雑談と契約魔法
リリス様と楽しく話している最中、とある事を思い出す。
アーテルが精霊な事は隠蔽していても、人族以外のそれこそ魔族やエルフには気づかれてしまうんだよね。
どうすればいいんだろう?
アーテルと話していたリリス様は考え込んだ私に気がついて、声をかけてくれた。
「悩み事かの? わらわでよければ聞くぞ?」
「ありがとうございます。実は……」
リリス様にアーテルの種族を気づかれてしまった事が何度かあることを話す。
話終わると少し考え込んだ後、リリス様が声をあげた。
「ふーむ……。おっ、そうじゃ! よい方法があるぞ!」
「それはどんな?」
「アールが精霊と契約する事じゃ」
私達がピンときていないことに気がついたんだろう、リリス様は丁寧に説明してくれた。
精霊魔法スキル持ちでなくとも、精霊と契約出来る事がある。
精霊と契約した人の魔力は精霊の魔力に似たり、契約した精霊の魔力を纏っていたりする為、それを理由に誤魔化すことが出来るだろうと。
「しかし、欠点があったの……」
「欠点ですか?」
「アール程の魔力を持つ精霊に会うのは難しい。何より会えたとしても契約してくれるとは限らぬのじゃ」
「それなら問題ないです!」
話を聞いていたアーテルが断言する。
そうだね。実際問題は無い。
私達の仲間にネーロがいるから。
もちろん、彼女には聞くし嫌がればやめるけれど許可してくれる可能性の方が高いと思う。
アーテルがネーロとの出会いから今までを楽しそうに話している。
それをにこにこと微笑ましく聞くリリス様。
うん、平和だな。
話の内容が闇ギルド事件な事は置いておいて……。
「良い仲間がおるようじゃな。よし! そうと決まれば早速実行じゃ」
リリス様はそう言うと瞬時にワールドワープを使って、私達が借りているヴァルメリオ公爵領領都の別邸に転移した。
「ここにいるのじゃろ?」
「はい」
別邸の中に入ると雑談していたネーロとリリー、ルーセントが私達に気づいてこちらに来た。
「あら、もう試験は終わったの?」
「うん。無事に」
「主様、その方は?」
「えっと……」
「アンビティオ魔法学院の学院長をしておるリリス・ヴァルメリオじゃ。よろしくの!」
リリーはよく分かってないみたいだけど、他の二人は少し驚いた顔をしていた。
私は三人に戻ってきた理由を話す。
ネーロに契約してくれるかどうかを聞くと「いいわよ」と即答してくれた。
「当たり前じゃない。可愛いアールの為ならそのぐらい構わないわよ。アールやリアが私の力を悪用しないのも分かりきっているんだし」
「ネーロ、ありがとう」
「ありがとう!」
抱きついたアーテルの頭を優しく撫でるネーロ。
アーテルが姉の欲目を抜いてもいい子なのはあるけど、それ以上にネーロは同族でもあるアーテルに甘い気がする。
もちろん、彼女は長年生きている精霊なので無闇矢鱈に甘やかしたりはしない。
この短い付き合いでもダメな事はダメと言ってくれると知っているから、すごく信頼しているんだ。
リリス様に精霊との契約方法を聞く。
アーテルとネーロの場合は精霊同士なんだけど出来るのかな? という心配をしていたけど大丈夫らしい。
契約には沢山の種類があり、同族同士で力を借りたり貸したりする契約もあるんだって。
しかも、その契約内容は本人達やその魔法をかけた者、または高レベルの契約魔法スキル持ちにしか分からない。
その上、高レベルの契約魔法スキル持ちが安易に他者の契約魔法内容を話すのはタブーなので、バラされる心配も低いんだ。
それを聞いて一安心。
契約魔法スキル持ちはそれなりにいるからね。
多い訳じゃないけど、時空間魔法ほど少ない訳でもない。
アイテムボックススキルよりは少し希少かな? ってぐらいかな?
うーん。説明が難しい。
契約魔法スキル持ちがどれぐらいいるのかを疑問に思ったらしいアーテルに説明してみたけど、いい例えが思い浮かばなかった。
「そうじゃなぁ。時空間魔法スキル持ちが人族の国であれば十人いればいい方、契約魔法スキル持ちは国に百人以上はいるかの。アイテムボックススキル持ちはそれよりもっと多いんじゃ。まぁ、それでもアイテムボックススキル持ちも重宝されておるがの」
「やっぱり運搬面で優秀ですもんね」
「うむ。アイテムボックススキル持ちでも能力の高い者は貴族に雇われたり、囲われたりしておるの。時空間魔法スキル持ちが人族にいる場合は、その者の住む国の王族や貴族に囲われる可能性が高い。他種族であれば強制は出来ぬからどうにかなるが、人族の平民の場合は拒否できぬであろう」
その点、私は隠していたしバレても貴族だからそこまで困りはしなかったんだけど。
それだけ貴重な魔法スキルって事だ。
ちなみに、リリス様には時空間魔法スキル持ちという事は話しておいた。
既に私達がマグノリアとアーテルって事はバレているし、リリス様の事はこの短時間で信頼できると思ったからね。
まぁ、それをそのままリリス様に言ったら。
「リアは甘いの。わらわが悪いやつだったらどうするつもりなんじゃ? おぬしには守らなくてはならぬ者達もいるんじゃから、もう少し用心するんじゃぞ」
と注意されてしまった。
うん、ごもっともです。
でも、こうやって注意してくれる時点でリリス様はすごくいい人なんだよね。
話が逸れたけど、私はアーテルとネーロにお互いに魔力を注ぎ合ってもらい、そこに契約魔法をかける。
『コントラクト』
契約魔法ってだいたいコントラクトで済むのが面白いよね。
まぁ、その時に整える条件とかは違うんだけど。
一応、他にも種類はあるけど大体コントラクトで済む事が多い。
コントラクト優秀すぎでは?
閑話休題。
魔法をかけて二人が一瞬光を放ったところで契約完了だ。
リリス様の方を見ると、私と目を合わせて頷いてくれた。
「完璧じゃの。これなら他の者に何か聞かれても、契約した精霊の魔力を纏っていると言えるじゃろう」
「良かった」
「リリス様、ありがとうございます!」
「よいよい、わらわの可愛い学院の生徒でありメランの子孫の為じゃからの。ちなみに契約した精霊は学院に連れて行けるぞ」
えっ、そうなんだ。
その話を聞いたアーテルは目をキラキラさせて嬉しそうにしている。
目立つだろうけど、アーテルの種族が精霊なことを誤魔化すにはその方がいいのかな?
ネーロもアーテルの為なら一緒に行くのも構わないみたいだし。
「従魔なども危険が無ければ連れてこれるんじゃ。魔法を使う者にとって仲間は大切じゃからの。そういう事を学ぶ為に従魔との連携を教える授業もある」
そっか。
私には弓術が、アーテルには剣術がある。
それに体術は私達二人とも使えるし、魔法が無くてもどうにかなる。
でも、それが使えない人達は従魔などの仲間と連携する事が大切なんだ。
という新しい学びを得たあと、リリス様のワールドワープで学院の学院長室に戻り、少し経ってからバルツさん達と合流した。




