってお会いになってるはずです、・・・彼女の家族には、事務所側の承諾を得てからきちんと話をするつもりです、彼女の話では、応援してくれていると聞いてます」
「ちょっと待って、彼女ってクレインさんの事なのか?それは・・・・電話ではちょっと・・・・社長と1度話をして、とりあえずそちらに行ってから話をしよう、明日そちらに向かう、それまでは何もしないでくれよ?」
「解りました、僕は大人ですよ?アイドルだった子供の頃とは違います」
失笑をもらし、そう伝える
「ああ、そうだったね、すまない明日尋ねるので、待っててほしい」
「解りました、明日お待ちしています」
携帯を切った僕に生見さんから声がかかる
「やっぱり簡単にはいかなかったね」
「そうですね、覚悟は有ります、明日の話し合いが楽しみです」
不敵に笑って見せる僕を見て生見さんも悪い顔で笑っていたのだった。
翌日の午後斎賀さんを伴って伊丹さんがホテルを訪ねて来る
「紹、かなり元気そうに見えるね、良かった」
伊丹さんが挨拶変わりにそう言った
「はい、お陰様で松葉杖で歩けるように来週からは、リハビリが始まる予定です」
「そうか、とにかく元気になって良かった、そろそろ復帰の事も話さないとな、それも含めて、社長にも意見を聞いてきたので、腹を割って話そうか」
そう言った伊丹さんは、ソファに座る。
生見さんにお願いして、その向かいに車椅子をつけてもらう、伊丹さんの横には斎賀さんが座る
「生見おまえ知ってて何故だまっていた?」
僕の隣に腰掛けながら生見さんが返事をする
「はあ・・・人の恋路を邪魔するやつは馬にけられて・・・・と昔から言うじゃないですか」
悪い顔でそう言って笑った。
「チッ、相変わらず優し気な顔で食えないやつだ!」
斎賀さんがそう言う
「斎賀、今は生見君の事は隣に置いておいてくれ、話しがややこしくなる。生見君には後で色々話を聞くので」
隣の生見さんは少し固まっているように見える、副社長は、温厚そうに見えるが実はとっても怖い人なのだ。
「さて、まずは紹から提案が有った件だが、社長とも良く相談した結果、交際は認める方針でいく、ただし公にはしない、バレた時は認めていいが、いくらアメリカにいるとはいえ、あまり人の多い場所に2人で出かけるのは勧められない、いいね?結婚する場合は事務所側から正式に発表するが、時間を置いてくれると有難い」
事務所は最大限に譲歩してくれているようだ。
「はい、有難うございます、気を付けます」
そう言って頭を下げる
「了解してくれて、有難う。彼女の方は大丈夫かな?」
「おそらく、お兄さんが芸能関係の活動をしているので解ってくれるはずです」
そう伝える
「そうか・・・・芸能関係?有名人かね?」
「ああ・・・・芸名はレオン、確かめてはいませんが多分本名だと思います、
子供の頃からモデルをやっていたそうで、今は大学に通いながら、俳優とモデルをやっているそうです」
僕がそう伝えると
「レオン・・・レオン・・・何処かで聞いた事が」
斎賀さんが、そう言って記憶を掘り起こそうとしている。
「すごく綺麗なグリーンアイで、美系です、確か世界で美しい男性の20位だとアンジェちゃんから聞いています、本物は迫力が有りましたよ」
そう生見さんが伝える
「ああ!思い出した、俺もネットで見たぞ、すっごい美形で雰囲気の有る子だ、まだ21なのに、そのランキングに3年連続で入ってるんだ、さすがにクレインさんのお兄さんだな!」
「ほうほう、それなら、芸能関係に慣れているね、心配はいらなさそうだ、彼女もかなりの美系だったよね、芸能には興味無いって言ってたが、惜しいね、芸能関係の仕事したら絶対売れるのにねぇ」
「伊丹さん、彼女を誘惑するのはやめて下さいね、僕は反対しますよ?」
「おやおや、紹がやきもちかい?珍しい物を見ちゃったね、生見君、紹は彼女の事になると、こんな感じなの?」
生見さんはぶんぶんと顔を縦に振っている、僕は思わず顔を手でおおって俯く、恥ずかしい。
