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初投稿です、完全に趣味で書いています、ご了承下さい
ふと気づくと知らない天井だった。
自分で言っててなんだけど、本当に知らない天井なんだ。
どこぞの小説みたいな台詞だなぁ、記憶が曖昧で朧げだ、何があったんだっけ、曖昧な記憶を少しづつ整理しようと思った時、ある場面を思い出した。
TVのオーデション番組を見ていた、最終選考の場面で最後の6人目の名前が呼ばれる、私の一押しの紹君では無く他の子だった、やっぱり年がネックになったかと思いながら倒れたような気がする。
大事な事をまだ忘れてる気がするので、頭の中を整理しつつ思い出そうとすると、ふっとある情景が浮かぶ、長いカウンターだ、ブース状になっている。沢山の人が並んで待ってる、名前を呼ばれた気がして前に進む、
『あ・・あなたは隣のブースですね』
と微笑みながら右隣を案内された。隣を見ると、綺麗な女の人が手招きしている。招かれるまま進むと
『おかえりなさい、お疲れ様でした、今世は、結構大変な人生でしたね』
と言われた。今世?え?えええええ?!私って死んだのか!どうやら死後の世界ってのに来ているらしい・・・聞いてたのと違うな。
『あの~聞こえてますか?』
「あ、はい!ここは死後の世界で、私は死んだんですよね?ただいま」
『まぁ少し違いますが、そういいう認識で間違いありませんね』
「そうですか・・・」
しょんぼり、もぉ紹君を見れないって思うと心が痛い
『こちらでは、まず希望を確認しています。いわゆる死後の世界と言われるのは、来世を考えるためや、休息のために過ごす場所の事ですね』
「そうなんですね、希望って何ですか?」
『転生するか、休息して来世の設計をどのようにするかを考えるかです』
「もちろんすぐに転生します!」
『承りました、やっぱり強い魂をお持ちですね』
少し笑われた気がする
『では、転生に際してのご希望を承ります』
え?希望を聞いてくれるの!やったー!やりたかった事が出来る人になれる条件を出そう
「まず外見は、色白で可愛い系、細身であまり高身長にならない程度で、
タレ目が好きです。記憶力が良くって、f/1揺らぎの声と絶対音感が欲しいです、出来れば前世の大事な記憶を憶えていられると嬉しいです」
『記憶については、持って行かれる方がほとんどなのですが、赤ん坊の時間を過ごされる時に少しづつ忘れてしまうのです、最初から記憶を絞れば憶えていられる確率は少し上がりますが、どうされますか?』
「絞ります!紹君の事と日本語を覚えていればそれで、他は全ていりません」
『畏まりました、名前とか知識とかほぼ思い出せなくなりますが宜しいですか?』
「全く問題ありません!」
どんな世界に行くかも解らないんだから、最初から学べばいいだけだ、そのための記憶力だ。
名前なんてどうでもいい、前の人生は大変だったという言葉だけしか浮かばない・・・忘れてるんだな。
『承りました、追加でのご希望は有りますか?』
結構沢山希望したのにまだ、聞いてくれるんだね
「運の良さと、手で触れる所が少し癒されるくらいの人を癒す力が欲しいです」
『承りました、これで希望枠が埋まってしまいましたので、転生先は前世と同じ世界になります、ご希望を削って転生先を選ぶ事もできますがどうされますか?』
「いえ、そのままで」
『承りました、以上で希望枠は埋まりましたので、転生の準備に入ります』
「有難うございます」
やった~紹君がいる世界へ転生できるかも!もしいなくても記憶媒体が残ってるだろうから探せば見る事ができる、ワクワク。
多分苦労したで有ろう前世の世界は、嫌いな世界では無かった、それは覚えている。
些細な出来事を記憶している事も有るんだな。
考え事をしている間に手続きが終わったらしい
『右側のドアを入った先でこちらの書類を渡してください』
1枚の書類を受け取。
案内されるままに右手のドアを抜け違う部屋に入るとデスクが何個か並んでいた。
さっきの部屋と違いあまり人がいない、デスクには一人づつ案内のような人が立っていた、呼ばれたのでその人に書類を渡す。
『書類を承りました、そのまま真っすぐに進んで下さい、いってらっしゃいませ、良い人生を』
そう言われたので案内された先に進むとそこで記憶が途切れたようだ。
そうして私は転生したのだ、生まれた瞬間は覚えていない、けれど確かに日本語も紹君の事も覚えている、転生の時の事も覚えている、全て忘れ無いように何度も思い出そう、名前も前の人生も多分ほとんどの知識も忘れてしまっている、新しい人生の始まりだ、やっほ~新しい人生こんにちは!
