彼女の予想外
クラルテさんとの話が終わり、アーテル達を探そうと宿の客室が並ぶ廊下に向かう。
あの子達がいそうな場所は予想出来ているので、最初にその部屋を訪ねることにした。
目的の部屋の前に着いたのでドアをノックする。
すると、直ぐに中からどうぞという返事が聞こえた。
部屋の中に入ると予想通りアーテルとリリーが楽しそうにネーロさんと談笑していた。
「ネーロさん、おはようございます。朝から二人がお邪魔してすみません」
「おはよう。気にしなくていいわよ。思ったより楽しい時間が過ごせたから」
「二人の相手をしてくださってありがとうございます。アールとリリーはもう朝ごはんを食べたの?」
私が聞くと二人は元気よく頷いた。
ネーロさんは二人がお邪魔するのを許してくれているようだし、する事を済ませて来ているのなら注意する必要は無いね。
そんな風に一人で納得しているとネーロさんに話し掛けられた。
「ねぇ」
「はい」
「この子達の自己紹介はあの時にアールから聞いたし、貴方の事も聞いたけれど貴方自身からも聞きたいの。あと、私の事は呼び捨てで構わないし敬語も必要ないわ。精霊の間には敬称をつける習慣なんてほとんど無いの。だからむず痒いのよ」
「分かりました、いや、分かったよ。そういえば、アールが代わりに紹介してくれたからすっかり忘れてた。ごめんなさい」
私が呟くとそこまで気にする必要は無いとネーロに言われた。
さぁて、自己紹介か。
あの時も思ったけど、多分ネーロはアーテルの種族が精霊だという事に気がついている。
ハーフドラゴニュートのセシリオや精霊魔法スキル持ちのエドゥアルドさんが分かるのだから、精霊のネーロが気づかないはずがない。
ただ、あの時の様子を見る限り私達に事情があるということも察していてくれそうだ。
私は部屋の鍵を閉めて防音の結界魔法を張る。
気づかれているのなら隠す意味は無い。
むしろ、事情をきちんと話す方がいいと思ったから。
「私の名前はマグノリア・アウイナイト。けれど、今はただのリアです」
名前を名乗ってから今までの事を全てネーロに話した。
アールと呼んでいるアーテルの事、私達が先祖返りな事もね。
「そうだろうと予想はしていたけれど、本当に二人とも先祖返りなのね。人族のややこしい事情なんて、精霊の私からすればよく分からないし面倒としか思えないけれど、そこから逃げるという選択肢は正しいと思うわ」
まさか、逃げた事を肯定されるとは思っていなかった。
「これでも私は七百年くらい生きているの。けれど、そんな私でも、あのように人族に捕まり利用されたりする事があるのよ。いくら貴方達が強くて能力が高くても予想外は何時でも起きうる。でも、生きてさえいればどうにでもなるわ」
「ネーロ、ありがとう」
「完璧などそうそう無いのだから貴方なりに頑張った結果を誇りなさい」
ネーロの力強い言葉に救われた。
ずっと悩んでいた訳じゃないけど、気にはしていたから。
ネーロもバルツさんもセシリオも私が欲しい言葉をくれる。
他の人達だって心配してくれて気遣ってくれる。
私達は本当に優しくていい人達に囲まれているなとしみじみ思った。
そんな事を考えていると突然ネーロが呟いた。
「決めた」
「どうしたの?」
「私、貴方達について行くわ」
「えっ」
ついて行くってパーティーに加わるとか仲間になるって意味?
私がネーロにそう聞くと「ええ、その通りよ」という答えが返ってきた。
すごく突然で驚いているんだけど、どうして急にそうなった?
「予想外って顔ね。ほら、予想外は何時でも起きうるでしょう?」
「いや、今の予想外はネーロが意図的に起こした予想外だから! そんな胸を張って言わないで!」
私の返しを聞いてめちゃくちゃ楽しそうに笑うネーロ。
クール系美少女が笑っている姿はすごく可愛いけれども説明が欲しいです!
「ふふ、ふふふっ。だめ、おさまらないわ」
まだまだネーロの笑いは止まらないようです。
私達の話を聞いていた、アーテルとリリーはキラキラした瞳でネーロを見つめていた。
そうだね。仲良くなったネーロが一緒に来てくれるかもしれないってなるとそうなるよね。
知ってた!
「ふぅー。やっとおさまったわ。さて、話を戻しましょうか。で、どう? 私がついて行くのはダメかしら?」
クール系美少女が上目遣いで「ダメかしら?」って聞いてくるのはズルくない?
驚いただけでダメだと言うつもりは無かったけどさ、破壊力がすごいのよ!
「いいよ。でも、ネーロこそいいの? 故郷とかさ、帰りたい場所があったりするんじゃないの?」
「そうね。無いわけじゃないけれど急ぐ必要は無いの。精霊の一生は長いのだから好きな事をしたい時にするものなのよ」
流石、めちゃくちゃ長寿の種族は言う事が違いますね。
そこ! エルフも長寿だろ? と思ったそこの貴方! 正解です!
ただし、前世の感覚が残っているので自分が長寿の種族だという認識は薄いんです!
私は誰につっこんでるんだ? 落ち着け。
一度、深呼吸をして落ち着く。
「そっか。
事情を話したから分かっていると思うけど、面倒な事に巻き込まれる可能性もある。それでもいいの?」
「分かっているわ。というかだからこそよ。貴方達、能力が高くて強いのになんだか危なっかしいのよね」
「うん、否定できない。じゃあ、ネーロ。これからよろしくお願いします」
「ええ、よろしく」
ネーロがそう返した瞬間にアーテルとリリーの二人から歓声が上がった。
二人も嬉しそうによろしくと、ネーロに挨拶をして盛り上がっている。
こうして私達に新しい仲間が加わった。




