18
サイド紹
病室から出ていくアンジェを見て逸美が
「あら、もぉ帰ってしまうのね?」
残念そうに言う、誰のせいだよ、まったくこの女は、思わず顔が強張る
「あの子すごく綺麗な子ね?どういう知り合い?ねぇねぇ教えてよ」
ああ・・・話したく無い、それよりアンジェを誤解させてしまったかも知れない。そう思うと、かすかに胸が痛む。
「ねぇねぇ、黙って無いで何とか言ったら?そんな顔して、彼女、恋人なの?」
ああ・・・まずい、この女にだけは知られちゃいけない・・・・そう気を取り直して、何時もの設定の説明を始める。
「へ~そうなんだ、ふ~ん、彼女幾つ?」
「17歳だよ」
「ああ・・・・そうなの、まだ子供なのね」
そう言って何か納得する逸美。なんとか誤魔化せたみたいだ。
「それで、わざわざ何しに来たんだ?」
「あら、お見舞いに決まってるじゃないの、弱ってる紹を見にきたの!」
「なら、もぉ見ただろ?帰ってくれないか、疲れたから休みたい」
「あら、すげないのね、仕方無いわね帰るわ、また来るから!」
もぉ来るな!心でそう叫ぶ、病室を出ていく逸美の後ろ姿を見ながら、また来そうだな、とそう思ったのだった。
アンジェサイド
「アンジェちゃん、ごめんね、まさか彼女が来るとは思わなくって、何の連絡も無しに急に来るなんて・・・・」
そう言う生見さんに
「いえ、大丈夫です」
私はそう答え黙り込む。思考がまとまらない。
窓の外を眺める、明るい太陽が輝いている、真夏の太陽が、空がとても青く見える、今日も暑そうだ。
でも私の心は凍り付いてしまったかのようだ、紹君に恋人がいてもおかしくないって思っていたじゃないか、仕方無いじゃないか、嫉妬はいけない、紹君は芸能人で、大人で、沢山の人と付き合いもあって、私はただの友達で、そう考えた途端、でもでもと心が叫ぶ・・・・出そうになる涙を必死にこらえる。
「アンジェちゃん、本当に大丈夫?そろそろホテルに着くよ」
生見さんからの問いかけにただ頷く、言葉を発したら泣いてしまいそうなのだ、我慢しなきゃ、我慢しなきゃ、変に思われる、ホテルに到着した私は
「有難うございました」
それだけ言って車から降りる、以前のホテルより病院に近いので、なんとか我慢できた、えらいぞ私、そう自分を励ましつつ部屋に駆け込む。
「アンジェ?どうしたんだい?」
入ってすぐの部屋にいたノアから声がかかる、思わず抱き着いてわんわん泣いてしまう、ノアはそんな私を静かに抱きしめて何も言わず背中を撫でてくれる。暫くして気持ちが落ち着く、そっと手を放して、ノアに告げる
「有難うノア、落ち着いたわ」
「そうかい?もっと抱きついててくれてもいいんだよ?」
ノアには珍しく、冗談が口から洩れる、気を使ってくれている、優しいノア、有難う。
「うん、大丈夫ちょっとショックな事が有ったの、ノアのおかげで落ち着いたから大丈夫」
「聞いてもいいかい?」
「うん」
私は今日あった出来事を思い出しながら、なるべく自分の意見を入れずに話す。
「そんな事が有ったんだね、僕の意見を言っていい?」
「聞かせて」
「どうやら、2人は親しいように見えるけれど、アンジェから聞いた事を冷静に考えると、紹という人は迷惑しているよう思える、マネージャーの人の言動も好ましく無い人を相手にしているように聞こえる、短いやり取りだったみたいだから、確信は無いけれど、それにアンジェを戻らせてたのも、君を守るためだったんじゃいんだろうか?」
「ノアはそう感じたの?2人は仲が良さそうに見えたわ」
「う~ん、実際見てるアンジェがそう感じたなら、そうなのかも知れないけど、まだ確実じゃないのなら、ちゃんと確かめた方がいいんじゃないかな?」
ノアの心遣いにまた、涙がでそうになる、泣いちゃだめだ、皆に心配をかける。
「うん、有難う、もう1度冷静になって考えてみる」
「そうだね、エドとソフィが留守で良かったかもしれない」
「出かけているの?」
「デートだよ、デート、相変わらず仲が良くって、僕もジェシカに会いたくなったよ」
そう言ってノアは笑う。
私はノアにもう1度お礼を言って自分の部屋に入った。
ベッドに腰掛けたまま今日の事を思い出い返してみる、感情のフィルターがどうしても掛かってしまう、やはり2人はかなり仲が良いように見えるし、生見さんの態度も、私と言う他人がいたせいに思える。
帰りの車の中では、2人の話は出なかったし、聞けなかった、恋人なら秘密にしておかないといけないし。
ああ、胸が痛い、勝手に涙が流れて来る、何時の間にこんなに紹君の事を好きになってたんだろう。
怖くて多分聞けない、自分で解ってしまう、このまま会えなくなったらどうしよう、頭の中が真っ白になっていく、目の前が暗くなっていく、いけないしっかりしなくちゃ、そう思いながら、私は暗闇に沈んでいくのだった。
紹サイド
生見さんが戻った
「生見さん、お疲れ様です」
僕はそう声をかける、聞きたいが事が有るのに、聞けない
