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召喚獣と誓約


◇◇◇聖暦1798年4月8日◇◇◇


新学期がスタートして五日が経過した。

戦闘学の授業は月曜日と金曜日に割り振られ、他の科目に比べ圧倒的に授業数は少ない。

それでもカイムは、通常業務外で校内巡回・カリキュラム考案・教材収集等に精を出す等、意欲的な日々を送る。

……しかし、ある件が原因で今朝は女性教員と揉めていた。


◇◇◇ヴァルキリースクール◇◇◇


数学の担当教師ナフカ・キングスリーは、厳しい顔付きでカイムを睨む。間に挟まれたランメルは、困り顔で右往左往していた。他の教員は口を出さず、巻き込まれないよう成り行きを見守っている。

「ーーーーカイム先生!本気で言ってるのですか!?」

「何度も言うが俺は本気だ」

「は、はう〜」

「あろうことか生徒と『召喚獣』を誓約させるなんて…!」

揉めている原因はこれだ。儀術室は普段、厳重に施錠しており解放していない。使用には事務員へ申請が必要であり、その件でカイムがランメルと会話中、内容を耳にしたナフカが反対意見を捲し立てたのが、事の発端である。

「未成年の子供に正体不明のモンスターを取り憑かせるのですよ!?」

「召喚獣はモンスターじゃない。正確には別次元の高位生命体で」

「危険なことに変わりないでしょう」

説明を最後まで聴かず、否定するナフカへ反論する。

「ーーーーそれを言うなら貴女が持ってる万年筆も危険だぞ。目玉に突き刺せば、簡単に人を殺せる」

「よくそんな野蛮で屁理屈な反論ができますね」

「事実だろう」

「……学校でモンスターを飼育するカイム先生は、世間の一般常識をご存知ないのかしら?」

「一般常識?」

「犯罪増加を防止するため、帝国政府も共和国議会も、召喚獣との誓約については法で取決めがあります。ね?ランメルさん!」

ナフカはランメルに同意を求める。

「…は、はい…一応、『召喚獣誓約等級法』という法律がありまして」

それをカイムは鼻で笑い一蹴した。

「あれは糞だ」

「なっ!?」

「上流階級の馬鹿共が金に物を言わせて成立させた法じゃないか。召喚獣をペットと勘違いして、飽きたら自分勝手に誓約を破棄する……責任を放棄した頭の悪いド屑しか喜ばない法律だ」

極端ではあるものの、その認識は概ね当たっており、冷静に話すもとても辛辣な言い方だった。

「大体、任意制の資格なので強制力もない。そもそもルーヴェは干渉外じゃないか?」

「…その通りでもあります…はい」

「ランメルさん!貴女はどっちの味方なの!?」

「ひ、ひぇ〜ん」

小動物的な可愛さに定評のある彼女も、板挟みにされ、ほとほと困り果てる。

「……大事なのは心構えだ。召喚獣は誓約者の性質に惹かれる。犯罪者が凶暴で戦闘力の高い召喚獣と誓約できるのはそれが要因で、召喚獣に理解ある人間が指導すれば、何ら問題は起きない」

ナフカは負けじと言い返す。

「そもそも学園の授業は、心身発達と人格形成に最も赴きを置くべきよ。貴方は兵士を育てたいの?」

「それは違う」

先程までと違い感情を剥き出しにして、きっぱりと否定する。

「…とにかく私は大反対です」

ナフカはカイムの迫力に面喰らうも、首を横に振った。

「反対されても戦闘学の裁量は俺に一任されてる」

お互い引かない。カイムもそうだが、ナフカも頑固な性格のようだ。

「ーーーー二人ともちょっと落ち着こうぜ。なぁ?」

「もうすぐ理事長も来るさかい、判断は理事長に委ねましょう……ね?」

譲らぬ両者を見兼ねて、ツヴァイとチヨが仲裁に入る。

「ふん…」

「……」

不穏な空気が、職員室に蔓延した。


来て早々経緯を聞いたネムは、二人を理事長室へ呼び出し、両者の訴えに耳を傾けた。

「……なるほど」

パンをゆっくり咀嚼して、味わうように間を置いて呟く。

「理事長はもちろん反対ですよね?」

ナフカの勢いに押されず、柔らかに答える。

「ナフカ先生の気持ちはわかるよ。確かに召喚獣の危険性は、排除できない。誓約次第で心身にきつい負担を強いるのは事実だから」

その言葉に勝ち誇り、カイムを一瞥した。

「ーーーーでも」

「!」

「貴女が数学分野のプロフェッショナルであるように、彼もまた戦闘分野のプロフェッショナルだ。モンスターの飼育を僕が許可したのも、彼の技術と知識を贔屓目なく、目の当たりにしたからだよ。……カイム先生は召喚獣と誓約した経験は?」

(知ってるのに何で聞くんだよ)

訝しげにネムを見る。

(……わざと聞いてるんだから察してよ!)

暴露ないよう目配せして、漸く彼は気付いたのか頷く。

「誓約しているぞ」

「僕もそうだ」

「理事長も?」

「その上で明言すると、適切に召喚獣と誓約を結び、正しく使役する方法を学べば、召喚獣は絆で結ばれた頼もしい相棒になる。きっと生徒の成長に一役買ってくれると思う」

「……ですが」

煮え切らないナフカにネムはある提案をした。

「じゃあこれはどう?今日の戦闘学の授業には、僕が帯同する。万が一危険を感じた場合、即座に授業を中止させるよ。それならナフカ先生も安心でしょう」

「む」

「どうかな?」

ネムがこうまで言ってるのにこれ以上、食い下がるのは邪推で無神経だとナフカも諦める。

「クイーンナイツの理事長がいれば……はい。生徒も安全かと」

(本当は二人いるけどね)

偉大な肩書きは印籠のように効力を発揮した。

「お騒がせして申し訳ありません」

「ううん。教育上、意見の衝突は避けて通れない。議論は大歓迎だし、二人の熱意に触れられて僕は嬉しいよ」

ネムの度量と器の大きさに二人は感心する。

「では私はこれで」

「うん」

ナフカは退室間際、思い出したかのようにカイムを睨んだ。

「どうした?」

「……別件ですけど1ーAの生徒たちの授業態度を注意して下さい!あれは酷過ぎます」

ヒステリー気味な苦情にも、気分を害す事なく、彼は素直に頭を下げ謝罪した。

「迷惑を掛けてすまない」

「ふんっ」

彼女は踵を返し出て行く。

「…大変だったね?」

ネムは苦笑する。

「別に……と言いたい所だが助かった」

「ナフカは『アレクサンドリア大学』出身の数学者なんだ」

「ほう」

【アレクサンドリア大学:多岐分野に著名人を輩出する帝国の名門大学】

「気難しくて厳しい一面もあって誤解されやすいけど、生徒想いの優しい女性(ひと)だよ」

「分かってる。それに真正面から意見を言ってくれる人は、嫌いじゃない」

先程のやり取りで、十二分に伝わる。

強面で敬遠されがちなカイムは、自分に怖気ない彼女の態度が気に入った。

「それに美人だしな」

カイムの一言に、ネムは目敏く反応した。

「…ふーん」

「どうした」

地雷を踏み抜いたことに気付いてない。

「別にぃ」

(若干、機嫌が悪くなった気がしたが)

「でも、カイムの授業を間近で見るのは楽しみだね」

「……本気で帯同するのか?」

「当たり前さ」

幼馴染に教鞭を取る姿を見られるのは変な気分だ。

「まあいいよーーーーそれよりエレオノールの件だが」

「当時面識があったのは僕も知らなかったし、別に会っても問題はなかったでしょ?」

「まぁ…な」

微妙な間を置き頷く。

その後、教職員の定例報告会を終えHRに向かう。

報告会では皆、気遣って言葉を濁すも、カイムが受け持つ1ーAの生徒の苦情報告が大半を占めていた。


教壇に立ちカイムは思い悩む。

(……アレクシアは10才と思えないほど、頭は良いし要領もいいが、高圧的で意見が通らないと荒れがち)

「先生!他の学科はまだ我慢しますが、今日の戦闘学は基礎レベルの座学じゃ物足りませんわ」

(真面目で大人しく一見問題ないオルタも、凄く気弱で頭に超が付く泣き虫……授業中、急に泣き出すことがある)

「ミーちゃんを戦わせるの?ふ、ふぇーん」

(セアは授業中に関わらず武器の手入れをするか……魔法学は比較的、真面目に傾聴するものの他科目はほぼ無関心)

「カイムのモンスターと戦ってみたい」

(ずーっと一人で騒ぎっ放しで、コミュニケーション能力は高いが、フラウは勉強をする気が見当たらない)

「ねぇねぇ!戦闘学は外で遊ぼーよ!カイムってば〜〜?ねぇ〜」

(ラミィは逆に殆ど喋らず対人関係に難がある。しかし、各科目で実施した筆記小テストはなんと全て満点)

「…………」

個性豊かな五人を見詰め、彼はネムに貰った教育心理学の本の一文を思い出していた。

(ーーーー短所は個性、長所は才能。教育者は無闇に子供を否定すべきではない……だったな)

「アレクシア」

「何ですの?」

「…飽くなく上を目指す姿勢と向上心は、見上げたものだ」

「えっ…」

「オルタ」

「は、はい」

「感受性が強くとても優しい子なんだろう」

「ふぇ!?」

「セア」

「ん」

「外野を気にしない集中力は称賛に値する」

「ん…ん?」

「フラウ」

「はいはーい!」

「元気があって常に明るい君は、まるで太陽のようだな」

「フラウが太陽!?」

「ラミィ」

「………」

「寡黙で口に出さないのは、思慮深さと謙虚さの現れだ」

「……え?」

一頻り褒めるも、唐突に言われた五人は唖然とする。

「今、俺が言ったのは皆の個性だ」

「「「「「……」」」」」

「しかし、その個性が誤解されるのは、珍しい話じゃない」

カイムは自分と照らし合わせていた。

「他人に理解されないことほど辛いことはないよな」

それはまるで自分自身に向けて、喋ってるようだ。

「だが理解しようと努力しなければ、誰も理解してくれないんだ。……昔、俺は相手を理解することから逃げ続けた。その結果、大切な絆と時間を失ってずっと後悔してる」

誰に対しての絆だろうか?

