雪月亭を出てバルツさんのお家へ
バルツさんの子飼いの冒険者になる事を決めてから数時間後。
途中、昼休憩を挟んだりしつつも夕方には領都に着いた。
同じ街道を通ったのに行きよりも帰りの方が速かったな。
そういえば、オーアスへ向かう時は魔物の討伐や街道周辺の調査もあったから時間がかかったのね。
領都の門でバルツさん達とは別れ、雪月亭に向かう。
宿に入ると受付にいた女将のベランカさんに笑顔で迎えられた。
「おかえり。お疲れ様」
「ただいま帰りました」
新しく加わった仲間のネーロを紹介する。
ベランカさんに「また、すごい子を仲間にしたんだね。人型の精霊に会うのなんて初めてだよ」と言われた。
やっぱり、珍しい事なんですね。
ネーロは、隠しているけど人型の精霊よりももっと珍しい先祖返りの精霊であるアーテルと先に会っているのに、と思ったのかずっとツボって笑っている。
いや、分かるけど! どうしたのかと思われるから抑えて!
なんとも言えないカオスな状況にいたたまれなくなって、軽く挨拶をしてからその場を後にする。
泊まっていた部屋をそのままにしてくれているので、その部屋で休憩する事にした。
マジックドロワーやマジックバッグがあるから、泊まっている部屋にほとんど物は置いてない。
リリーが仲間に加わった時にベッドが三つある部屋に変えてもらっていたけど、リリーはアーテルと一緒に寝るので使ってなかった。
でも、ネーロが増えたからちょうど良かったな。
少しだけ休んでから夕食を食べる為に食堂に行く。
バルツさんから明日の昼頃に迎えを出すと言われたので、その事もベランカさん達に話さないとね。
夕食はオーク肉のステーキとポトフみたいな野菜スープ、新鮮な野菜のサラダにロールパンだった。
そういえば、スープやパンは結構充実してる。
カレーは無いけどシチューはあるし、ポタージュ系のスープもあった。
食パンもあるし、バゲットやクロワッサンとかもある。
なのに、マヨネーズは無かった。
進んでる部分とそうでもない部分の違いがわからないけど、ゲームを元にした魔法が存在する世界なんだし、そんなものだと思っておこう。
こういうのって、考え続けると宇宙の事を考えてる時みたいになりそうじゃない?
宇宙に果てはあるのかないのか? あるとするならその次は? みたいなやつ。
パンとかは門外漢だし、無いよりある方が助かるんだから良かったと思うぐらいでいいよね。
余談は置いといて、食べ終わったところでベランカさんに話しかける。
「どうしたんだい?」
「実は……」
バルツさんのところでお世話になる事、そのため明日の昼には雪月亭を出る事を伝えた。
「そうなの。バルツ様の所なら安心だけど、寂しくなるわね」
「ベランカさんとサルットさんにはすごくお世話になりました。お二人の事が大好きだし、雪月亭のご飯も大好きなのでまた食べに来ますね! 本当にありがとうございました」
「こちらこそ、色んなレシピを教えてくれてありがとね。リアちゃんのおかげでウチはとても繁盛してるんだ。リアちゃん達なら大歓迎だから、何時でも遠慮しないでおいでよ!」
「はい!」
調理場にいたご主人のサルットさんも「そうだぞ!」と言ってくれた。
選んだ宿がここで良かったとしみじみ思う。
ベランカさん達と楽しく談笑してから、自分達の部屋に戻りベッドに寝転ぶ。
色々と気にしなきゃいけない事もあるけど今の生活が結構楽しい。
もちろん、ヴァイスや家の事も心配だけど。
あの時の選択は間違っていなかったと思える。
明日の事もあるんだし、お風呂に入ってから寝よっか。
雪月亭は追加でお金を払えばお風呂に入れる。
この世界のお風呂は、魔道具が普及しているおかげでそこまで珍しい物じゃない。
一般家庭にも浴室はあるし、そこの浴槽やシャワーに使われるランクの魔石などは簡単に手に出来る値段で流通しているから。
なので、雪月亭の追加料金もそんなに高くないんだよね。
お風呂が一般的に普及している世界で良かった!
翌朝。
目が覚めたのでカーテンを開けて伸びをする。
「んー! よく寝た」
今日から色々と生活が変わるわけだし、頑張らないとね!
朝食を食堂で食べて部屋の片付けをする。
まぁ、そこまでする事は無いけど使う前と同じにしたくなるよね。
オマケとばかりに浄化魔法もかけておいた。
「よし! 完璧!」
そう思った所でベランカさんに呼ばれる。
「リアちゃん、お迎えが来てるよ」
「はーい」
部屋を出て宿の受付に向かえばアスティさんがいた。
「おはようございます」
「おはよー。お迎えです」
「ありがとうございます」
荷物はマジックバッグと魔物の卵を入れているバッグだけ。
他の物はマジックドロワーやマジックバッグの中だ。
準備という程はないので直ぐに終わる。
ベランカさんとサルットさんにしっかりお礼と挨拶をして馬車に乗り込んだ。
バルツさんの領主邸は領都の北側にある。
領都の北はウーアシュプルング大樹海側なので、直ぐに魔物などの異常を察せられるようにしているんだろう。
馬車に乗って数分で目的地に着いた。
外から見ても広い敷地に大きなお屋敷だし、離れみたいなのもいくつかある。
でも、外観は落ち着いた雰囲気だ。
これでも公爵家令嬢なので色んな貴族の邸宅を見てる。
その中でも、バルツさんの邸宅は質実剛健って感じだね。
ちなみに、アウイナイト公爵家はそれなりに豪華だった。
下品な派手さは無いけど、お金はそれなりにかけてるみたいな感じ。
まぁ、公爵家なのに地味過ぎるとそれはそれで困るんだと思う。
世間体とか色々ね。
「まずはバルツ様のところに行こっか」
「はい」
拙作を読んでくださってありがとうございます。
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