魔物の卵の孵化(アール編)
空き地に着いたところで、魔物の卵を普通のバッグから取り出して一つをアーテルに渡す。
魔物の卵は魔力を注いで契約魔法をかけないと生まれない。
なので、まずは卵に魔力を注ぐところからなんだけど、気になる事があったのでアスティさんに質問する。
「アスティさん、魔物の卵に注ぐ魔力って普通の魔力じゃないとダメなんですか?」
「うん? 普通の魔力って?」
「えっと、魔道具とかに注ぐ時と同じ純粋な魔力という意味です。魔力って属性に変換して出す事も出来るじゃないですか」
「ああ、そういう事か。そうだね、普通の魔力を注ぐのが当たり前だけどダメって事はないんじゃないかなー?」
ふむふむ、ダメって訳じゃないなら試してみてもいいかな?
私の光属性のレベルは上限だし、その光属性に変換した魔力を注いだらどうなるのか気になるんだよね。
「姉さまー! もうぼく魔力を注いでもいい?」
「あっ、いいよ。待たせてごめんね」
「気にしないで! じゃあ、注ぐね!」
魔物の卵に注ぐ魔力の量は入り切らなくなるまでらしい。
魔物の卵によって容量に差があり、魔力が入れば入るほどランクや希少性の高い魔物が生まれると聞いた。
アーテルが魔力を注ぐのを見ていると、思った以上に沢山の魔力が入っている。
「これは期待できそうだねー」
「この感じは容量が大きめなんでしょうか?」
「うん。ぐんぐん入っていってるから結構大きいと思うよ」
アスティさんと話している間に注ぎ終わったらしく、こちらをキラキラした瞳で見ているアーテル。
私の契約魔法の出番ですね。
卵を持っているアーテルと卵を指定して魔法をかける。
『コントラクト』
すると、卵が輝き始めた。
「アールくん、卵を地面に置いて離れて。生まれる魔物によってはアールくんよりも大きかったりして危ないからねー」
「はい!」
アーテルが魔物の卵を地面において離れる。
私もアーテルの隣まで下がって卵を見守る事にした。
魔物の卵から生まれた魔物は生まれた時から成体なんだ。
そのため身体が大きい魔物も多く、過去の事例では魔物の卵を持ったまま孵化させてしまい、生まれた魔物に押し潰されて怪我をした人もいるらしい。
魔物の卵はダンジョン産のアイテムなので、不思議で面白いところが多いよね。
こう、なんて言うか、流石異世界って感じがする。
生まれた時から成体でランクや希少性の高い魔物であれば知能がとても高く、意思疎通もしやすいんだって。
気になって過去の文献を調べたら、魔物の卵から生まれた人化スキルを持った魔物から話を聞いて分かった事らしい。
魔物の卵から生まれた魔物は生まれた時点で高い思考能力を持ち、ダンジョンから授けられた知識もあるそうだ。
こんなにすごい魔物の卵だけど、従魔にするには契約魔法が必要だし、当たり外れもあるので従魔術師以外の冒険者からの人気は低い。
ただ、貴族や商人の人気は高いのでお金になるという意味では冒険者の間でも人気だったりする。
しかし、魔物の卵はマジックバッグに入らないので、結局持ち帰れる冒険者は限られちゃうんだよね。
大きな荷物を持っていても支障がないぐらい強い、とかじゃないと無理だったり。
魔物の卵が出てくるのはダンジョンの奥がほとんどだし。
そんな事を考えている間に、アーテルの魔物の卵はどんどん輝きを増していた。
というか、よく見ると魔物の卵が大きくなっているような?
いや、ような? じゃなくて確実に大きくなってる!
魔力を注ぐ前はダチョウの卵を一回りか二回り程度大きくした大きさだったのに、今は某モンスターをハントするゲームで狩人が抱えて運ぶ卵のサイズだ。
「姉さま、すごいねぇ!」
「ほんと、すごいね。魔物の卵は面白いな」
「初めて見ると驚くよねー。俺も前に見た時卵の大きさが変わるの?! って驚いたの覚えてるよ」
やっぱり、みんな驚くんだね。
リリーやネーロも興味深そうに見守る中、今までで一番強い光を魔物の卵が放った。
光が消えたところで目を開けると、そこには普通の烏より一回りか二回りほど大きな烏の魔物がいた。
烏の魔物はアーテルを見ると、直ぐにその足元まで駆け寄る。
「カァ、カァー」
「わぁ! かっこいいね!」
「そうだね。なんて魔物だろう?」
「多分、シャドウレイヴンじゃないかなー?」
シャドウレイヴンか。
よし、鑑定してみよう。
《シャドウレイヴン》
真っ黒な身体の烏型の魔物。
影魔法を使う事が出来る。
Bランクだが個体差が大きく、個体によってはAランク相当。
魔物の中でもレアであり、従魔としてとても優秀。
わお、すごく強くて有能そうな魔物だ!
アーテルはやっぱり運を持ってる気がする。
あと、最近分かった事なんだけど鑑定魔法は鑑定する時に意識した部分が詳しく説明されるみたい。
今回だと、従魔としての能力とか評価みたいな事を知りたいと思ったから最後の一文が出たんだと思う。
「アスティさんの言った通りシャドウレイヴンでした」
「おっ、当たってたんだ。あれ? リアちゃんって鑑定魔法スキル持ってたっけ?」
あっ、言ってないの忘れてた。
まぁ、鑑定魔法よりもすごくレアな時空間魔法スキルを持ってる事は前に言っちゃってるし知られても良いよね。
「はい。色々あって隠していたって事自体忘れてました」
「あー、リアちゃんは優秀過ぎるからねー。自衛は大切だから気にしなくていいよ。でも、忘れてたってところはリアちゃんらしくていいね。くくっ」
隠していた事を肯定してくれるのは嬉しいけど、その後の言葉は褒めているのか貶しているのか分かりません!
というかアスティさんめっちゃ笑ってるし!
私とアスティさんが話している間、アーテルはリリーと一緒にシャドウレイヴンを撫でていた。
「アール、名前をつけてあげてね」
「あっ! そうだった! どんな名前がいいかなぁ?」