(ブーメランになってーーーー糞……全部、刺さる)

血の繋がらぬ家族、血を共に流した仲間、血を浴びた敵。

数え切れない後悔を抱えてきた彼だからこその言葉だった。

「皆の授業態度は聞いた。興味が持てなかったか?」

「えっと、それはその」

「…ん…」

「うー」

「……」

「はうぅ」

流石の五人も言葉を詰まらせる。

「別に怒ってないぞ。……偉そうに聞こえるだろうが、何事にも意味があり、無駄にはならない。無価値だと思える授業も役に立つ日がきっと来る。蔑ろにすると俺みたいになるぞ」

体裁を整えた説教ではなく、深い自責の念を感じさせる体験談の吐露に、五人は返事が出来なかった。

「……朝から暗い話になってすまない」

物々しい雰囲気を払拭すべく話題を変える。

「今日の戦闘学は特別な授業になる。楽しみにしててくれ」

(特別?)

(な、なんだろ)

「ーーーー先生」

控え目にラミィが手を挙げた。

「どうした?」

「仮に……仮にだけどあたしが授業を真面目に受けたら、先生は嬉しいの?」

「「「「!?」」」」

四人が驚きラミィを見る。まさか、そんな事を聞くとは思わなかった。

「勿論だーーーーと言いたい所だが無理しなくていい」

「なんで?」

「何があっても俺はラミィの……いや、君達の味方だ。好きに振舞い続けても、失望したりしない」

自分達の味方だと、はっきり告げたカイムに全員が言葉を失う。

(教師とはそういう存在だって、本にも書いてたしな)

言いなりにしたいのではなく、相手の発言を己で考え、反映するか否かを伝えたいのだ。

「まぁ参考程度に覚えてくれればいい」

そう言うと予鈴が鳴った。

「これでHRは終了だ。また後でな」

カイムは教室を足早に出て行く。

(……慣れないことを言って喉が渇いた)

胸中では過去が棘となり、じくじくと刺さっていた。


◇◇◇戦闘学一限目 9時15分〜10時30分◇◇◇


紫紺の水晶石が中央に陣取り、神聖なエレメントが充満した儀術室は厳かな雰囲気を醸すのに一役買っている。

この水晶石は『マナストーン』と呼ばれ宝石より、価値がありこれだけのサイズは滅多に採掘されず加工も難しい。

【マナストーン:高純度のマナが宿った結晶石。魔術・錬金術・霊術・召喚術等の超自然的現象を喚び起こす儀式に重宝される】

壁には美しいタペストリーが飾られ、床はビロードの赤い絨毯が敷き詰められていた。

高等部の1ーAと1ーBの生徒は、緊張した面持ちで直立不動の姿勢を保つ。原因は理事長(ネム)が参加しているためだ。帝国の七英雄にして、大貴族スーフェリア家の当主。

肩書きを見れば、雲の上の住人だろう。彼女自身の思いとは裏腹に、日々多忙ゆえ生徒と接する機会は少ない。

「前回も伝えたが今日は魔石を使った授業を行うぞ」

時刻となりカイムは説明を始めた。

「これを使ってあるアビリティを習得して貰う」

「アビリティ?」

「そうだ。しかし、俺の指示を遵守することが習得の条件になる。今日は万が一の緊急事態に備えネム……理事長も授業を監視するぞ」

(か、監視?緊急事態!?)

(…どんなやばいことさせられるの)

(え、え〜)

監視という表現は拙かった。ネムは生徒の不安を察し、慌てずフォローする。

「落ち着いて。カイム先生の指示を守れば問題ないよ。僕のことは、授業の補佐役と思って欲しいな」

微笑みを浮かべ説明する彼女を見て、生徒は安心した。

(そうなのか?)

(監視って言い方は駄目だよカイム…)

「……兎に角、今日は召喚獣と誓約を交わし『召喚術』のアビリティを習得して貰う予定だ」

「し、召喚獣!?」

「召喚獣ですって!?」

コハクとルミアローネが、同時に驚声を挙げる。

(息ぴったりだな)

「凄くない!?」

「き、緊張してきたかも」

「危険じゃないの?」

「…なんか危ないイメージがするよね」

生徒の反応はそれぞれ違う。

「せんせぇ〜」

「どうしたケイト」

のんびり屋のケイトが手を挙げた。

「召喚獣って資格がひつよ〜じゃないの?」

「…資格?」

「たしか〜召喚獣誓約とーきゅー法?」

「そんなゴミ以下の法律は無視して構わん」

カイムは質問を一刀両断する。

「む、無視ですか〜」

「……今、ゴミ以下って言ったよね?」

「うん…」

「召喚獣誓約等級法が定めた召喚士の資格は、『サモナー協会』に多額の大金を払い申込めば、誰だって認定される」

【サモナー協会:召喚獣誓約等級法の発足と共に設立された団体組織】

「でも、帝国貴族のパンデント・リーボ卿と共和国政治家のガナガ・カロリー議員が理事をしてるのに無視していいの〜?」

「救いようのないアホが運営する協会を気にする必要は一切ない」

二の句を告げない言い方は、嫌悪感を隠していなかった。

「り、りょ〜かい」

横で聴いてたネムは苦笑しつつ言葉を紡ぐ。

「先生の言い方はちょっと乱暴だけど、召喚獣と誓約を結ぶこと自体、違法でも犯罪でもないから大丈夫だよ」

「理事長の言う通りだな」

(カイムは昔パンデントを病院送りにしてるし、今も大っ嫌いなんだろうなぁ)

パンデント・リーボ卿は『帝都セインバスティオン』に居を構える貴族だ。カイムとは、浅からず因縁がある。

「ーーーーそれでは気を取り直して、授業に移ろう。誰か召喚獣と『誓約』について答えられる者はいるか?」

「はい!」

「ルミアローネ」

「召喚獣は異次元の世界で生きる生命体で、俗に神話の精霊・天使・悪魔・怪物などに形容されます。モンスターともまた違う生き物ですわ」

「素晴らしい。模範的な解答だな」

「ふふふ」

「補足すると、『精霊界フェルヘイム』と呼ばれる異次元で繁栄する遍く生命体を人類は召喚獣と呼んでいる」

【精霊界フェルヘイム:召喚獣が生息する異次元】

「次に誓約について分かる者は?」

「はーい」

「コハク」

「召喚獣に力を貸して貰う代わり、術者が必ず守る誓いっすよね?」

「その通りだ。偉いぞ」

「へへっ」

(…カイムってあんな風に褒めるんだ…)

無愛想な幼馴染の教師姿を、まじまじとネムは眺める。

「誓約ーーーー言葉通り誓いと約束だな。誓いが重いほど誓約を結んだ召喚獣は、術者に大きな力を齎らす。犯罪者や賞金首の殆どは強い召喚獣を従えるため、死のリスクを伴った危険な誓約を交わす事が多い」

「うーん……召喚獣はなんで誓約を交わしてまでわざわざ従うんだろ?」

「いい着眼点だぞハンナ」

「あ、どうも」

「今のハンナの疑問に答えれる者は?」

わからないのか皆、悩む。

「ーーーーコホン!召喚獣はマナが大好物で誓約の恩恵により、術者のマナを糧により強く成長するからだね」

まさかのネムが答える。

「……流石、理事長だ」

「へー!そうなんだ」

「マナが餌って変〜」

(なんでお前が答えるんだよ)

(ふふふ)

「召喚獣を召喚すれば戦況を一変させる力を持つが、大量のMPを消費するので乱発は出来ない。状況を見極め発動する必要がある」

カイムは懐から、魔石を取り出した。

「次にどう喚び出すか説明しよう。このマナ・ストーンで精霊界と交信し召喚術の儀を執り行う。その際に誓約を誓い、魔石を消費すると惹かれ合った召喚獣が召喚される仕組みだ」

「意外と簡単ですね」

「そう……簡単だ。それ故、分不相応の誓いは立てるな。強大な召喚獣ほど自尊心も高く、未熟者が唱えた誓約の代償を要求する。最悪の場合、死ぬより酷い目に遭うぞ。だから誓約の文言はとても重要で、強い言葉と利益の要求を誓約に追加する程、リスクは増大する。特に『最強』、『究極』、『無敵』等のキーワードは禁句だな。それを回避するべく『共に成長する』……このキーワードを盛り込み唱えて貰う。これでリターンもリスクも身の丈にあった召喚獣が召喚される」

一度説明を区切り、真剣にカイムは生徒に言った。

「ーーーー先に言っておくが、このアビリティ習得の有無は、成績に反映させない。俺が説明したルールを守り、誓約を交わす覚悟があるなら一歩前へ出てくれ」

言うや否や、全員が歩み出た。

「……ここまできて退けませんわ」

「ハッ!前から欲しかったし絶好のチャンスじゃん?」

「かわいい召喚獣ちゃんが私を待ってる〜」

「不安だけど召喚しなきゃそれまでだしーーーーね?」

「うんうん」

(集めた甲斐があったな)

(あれ?)