「そうか、そうか、紹にもやっと春が来たんだねぇ、女の人に興味が無いのかと思い始めてたんだよ、良かった良かった」
そう言った伊丹さんは生暖かい目で僕を見るのだった、横で斎賀さんが笑いをこらえている、この人達は・・・・・・
「さて、話を戻そうか、復帰の話しだ」
それから暫く話しは続く、夕刻を前に2人は帰って行った、忙しい中わざわざ来てくれた2人に感謝して見送ったのだった。
さっそくアンジェに連絡を入れる
「アンジェ、元気にしているかい?」
アンジェサイド
紹君から連絡が入る
「事務所から交際が認められたよ、ただ公にするのは、交際が見つかった場合のみと言い渡されてね、大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です、その辺りは理解しているつもりです、内密に会える場所はいくらでも有ります、芸能人、ましてや人気の有る紹さんとお付き合いするのですから、覚悟はできています」
「ありがとう、そんなふうに言ってもらえると、気が楽になるよ、公式に発表するのは暫く時間を置いてからにしてほしいと言われたので、それはおいおい考えていこう」
「はい、おまかせします」
「ところで正式に事務所からOKがもらえたので、君の家族に会いたいのだけれど、できれば来週、松葉杖になったらお会いしたい、どうかな?」
「えっと・・・リオンが今撮影に入っていて、家に戻ってこない日が多いので、調整に少し時間を下さい」
「ああ、解ったよ、宜しくね」
「はい」
それからは、たわいもないお喋りをして携帯を切る
一番聞きたい事が聞けなかった、『何時日本に戻るの?』
その質問が出来ない、事務所が認めてくれたのは、素直に嬉しいと思う
ただ、どんどん離れなくてはいけない時間が近づくのが怖いのだ、そんな事を考えていると、携帯が鳴った、ハリーからだ例のCDの事かな?
「ハイ!ハリーCDが完成したの?」
「ああ、自宅に届けるように手配するよ」
「そうだ!何時もより1枚多く届けて欲しいの」
私はハリーにお願いする、ロビンの分だ。
「おや?発売前に贈る人ができたのかい?」
「うん、以前に助けてくれたハッカーを憶えている?」
「ああ、美和のファンと名乗って手助けしてくれた人だね?あれきり連絡も接触も無いんだよ」
「彼ね、私のお友達だったのよ、その人に渡すの」
「なんだって!そうか・・・不思議な縁だね、CDを渡すって、もしかして?」
「そう、彼には私が美和だってバレちゃった」
えへへと笑ってそう伝える
「笑ってる場合かい?」
「彼なら大丈夫、秘密は守ってくれるし、何か有れば協力してくれるそうよ?それでCDを渡すのよ」
そう伝える
「そうか、そうか、力強い協力者をゲットしたんだね?彼は恋人なの?」
「いいえ、違うわ、素敵なお友達よ」
「そうなんだ?そろそろ年頃だ、BFのひとりやふたりはいてもおかしく無いね、1枚多く届けるよ」
そう言って笑うハリー、紹君の事は話せない
「有難う、ジムにも宜しくね」
「ああ、動画は明後日から配信だよ」
「は~い楽しみにしているわ」
そう言って携帯を切った。
紹君には何時、話そうか・・・・これもどうしたらいいのか迷う問題だった。
まずは、家族に正式に紹介しなくては、そうしてエドと話をするために居間に移動するのだった。
「食事の後に皆に話しが有るの」
私はそう伝える、リオ以外今日は皆家で食事を取っている良い機会だ。
「話しってなんでしょう?良いお話だといいわね」
ソフィがそう言って優しく微笑む、この叔母は相変わらず年齢よりずっと若く見える、可愛い人だ。
「とりあえず居間に集まってくれる?」
私はそう伝える
「解った」
とエド
「了解」
とノア
食事が終わり皆が居間に集まる、通いのメイドさんがお茶を入れてくれる、エドとノアはお酒を飲むようだ。
「実は柏木さんから、家族に改めて挨拶がしたいと言われたの」