さっきから頭を動かそうと思うけど動かない・・・赤ん坊だから仕方無いんだろうな・・・現在進行形で日本語で考えてる。
やる事無いので紹君の事を細かく思い出そう!忘れないように。
彼を最初に見たのは、公開オーディション番組だった。
東京に始まった予選は、名古屋や北海道を経て大阪に。
予選の段階ですごい子達が一杯いてすでに毎週の視聴が楽しみで仕方無かった。
さすがに大阪は、予選からすごい人数だった。
一人の番号が呼ばれる。
「次78番」
呼ばれた子が面接会場に入ってくる。
スタッフから声が上がる、細身で超イケメン、少したれ目の幼さが残る、でも整った顔。
私は、一瞬言葉が出なかった心臓がドキドキする、何が起こった??
どうしたんだ自分、これって一目惚れってやつなの?
今まで一目惚れって自分には関係無い事だと思ってたので、びっくり。
まだ心臓はドキドキしてる、いやありえないだろう?いい年した女(自分が幾つだったか覚えて無いけれどそう思ったのは覚えてるから成人はしてたのは間違い無いはず)が若い子に一目惚れとか!!ありえな~い。
一人で悶絶してる間にも審査は進む、画面見なくちゃ。
「自己紹介をお願いします」
スタッフから声がかかる
「柏木 紹 中学2年生 13歳 歌とダンスが得意です」
少しだけ掠れた素敵な声。でも13歳・・・子供じゃん・・・面接の方達も驚いている、彼かなり背が高いのだ。
「身長は幾つ?」
「178cmです」
「声掠れてるね変性期に入ったのかな?」メインの審査員の方(知ってるはずなのに名前が出て来ない紹君以外の記憶マジで抜けてる)が尋ねる
「はい」
「では、喉のために歌はやめておこうね、ダンスも得意だとの事だったので、ダンスを見せてくれるかな?」
そんな事もすぐに解るんだね、すごいなぁ、さすが審査員のメインで決定権持ってるだけの事はある、プロってすごいなと、素直に感心する。
「はい!」
曲が流れる、わ~おダンス上手。
審査員からもチラホラ声が上がる。
「彼、なかなか良いね」 「カリスマ持ってるね」 「身長も有るし」 「声質も良さそうだし、歌も得意って言ってたから、変性期後の声が楽しみだな」
なかなかに良い言葉が聞こえてくる、予選通過間違い無いだろうなと思って安心して見ていた。曲が止まる。先程の審査員の方がマイクを持つ、緊張して顔が少し強張る柏木 紹君
「有難う、結果の発表は少し後だけど、君は才能が有る、なので予選通過決定だよ」
そう言って紹君に予選通過の札を渡す。今までで2度だけ出た予選通過即決の札。
それを見たとたんにほっとしたようで、笑顔になる紹君、眩しすぎる。また私の心臓がドキドキする、絶対応援する、もぉ決定だ~!心の中で叫ぶのだった。一目惚れ、間違い無いようです、そして私が、ファン心理を理解した瞬間でもあった。
全国の予選が終わり本選、本選進出者は合計100名この中から今日の中継(多分録画)で、サバイバル合宿に参加できる25名が決まる。
紹君は絶対残ると思ってる。問題は現在変性期で声が掠れてる事だ。
まだ変性期終わってないはず。少し不利になる。
そんな事を考えていると本選が始まった、こちらもさすがに人数が100名なので、ピックアップになってる、番号が呼ばれそれぞれ自己紹介からのスタートだ、残念ながら名前や顔が記憶から消去されたように、想い出せないのでここいらは、除外。最終選考に残った25名の人達にも記憶がぼやけてて、思い出せない人が複数いる・・・(徹底してるなぁ・・・条件だから仕方無いか、そのうちどっかで映像探そう)
もちろん紹君は合宿参加の25人に残ってた。
来週からは、いよいよサバイバル合宿が始まる、ワクワクしながら待ってた記憶が有る。
サバイバル合宿も所々で記憶が抜け落ちているんだけど、日々目に見えて、歌やダンスが上達している、素人が見ても解るくらいだから、専門家ならもっと解ってるはず、目に見える努力ってすごいよね!