ネムの脳裏に疑問が過ぎった。

「…ちょっといいかな」

少し離れた位置へカイムを呼ぶ。

「なんだ?」

「肝心の魔石は用意してるの?」

「自力で集めたぞ」

「……50個も?」

「ああ」

さも当然のように頷く。カイムはゴード連峰へ向かい、魔石を採掘していた。

1個や2個なら兎も角、50個ともなれば大変な数である。

「あのね、授業に必要な備品は、発注書に書いてランメルに渡してくれれば、経費で購入するって前にも説明したよね?」

「…あー…次からそうしよう」

(この間もそう言ってたじゃないか)

「先生」

「どうした?」

「先生は召喚術は覚えてるんすよね?」

「ああ」

「理事長も?」

「そうだよ」

「…どんな召喚獣かうち見てみたいです」

「あ、私も」

「うんうん」

コハクの質問に他の生徒も次々と賛同する。

「……」

カイムは予期してなかった要望に思い悩む。

(……あいつを召喚するのか)

「それじゃあ期待に応えようか」

ネムは左手を横に軽く払う。

【ネムの召喚術!月霜の狼フェンリルを召喚した】

すると青い魔法陣が輝き、黄金の首輪を付けた美しい白銀の狼が現れた。清々しい風素が煌めき、清涼な空気が部屋に充満する。

「か、か、かっこいいーーー!」

「あれが理事長の召喚獣!?」

「…うわぁ綺麗…」

『ーーーー主よ。久方振りだな』

「しゃ、喋った!?」

『この幼子達は生徒か?むっ!』

フェンリルは鼻を鳴らし、隣にいるカイムを気付き驚く。

『お、お主はカイム!?……貴様!何年も行方を晦まわふっ』

「せ、先生」

「……何だ?」

「なんで理事長の召喚獣に抱き着いてるの?」

「急にモフモフしたくなってな」

(ええーー!?)

(あ、あの顔でモフモフって)

『おい!一体何のつもーーーーわふん!』

「よ、よーし。よしよし」

必死でフェンリルを撫で回し、自分の正体を暴露されないよう誤魔化す。

「……ネム!早くこいつを戻せ」

「う、うん」

彼女は笑いを堪えつつ、召喚術を解いた。

【フェンリルが精霊界に還った】

「……はぁ」

顔と服が毛塗れだ。

「つ、次はカイム先生の番だね」

愉快そうな幼馴染を睨み、小さく溜め息を吐く。

「……皆、危険だから下がっててくれ」

【?】

カイムは生徒を自分から離れさせると、右手を斜めに振り払う。

【カイムの召喚術!深淵の艶姫ヘレネを召喚した】

魔法陣が黒く輝き、闇の魔人が現れた。

紅い灼眼、鴉色に濡れた長い髪、関節は人形の球体。人と似て非なる妖艶な容姿に、生徒は言葉を失った。重い闇素が充ちて、光が薄れていく。

『ーーーー御主人様ぁ』

【!?】

『寂寥の日々、逢えない辛苦。愛欲に身を焦がれつつ、指折り日を数えこの時を待ってましたわ……あら?貴女はネムじゃない』

「やぁヘレネ」

『此処は何処ーーーー嗚呼!?御主人様に色目を使う薄汚い雌猫がこんなに沢山……ふふ、うふふ。どう調理しようかしらぁ?」

狂気を孕む凄惨な笑みに生徒は怯える。

「ヘレネ」

『……何でしょう御主人様ぁ?妾は暫し宴に興じます故、愛語り合うならばその後で』

「もう還っていいぞ」

表情が一変して、眉を八の字に曲げ顔を曇らせる。

『嫌ですわ!もう貴方と離れ離れになりくない……だって、御主人様と私は暗黒の底で愛し合う運命だもの』

カイムとの絆が深過ぎるのが、狂気染みた愛欲だった。

【ヘレネは精霊界に還ることを拒否した】

「…次、召喚した時にゆっくり構ってやるから」

『………』

「頼むよ」

そこまで言うと三日月に目を吊り上げ、ヘレネは嗤った。

『ーーーー約束ですよ?その時は……うふふ、うふふふふ。誰にも邪魔させないわ。貴方の愛は妾の物、妾はの愛は貴方の物……それが我等の永遠の誓い、そして血の盟約ーーーーあは、あははははははは!!』

【ヘレネが精霊界に還った】

(やれやれ。毎度毎度、宥めるのも一苦労だ)

(……相変わらず恐ろしい召喚獣だよ)

ネムを除き生徒は口を開き、愕然としていた。

「……えー……今のが俺の召喚獣だ。見ての通り、理事長と俺も召喚獣を召喚できる」

「せ、先生の召喚獣ってーーーーその、凄いっすね?うちびっくりしました」

「…あ、愛されてますのね」

コハクとルミアローネの言葉を選んで、喋ってる感が伝わってくる。

(ーーーーあれはヤバイっしょ!?)

(…私たちを見て殺すって言ってたよね?)

(すっごい綺麗だったけど病んでる…)

物凄いインパクトだった。

「召喚獣のALvを上げ、絆を深めればより円滑な意思疎通が可能になる」

(全然、円滑に見えませんでしたわ)

(…同じ性質…先生は、心に闇でも抱えてるっつーわけ?)

懐疑的な視線に居た堪れなくなり。カイムは咳払いした。

「ーーーーコホン!よく混同されるが、召喚術と『召喚技』は丸っ切り別物で、召喚技は召喚獣に心身の代償を捧げ、自身を依代に召喚する方法だ」

クラーケンの船長ナジロと副船長ゴジロがいい例で、あの兄弟は右手を代償に捧げ、誓約を誓っていた。

「一先ず説明はこれで以上。早速、儀式を始めるぞ……出席番号順で呼ばれた生徒は前に来てくれ」

カイムの指導とネムの監修の下、召喚の儀は滞りなく進んだ。


誓約を交わし終えた1ーAと1ーBの生徒は、各々が召喚した召喚獣を愛でている。

「あ?うちが召喚した子が一番かわいいから」

「はっ!私が召喚したこの子が一番ですわ」

「もふもふ〜」

「あ……か、髪を噛んじゃダメだって!」

目立った問題もなく、授業は大成功だった。

「ーーーーよし。全員一度、召喚獣を精霊界に還してくれ」

別れを惜しみつつ、生徒は召喚術のアビリティを解く。

「召喚獣を気に入ったようだな」

「おー!ありがとカイム先生」

「お礼を申し上げます」

だま小さく可愛いらしい召喚獣は、未成年とはいえ、生徒の母性本能を擽ったようだ。

「もふもふの毛玉でした〜」

「ネコっぽい感じかな」

「あたしのは妖精?」

「うむ……君達と同様、召喚獣も成長する。『最終進化』を遂げれば、理事長の召喚獣フェンリルのようになるぞ」

それは喜ばしい限りだが、一抹の不安も過ぎる。

「えーと」

「どうした?」

「……最初はカイム先生の召喚獣もこーだった?」

「ーーーーいや俺の召喚獣は特殊なタイプだな」

「よ、良かったですわ」

「それを聞いて安心したっす」

(……安心?)

その反応にカイムは些か不満だったが、ネムは頻りに頷き意味を理解していた。

「まぁ召喚獣は相棒、家族、友人だと思い大切にしてくれ」

【…はい!】

今日一番の返事である。

「では授業は終了だ。お疲れ様」

チャイムが鳴り響き皆、意気揚々と儀術室を出て行った。

「ふぅ…」

「お疲れ様」

「ああ」

「ーーーー凄いじゃないか!板についた仕事ぶりだったよ」

「…そうか?」

感心したのか拍手して褒め称える。

「やっぱり僕の眼に狂いはなかったね」

「…まぁ…想像してたよりも遥かにやり甲斐はあるよ」

上機嫌なネムにカイムは頭を掻きつつ答えた。


◇◇◇ニ限目 10時45分〜12時00分◇◇◇


二年生にも一限目と同じ説明を行い、生徒全員も習得を希望した。スピーディーに儀式は進み、残す生徒も後四人となる。

「……緊張するです」

「焦らなくていいぞ」

サビーナはマナストーンの前で、魔石を掲げ誓約を誓う。

「共に成長を……私と一緒にがんばりましょう」

マナが渦巻き輝き出したマナストーンは、魔石を吸収して誓約に応じた召喚獣を喚んだ。

『ーーーーペイ?ペララ〜!ペラ〜』

【精霊界から召喚獣マヨイドージを召喚した】

(これは…)

他の生徒が召喚した召喚獣と若干、雰囲気が違っていた。

本の上に乗った妖精がサビーナの周りを飛び交う。

「複合属性の召喚獣とは珍しいぞ」

「複合属性ですか?」

「ああ。この子は『幻属性』の召喚獣だ」

サビーナはマヨイドージを手に乗せ、珍しく笑う。

「よろしくです…」

『ペララ〜』

お互い気に入ったようだ。

「サビーナってばいいなー」

列に並ぶエリナは指を咥え、羨ましそうに見ている。

「きっとエリナは脳筋の召喚獣です…」

「誰が脳筋だーーーー!」

(……武闘家気質だし可能性は否めないな)

