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研究室の見学 その一

 今日は編入当日。

 既に学院には着いていて、アーテルとも別れたところ。

 あの子はなんだかんだ要領良く動ける子だしネーロもいるから、大丈夫だとは思うけど少しだけ心配だな。

 私は入る研究室を決める為に今日は見学する事になっている。

 気になっているのは、魔道具研究室と魔法薬研究室、そして魔物研究室の三つだ。

 案内してくれる先生に連れられて最初の研究室へ向かう。


「ここが魔道具研究室です」

「失礼します」


 魔道具研究室に入ると中には沢山の魔道具や材料が置いてあった。

 高価なものもあるけど、持ち込みなのかな?

 もう一つの部屋にはもっと高価な材料が鍵をかけて置かれているみたいだ。

 部屋の中に入った私の存在に気づいている人もいるけど、ほとんどの人が自分の研究の方に集中している。

 ここなら私の事を気にする人は少なそうだな。

 エルフというだけで絡まれる可能性も考えていたから安心した。

 年齢層も十代後半や二十代前半ぐらいの人が多そうだし、落ち着いている雰囲気で好ましい。

 この研究室は楽しそうだね。


「ここは攻撃魔法研究室です」

「結界魔法が張ってあるんですね」

「ええ、模擬戦闘や攻撃魔法の試し打ちもしますから。先程の魔道具研究室にも結界魔法を展開できる部屋があるんですよ」


 案内してくれる先生の説明を聞きながら考える。

 そうか。魔道具も家電みたいな物だけじゃなくて、戦闘に使える物もあるもんね。

 それを試す時は結界魔法が必要だわ。

 攻撃魔法研究室は男性が多くて血気盛んな雰囲気だった。

 魔道具研究室も男性が多かったけど女性が思っていたよりもいたから、入りやすそうだと思ったんだよね。

 この研究室の研究も色々と役に立ちそうだけどやめておこうかな。

 そこまで攻撃魔法を極めたい訳じゃないし、現時点でそれなりに使えてるからそれで十分な気がする。

 次に案内されたのは魔法薬研究室だ。

 部屋に入ると薬草の香りが充満していた。

 ふふっ、魔法薬研究室って感じがするなー。

 机の上に置いてある薬草は見た事があるものが多かったけど、初めて見るものもあった。

 うん、楽しそう!


「シナーレス先生、下級解毒ポーションではポイズンスライムの毒は解毒出来ませんよね?」

「残念ながら出来ないわねぇ〜」

「ポイズンスライムの毒による被害は多いので、下級解毒ポーションで解毒出来るようになれば助かる人が増えると思うんです」

「それはそうね〜。けれど今のところポイズンスライムの毒を解毒出来るのは中級以上の解毒ポーション、または中級解毒ポーションに使われるフィリグルを使ったポイズンスライムの毒専用の解毒薬のみねぇ〜」


 この研究室の先生と所属している研究生の会話を聞いてやっぱりここも楽しそうだなと思う。

 しかもタイムリーな事にこの前、下級解毒ポーションを改良しようとメラン様の資料とかを読んだり、ウーアシュプルング大樹海で採取をしている時に良い薬草を見つけたんだよ。

 ノバージュって名前の薬草で、普通の下級解毒ポーションだとイポーズって薬草を使うんだけどそこをノバージュに変えるとポイズンスライムの毒も解毒出来るようになったんだ。

