ヴァルメリオ公爵家へ向かう
ワールドワープを使って公爵領の別邸に戻ると、ヴァルメリオ公爵家から使いの人が来ていた。
「シュバルツ様、公爵邸へはいつお越しになられますか? ルーファス様方が今か今かと心待ちにしておられます」
「ちょうどこれから行くつもりだから、そう伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
というやり取りの後、使いの人は帰って行った。
バルツさん達はこれから公爵家に行くのか。
私達はどうするんだろう?
「リア達も一緒に行くぞ」
「えっ」
「くくっ、自分達はどうするんだろう? って顔に書いてあったからな」
笑いながらそう言ったバルツさん。
私は咄嗟に頬を手で覆った。
考えている事が顔に出てるなんて恥ずかしいな。
というか私達も一緒に行くんだね。
うっ、緊張する。
前もって親族に会うとは言われていたけど……。
アスティさんはここに残るらしく、それを聞いてネーロも残ると言った。
「では、私も残ります」
「ルーセントも?」
「はい」
「バルツさん、いいですか?」
「大丈夫だ。アスティもいるしな。リアとアールには来てもらわないと困るが、ネーロ達は自由にしていいぞ」
という事でネーロとルーセント、トラストが残る事になった。
公爵家には私とアールとリリーで行く事に。
多分、夕食はそちらで食べる事になると言われたので、アスティさんの分も含めた食事を余っているマジックバッグに入れて渡しておく。
アスティさんにはすごく喜ばれたし、バルツさんは羨ましがってた。
私が「また作って出しますよ」と言ったら納得してたけど。
用意された馬車に乗って公爵家へ向かう。
「着いたぞ」
「はい」
流石、公爵家すごく広いな。
お屋敷はとても大きいし庭園は美しい。
少し家に似ていて懐かしくなった。
まだ、一ヶ月とちょっとしか経ってないのにね。
バルツさんに連れられて一番大きなお屋敷の中に入る。
入ってすぐ沢山の使用人に迎えられた。
執事らしき人の案内でお屋敷の中を進んでいく。
調度品とかがいっぱいあるけど、お屋敷の雰囲気に合っていて上品だ。
貴族令嬢をしている時、お茶会などで色んな貴族のお屋敷に行ったけど、華美にし過ぎて下品に見えるお家もあったりする。
金をかけまくれば良いってもんでもないんだよね。
そういうのはしっかり観察されていて話の種にされるのが貴族社会の怖いところだ。
案内されたお部屋には、金髪碧眼のイケメンな三十代ぐらいの男性と金髪に緑の瞳をした美人な女性。
そして、小学校中学年ぐらいの男の子が二人と三、四歳ぐらいの女の子が一人いた。
「大伯父上、お久しぶりです」
「半年ぶりぐらいか? みんな元気そうで安心したぞ」
「大伯父上!」
バルツさんと金髪碧眼の男性が楽しそうに話しているところに、一番大きな男の子が駆け寄る。
バルツさんは軽々とその子を抱き上げた。
「おお、フィリップ。元気にしてたか?」
「はい!」
「ユリアンもおいで」
もう一人の男の子もバルツさんの方に向かう。
バルツさんは空いている片腕でユリアンと呼んだ男の子も抱き上げた。
流石、バルツさん。二人を抱っこしても楽勝なのか。
末っ子らしき女の子は、美人なお母さんに抱っこされながらリリーの方をずっと見ていた。
リリーもそれに気がついてニッコリ笑いかける。
その女の子もそれを見てニッコリ笑ってくれた。
リリー、ナイス判断!
「そろそろ、リア達を紹介しないとな。手紙で伝えていた子達だ」
バルツさんの言葉でここにいる全員の視線が私達に集まる。
ううー、緊張するよー。
「お初にお目にかかります。シュバルツ様にお世話になっている冒険者のリアと申します。ここにいるのは弟のアールと人化出来る従魔のリリーです。よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします」
「よろしくおねがいいたしますっ」
私と一緒にアーテルとリリーの二人もお辞儀をする。
「私はヴァルメリオ公爵家当主のルーファス・ヴァルメリオ。君達の事は大伯父上からとっても優秀な冒険者だと聞いているよ。アンビティオ魔法学院への編入手続きはしておいたから安心してね。これからよろしく」
ルーファス様にお礼を言うとニッコリと笑顔を返された。
次に奥様から声をかけられる。
「ルーファスの妻のイリーナよ。もしよければ子供達と仲良くしてくれると嬉しいわ。長男のフィリップはアンビティオ魔法学院に通っているし、ユリアンは今年入学したばかりなの。よろしくね」
「はい、よろしくお願いいたします」
イリーナ様も優しそうな方でよかった。
バルツさんに抱き上げられていた男の子二人は下ろされていて、イリーナ様と挨拶を交わした後に私達の前に来た。
「俺がフィリップだ! 大伯父上に気に入られているからってただの冒険者が調子に乗るなよ!」
「こら、フィリップ。リアさん、すまないね」
「いえ、大丈夫ですからお気になさらず」
ルーファス様が注意したけどフィリップ様はぷいっと顔を逸らした。
十歳ぐらいだし気持ちは分かる。
尊敬している大好きな人を急に出てきた人物に取られた感じがしたら嫌だよね。
バルツさんを取ったわけじゃないけど、気にかけてもらっている自覚はあるからなぁ。
一応、精神年齢は大人なので怒る気もないし、イラッともしなかった。
「僕はユリアン、母上と一緒にいるのが妹のマルティナだよ。よろしく。兄さんが失礼な事を言ってごめんね」
「本当に気にしていないので大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
弟のユリアン様が小声で謝ったので直ぐに大丈夫だと伝える。
ユリアン様は八歳ぐらいだろうに大人びてるな。
私は本当に気にしてないんだけど。
そう思っていると、ユリアン様の視線がアーテルとリリーの方に向かっていたので、そちらを向けば二人してフィリップ様を睨んでいた。
あっ、そういう事か。
二人の頭を撫でて睨んじゃダメだよと小声で伝える。
不服そうな表情を浮かべる二人。
「本当に気にしてないから。ね!」
「……分かった」
「むー」
可愛いけども! 場所が場所だからね!
幸い公爵夫妻は微笑ましそうに見てくれているし、バルツさんは爆笑しているけど。
いや、バルツさんはおかしいな?
なんでそんなに爆笑しているんですか!?
「くくっ、相変わらず二人はリアが大好きなんだなと思ってな」
「えっ、今声に出てました?」
「いや、顔に書いてあった」
またかよ!
どんだけ私は顔に出るんだ?
恥ずかしいわ!
「夕食を用意しているからみんなで食べましょう」
「おっ、ありがとな」
「ありがとうございます」
こうして私達は公爵家の方達と一緒に夕食をとり、交流を深める事になった。




