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魅力的な提案と決断

「もう一つの選択肢ってなんですか?」

「簡単に言えば俺の子飼いの冒険者になる事だな」


 子飼いの冒険者か……。

 子飼いの意味は知っている。

 商人や職人の家で子供の時から奉公や弟子として育てることや、その育てられた人。

 初歩の段階から大切に育てること。またはその育てられた人。

 という意味だ。

 あとは、鳥獣を子の時から飼い育てることって意味もあるけど今回の場合は違う。


「子飼いと言ってもお前さん達に何かを強制するつもりは無い。何かあった時に力を借りる事はあるかもしれんが」

「バルツさんは察してると思いますが、私達は素性など諸々を隠していたり誤魔化しています。そんな私達を子飼いの冒険者にしてもいいんですか?」

「まぁ、何かあるんだろうってことは察している。だが、それを無理に聞き出すつもりも無いし、不安も感じてないな」


 その言葉を嬉しく思いつつ首を傾げれば詳しく説明された。

 バルツさん曰く、私達ほどの能力があれば大体の事はどうにでもなる。

 しかし、私達は自分の力を正しく使っている上にそういう考え自体がほぼ無いと。

 そんな私達に不安を抱く必要も無ければ、子飼いの冒険者にする事を否定する理由も無いらしい。

 その後に付け足して「リアは無闇に人を傷つけることを絶対に躊躇うだろう? そして、それが罪のない相手であればその選択肢自体無いに等しい。そんなリア達が人の道を外れるような事をするとは思えないし、した事があるようにも思えないんでな」と笑顔で言われた。

 私の事をよく知ってるな。

 実際、この前の件で初めて人を殺めたし、人に対して明確に傷つける意志を持ったのも初めてだった。

 だから、理由なく人を傷つける気も無いし、もし理由があっても最後の最後まで他の手段を探すと思う。

 ついでに「もし、リアが悪い事だと思っている事をしてしまったら思いっきり顔に出てそれで分かるだろうしな」とまで言われた。

 いや、合ってるけど! 絶対、落ち込むし顔に出るだろうけど!

 その納得のされ方はなんだかなぁ……。



「でだ、何より俺が後ろ盾としているなら厄介な事に巻き込まれる率は減るだろう。リア達がどこの貴族の後ろ盾も無しに活動を続ければ、確実に貴族などからの勧誘やらが頻繁に来るぞ」

「確実に……」

「それだけ優秀ということだ。俺の子飼いになれば勧誘以外の厄介事も多少は減らせるだろうし、何よりただの知り合いじゃあ手出し出来んからな」


 それはそうだ。

 平民相手だと無理を押し通したりする貴族もいるけど、貴族相手の場合はそんな事そう簡単には出来ない。

 そして、それは後ろ盾に貴族がいる平民相手の場合も同じだ。

 まぁ、後ろ盾があるから絶対に大丈夫って訳でもないんだけどね。

 侯爵家の後ろ盾と男爵家の後ろ盾じゃ色々と変わってくるだろうし、身分を笠に着た横暴な貴族はどこにでもいるからなぁ。

 それでもバルツさんの提案は正しいし、とてもありがたい。

 それにバルツさんはヴァルメリオ辺境領の領主で辺境伯だ。

 伯爵家は上位貴族に入るし、その中でも辺境伯の影響力は大きいと言える。

 そう考えるとすごく安心できる後ろ盾なんだよね。

 私達の本来の身分がセレスタイト王国アウイナイト公爵家の令嬢と令息だとしても、今はネフライト王国を拠点に活動するただのBランク冒険者だし。


「それに子飼いの冒険者になるなら、ヴァルメリオ辺境領の領都にある俺の邸宅の部屋も貸せる。そして、ヴァルメリオ公爵領の領都にある別邸も貸せるぞ? 結構、魅力的だろう?」

「それはすごく魅力的ですね」

「もちろん、うちで働いている者達は当たり前だが口が堅い。リアが時空間魔法を使える事も、それを使って行き来してもその情報が漏れることは無い」


 めちゃくちゃ魅力的な提案をされた。

 そうなんだよねぇ。

 辺境伯の邸宅なら警備も手厚いだろうし、使用人の人達も口が堅い。

 しかも、ヴァルメリオ公爵領の領都にある別邸の部屋まで貸して貰えたらすごく助かるよね。

 私が悩んでいると、ネーロがふわふわと飛んでこちらの馬車の中にやって来た。


「あら、そんなに悩む必要ないでしょう? とてもいい話だと思うけれど」

「それはそうなんだけど……」

「一体、何を悩んでいるの?」


 ネーロはどうやって私達の話を聞いていたんだろう?

 ネーロの言う通り悩んでいるのは事実だ。

 もしも、私達の色々があった時に巻き込みたくないなぁと思って。

 今までお世話になっているからこそ迷惑をかけたくない。


「さっきの素性とかの話に関わってくるんですが、その諸々で迷惑をかける事になったら嫌だなと思ってます」

「なんだ、そんなことか」

「えっ」

「それも承知の上で提案してるぞ? それにリアだってアスティの事を本人から聞いたんだろ?」


 その言葉に頷く。

 アスティさんが過去に色々とあった事はオーアスに向かう道中の馬車で聞いたけど。

 それと一体何の関係が?


「アスティのような過去があっても俺は部下にしてるんだからな。面倒事の一つや二つドンと来いだ」


 バルツさんはそう言って私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

 懐が深いというか包容力があり過ぎる。

 かっこ良すぎですよ。


「じゃあ、決まりね。ふふ、アールやリリーも喜んでいたし良かったじゃない!」

「二人も聞いてたの?」

「ええ、私がちょっと魔法でね」


 ネーロさん、能力高すぎですよ!

 アーテルとリリーも賛成してるのか。

 実際、とても助かる魅力的な提案だもんね。

 よし! 腹を括るか!


「バルツさん」

「決めたのか?」

「はい。これからよろしくお願いします」

「よしきた! よろしくな」


 またバルツさんにわしゃわしゃと頭を撫でられる。

 初めてこの辺境領に来た時はこんな事になるなんて思ってなかった。

 でも、ここまで信頼出来る相手なんだから良いよね。


「領都に着いたら宿の荷物をまとめて待ってろ。クラルテかアスティに迎えに行かせるから」

「ありがとうございます」

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