単刀直入に話す
「そうか、日本人は律儀だね、気軽に家に遊びに来てくれればいいのに」
エドがそう言う
「それで何時にするんだい?」
ノアがそう聞いてくる
「それが、週末以降で家族が揃ってる時が希望らしいの、リオンのスケジュールが解らないから、何時にするか、返事を待ってもらっているの」
「リオンなら今晩戻って来るよ、明日は久々の休みだと言っていたから、少し遅い時間らしいが、確認できるはずだ」
エドから答えが返る
「良かったわ、寝ないで待っているわ、それと新しいCDを何時ものように届けてくれるとハリーから連絡が有ったの、動画は明後日に公開するそうよ」
「ああ、聞いているよ、CDは明日、事務所の者が届けてくれるそうだ」
そうエドが言う、ボスだものね、連絡は入ってるわね
「私からのお話はこれで終わりよ」
「そうかい?少しは彼の話も聞いてもいいんだぞ?」
そうノアがからかうと皆が笑う、私はあわてて、自分の部屋に逃げ込む、恥ずかしい。
とにかくリオの帰りを待つのだった。
ドアの開く音がする、リオが戻ったのだ、出迎える
「リオおかえりなさい、お疲れ様」
そう言って出迎える
「アンジェどうしたの?」
「実は柏木さんが家族の皆に会いたいそうなの、来週時間無いかしら?」
そう言って訪ねた私に、少し残念そうにリオは返事をくれる
「ああ・・・・明日の休みが終わったらロケに出るんだ、10日かそれ以上かかるから無理かな・・・・・僕は彼に1度会っているから、僕以外が集まれば良いんじゃないかな?早い方がいいんだろ?」
「そうなの、さすがに10日以上待ってもらうのは・・・・・そうね今回は残念だけどまた、時間が合えば会ってね?」
「解ったよ、楽しみにしてる、シャワーに行ってくるね」
手を振ってリオが居間を出ていく
「おやすみなさい」
リオの後ろ姿にそう言って私も手を振った、時間を決めなくてはそう思いながら。
紹サイド
リハビリは続く、足の痛みはほとんど無いけれど5か月近く足を動かしていないのだ、なかなかリハビリも大変だった、元気になって自分の足で歩くためだ。
松葉杖にも慣れた、アンジェとも毎日連絡を取れる、家族に会うまでに少しくらい動けるようになっていたい。
明明後日顔合わせだ、彼女から気軽に来てと言われているが、少し緊張している。
事務所と連絡を取っていた生見さんが戻る
「そろそろ、終わろうか」
「そうですね、後1度だけ」
「解った、ホテルに戻ったら話しが有るから」
そう言って生見さんは帰りの準備を始める
多分復帰の話しだろう、どうすればいいのか・・・日本に戻れば彼女とは離れ離れになる、できるだけ時期を延ばしたい、けれど芸能界で生きていくならば、復帰も遅らせられない。
人気の寿命は短いのだ、嫌という程理解している、どうすればいいのか、とにかく生見さんと話さない事には事務所の意向も知っておかないと。
そう思いながらリハビリを終わらせる。
ホテルに戻ってシャワーから出ると生見さんがソファで待っていた。
「紹、事務所から復帰について話しが有った」
「はい、事務所の意向は?」
「とりあえず、治療が残っている間はアメリカにいて、リハビリは日本に戻ってから、歩くのに支障が有る間は、軽くコマーシャルから始めないかとの事だった」
「そうですか・・・大体予想通りかな・・・できればちゃんと歩けるようになるまでこちらに滞在したかったのですが、無理でしょうね」
「だろうな、気持ちは解るよ・・・こちらで何か大きな仕事が有れば残れるだろうけど、紹の知名度はこちらでは、そこまで高く無い、休業していたからよけいにね・・・・・」
「そうですよね、仕方ないのは良く解っているんです、アンジェに何と言おう」
「きちんと説明すれば彼女も解ってくれるよ」
生見さんがそう言う
「彼女は我儘を言わない・・・・・それが解ってるから、辛いんです」
時間はどんどん無くなっていく事に焦る、とにかく彼女にはきちんと話さなければ。




