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紹サイド
「事務所からは?」
「ああ、今日会議だそうだ」
生見さんがそう言う、病院の周りは相変わらずレポーターが張り付いている。
情報がモレたため、僕のファンも来ているようだが、顔出しは出来ない。
「早く何とかしないと、病院側に迷惑がかかるよ」
「ああ、それじゃ事務所に行ってくるけど、大丈夫かい?」
「宜しくお願いします」
そう言って生見さんを見送って1人になった僕は、色々考える、アンジェどうしているだろう?元気にしているかな?早く誤解をとかなくちゃ、身動きが取れないのがもどかしい。
携帯をいじりながら、メールしようかなと考える、メールは生見さんに止められた。用心するように事務所から通達が有ったらしい。
ああ、うんざりする、そう思った瞬間、こんな気持ちは初めてだなと気が付く、芸能人という商売上プライベートな事でも自分勝手には出来ない、それが当たり前だったし、そういう物だと思っていた。最近は結構プライベートも認められるようになったとはいえ僕の場合は女性のファンが多かったため、やはり制限はつけられるのだ、それがうっとうしいと思う時が来るとは・・・やはりアンジェの事がきっかけか、そうとう参ってるな。そんな事を考えていると、いきなり足が痛み出した。
あわてて、看護師さんを呼ぶ
「どうされました?」
「足が痛むんです、ちょっと見てもらえませんか?」
「はい、すぐ行きます」
そう言った後すぐ看護師さんが来てくれた。
「かなり痛みが激しいですか?10段階で言うと幾つくらいですか?」
質問をしながら傷を調べていく
「10段階だと6か7くらいです」
「かなり痛むのですね、すぐ先生に来てもらいますのでお待ちください」
痛みを我慢して待っていると先生がやって来る
「傷を見ますね」
そう言って先生は傷を調べていく
「傷は問題無いですね、とりあえずかなり痛むようなので、今は点滴で痛みを止めましょう、痛み止めを処方しますので毎食後飲んで下さい」
「ありがとうございます」
痛み止めの点滴が入って暫くすると痛みが引いていく
「明日詳しく検査しましょう」
そう言って先生は帰っていった。
いったい何が起こったのか、訳が解らない、順調に治っていたはずなのに。生見さんが戻ったらすぐ報告しないと、そう思いながら僕はいつの間にか眠っていた。
「紹、紹?」
声がかかり、意識が浮上する。
「看護師さんから聞いたよ、事務所には報告済だ、痛むかい?」
生見さんが聞いてくる
「いや、だいぶましになってるから平気ですよ」
完全に痛みが無くなた訳では無いが、かなりましになっている。
「明日詳しい検査が有るみたいです」
そう伝える
「それも聞いたよ、痛みの原因を突き止めて早く治さないとね」
とにかく明日だ、原因が解るといい。
翌日朝から色々検査を受ける
検査の結果は2日程の物から5~7日程かかる物も有るらしいので、きちんとした結果が出るまでは1週間程かかるらしい。
毎食後飲む痛み止めのおかげで、痛みは少しましだ、3日後には痛み止めは抗生物質と供に点滴に変更された。点滴の方が痛みがましになるので、有難い。
1週間後検査の結果が出た、生見さんも呼ばれる。
「どうやら骨折した時に細菌に感染していたようです、複雑骨折の場合たまに有るんです、少しやっかいな菌なので、それ用の治療を始めましょう、治療には少し時間がかかりますけれど完治はしますので安心してください」
「はい、宜しくお願いします」
「どれくらいかかるんでしょう?」
生見さんが問う
「そうですね、3か月~半年ほどです」
「え?そんなにかかるんですか?」
「ええ、こちらの病院では、専門外になるので」
「そうなんですね、専門の病院を紹介してもらえたりは?」
「ええ、勿論紹介はできますよ、何件か候補を出しおきますね」
そう言って先生は、病室を出ていく
「事務所に連絡入れないと、3か月以上かかるなら、休業宣言も必要だな、そちらも要相談だ」
生見さんが頭を抱える
「どちらにしろ、ここの病院からは出ていく事になるんだな」
僕がそう言うと