「次はエリナの番だね」

「よーーし。すぅー…はぁー…すぅー」

ネムに促されると、深呼吸を繰り返した。精神統一を図ってるようだ。

「ーーーーあたしと一緒に成長しよう!君に決めたっ」

魔石を振り翳し元気良く叫ぶ。

【精霊界から召喚獣ブドーカを召喚した】

『シュワッシュワワ〜!』

布を額に纏う少年風の召喚獣は、拳を突き出しポーズを決めて現れた。

「…おおーー」

「サビーナと同じ複合属性の召喚獣だね」

「ほ、本当ですか!?」

「うん。雷と風で嵐の属性かな」

エリナは大喜びでブドーカを抱き締める。

「よろしくね相棒」

『シュワ!』

「先生!あたしの召喚獣どーですか?」

「いいと思うぞ」

「えへへ」

屈託なく歓喜を表現するエリナだった。

「次はウルスラ」

「はぁ〜〜い」

魔石を手に取り、カイムの傍に行く。

「ーーーーちなみにぃ先生の召喚獣の属性はぁ〜?」

耳元で囁くように喋るウルスラに、ネムとエレオノールは顔を顰めた。

「俺か?闇属性だな」

「ふぅーん。わたしサキュバスだしぃ先生と一緒かも?」

「その可能性は高いな」

サキュバスはヴァンパイア同様、適正属性が闇に傾倒する。

「うふふ!そうしたらお揃いじゃーん」

「?」

「……喋ってないで早くして」

エレノールは腕を組み、苛立ちを隠さず催促した。

「カイム先生?…生徒と距離が近過ぎるんじゃないかなぁ」

額に青筋を浮かべ、引き攣った笑顔でネムは注意する。

「ごめんなさ〜い」

ウルスラは二人が不機嫌な理由を察した上で、揶揄うように笑った。

(あいつは斬る)

(ーーーーカイムは昔っからそうだ。鈍感で人を焼きもきさせて、挙句16歳の女の子まで無自覚に…ぶつぶつ)

マナストーンの前で魔石を頭上に翳し、ウルスラはポーズを取る。

「共に成長を。さぁいらっしゃい?…ちゅっ」

【精霊界から召喚獣イノセントを召喚した】

『アブゥ〜?キャッキャ!』

「!?」

喚び出したのは、白い翼の生えた赤ん坊のーーーー闇とはかけ離れた天使のような召喚獣だった。

「ほぉ……聖属性の召喚獣とはな」

「せ、聖属性〜?」

カイムは物珍し気に喋った。

「稀に召喚者とは反属性の召喚獣が召喚される時もある」

『ダァ?」

「あ、ちょっと」

イノセントはウルスラの頭にしがみ付く。

「属性と性質が一致するとは、限らないってことだ。それに苦手な属性をカバーできるメリットはでかい」

「………」

意外な結果にウルスラは最初、微妙な表情だったが無邪気に笑うイノセントを見て、苦笑しつつ両腕に抱える。

「…ま、よろしくね〜」

『アブブ〜』

(本人も気付かない性質か)

眺めていたエレノールは、珍しく冗談を口にした。

「前々から老けてると思ってたけど、その子を抱く姿はいよいよ母親みたいーーーー未婚の母ね」

「ぷっ!た、たしかに」

「お母さん頑張れです…」

エリナとサビーナが釣られて笑う。

「はぁ〜〜!?喧嘩売ってるぅ〜?」

心外だと言わんばかりにウルスラは怒った。

「最後はエレオノール」

「はい」

「ザックスと似た召喚獣を召喚するかもね」

「私は兄とは似てません」

ネムの言葉を即座に否定する。

「ふふ……確かに性格も態度も言動も似てないけど、雰囲気は兄妹って感じがするよ」

「………」

二人は仲間と共に戦場を駆け巡った血と硝煙の凄春時代を思い出した。今も尚、過ごした日々の思い出が、昨日のことのように鮮明に蘇る。

(ーーーー私は私の道を征く)

魔石を翳し、決意を秘めて誓約を誓う。

「共に成長を。私の剣よ、来なさい」

【精霊界から召喚獣イフリーを召喚した】

燃え盛る立髪と尻尾を振り回し、小さな犬の召喚獣が吠えた。

『ワン!ワンワン!』

「見るからに火属性の召喚獣だな」

「私も適正属性と反対の召喚獣……あっ」

抱えてまじまじと自分を見るエレオノールの頰を、イフリーは舌で舐める。

(ウルスラもそうだったが、性質は自分じゃ分からない。きっと内なる激情に惹かれたのだろう)

「ザックスは氷属性の召喚獣だったから、家族でも違いがはっきりしてるね」

『ワン!』

(……これが私の召喚獣)

ギュッと抱き締め微笑む。

「しっかりついて来なさい」

『ワォーーーン』

一、二学年含む生徒の召喚獣に対する接し方に、カイムは安堵していた。彼女達が眷属化した召喚獣は、人で喩えるなら乳幼児。決して即戦力とは言えず、戦力に数えるまで時間はかかるが、この誓約こそ、真っ当で王道な召喚の儀である。

先にカイムが説明した通り誓約の代償に比例し、召喚される召喚獣は強大になるが、術者への負担とリスクも生半可ではない。中には誓約を逆手に取り、奴隷の如く召喚獣を使役する悪辣非道な輩も存在するが、カイムはそのような輩共を心底軽蔑し嫌悪していた。

(この子達なら大丈夫だろう……しかし、反属性と複合属性の召喚獣を喚んだあの四人はやはり逸材だな)

程なく二限目の授業も無事に終わり、昼休みとなった。


◇◇◇昼休み 12時00分〜13時30分◇◇◇


ヴァルキリースクールの食堂は、生徒と職員の憩いの場だ。

高級オーク材で造られたテーブルとイス、大理石の彫刻、前衛的な絵画、大型の観賞用水槽で泳ぐ鮮やかな魚ーーーー食堂と言うより、お洒落なカフェレストランのような雰囲気である。

「おいふい」

運ばれた料理をカイムは舌鼓を打つ。

「でしょ?自慢の食堂だよ」

「ごくん……ミートバードの胸肉の唐揚げに、青空豆の醤油と柑橘酢で煮込んだソースが合うな。絶妙な塩梅で、大した味だ。是非レシピを教えて欲しい」

評論家のように講釈を垂れる。こう見えて彼は料理が大好きなのだ。

「昔からカイムって多趣味だよね」

「趣味は人生を豊かにすると言うだろ?まぁ俺は途中、枯れてたけど」

反応に困る自虐ネタである。

(凝り性で手先も器用だから職人気質ーーーーあ)

ソースが口元に、付着しているのに気付く。

「汚れてるよ」

ネムはハンカチで、カイムの口元を拭う。

「むぐっ……俺は子供じゃないぞ」

「はいはい」

甲斐甲斐しく世話を焼く、幼馴染に唇を尖らせる。

九年間の歳月を埋める何気ないカイムがいる日常に、ネムの心は幸福で満たされてゆく。

(……カイムと結婚して、家督を譲り議長も辞めて、ルーヴェの郊外に建てた家で暮らせたら、どんなに幸せだろう)

実現の難しい妄想で脳内が膨らむ。

(子供は三人くらい?ぼ、僕はカイムが望むなら何人だって構わないけど!)

「ネム」

「男の子だったらカイン、女の子ならネフィリア……えへ、えへへ」

口に出してしまっている。

「…カイン?」

トリップしてるネムに、若干引きつつ首を傾げる。

「ーーーーへ?……あ、あぁ!なにかな」

現実世界へ戻ってきたようだ。

「生徒は両国から募集してるって言ってたが」

「そうだよ」

「教職員も?」

「ほとんど仲介だけどね」

「それは軍から仲介を受けてるのか?」

カップを持った手が止まる。

「よく分かったね」

「まあな」

「ふぅ……大体予想は着くと思うけどこのルーヴェに学園ヴァルキリースクールを設立するのは、とても難航してね」

「だろうな」

「交渉の末、帝国議会と『共和国元老院』から認可を貰ったけど、代わりに両国軍から推薦された調査官の監視を受ける制約を飲まざる負えなかった。建前は自国民の安全確保と差別防止ーーーー本音は密偵と諜報活動かな」

「…そうか」

【共和国元老院:三賢を中心としたミドガルム共和国の政策を決定する中枢機関】

「心配しないで。僕がいるし軍の干渉は絶対にないから」

こちらの不安を察したのかネムは告げる。

「別に心配してないさ」

追放処分が解除され、帝国軍在籍時の記録は抹消済み。

ーーーーしかし名前を変え、過去を偽ろうと人の記憶は消えない。エレオノールの件が良い例だ。

(……考えすぎか)