オーディション番組の人気が高いのが理解できる、もちろん素質の有る子達ばかりを選んでいるのだろうけれど、努力した事が目に見えるって素晴らしい、そして努力できるって素晴らしい!素直に感動したし、今後も絶対応援しようと思った。
最終選考の前にデビューするグループの人数が発表される、すでにサバイバルで人数が14人まで減っている。
「先にグループの人数を発表します、グループは6人に決まりました」
ザワザワしてる思ってた人数より少ない、半数以上が落ちてしまう事になる。
ハラハラ、ドキドキしながら歌や踊りを見ていく、課題曲や課題の踊りが有るので、変性期がまだ終わらない紹君は不利だと心を痛めていた。
気が付くと最初に見た天井だ・・・どうやら思考の海に沈んだまま眠っていたようだ。まぁ最初に話したようにグループ決定から紹君は落ちた。でも絶対デビューしてるはず!
赤ん坊の体力って無いんだなぁ・・・
なんか眠るたびに記憶を忘れてるような気がして、ちょっと怖いなと考えているとドアの開く音がする。誰か入って来たようだ。
上から覗き込む青い目、おお綺麗と見とれてると声がかかる
「You woke up? 」
可愛い声だ、えっと英語だよねぇ多分聞こえたのって英語だよねぇ・・・
「起きたの?」
と聞かれてると思う。かすかにだが覚えている英単語も有るみたいだ、まぁでも英語もほとんど忘れたようだ、1から覚えるね、うん仕方無い、英語圏に生まれたらしい。
これは日本語を覚えておくのも結構大変だなぁと少しだけナーバスになってたら抱っこされた。
子供部屋らしく壁に綺麗な色で絵が描かれている、どうやらすでに自宅にいるらしい、通路に入った所から今日までの記憶がほぼ無い、そして壁の絵だとは解るんだけど何の絵なのかが解らない、まぁそうなるよね。と自分で勝手に納得しているのだった。
毎日覚える事が多くて大変だ~と思いつつ日々は過ぎていった。
赤ん坊の日常って案外忙しい、色々大変だったとだけ言っておこう・・・
何かを覚えるたびに何かが欠けていく気がするのは多分仕方の無い事なんだと思う、こうやってほぼ全ての人が前世の記憶を忘れて新しい人生に馴染んで行くんだろう、私は常に頭の中では、日本語で思考する。
そして紹君の事を沢山考え続ける、美しい日本語も再確認していく、百人一首を詠んでみたり、万葉集を思い出したり、やまとことばを頭の中で綴っている。好きだった歌を頭の中で流す、歌えないからね!(歌詞が日本語なので曲ごと覚えているらしい)
もちろん英語もどんどん覚える、だてに記憶力をお願いした訳じゃない。それで無くっても子供の記憶力は素晴らしい。スポンジのように知識を吸い込むってこういう事だねと思いながら。大人の話に耳を傾ける、単語を聞き分け覚える、意味が解らなくってもいい、日本語と英語は文法に違いが有ったはず、なるべく沢山単語を覚えておけば後で楽ができると思う。
アルファベットは何故かすぐに思い出した。記憶が消されてる訳じゃないって言ってたから、ふとしたきっかけで思いだすんだろうな。