「転院先が決まったらアンジェちゃんに連絡しないとね」
生見さんがそう言う。
「そうだね」
少し落ち込んでいた心にぽっと灯がともる、悪い事ばかりじゃない。
翌日事務所から斎賀さんと伊丹さんがやって来る。
先生から転院先の候補を受けっ取った生見さんがそれを見せる。
転院先の候補にアメリカの病院が載っていたのを事前に確認していたために、僕は伊丹さんにアメリカの病院を希望する事を伝える、2つのうちの1つを希望する。
日本の病院だとゆっくり療養できないためだと伝えると了承をもらえた。
事務所からすぐにでも休養宣言を出すとの事、暫くはレポーターやファンに煩わされる事は無いだろうと思うとほっとする、ファンは大切だが、体が弱っている時は静かに療養したい。
そうして僕は治療を受けるためにアメリカに旅立つのだった。
アンジェサイド
『柏木 紹』休業宣言!その文字が目に飛び込んで来た、タブレットで確認したニュースは以下の文章だった。
「本日、歌手で俳優の柏木 紹さんの事務所から彼の休業宣言が出されました。通達には、足のケガによる、細菌感染の治療のため、3か月~6か月の治療が必要なため、当分の間は療養に専念するため芸能活動を休む事となり関係者各位、ファンの皆様には大変ご心配をおかけして申し訳なく思っておりますと有り、容体が心配されます。
事務事務所からは、療養先の情報等は無く、できればゆっくりと療養に専念させたいので、皆様の協力を仰ぎたいとの事でした。柏木さんのなるべく早い復帰を願っております。」
記事は短く非常に簡素だった。
休業宣言・・・・大変な事になった、紹君・・・・
あのなかなか取れなかった曇ったオーラが細菌だったんだ。ああ・・・私は、彼の役に立つ事ができなかった、そう思うと膝から力が抜け立っていられなくなり、床に崩れ落ちる。
どうしよう・・・どうしよう・・・どうすれば彼を助けられる?自分の力を過信し、力になれた等といい気になっていた、恥ずかしい、こんなに大変なことになっているとは思わずに、連絡が無い事に寂しさを感じて気落ちしていたなんて、なんて馬鹿なんだろう。
はっと気がつく、そうだエド達にも心配かけちゃいけない、なんとかベッドまでいく、床なんかに倒れたらまた、心配かける。
考えるんだ、深呼吸して冷静になって、私はベッドの上で何度も何度も深呼吸をする、少しづつ落ち着いて来た。
何とかして生見さんに連絡を取りたいが、事態が落ち着いたら連絡するので、待っていて欲しいと言われた、なのでこちらからは、連絡を取る事ができない。
何か方法は無いだろうか?エドに相談してみようか?いや、私の病気が落ち着くまでは多分、会わせてもらえないだろう。
ならば、病気を治してしまえばいい。医師の説明では何かショックな事が有り、自己防衛機能が働いてるのだそうだ、記憶を封じ込めているとか、記憶を思い出しても大丈夫なくらいになれば、自然と思い出すそうだ。
記憶を取り戻せばいいのだ、そうだそうしよう、頭の中に靄がかかる事は最近あまり無くなった、最後は友人達とのパーティーのロビンとの会話の途中でだ、それも薬できちんと収まった。ならばそろそろいいのではないだろうか?そう思った私は、手元に薬を用意し抜け落ちた記憶を思い出そうとする。
手掛かりは女性の顔だ、思い出した記憶は消える事は無かった。
あの後気になって、調べた所、日本の女優さんで籠目 逸美さんと言う方だった、若い時に紹君とドラマで共演をして、その後彼とのスキャンダルが囁かれたが、他の人とのデートをフォーカスされて紹君とのスキャンダルは消えたのだ。
何故彼女の顔が浮かぶのか、どういう意味が有るのか、必死で思い出そうと記憶をたどる、あの日は朝から良く晴れた日で、暑かった事を憶えている、ふと綺麗な夏の青空を思い出す。
うんうん、良い調子だ、胸がチクンと痛む、でもまだ大丈夫、多分紹君のいる病院に向かったはずだ、目を閉じ情景を思い出そうとする、病室へ入って挨拶をしたはず、眩しい紹君の笑顔を思い出す、胸がドキドキする、その後、ぎゅっと掴まれたような痛みが走る、大丈夫、大丈夫、深呼吸だ、深呼吸、落ち着け私大丈夫、私ならできる、そう自分を励まし、何度も深呼吸をする。