 個人的には、お金儲けは冒険者家業で十分だしこのレシピが広まってポイズンスライムの毒による被害が減る事の方が嬉しいんだよね。

 だから、声をかける事にした。


「あの、すみません」

「あらあら〜、今日の見学の子よね? どうしたのかしら〜? 何か質問〜?」

「えっと、さっきのお話を聞いていたのですが」

「さっきの?」


 話を聞いてくれるようなので最近作ったそのレシピの話をする。

 鑑定スキルがある事を隠すつもりは無いので、それも合わせて伝えて下級解毒ポーションでもポイズンスライムの毒を解毒する事が出来ると話した。


「まぁ、それは素晴らしいわねぇ〜。でも大切な独自レシピを私達に教えても良いのかしら〜?」

「構いません。お金には困っていませんし、一人でも多くの命が助かるのならその方がいいと私は思うので」


 私がそう話すととても感心した様に頷く先生。

 それにしてもこの先生、独特な話し方だな。

 周りにはいなかったタイプで最初は驚いたけど、話しやすいし面白い。


「あら、そういえば自己紹介がまだだったわねぇ〜。魔法薬研究室の教授をしているピアンタ・シナーレスよ〜。気軽にピアンタ先生でも、シナーレス先生とでも呼んでね〜」

「はい。こちらこそ自己紹介が遅れてすみません。アンビティオ魔法学院の研究院に編入する事になったリアと申します。弟と一緒に冒険者をしています」


 まったりした話し方で、何故この薬草に置き換えることを思い付いたのかなど色々聞かれた。

 ノバージュはイポーズと違い水辺にしか生えないけど、イポーズとほぼ同じぐらいの難易度で手に入るし、イポーズを使った場合と同じ効果を維持した上でポイズンスライムの毒を解毒する事も出来る。

 ノバージュを使ってみようと思った理由は簡単だ。

 ポイズンスライムの毒を浴びたフォレストベアがノバージュを食べていたから。

 それを見て、もしかしたら解毒に使えるんじゃないかなって思ったんだよね。

 思った通りの効果をもたらしてくれたんだけど、なんで今までノバージュを使って試した事が無いのかが不思議で仕方ない。

 私がそれを呟くとシナーレス先生が答えてくれた。


「昔、ノバージュを使って中級解毒ポーションを作った時に効果が薄れた事があったらしいの〜。その話が広まっているから他の解毒ポーションに使う事が試されてないんだと思うわ〜」

「そうなんですね。知りませんでした」


 そっか。一度効果が無いとか、効果が弱くなるって思われたら使われないんだね。

 でも、なんで最初に中級解毒ポーションで試しちゃったんだろう。

 下級解毒ポーションで試していれば成功していたのに。

 まぁ、お金儲けを考えるなら下級解毒ポーションより、中級解毒ポーションの方が高いからそっちのいいレシピを作りたかったのかな?

 なんて考えながらシナーレス先生の前でノバージュを使った下級解毒ポーションを作った。

 出来上がった物を先生に渡すと、先生はじっくりとその下級解毒ポーションを見つめる。

 この様子だとシナーレス先生も鑑定スキル持ちかな。


「素晴らしい出来ね〜。これなら沢山の人が助かると思うわ〜。リアさんはこの魔法薬研究室に入ってくれるつもりなのかしら〜?」

「はい」

「研究熱心な子が入ってくれるのはすごく嬉しいわ〜。じゃあ、今度来れる日に一緒にこのレシピを登録しに行きましょうね〜」

「えっ」


 私が驚くとシナーレス先生におっとりじっくりレシピ登録の大切さを説明された。

 使用料を取らずに広めようとする優しい考えは素晴らしいけど、この仕組みを使う事で他人に悪用される事を防いだりできるからレシピ登録はするべきだと言われた。


「それに何かあった時に貴方のレシピが原因では無いと主張出来るし、善意で広めたいレシピだとしてもそうすることが大切なのよ〜。納得出来たかしら〜?」

「しっかり納得出来ました。丁寧に教えてくださってありがとうございます」

「ふふふ、いいのよ〜。だから今度一緒に薬師ギルドへ行きましょうね〜」

「はい。ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」


 私はそう答えて頭を下げる。

 すると、複数の拍手が聞こえた。

 周りを見回すとニコニコと笑顔を浮かべた研究院生達に囲まれていた。


「エルフの子が来るって聞いて近寄り難い子なのかなって思ってたけど、めちゃくちゃいい子じゃん」

「貴方みたいな優しくていい子は大歓迎よ! これからよろしくね」

「初っ端からオリジナルのレシピで有用な物を持ってくるなんてすごいなぁ。僕達なんかあっという間に追い越されちゃいそうだ」


 思った以上に暖かく迎えられていて驚く。

 雰囲気も良いし、魔法薬研究室に入るのは決定でいいかな。


「先輩方、よろしくお願いします」


 と私が言うともう一度暖かい拍手に包まれた。

 こうして、魔法薬研究室の見学が終わり所属する研究室の一つが決まった。

 魔法薬研究室を出ると案内してくれている先生に苦笑される。


「あそこまで最初から歓迎されているのも珍しいですよ」

「そうなんですか? 皆さんがとても優しくて入る事を即決してしまいました」

「その気持ちは分かります。あそこまで歓迎されていたら嬉しいですよね。予定より少し時間が経ってしまいましたが、他の研究室へ向かいましょうか?」

「はい」

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