疑念を払拭するようコーヒーを飲み干す。昼休みが終わろうとしていた。


◇◇◇三限目 13時30分〜15時00分◇◇◇


いよいよ1ーAの番が来た。

カイムは召喚獣と誓約を交わす注意点をより強調して、五人へ説明する。

アレクシア、セア、フラウの三人は案の定大喜びだったが、オルタとラミィは不安を感じてるようだ。

「せ、先生」

「どうしたオルタ」

「召喚獣ってその、危険じゃないの?」

「それは否定しない。しかし、どんな物も使い方次第で凶器に変わるのと一緒だ。結局は本人次第さ。俺が危険な目に遭わせないと約束するよ」

「友達が増えると思えば怖くないよね?」

「と、友達?…それなら」

「…うん」

大人二人に太鼓判を押され、オルタとラミィは安堵する。

(この二人は問題ない。危険なのは)

「エレガントでキュート!エクセレントかつグレート!私の召喚獣は、きっと凄いですわよ」

「戦術の幅が広がる」

「キャハハハハハ!!楽しみぃ〜〜」

(ーーーーこっちの三人だ)

なまじっか戦闘経験がある分、自信があり怖いもの知らずなのだ。

「いいか?念を押すが誓約は統一した文言を唱えるんだぞ」

もう一度、三人へ注意を促す。

「どうしても最強とか究極は言っちゃダメですの?」

「駄目だ」

「ん!機動力があって範囲攻撃が得意な召喚獣が欲しいは?」

「却下だ」

「ちょ〜〜おっきい召喚獣をお願いしたーい」

「無理だ」

悉く一刀両断する。

「「「……」」」

三人は頰を膨らませ、不満気にカイムを凝視する。

「そんな顔しても駄目だぞ」

いくら愚図ってもこればっかりは譲れない。

「ーーーーあるお話をしよっか」

見兼ねたネムは笑顔で間に入る。

「……昔々、大人に内緒で召喚獣を召喚しようとした無鉄砲でヤンチャな男の子がいました」

「!」

「幼馴染の女の子は、その男の子が心配で必死に止めたけど男の子に『邪魔するなら帰れ』って怒鳴られちゃって、結局止めれませんでした」

「女の子を怒鳴るなんて最低ですわ!」

「……」

カイムの顔がみるみる曇っていく。

「それでーーーー」

お伽噺を聞かせるようにネムは五人へ語った。


◇◇◇◇◇◇


「ーーーーやっぱり止めた方がいいよ……ねぇ」

獣人の少女は少年の肩を揺らす。

「うるさいな」

少年は鬱陶しそうに手を払い退けた。

「べつに付き合ってくれって頼んでないだろ」

「だって心配なんだもん」

「邪魔するなら帰れよ」

冷たい少年の言葉に少女は俯いてしまう。

「あーもー!泣くなって」

ばつが悪くなった少年は少女の頭を撫でて、誤魔化そうと宥めた。

「ぐすっ…おじさんに怒られちゃうよ?」

「大丈夫」

少年は大きなマナストーンの前に立つと自信満々に頷く。

「俺は強くなってみんなを見返すんだ」

根拠のない自信は無知ゆえか。

「えーっと魔石を握って誓えばいいんだよな…」

「それどこから持ってきたの?」

「親父の書斎」

「…勝手に?」

「出世払いでいつか返すよ」

とんでもない子供である。

少年は深紅の魔石をポケットから取り出すと、息を吸い込み力いっぱい叫んだ。

「すぅ…はぁ……よし。最強ですっごい召喚獣を召喚してくれ!」

静寂。少年の声だけが反響した。数秒、数十秒と待てどマナストーンはうんともすんとも言わない。

「なにも起きないね」

安堵した面持ちで少女が呟く。

「……熱っ!!」

魔石を握る右手に激痛が走り、少年は慌てて放り投げる。

「え!?」

深紅の魔石は強烈な光を放ち、宙に浮いていた。マナストーンは亀裂で罅割れ、黒い巨大魔法陣が空間を彩り地震が起きる。

「あ、あわわわわっ!」

「…な、なんだこれ」

揺れが収まると、マナストーンは真っ二つに割れ深紅の魔石は霧散していた。ーーーーそして異次元の裂け目より、最凶の召喚獣が顕現される。

漆黒の闇を纏った召喚獣の緋い瞳は、獲物を狩る肉食獣の如く二人を捉えていた。球体のような関節、鴉色に濡れた長い髪、純白の肌、真っ赤な唇。残酷なまでに美しく、見る者を圧倒する迫力だ。人に似た人成らざる召喚獣が微笑う。

『ーーーー御主が妾を召喚したのか?』

細く長い指を軋ませ、召喚獣は少年を指差す。

「そ、そうだ」

震える声で答えた。

『ふっ…身の丈を弁えぬ誓約を唱え、破滅に溺れるとは愚かな餓鬼め』

矮小な虫を見るように冷たい眼差しだ。

「お、お前が最強の召喚獣なのか?」

『最強ーーーー確かに妾は最凶と言うても過言ではない』

少年は期待を込めて確認する。

「それじゃ俺の召喚獣なんだよな!?」

『……俺の?俺のだと?ふふふ、あはははははははは!』

まるで無知な少年に召喚獣は愉快そうに嗤った。少女は少年の背中に、しがみ付き震えている。

『妾を従えたいと申すか』

「ああ!」

『恐れと穢れを知らぬ瞳、絶望を知らぬ希望の意思。……嗚呼、その瞳が濁るのを見てみたい』

召喚獣はゆっくりと少女を指差す。

『ならばその童女を妾に捧げよ』

「「!?」」

『御主は召喚の義を何も知らぬのだな。……力を求めるならば、相応の対価を支払え。童女の命を代償に誓約の契りといたそうではないか』

背筋が凍るような圧迫感に支配され、恐怖で足が竦む。

『誓約を立てたのは、童子だろう?何を悩む必要がある』

ここで漸く少年は、自分の過ちに気付き、触れてはならぬ禁忌に触れたことを理解した。息が詰まる緊張感に汗が止まらぬ中、勇気を振り絞り囁く。

「ーーーー逃げろ」

「え…?」

「全速力で走って逃げろ」

「でも…でもぉ……」

「……俺は大丈夫だから。な?」

少年だって、怖くて堪らない。後悔で涙が出そうだ。

しかし、幼馴染を巻き込んでしまった責任感と元来の義精神が、強張った体と心を奮い立たせる。

「ーーーーパ、パパとおじさんを呼んでくるっ!」

少女はその場を駆け出した。

『ほぉ……幼くとも男か。中々の胆力よ』

少女を庇うように両手を広げ、行手を立ち塞がる少年を、召喚獣は見詰める。

『蛮勇で千載一遇の機を無駄にするとは、正気とは思えん』

「う、うるせー!!……幼馴染を見捨てられっかよ」

『……』

「俺は友達を、家族を、大切な人を守るために強くなるんだ!」

この場で根拠のない主張を叫ぶのは実に滑稽だが、召喚獣の関心を惹いたようだ。

『童女を捧げた御主を弄び貪るつもりだったーーーーが妾を前に臆さず、偽善を宣うとは面白い餓鬼だ』

召喚獣は少年に自らの手を差し出した。

『うふふふ、ふはははは!戯れが過ぎるが、これも一興。……良かろう。『血の盟約』を交わし、望み通り眷属となろうではないか』

「血の盟約?」

『ああ。其方の血を妾に捧げよ。恐らく死ぬだろうが、万に一つーーーーいや億に一つの可能性に賭け、この手を握る勇気はあるか?』

少年は臆することなく、召喚獣の手に自分の手を重ねた。

『!』

「じ、上等だ」

どの道、助かる選択肢は他にない。

『くっくっく……勇気ある童子よ死んでくれるなよ?』

漆黒の闇が溢れ、少年と召喚獣を飲み込んだ。


◇◇◇◇◇◇


「ーーーーーそうして、男の子は自分の血を召喚獣に捧げたのです。おしまい」

ネムはここで話を区切る。

「……男の子は死んだの〜?」

中途半端に終わり、結末が気になったフラウが問う。

「ううん。死ぬ寸前だったけど、一命は取り留めたよ。その後、大人達から当然大目玉を食らったけどね」

「……」

カイムは先程から喋らず、終始落ち着かない様子だ。

「ただ助かったのは、本当に奇跡だった。過去、無謀な誓約を誓い、命を落とした人は数え切れない。知らないことは恥じゃないけど、先人の過ちから何も学ばないことは恥だ。無謀な誓約はとても危険だと皆も分かったかな?」

「…はい。誓約の文言を守りますわ」

「ぼくも」

()()()()()()()()()()()吸われるのは嫌かなぁ」

ネムの昔話は効果的面だった。こうまで言われれば、素直になる他ない。

「せ、先生?顔色が悪いですけど」

「……気のせいだと思うぞ」

オルタは様子がおかしいカイムに首を傾げるのだった。


暫くして五人の召喚の義は無事に終わる。

「燃え盛る情熱の火!私にこそ相応しい召喚獣ですわね」

『オニニ〜!』

アレクシアを真似て腕を組む小さな赤鬼は、火属性の召喚獣で名はオニビ。

「えへへ〜」

『ウプゥ〜』

オルタの周りを水母のように浮遊する妖精は、水属性の召喚獣ディーネ。

「ん…」

『カァカァ』

セアの頭の上で鳴く三つ目がトレードマークの小鴉は、風属性の召喚獣カンクロー。

「キャハハ!フラウと同じしっぽ〜」

『…ケケケ』

フラウの隣で笑う悪戯が好きそうな小悪魔は、闇属性の召喚獣リトデビ。

「……いいデザインじゃん」

『ピピーッガッ』

無機質なメタルボディが特徴の機械人形(ロボット)は、雷属性の召喚獣マーク。

(それぞれの属性に適応した召喚獣が揃ったな)