そしてもう1度最初から思い出していく、大丈夫だ、さっきより落ち着いている、1度思い出した記憶は、消える事が無い、安心する。
紹君の笑顔を思い出した所から先に行こうとすると、胸が痛み出す、まだ大丈夫・・・ドアがノックされる生見さんが、ドアを開ける・・・
入って来た女の人が・・・ああ、紹君の病室に籠目さんが入って来た、そして紹君のベッドの端に腰掛ける、ここまで思い出した時に黒い塊がやってきた、ダメ、ダメ、来ないで、そう叫びながら暗闇に滑り落ちていった。
ふっと意識が浮上すると自分のベッドにいた、まず最初に頭に浮かんだのは、エド達には見られていないという思い、ほっとした、多分意識が落ちてからそう時間は立っていないのだろう、窓から外を見る、午後の日差しが優しく部屋の中を照らしている、1~2時間程かな?、良かった。
ほっとしていると部屋の外から声がかかる。
「アンジェ~おやつの時間だよ~出ておいで」
この声はレオだ
「君の大好きなケーキを買って来たんだよ、一緒にお茶しよう」
ベッドから起き上がった私は、ドアを開け居間に入る。
「有難うリオ、今日はお仕事は無いの?」
そう問いかけるとリオは
「そうなんだ~昨日クランクオフしてね、次に入るまで暫くは暇になるから勉学に集中できるよ、新学期が始まってるのに全く勉強できなかったからね」
そう微笑むリオ、相変わらずインパクトの有る笑顔である、少年っぽさが抜けて、リオは美しい男性に成長した。勿論本人の努力も有るのだが、エドとソフィの遺伝子が最高の組み合わせで受け継がれていると思う、今年の世界で最も美しい男性の20位に選ばれていた、そのうち10位以内に入るのも時間の問題だろうと思う。
「そうなのね、頑張ってね」
そうエールを送る
「相変わらずアンジェは可愛いね、僕の宝物だ」
ニコニコと微笑み、そう告げるリオ、恋人に言う台詞である、モテるのに、恋人がいない原因だろう。
「リオ、少しはノアを見習ったら?恋人くらい作ればいいのに」
ノアは恋人が出来て、妹を溺愛するのはやめてくれた。今は恋人一筋である。
「いやいや、僕に恋人が出来ると、世界中の女性が悲しむだろ?だからアンジェを可愛がるくらいがいいんだよ」
この兄は、本当に・・・・・こういう所は昔から変わらない。
いつの間にか、沈んでいた気持ちがすっきりしている、昔からリオは私が落ち込むとこうやって慰めてくれた、何故か落ち込んでいるのが解ってしまうらしい。本当に有難い。
そうやって緩やかに優しい午後の時間は過ぎていくのだった。
「アンジェ少し話をいいかな?」
夕食の後エドに声を掛けられる、私は居間のソファに腰掛ける。
「柏木君のニュースはもう見たね?」
「うん」
「マネージャーからは連絡が有ったのかい?」
「まだです」
「そうか」
「私からのお願いなんだが、君の病気の事も有るし、暫くは彼とは距離を置いて欲しいんだ、難しいお願いだとは解っている、君の持ってる力が役に立つだろう事も解っている、けれどできれば、せめて連絡が有るまでくらいは、間を空けて欲しい」
エドからのこういうお願いは非常に珍しい、心配してくれているのだ。
「はい、解りました」
私は素直に頷くのだった。
「そうか、解ってくれて嬉しいよ、話はそれだけだ、僕も色々調べておくから、今日はもお、休みなさい」
「はい」
そう言って私は、自分の部屋に引き上げる。
エドからも距離を取るように言われた、病気が治ればそれも、問題無くなる、早く思い出さなければ。
私はベッドに座り、昼間と同じく薬を用意してから、記憶の続きを思い出していくのだった。
ベッドに腰掛けた籠目さんと紹君とのやりとり、非常に親しげだ、『紹』と優しい声が彼を呼ぶ、私は2人から目を逸らす、2人の会話が再生される、どうみても恋人どうしの会話に聞こえる、生見さんの優しい声が聞こえる、「クレインさん」そう呼ばれる、ああ・・・・生見さんも認めている、2人は恋人同士だ・・・思い出した、胸が痛い、苦しい、手元の薬を飲み込む、紹君には支えてくれる人がいたのだ、私が支えなくっても、
その事実にシショックを受けて、私は病気になったらしい、頭の靄が晴れていく。
