ゆいこのシンデレラストーリー~トライアングルレッスン スピンオフ―ゆいこが転生したら○○だった件―~
目が覚めると、そこは知らない場所だった。
――いや、知らなくはない。いつもの寝室の、いつものベッドの上だ。
私は染みの多い天井を見上げて、ぼんやりと考える。
夢を見ていたような感覚だが、きっとそうではない。
私は日本の女子高生だった。学校へ行って勉強をし、放課後には友達と遊んで、そんな平和な日常がずっと続くと思っていた。
けれどある日、横断歩道を渡っていたら信号を無視した車とぶつかって、私は呆気なく死んだのだ。
これはきっと、私の前世の記憶。あの頃の私の名前は、ゆいこだった。今世での名は――
「シンデレラ! ちょっと、まだ起きてないの!?」
部屋の外から姉の怒鳴り声がして、私は起き上がった。
今の私は、シンデレラ。前世で有名だった、御伽噺の主人公の名だ。
もしかして、私はあのシンデレラの世界に転生したのだろうか。確かに、継母も義姉達も意地悪で、毎日家事をさせられている。
とするならば、私はいずれ――。
毎日家事ばかりでうんざりだったが、急に楽しくなってきた。
部屋を出ると継母達に寝坊したことを怒られたが、今に見てろよ、と思えば何のことはなかった。
ある日、お城から舞踏会の招待状が届いた。
御伽噺のストーリー通り、継母達は私を一人置いてお城に向かい、現れた魔法使いのおばあさんにドレスとガラスの靴、カボチャの馬車を貰って、私はお城を目指した。
お城はとても華やかだった。多くの王族や貴族が集まって、楽しそうに歓談やダンスを楽しんでいる。
今回の舞踏会は、周辺諸国の王族も招待しているようだ。見たことのない装束を着ている人がちらほらと窺えた。
ダンスの相手のいない私は、会場を当てもなく歩いて回っていた。こうしていれば、王子様が私を見つけてくれるだろう。
「あの、そこの方」
声をかけられて振り返ると、そこには――
「ひろし!?」
つい声を上げてしまい、目の前に立った男性がきょとんとする。
彼の顔が、前世で幼馴染みだったひろしにそっくりだったのだ。だが、彼がひろしのわけがない。だってここは、もう転生した後の世界なのだから。
「ごめんなさい、人違いでした」
私は慌ててそう取り繕い、視線を落としてはっとする。
彼が胸につけている紋章――それは、この国の王子であることを示すものだ。
彼はにっこりと微笑んで、こちらに手を差し出す。
「僕と、踊ってくれませんか?」
その掌を見て、私は困惑した。
(王子様がまさかのひろし似の人!? 嘘!? 嘘でしょ!?)
そうしていると、横から二人の間に誰かが割って入ってきた。
「ちょっと待て。そいつを誘おうと思ってたのは、俺だぞ」
「たくみ!?」
もう何が何だか判らない。割って入ったのは、前世でのもう一人の幼馴染み、たくみだったのだ。しかも、隣国の王子の装束を着ている。
混乱する私をよそに、王子二人は一瞬睨み合ってから私に向き直った。
「さあ、どちらと踊りますか?」
「さあ、どっちと踊るんだ?」
(こんな展開、聞いてない!)
――こうして、私の知らないシンデレラの物語が始まった。