「みんな召喚獣を大切にしてあげてね」

セアが手を挙げた。

「ん」

「どうしたの?」

「召喚獣を成長させる方法は?」

「それは」

「APを召喚術のアビリティに振り分けるか、召喚者のLvが一定値に到達することで成長するよ。中には特殊な条件で進化する召喚獣もいるね」

「なるほど」

答えようとするも、ネムに先を越された。

「あ、あの」

「なんだい?」

「一人につき召喚獣は一体だけですか?」

「原則は」

「原則、誓約を交わせる召喚獣は一体だけだけど、世界には複数の召喚獣を眷属化させ、召喚できる稀な才能の持ち主もいる。ミドガルム共和国の妖精王が正にそれだね」

「ほぇ〜〜!メーゼンおじさんがそうなんだぁ」

(全部、言われた)

柄にもなく凹むカイムだった。案外、教えたがりだ。

「…あたしも質問」

「どうしたラミィ」

今度は自分が答えようと張り切る。

「召喚獣に戦闘を任せれば、労せず効率よく経験値、AP、SPを稼げると思う」

「難しいな」

「どうして?」

「召喚術は術者と召喚獣の力量に応じて、MP消費量が増大する。ALvを上げれば消費量は微減するだろうが、今のラミィはMPの殆どを費やす羽目になるだろう。MPが底を尽きると回復するまで身動きが取れない。逆に危険で効率も悪くなるぞ」

「……わかりました」

「しかし、アビリティとスキルは、無限に等しい組み合わせがあり、効率化を考えるのも大切なことだ。その柔軟な思考を忘れないようにな」

「ども」

初日と比べ、意欲的な姿勢のラミィに嬉しくなる。

「ちなみに来週の月曜日は実戦訓練の予定だ」

「いよいよですわね?腕が鳴りますわ」

「ん」

「やったーー」

「う、うぅ!怖いよぅ」

「………」

「絶対に怪我はさせないから大丈夫」

オルタとラミィに声を掛ける。

「わ、分かりました」

「……参加する」

二人は安堵した模様だ。

(まだ終了には早いな)

時計を確認すると時刻は午後14時40分。HRの時間も考えると大分、余裕がある。

(召喚術のリターンとリスクのおさらいするか?)

悩むカイムの助け船になればとネムがフォローした。

「ーーーー皆は将来の夢や目標はあるかな?」

「もちろんですわ理事長」

真っ先に目を輝かせて、アレクシアが答えた。

「それを僕と先生にも教えてくれる?」

(名案だな)

指導の参考にしようとカイムはペンとメモを準備する。

「アレクシアから出席番号順に教えてくれ」

髪を手で靡かせ力強く宣言する。

「よーくお聞きくださいませ!私の目標は二代目クイーンナイツの部隊長となり、新時代の英雄となることです」

「二代目だと?」

「百年戦争を終戦に導いたクイーンナイツは、一代で部隊を解散しました。私はいずれネム理事長から、女王陛下に推薦して頂き、二代目クイーンナイツの部隊長を襲名。部隊を率いてゆくゆくは、アレクサンドリア帝国を照らす第二の救世主となりますわ」

壮大な将来設計である。

「それは光栄だね」

(……そんなに憧れるものかね)

「まぁお父様は変なことを仰ってましたけど」

「変?」

「帝国最強の『セルビア・アシュフォード』より、強い兵士がクイーンナイツには居たと」

「………」

「ヴィドイック・ロレーヌ卿が?」

「はい。理事長は心当たりがありますか?」

(ねぇ間違いなく君のことだよ)

(こっちに振るな…)

ネムは肘でカイムを小突くも、知らん振りをする。

「僕もちょっと分からないかな」

彼女もそれに合わせる。

「そうですか」

「オルタはどうだ?」

カイムは気を取り直して問う。

「わたしは…えーとぉ…えへへ。素敵なお嫁さんかなぁ」

髪を弄りつつ、照れ混じりに答えるオルタが愛愛しい。

「素敵な夢だね!僕も憧れるなぁ」

「り、理事長もですか?」

「うん」

結婚適齢期のネムには切実な夢だ。しかし、肝心の想い人は無関心である。

「具体的にどんなお嫁さんになりたい?」

「具体的?」

そう問われても困るだろう。

「俺の個人的な意見を述べると、動物やモンスターを狩猟できる女性は良いと思うぞ。動物は勿論、モンスターも食材価値と需要は高い」

とんでもない斜め上の意見を述べられ、オルタは目を丸くした。

「ーーーーふぇ!?」

「戦争が終結して尚、未だ不穏な情勢が続いているからな。もし食糧や物資の生産と供給がストップされても、生き抜く術(サバイバル能力)を培っていれば、家族が路頭に迷う心配もなくなる。……ちなみに『キラウェア樹海』で暮らす狩猟民の『ポポ族』は狩りに出掛ける男より、村を守る女の方が強いんだ。それは他部族の襲撃に」

「カイム先生」

「……」

説明途中だったが、ネムはカイムを黙らせた。

笑顔なのに目が全く笑ってない。

「今の意見は綺麗さっぱり忘れていいからね?」

「は、はい」

(……何が駄目なんだよ)

カイムは心の中で愚痴った。

「女の子の清純な夢を泥水で濁すようなアドバイスだから」

ぼろ糞である。

「カイム先生は女心をもっと勉強してね」

「いや俺は」

「勉強してね?」

「……善処する」

もうこうなるとカイムは何一つ反論できなかった。

【キラウェア樹海:帝国と共和国を跨ぐ広大な熱林地帯】

「次はセアの番だよ」

ネムが促すとセアは表情を変えず、淡々と答えた。

「猟兵団の頭領になる」

「リンドブルム猟兵団の頭領に?」

「ん」

ーーーーリンドブルム猟兵団。各国に名を轟かす猟兵組織であり、特に幹部の戦闘能力は凄まじいの一言に尽きる。

(それは大変な夢……いや目標だ)

身を持って頭領『赤竜』の強さを知るカイムは、生半可な目標ではないと分かった。

「……それと三年前にパパに勝った男を見つけて必ず倒す」

「!?」

「リンドブルムの掟に従い、パパの仇はぼくが討つ」

仇と言っても、死んだ訳ではない。それを彼はよく知っている。

「…ちょっと聞いていいか?」

「ん」

「セアの父親の名前は?」

「シグムンド・リンドブルム」

(せ、赤竜の実娘がセアだと?)

リンドブルム猟兵団は複数の傘下兵団を従属しており、直属の猟兵は皆、血縁問わず過去の名を捨てリンドブルムの性を名乗るルールがある。界隈では有名な話でそれ故、カイムは赤竜(シグムンド)がセアの実父と思っていなかった。

三年前、カイムは猟兵団同士の争いに巻き込まれた。

その過程で話が拗れ、最終的にシグムンドと一騎討ちする羽目になり激闘の末、勝利を納めたのだ。

「……風の噂で聞いた話だと、『赤竜』とその男は合意の上で戦い、お互い遺恨は残ってないと聞いてるぞ」

(ーーーーあ!もしかして)

冷静に考えれば、赤竜ほどの強者に勝てる者は一握りしかいない。彼女はカイムがその男なのだと察した。

「パパは許してもぼくは許さない」

「そ、そうか」

何とも複雑な立場である。

「…フラウはどうだい?」

ネムは気を利かせて、フラウに話を振る。

「フラウはね〜〜めちゃくちゃ遊びたーい!」

予想通りと云うべきか年相応な答えだろう。

「遊びたいか」

「うん」

まだ具体的な夢や目標はないようだ。

「はっ!フラウさんはそればっかりね」

「おでこシアは真面目すぎ〜」

「ア・レ・ク・シ・アよ!」

「まぁ趣味は大切だな」

「いぇーーい!カイムってばわかってるじゃーん」

(…久しぶりに明日は俺も釣りに行ってみようかな)

また穏やかな休日を迎られるとは、数ヶ月前まで想像もしていなかった。

「最後はラミィだな」

沈黙が続き暫くした後、一言だけ呟く。

「……わからない」

ネムは微笑み喋る。

「焦る必要はないよ。フラウもラミィも、この学校生活で自分だけの夢や目標がきっと見つかるから」

「…はい」

「りょ〜〜かい」

その後、予鈴が鳴りそのまま解散。無事、戦闘学の授業は終了したのだった。


◇◇◇放課後 午後15時30分〜17時30分◇◇◇


職員室に戻り、角一番にネムに礼を言う。

「今日は助かったよ」

「ううん。一週間経つけど慣れてきた?」

「…どうかな」

生徒の課題は山積みで、自分は未熟な新米教師。逆に教育の過程で生徒から学ぶ事の方が多いと彼は思う。ーーーーとはいえ、その仕事振りは初任と思えないほど板についていた。