『嫉妬』・・・その言葉が頭に響く、なんて馬鹿なアンジェ、たまたま縁ができた、たまたま私の力が必要とされたと思い込んでいた、多少くらいは、役にったたのだろう、何時もお礼を言ってくれた、眩しいくらいの笑顔で、自分では彼を支えているのだと思っていたのだ、本当に馬鹿だ、醜い、後から後から涙が溢れて来る、記憶は戻った、ただ自分が愚かだったために家族に心配をかけた、涙が枯れるまで泣いたら、元のファンだった自分に戻るのだ、遠い所から彼を応援するファンに。涙は止まらない。
紹サイド
「紹!」
車椅子に座って外を眺めていた僕に生見さんから声がかかる
「アンジェちゃんの事で・・・・少し困った事になった」
「困った事って?」
「日本で使っていた携帯が解約されている」
「え?何か有ったんだろうか?」
「エドさんの連絡先は手元に有るので確認してみようと思う、最後に連絡した時、暫く会えないから、落ち着いたらこちらから連絡すると伝えたんだ、もしかしたら学校の準備のためにこちらに戻ったのかもしれない」
「頼む」
僕は少し不安になって生見さんにお願いするのだった。
手元には、こちらで交換したメールの連絡先は持っている、最悪メールでの連絡を入れる事できるので、そこまで心配はしていなかった。
アメリカでの入院先での手続きが済み、病室に入る前に担当の医師から説明を受ける、やっかいな細菌の話も・・・とりあえず治療に関してはお任せするむね伝え、生見さんと病室に向かう。
病室はなかなかに景色の良い部屋だった、高層ビルの間から遠くに景色が見える、日本と違ってこんなに都会なのに空が澄んでいる。ここなら暫くは退屈しないな等と思っていると、生見さんが部屋に入って来る。
「紹・・・ちょっとマズい事になっているらしい」
歯切れが悪い
「どうしたの?やっぱり何か有ったんですか?」
「そう、有った、こちらから最後に連絡を入れた後にアンジェちゃんが倒れたらしい」
「倒れた?どこか具合が悪くなったって事ですか?」
「それがどうやら、精神的ショックで記憶が抜けて、思い出そうとすると意識が無くなるらしい、自己防衛機能が過剰に反応しているらしくて、治療と新学期の事も有って帰国したそうだ」
「精神的ショックってあの女の事で?」
「エドさんから聞いた話なんだが、戻って来たアンジェから直接話を聞いたのは兄のノアさんだったそうだ、その話によるとやはり籠目さんの事を恋人だと思ったらしい、その時はすごく落ち込んでいるが、良く考えてみると本人も言っていたので、とにかく部屋で休むように勧めたそうだ。
エドさんが戻るとノアさんから話が有って、部屋の様子を見ると床に倒れていたらしい、日本でも1度病院に行ったそうだあの日の記憶が抜け落ちてるらしい、精神的ショックのためと言われ、自然と思い出すのを待つのが一番良いと言われたそうだ。僕達からの連絡が有るまで待っているよう言われたのは、承知していたようだ、家族はタイミングが良いと思ったらしい、それに専門の医師に診せるために帰国したそうだよ」
「そんな事が・・・・」
「送って行く車の中で様子がおかしかった、俺はただ、自分の気持ちに気が付いた彼女が少しの誤解をしているのだと、それだけだと思ったていた、もう少しきちんとフォローできていれば、こんな事にはならなかったかのに、紹、申し訳ない」
そう言って謝る生見さん。
「生見さんは悪く無いですよ、誤解させるような態度だった僕がいけなかった、しっかりした女性に思えるけれど、彼女はまだ17なんだ、もっともっと気をつけてあげて然るべきだったんだと、今になって気が付きました、反省しています、それで彼女の容体は?」
「ああ、少しづつだが落ち着いているらしい、新学年が始まってかなり気が紛れているらしく、元気にしているそうだ、ただ・・・・病気が落ち着くまで暫く連絡を取るのは遠慮してほしいと言われた」
「そうでしょうね、仕方有りません、とにかく今はそっとしておかなければ、治療に専念しましょう」
「そうだな、しかしあの女、歩く災害だよ」
苦々し気にそう言った生見さんひに激しく同意、そう思った僕はひっそりとため息を吐くのだった。