「ああ、ただいま、どうやら彼女盛大に誤解しているみたいだよ」
生見さんからそう聞いて苦々しく思う
「マジですか・・・まさか逸美さんが来るなんて、予想してなかった」
「本当に、あの人いったここの場所を何処で嗅ぎつけたのやら、ただね、どうやらアンジェちゃんももそろそろ自分の気持ちに気がついたようだよ?」
そう言う生見さん
「え?」
「逸美さんと君を見て誤解する所までは、まぁ有る事だよね?」
「そうですね」
「彼女、ホテルに着いて、車を降りる時、どうやら泣き出すのを我慢していたみたいなんだ、そうならば君が好きだって事に気がついて悲しくなったそういう事だろ?」
生見さんがそう言う。
「なんてこった・・・こういう状況で気がつくのは、嬉しく無いな」
僕は頭をかかえる、本当にあの女、いい加減にしてほしい。
籠目 逸美、彼女は唯一僕が恋人にしてもいいかなと思った女だ、彼女の正体を知るまでは。
彼女はいわゆる、清純派女優で、かなり人気の有る人だった、昔あるドラマで共演した、彼女の方からかなりアプローチが有り、僕も20過ぎでそこそこ売れている時期だった、それでも、声を掛けられるのはそれなりに良い気分だったので、食事に行ったり、ほんの数回だがデートもした。
そのまま続くのもいいなと思い始めた頃、いきなり彼女のスキャンダルがTVに流れて関係はそこで終わった。
数年後ばったり合った彼女は、すっかりはた迷惑な女になっていた。
世間ではまだ純情派で通していたが、裏ではなかなか、裏表の激しい女性で性格が破綻してるという噂が流れ始めていた。
「紹、久しぶり元気にしていた?」
「逸美さん?お久しぶりです、僕は元気にやらせてもらってます」
「相変わらずね」
「は?」
思わず声がもれる
「もうちょっと、ののしるとかぁ~どうしてああいう事になったんだ?って問い詰めるとかぁ、しないの?いい子ちゃんね!」
いやいやいや・・・・誰これ?と思うほど彼女の言動が以前と違う
「えっと・・・どういう事でしょう?」
「あのスキャンダルよ!紹がぁあまりにも奥手なんでぇ、ついつい他の人ひっかけたら、写真撮られちゃったのよ?」
ちゃったのよって、しゃべり方まで以前と違う・・・・
「相変わらず、女に関しては疎いわね、ハア・・・がっかり」
さすがに僕もこちらがこの人の本性なのだと気が付いた。
「いやいやいや・・・僕と関係無いでしょ?勝手に貴方がした事だし、2年も前の話をいまさらどうこう言わないでしょ?」
「相変わらず、いい子ちゃんね、壊してやりたい」
物騒な言葉が出てきた、これは相手にしない方が良い人種だ、僕には理解できない。
「あの・・・打ち合わせに遅れるので、失礼します」
そう言って僕はそそくさとその場を後にする、この対応が気に入らなかったのか、その後、色々な所で出会うと、絡まれた、僕に好意がありそうな女優さんをいびったり、わざと傍にひっついて、仲が良さそうに装う、そのあたりは、さすがに女優なので、それらしく見える。
そういうのが何度か有った後うちの事務所で、要注意人物に指定された、なるべくブッキングしないように注意してもらっていたので、ここ数年は全く顔を合わせる事が無かった、なのですっかり頭の中から抜けていたのだ、それが何故、それも今なんだ???
生見さんが事務所に連絡を入れる、窓の外を見ると何故か車が増えていて、人がどんどん降りてくる、おや?様子がおかしいぞ。
生見さんが慌てたように、携帯の画面を確認する。
「紹、マズい事になった、この病院がバレた」
「うん、外」
そう言って窓の外を指すとそれを見た生見さんはすぐにカーテンを閉める。
「どうりで、あの女が来た訳だ・・・・」
「そうだね、弱った僕を見に来たと言ってた」
苦笑いしか出ない。
「ハア・・・相変わらずな性格だな・・・・逸美さんの事が無くってもどうするか事務所の方で考えてくれるらしい」
生見さんがため息を吐く。
「そうなるよね、アンジェには暫く会えないね本当にタイミングが悪い、送って行く時大丈夫だった?」
「ああ・・・それは多分、大丈夫だったはずだ」
「そう、良かった、ある意味、逸美さんが来てくれたおかげで、彼女が見つからなかったんだとも言えるかな」
「そんな風に思える紹は凄いね、俺は、暫くと言うか今後は絶対あの人には会いたくないね」
生見さんはそうのたまうのだった。
「ああ、今夜にでもアンジェちゃんの方には、連絡入れておくよ」
「お願い、僕も後でメール入れておく」
「いい加減、携帯番号交換したらどうだ?そうすれば直接声を聞けるのに」
「本当なら、今日にでもお願いするはずだったんだよ」
そう言って恨めしそうに生見さんを見る
「なんなら、教えようか?」
「本人の許可も無く、聞けないでしょ?彼女の気持ちもまだ、確かめて無いのに」
「ハイハイ、とにかく事務所の対策を待つしかないな」
「そうだね」
そう言った後、僕は深く自分の思考の海へと沈むのだった。