「それで土日は何するの?」

「モンスターを狩って金策だ」

「……金策?」

「ああ。所持金が580Gしかない」

子供のお小遣いより少ない。カイムは散財するタイプではないが、サーモで孤児院へ寄付したり、ハントボールの購入で金欠に陥っていた。

「せ、生活できないでしょ」

「大丈夫さ」

しかし、焦りはなかった。稼ごうと思えば直ぐに稼げるからだ。

「…うーん…僕は今週末は不在だし心配だなぁ」

(ネムは本当に世話焼きだな」

甲斐甲斐しく世話を焼く理由が幼馴染としてだけでなく、恋慕ゆえだと朴念仁の彼は理解していない。ネムは紙にペンを走らせ、カイムへ渡す。

「はい」

「住所?」

「それルーヴェに建てた僕の家だよ。メイドにカイムのことは伝えておくから」

「?」

話が見えず、首を傾げる。

「お腹が空いたら行ってね」

大の大人に過保護すぎると言おうと思ったが、本気で心配してるネムの顔を見て止めた。

「…ありがとな」

「うん!どういたしまして」

帝都へ戻るネムと別れ、カイムは残務に取り掛かった。


「ーーーー部活か」

仕事を片付けた後、寮へ戻る途中、運動場で生徒を見付ける。彼方も気付いたのか、手を振ってカイムを呼んだ。

呼んでいるのはエリナだった。傍まで行くと、ジャージ姿のエリナと他四人の生徒が挨拶する。

「「「「お疲れさまです」」」」

「お疲れ様。俺に用事でもあったか?」

「ううん!用事はないけど、先生が歩いてたから、手を振ってみたの」

「そうか」

屈託なく笑う彼女の脇には、モンスターの革を鞣したボールが抱えられていた。

「『バイツボール』?」

「わたしたち『バイツボール部』なんで」

【バイツボール:制限時間内に相手からボールを奪い、自分の陣地に戻ると勝利となる球技。アビリティ、スキル、武器は使用禁止だが、格闘技等は使用可。荒っぽいスポーツである】

「俺も昔やってたよ」

士官学校時代を思い出すカイムであった。

「へぇ〜経験者なんだぁ」

「…巧そうだよね?」

「睨まれたらボールを差し出しちゃいそう」

「わかるわかる」

(……よく賭け試合をして熱くなったもんだ)

不純である。

「あ!せっかくだし先生さえ良ければ試合します?」

エリナが指先でボールを回し誘う。

(ーーーー久しぶりにやってみるか)

これも生徒との交流の一環だと思い了承した。

「いいぞ」

「へっへーん!一泡吹かせちゃうもんね〜。五対一でも、手加減しませんよ?」

「「「「おー!」」」」

エリナを中心に四人が配置につく。中央線を隔て左の陣地がカイム、右がバイツボール部の陣地だ。

「制限時間は五分。先制は?」

「そっちで構わない」

「じゃあ行きますよ〜…よーいスタート!」

【1stゲームスタート】

「よっ」

「…はいっ」

ボールを味方同士で投げ合い、的を絞らせないオーソドックスな戦法だったが、カイムはパスされる瞬間を狙い、素早く奪い取る。

「うそ!?」

「ーーーーボールを見過ぎだな。眼球の動きで分かるぞ」

「……返してもらいます」

「先生だからって容赦しないですよ!」

ボールを奪おうとマルシルとイレーナが迫る。

足払い、拳打、掴み。二人は遠慮せず攻撃するも、カイムは華麗にステップを踏み避けた。

「ファイスーネ!ロール!」

エリナの指示で、今度は両側から挟撃を仕掛ける。

「ーーーーきゃん!?」

「わ、わ、わっ」

宙高くジャンプして後方へ下がる。

勢い余りファイスーネとロールが抱き合う形で衝突した。

「…ふっ!」

エリナは本気でカイムの側頭部を狙い、ハイキックを放つ。躱されるとそのまま、右後ろ回し蹴りへ繋げるも、ボールで防がれ、弾力で押し返されてしまった。

「あっ…とっとっと…!」

「どうした?終わりか?」

「まだまだっ」

躍起になったエリナが突っ込むと、カイムは空中にボールを放り投げた。

「!?」

慌てて急停止して跳躍した彼女に対して、少し遅れてカイムも飛ぶ。

「くっ…」

肩を掴み押し退けようとボールに手を伸ばす。

(び、びくともしない)

しかし、諦めず手を伸ばしキャッチした。

(ーーーーやった!……ってうわっ!?体勢が!受け身…ま、間に合わな)

(…ん)

【カイムの『空歩術』】

カイムは凄まじいスピードで宙を駆け下り、落下するエリナを抱き抱えた。

「あ、う?」

「無茶し過ぎだな」

空歩術は空中移動を可能とするアビリティだ。

「ーーーーしかし、この勝負は君達の勝ちだ」

お姫様抱っこで抱えた少女を見詰めて言った。

【1stゲーム終了!WIN!バイツボール部】

丁度、制限時間を迎えたのである。

(俺が勝つのは大人気ないよな)

エリナを下ろし土埃を手で払う。

「………」

「どうした?」

黙ったままエリナは熱い視線をカイムへ注いでいた。

「い、今のすごっ!?」

「残像が見えたんだけど…え、目の錯覚?」

「先生…やば…」

他の四人も駆け寄る。

「大したことじゃない。空中ダッシュはアビリティでLvが高ければ、身体能力は強化されるから、多少無茶な動きも可能なだけだ」

「えーー!先生のLvっていくつですか?」

「それは秘密」

教えれば絶対に怪しまれると考えて言わない。

「バイツボール部の顧問になってくださいよ〜」

「うち顧問いないし適役だよ!」

「…ふむ…考えておこう」

「さっき眼球の動きで分かるって、言ってましたけど」

「ボールを目で追うと予測されるから、相手の動作で判断しろって意味だよ」

「そんなの無理ですよ」

「いや、無理じゃない。先ずパスパターンを決めた反復練習をしてみろ。次第に動作と予測でボールを捌けるようになるから」

「は、はい」

「それと相手からボールを奪う際は肘、指関節、膝関節等の起点を狙え。ボールを抱える以上、ガードする動きは限られるし防ぎ難い」

「「「「へぇ〜!」」」」

「……さてと俺はそろそろ行くが、皆も門限までに寮へ帰るんだぞ」

一通りアドバイスをして運動場を出て行った。

「……先生って何者だろーね?」

「他の先生とも雰囲気違うくない?」

「うん」

「顧問になって欲しいよね〜!バイツボール上手だったし……エリナ?」

マルシルは先程から黙ったままのキャプテンの肩を揺さぶる。

「ーーーーかっこいい」

「は?」

「カイム先生って恋人いるのかな……」

「「「「!?」」」」

非道な海賊から救い、自分の身の安全を優先して、勝利を投げ出したカイムがエリナには、白馬の王子様にように映った。思春期真っ盛りの少女が恋した瞬間である。


職員寮の門前でツヴァイとチヨがカイムを待っていた。

「お、よーやく来たか」

「二人共どうした?」

「どーしたもこーしたも飲みに行こうぜ」

「飲み?」

「親睦を深める歓迎会って意味やねぇ」

「おう!週末だしよ」

予想外の誘いに驚いた。

「……気持ちは嬉しいが金欠なんだ」

所持金580Gなので一杯飲めば終わってしまう。

「心配すんなって!今日は俺とチヨが出してやるよ」

「そうですよ〜。ツヴァイ先生が大盤振る舞いしてくれはる言うてますし」

「ん?ん?」

「うふふ〜」

ツヴァイが首を傾げるがチヨは笑って誤魔化す。

「奢りなのか?」

「お、おう」

「それなら行こう」

意外と現金な男である。三人のルーヴェの市街『歓楽地区』へ向かう。


◇◇◇歓楽地区 酔いどれ蛙亭◇◇


ルーヴェの歓楽地区は週末の為か、いつも以上に活気で溢れ賑わっている。『酔いどれ蛙亭』は、新鮮な海鮮料理が売りのリーズナブルな大衆居酒屋だ。時刻は午後19時。入店した三人は、座席へ座り早速乾杯する。

「…ごく…ごく…ぷはぁ……カッーーーー!仕事終わりの『帝国ビール』は最っ高!!」

一気にグラスの半分を空け、ツヴァイは泡を拭う。

「海老の唐辛子炒めとボダムフィッシュの刺身、パリパリパリ塩キャベツ、トマトとイエローチーズのカプレーゼを頼む」

「かしこまりました〜」

店員に一通り注文を終えたカイムも、ビアジョッキを呷る。強炭酸とキレの良い苦味が心地良く喉を潤した。

「そういえばよぉ今日は驚いたぜ」

「驚いた?」

「おぉ〜1ーA五人の授業態度がマシになっててさ……ゴクゴクッ!ぷはぁ〜〜……まぁ十点満点中二点ぐれーだけど」

「でも初回に較べれば大違いやね」

「そうか」

表情は崩さずともカイムは嬉しく思う。

「どんな説教をかましたんだよ」

「一言アドバイスしただけさ」

「そういえばカイム先生は理事長と幼馴染なんでしょ?」

「…まぁ」

「っつーことは帝国貴族か?」

「一般市民だ」

「スーフェリア家の一人娘が一般人と幼馴染は、無理があるんちゃうかなぁ」

カイムはグラスを静かに置き二人を一瞥した。

「情報収集」

「「!」」

「正体を知った上で尚、言質が欲しいようだな」

「あ〜」

「…参りますわぁ」

二人は顔を見合わせ苦笑した。ツヴァイは、頭を掻き答えた。

「今更、隠しても仕方ねぇよなーーーー俺は共和国軍の諜報部から派遣された調査官だよ」

(共和国軍の諜報部?エリートだな)

「うちは帝国軍の元隠密部隊や」

(……よりによって隠密部隊とは)

