種族特性と相談
ネーロが仲間に加わってからちょうど一週間。
ついにダンジョン都市オーアスから領都に帰る日になった。
この一週間、闇ギルドの件でクラルテさん達に色々と聞かれた事に答えたり、暇な時間はオーアに行ってダンジョン探索したり、冒険者ギルドの依頼をこなしたりしていた。
ネーロが仲間に加わった事をバルツさん達に報告したら、苦笑しながら「やっぱり、リア達は規格外だな」と言われるなんて事も。
どういう意味なのか詳しく聞いてみると。
「リアは精霊を仲間にしている冒険者もいると聞いたから不思議なんだろうが、上位精霊を仲間にしている冒険者なんてまずいないからな」
「そうですね。いたとしても百年以上生きているエルフや魔族がいるパーティーぐらいでしょう。普通は中位精霊を仲間に出来ているだけで、一目置かれますからね」
バルツさんとクラルテさんの言葉をウンウンと頷きながら聞いているネーロ。
いや、知っていたのなら教えてよ!
と伝えれば。
「知っていたら私の事を仲間にしなかったの?」
「それは、したけど」
「なら、別に問題ないじゃない」
と言われてしまった。
あのですね。心構えというか色々とあるんですよ、ネーロさん。
そう言うと笑いながら。
「私にとって楽しい方を選ぶのは当然よね」
というお答えを頂きました。
クール系美少女だと思っていたあの頃を返して欲しい。
この子、絶対、愉快犯タイプだ!
人族じゃない、長寿の種族特有の楽しい事を選ぶ系の人だぁ! (人じゃないけど)
というやり取りがあった。
ちなみに、精霊には位があって下位精霊、中位精霊、上位精霊、大精霊、精霊王となっている。
精霊王は各基礎属性全てにいて、特殊属性に関してはいるかどうか分かっていない。
というか精霊王や大精霊は、精霊界やこちらの世界の秘境などにいる事がほとんどなので、人族はそこまで詳しく知らないんだ。
エルフや魔族などの一部の種族はもっと詳しく知っているんだろうけど、その情報が回ってくる事はそう無いし。
あと一つ、新発見があった。
精霊であるネーロは空を飛べるんだ!
ネーロ曰く、飛ぶというより浮遊らしいけどふわふわと浮いて飛び回ることが出来る。
見せてもらった時はものすごくテンションが上がっちゃったよね!
この能力はスキルとかじゃなくて種族特性で、アーテルも精霊だから練習すれば出来るらしい。
同じ精霊のネーロがいてくれるおかげで、アーテルの出来ること出来ないことなどが分かるようになってすごく助かる。
という私の言葉を聞いて。
「一つ注意しておくけど、先祖返りの精霊なんてまずいないし、普通の精霊と違う可能性もあるから全て分かる訳じゃないのよ」
とネーロに言われた。
そりゃそうか。
アーテルは精霊だけど人族の性質も持ち合わせているんじゃないか? という話だ。
普通、精霊は生まれた時から浮遊できるしスピリット体という霊体のような状態にもなれる。
けれど、人族の間から精霊として生まれたアーテルはそれが出来ない。
ネーロは「教えれば出来るようになるだろうけど」と言っていたのでそこは一安心だけど。
「……リア、そろそろ出発だよ」
「っあ、ありがとセシリオ! 考え事してた」
「……ぼーっとしてたからそうじゃないかな? って思ってた。……行こう」
「うん」
領都にはセシリオも行く事になった。
セシリオのお父さんがいるアンバー帝国に行くのは危ないし、残念ながらセシリオのお父さんを助けて連れてくる事も出来ない。
だから、セシリオは領都で冒険者として働く事を決めたようだ。
いつかお父さんに会いに行けるよう頑張ると言っていた。
私達にも色々と事情があるけど、手伝えそうだったら手伝いたいよね。
領都へ帰る道中、私はバルツさんに相談したい事があったのでバルツさんが乗る馬車に乗せてもらった。
「で、どうしたんだ? わざわざこっちに乗ったって事は何かあるんだろう?」
「はい。相談があるんです」
相変わらず察しがいいな。
バルツさんは楽しそうな表情で私に話の続きを促す。
「アールを学校に通わせたいんです。けれど、どうすればいいか分からなくて」
「どこの学校に通わせたいんだ? それによって変わってくるぞ」
「アンビティオ魔法学院です」
私がそう答えるとバルツさんは考え込み始めた。
アンビティオ魔法学院はソッレルティア魔法学院の元になった学校。
ソッレルティア魔法学院と同じく周辺諸国の中ですごく有名だ。
むしろ、ソッレルティア魔法学院の元になっただけあってアンビティオ魔法学院の方が進んでいる部分もあるらしい。
ソッレルティア魔法学院にも編入制度はあったからこちらにもあると思うんだけど、どうなんだろう。
この辺境領を活動拠点に選んだのは、アンビティオ魔法学院がヴァルメリオ辺境領の南にあるヴァルメリオ公爵領にあるというのも理由の一つだった。
学院に通えた事は私にとっていい経験になったし、だからこそアーテルを学校に通わせたかった。
私が教えようと思えばソッレルティア魔法学院の高等部で習う事までほぼ教えれるだろう。
けれど、本職ではないし友達を作れたりするあの環境は大切だと思うんだ。
「まず、先に聞くがリア達はこのネフライト王国を活動拠点にするつもりなんだな?」
「そのつもりです」
「リアはアールをアンビティオ魔法学院の寮に入れるつもりなのか?」
「いえ、出来ればヴァルメリオ公爵領の領都で家を借りるか買おうと思っています」
「じゃあ、拠点はヴァルメリオ公爵領の領都にするのか?」
「そこに関しては悩んでいる最中ですね」
どちらかといえばヴァルメリオ辺境領の方が冒険者活動には向いている。
ダンジョン都市オーアスがあるし、何よりウーアシュプルング大樹海が近い。
ぶっちゃけ時空間魔法を使えば多少距離があってもどうにかなる。
ヴァルメリオ公爵領の領都に家を借りて、そこに転移するようにすれば行き来も簡単だと思う。
バルツさんもそこに思い至ったんだろう。
「悩んでいるという事はこの辺境領を拠点にしたいのか?」
と聞かれた。
素直に頷くとバルツさんはまた考え込みだす。
「そのつもりなら宿暮らしをやめて辺境領の領都にも家を持つべきだな。時空間魔法を使って通うつもりなんだろう?」
「はい」
「いつかはバレるだろうが、極力隠したいのなら不審がられる可能性のある宿暮らしよりも家がある方がいい」
そうだよね。
どうしようかな?
ウーアシュプルング大樹海の中にも家があるのに、あと二件も家を増やすのもなぁと思ったり思わなかったり。
「あとは俺からもう一つの選択肢を提案する事もできるが」
バルツさんにそう言われて私は首を傾げた。
もう一つの選択肢?




