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ハイアーダール伯爵領にて

 私の誕生日から数週間経って、アンビティオ魔法学院に通う日々に慣れたそんな頃。

 アーテルはいくつかの授業を最初の編入試験で合格しているので、一週間の中で何日か休みになる事がある。

 ちなみにネーロを連れている事はまだ知られていないらしい。


「アーテルはいい子なのだけれど、いい子だからこそ誰かが傷つくような行いをしている者がいたら見逃せないのよね」

「あー、そうだね」


 前からそういう面はあったし、世の中の全てが綺麗事で片付かないのは知っているけど、そのままでいられる間はそのままでいて欲しい。

 そう思うのは姉のわがままだろうか。


「そういう場に居合わせた時、アーテルが間に入ったりするのだけれど毎回心配になるのよ。私の存在が知られていれば、なめられる事も無くなるのに……と思ってしまうのよね」

「ネーロ、ありがとう。アーテルにもアーテルの考えがあるみたいだから、そのまま優しく見守っていてくれると嬉しいな」

「ええ、言われずともそのつもりよ」


 私はネーロのこういう所が大好きだ。

 彼女はアーテルが道を外れない限り見守ってくれるだろうし、何かあれば優しく導いてくれるだろう。

 だから、安心してアーテルの事を任せられる。


「今日は何をするか決めているの?」

「う〜ん、悩んでいる最中なんだよね」


 アーテルは今日から三日間休みだ。

 研究院の方は自由なのでアーテルに合わせて私も休む事にした。

 せっかく三日も時間あるんだし、このヴァルメリオ領以外の領で冒険者として依頼を受けてみようかな?

 そういえば、ここから近いハイアーダール伯爵領は乳製品が有名らしい。

 少し前にクラルテさんにチーズを分けてもらった事があって、その時に聞いたんだよね。

 そこで依頼を受けるついでに美味しい乳製品を買うのも楽しそう。

 アーテル達に提案すると賛成して貰えたので、私達はハイアーダール領へ向かう事に。

 辺境伯邸の別館から『ワールドワープ』で転移してハイアーダール伯爵領近くの森へ向かう。

 そこから特に乳製品の加工で有名なミルキュアという街へ行くことにした。


「ふん〜! ふふん〜! 良い依頼あるかな〜」

「ふふ、アールはどんな依頼をやりたいの?」

「う〜ん。戦える依頼がいいけど、誰かの役に立てるならどんな依頼でもやりたいよ」


 私の弟いい子過ぎでは?

 アーテルの頭をナデナデしておいた。

 それを見てネーロやルーセント、リリーまで背伸びしてアーテルの頭を撫でていた。

 私はしみじみこんな風に楽しく過ごす時間を嬉しく感じる。

 みんなで楽しく歩いているとあっという間にミルキュアに着いた。

 街の規模はそれなりに大きく、外壁の外にいくつかの牧場らしき建物が見える。

 このミルキュアの周りは草原に囲まれているので、森の近くに比べて凶暴な魔物が少ないらしく、外壁の外で放牧されていた。

 いつも通り冒険者ギルドのギルドカードを見せて街の中へ入る。

 大通りでは沢山の乳製品が売られていた。


「姉さま、何を買うの?」

「う〜ん。沢山あって目移りしちゃうね。依頼をこなしてからもう一度来ようかな」


 という事でまずは冒険者ギルドへ向かう事にした。

 ギルドに入るとまずは依頼が貼られている掲示板を確認。

 アーテルは戦いたいって言ってたし、ほぼ常設のゴブリンやオークの討伐依頼を受けようかな? とか考えていたらギルドの職員さんが新しい依頼の紙を貼りに来た。

 内容はミルキュアの近くにある村でデスウルフによる被害が出ている事。

 その為、デスウルフの討伐と周辺の調査を依頼するというものだった。

 デスウルフは一体ならCランクでも倒せるけど集団の場合はBランク推奨だ。

 この依頼は集団を想定されているらしくBランクの場所に貼られていた。


「これにしよっか」

「うん!」


 剥がした依頼の紙を受付に持っていくと、目的地であるミリシー村までと周辺の地図を渡されて、注意事項の説明を受けた。


「場合によっては上位種や変異種がいる可能性もあるので、その時は依頼を中断してギルドに報告してください」

「分かりました」

「では、よろしくお願いします」


 ミルキュアを出てミリシー村へ向かう。

 地図を見る限りそこまで遠くはなさそうだ。

 村へ近づくといくつかの木の柵が見えて来た。

 柵の中には牛系の魔物がいる。

 この世界、普通の動物もいるけれど魔物を家畜としている事も多い。

 そして、このミルキュア周辺は牛の魔物の製品で有名な場所だ。


「姉さま、あの魔物はなんて名前なの?」

「カインドカウって名前だよ。美味しいミルクを作ってくれるんだって」

「そうなんだ! 楽しみだね!」

「ふふ、そうだね」


 カインドカウは温厚で人に慣れやすい。

 戦闘能力は低ランクの冒険者でも倒せるレベルだ。

 だからこそ他の魔物に狙われるとあっという間に倒されてしまう。

 今回の依頼もカインドカウがデスウルフに何体か襲われた為に出されたものだった。

 村の入口を守っている男性に声をかけて、ギルドカードを見せつつ依頼を受けた事を話す。

 すると、他の男性に声をかけて役目を変わってから私達を村長さんの家へ案内してくれた。


「こんなに早く来てくださってありがとうございます」

「いえいえ、それが私達の仕事ですから。ところで被害の方は」

「二頭が食われ一頭は襲われている所を見つけてなんとか私達で追い払ったのですが、助かりませんでした」


 三頭も被害が出ている時点でこの村からすれば相当な痛手だと思う。

 早めにこの依頼を受けて良かった。

 この村もミルキュアと同じく周辺は草原に囲まれているけど、少し離れると森がいくつかある。

 デスウルフの生息地はその辺だろう。

 村長さんと話していくつかの確認を済ませたら早めに討伐へ向かう事にした。

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