粗方、予想してたが嫌な記憶が蘇り眉を顰める。

「守秘義務があっからこれ以上、言えねーが敵じゃねーぜ」

「…うちのこと警戒しとるよねぇ?でも足抜けしとるし、五年前の襲撃に関わっとらんわぁ」

「足抜け?」

「今は帝国軍の斥候部隊所属やから」

チヨは穏やかに微笑む。

「カイムはあの『カイム・ファーベイン』だろ?」

「………」

小さく頷き、肯定する。否定しても無駄だと判断した。

「そっかーーーーこれまでの経緯は聞かねーよ」

「話してくれるとも思わんしねぇ」

「それでいいのか?」

「認めてくれただけで十分さ」

「助かるよ」

(……アンタはメーゼン様の恩人だしな)

諜報部所属のツヴァイはカイムが軍を離反してまで、妖精王メーゼンの子息と令嬢を助けたことを知っていた。

「うちだって構いません。追放処分は解除されとるし、今は同僚で仲間やん?」

「そもそも『凶刃』に手ぇ出そうって命知らずは、共和国軍の将校にゃいねぇーよ」

「帝国も一緒やわ。況して元帥の息子にーーーーっと!ふふふ、お口チャックやね?」

眉間に皺を寄せたカイムにチヨは唇に人差し指を立てた。

「まぁまぁ!小難しい話はおしまいにして楽しく飲もうぜ」

「やねぇ…すみませ〜〜ん」

チヨが店員を呼ぶ。

「はいはーい」

「この純魔王をボトルでお願いしますぅ」

「かしこまりました〜」

(高い酒を頼んだな)

「……チヨさん?割り勘っつっても流石に」

「ツヴァイ先生は太っ腹やから好きに飲んでええ言うてましたしぃ〜」

「言ってねぇ!念を押すけど割り勘だからな!」

「この雪村って酒も美味しいんよ」

「…ほう」

「あ、無視?そーゆーことするか〜」

運ばれた料理に舌鼓を打ち酒で喉と疲れを潤す。

気分良く酔いも回った頃、カイムはツヴァイに問う。

「ーーーーツヴァイは既婚者って言ってたよな」

「まあな」

「単身赴任ってやつか?」

「あ〜ルーヴェで一緒に住んでるよ」

「ほう」

「うふふ!カイム先生もビックリすると思うわぁ」

「びっくり?」

「奥さんは帝国貴族サルバトーレ家の三女やもん」

チヨの言った通りカイムは驚いた。

「サルバトーレ家って……よく結婚が許されたな」

スーフェリア家に及ばぬとも名の知れた帝国貴族だ。

「許されてねーよ。まぁ駆け落ちってやつさ」

酔って頰が赤いのか照れたのか判別できないものの、カイムは率直に感心する。

「ツヴァイは凄いな」

「へっ!あっちは今でも誘拐だと思ってんじゃねーかなぁ」

共和国の諜報部の男と帝国貴族の娘が結婚。まるで恋愛小説みたいな話である。駆け落ちなんて言葉で簡単に済ますも、当時の情勢を考えれば、並々ならぬ決断だった筈だ。

「三女といえどやんごとなきご令嬢やからねぇ」

「今じゃ鬼嫁だけどな!わはははは!」

(……笑ってるが苦労しただろうに)

自分も苦労した身の上なので親近感が妙に湧く。

「リルちゃんは元気?」

「おー」

「子供もいるのか」

「3才の娘な」

父親には可愛い盛りだろう。

「そういえばツヴァイとチヨは幾つなんだ?」

「俺が25歳でチヨは26歳じゃなかったっけ?」

「そやね」

「ふーん」

自分より歳下だとは思っていたが当たった。

(それにしても結婚か……俺には一生縁がないだろう)

いや、縁はある。彼が気付いていないだけである。

「うちも30歳までには結婚したいわぁ」

頰に左手を添え、チヨは悩ましげに吐息を漏らす。

(その容姿なら引くて数多だろうに)

来店時から彼女の艶やかな美貌に惹かれ、他の男性客は横目で様子を窺っている。

「カイム先生はどうなん?理事長はとても綺麗やし、二人はええ仲に見えるけど」

「幼馴染の親友ってだけさ」

ネムがこの場に居れば憤慨したに違いない。

「ふぅーん」

「そもそも俺は誰かと付き合った経験もない」

自虐的な口調で答えるも二人は何となく察した。

(……女心に鈍そうだもんな〜)

(めっちゃ鈍感そうやわぁ)

何はともあれ時間の許す限り、三人は酒席を楽しんだ。


ーーーー午後21時49分。飲み会も終わり、カイムはチヨを家まで送っている最中だった。

「もう気ぃ遣わなくてええのに」

「どうせ帰り道だ」

逆方向のツヴァイと別れ、夜風に吹かれつつ舗装路を歩く。

(……今度は俺が奢ろう)

会計で『嫁に殺される』と、青褪めていた彼を思い出してちょっと気の毒になった。

「ルーヴェは治安がええから心配無用よ?」

「チヨが強いのは分かるが酒を飲んでる上、暗い夜道を一人で帰すのは駄目だ。これは男として当然の責務さ」

古臭い騎士道精神のような考えを淡々と述べる。

「そうですか」

「ああ」

表情を繕うものの内心、動揺するチヨだった。

(……もぉ〜〜!不覚やわぁ)

ーーーー帝国軍は能力至上主義の軍隊であり、性別問わず優秀な者ほど出世も早く、特に隠密部隊は戦闘、諜報、潜入のエキスパートで構成される高い素養を秘めた者しか入隊を認められない。

若干18歳で隠密部隊に配属され、任務に追われた彼女は意外にも見た目に反して、恋愛経験が乏しかった。

(国ぐるみの情報操作と隠蔽で今や彼の活躍を知る者は少ないけど……)

「どうした?」

「なんでもないですよぉ」

小首を傾げ笑顔で誤魔化す。

「気分が悪ければ無理せず言ってくれ」

「ふふふ!じゃあ抱っこでもして貰おうかな?」

「よし」

カイムは左手で肩を掴み、右手を腰に回した。

「ーーーーちょ、ちょ、カイム先生ぇ!?」

「恥ずかしいかも知れないが我慢しろ」

冗談で言ったつもりが、カイムは本気にしていた。

(え、え、えぇ〜〜!?)

所謂お姫様抱っこである。

肩と腰を掴む手は、力強く振り解けない。しかし、下心は一切感じせないのが不思議だ。

彼女の顔は真っ赤に染まり、急速に熱を帯びた頰を冷たい夜風に撫でられる。沈黙が続きチヨは気まずい空気のまま、マンションの前まで到着した。

「立派なマンションだな」

そっと降ろして、辺りを見渡す。外観も綺麗で警備員が常駐しており、防犯設備も整っているようだ。

「……カイム先生は、いつもこうなん?」

我慢出来ずチヨは問う。

「質問の意図が分からないが」

「だ、だから」

「チヨを抱えるのに特別な理由が必要か?」

雰囲気を意に介さず普通に答える。

「あ、う」

彼の返答をチヨは好意的な別解釈に捉えた。感情を表すように狐耳は項垂れ、尻尾は左右に揺れる。

純粋な善意と行動に裏はないーーーー故に非常に質が悪い。ここにネムが居れば、尻を思いっ切り蹴っ飛ばして、魔法をぶっ放したかも知れない。

「そういえば疑問なんだが、どうして皆は職員寮を使わないんだ?」

「ーーーーへ?あ、あぁ!職員寮ですか?えっとやね」

首を横に振って答える。

「お互い牽制し合っとるんですよ。両国軍以外の組織からも、何人か派遣されとりますし」

「…ふむ」

思い当たる節はある。

「まぁ理事長も承知の上やし、面倒毎を起こす度胸は誰もないでしょうけど、同じ住居で暮らすんは無理やわ」

ネムを敵に回すのは、帝国と敵対するのと同義であり、彼女自身も恐ろしく、そして凄まじく強い。

凶刃に劣るとも、魔狼の異名もまた脅威の象徴なのだ。

「……カイム先生も気を付けるべきやわ」

「?」

「今年の新入生の父母は各界隈で名の知れた重鎮ばかり。ヴァルキリースクールに入学したのは、何や思惑があると睨んでます」

軍人の顔を見せたチヨは腕を組み忠告する。

「思惑か」

「貴方に任せたのはきっと考えあってのことやろうね」

(…ふん…どうあろうと関係ないさ)

彼は生徒を一個人として見ている。国も、家名も、血筋も特別扱いする理由にならない。ただ真摯に向き合うと決めていた。それは簡単なようで、とても難しい。

しかし、何と言われようと揺るがないその鋼鉄の意志こそ、ネムを始め彼に好意を寄せる者達が、信頼する一番の要因なのだろう。

「気に留めておく。……今日は楽しかったよ。誘ってくれてありがとな」

カイムは礼を言ってさっさっと踵を返した。

「あ……部屋に上がってお茶でもどうやろ」

「……」

(ーーーーはっ!う、うちってば何を?)

咄嗟に言ってしまったものの、これでは誘ってると誤解される台詞だ。

「また今度な」

それは杞憂だった。彼女は安堵するような、ちょっぴり残念なような気分である。

(……はぁ〜……凶刃がこんな素敵な殿方とは、知らんかったわぁ)

魅入るように背中を眺め見送るチヨだった。


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