覚悟と精霊解放
何とか咄嗟に発動した魔法で相手の闇属性の魔法を消す事が出来た。
悔しそうな表情を浮かべる敵。
「こ、こうなれば。全てを巻き込んで消し去ってやる!」
その言葉を発した瞬間から桁違いの魔力が精霊を閉じ込めている六角柱に入っていく。
男は自身が苦しみながらも魔力を制御して強力な魔法を発動させようとしているのが分かった。
「止めるぞ!」
バルツさんのかけ声で色々な攻撃が放たれたけど全て黒いバリアに吸い込まれた。
どうしよう? どうすればいい?
このままじゃ、みんなが、オーアス内の沢山の人が巻き込まれてしまう。
攻撃が通らないのはどうして?
精霊の力を利用した魔法だから相対する属性じゃない魔法だと効果が薄いから?
それなら光属性の魔法を使えば効果があるかもしれない。
長いようで短い時間の中で頭をフル回転させて考えた。
この一瞬で覚悟を決めて魔法を使う。
『ホーリーアロー!』
私から放たれた光属性の矢はバリアを突き抜けて、男の胸を貫いた。
男が崩れ落ちると共に六角柱に注がれていた魔力が霧散していく。
私は力が抜けてその場に座り込んでしまった。
「姉さま! 大丈夫?!」
「おねーちゃん!」
「リア!」
私のそばにアーテルとリリー、そしてバルツさんが駆け寄ってくれた。
「大丈夫です。少し力が抜けちゃって。それよりも精霊を助けましょう」
何とか力を振り絞って立ち上がり六角柱に近づく。
「無理をするな。リアのお陰で俺達は助かったんだ。少し休んでいいんだぞ」
「でも、彼女を早く解放してあげないと。私が役に立つとは限りませんがそれでもじっとしていられませんから」
そう言うと渋々頷いてくれた。
私は六角柱とその下にある魔法陣を鑑定して、内容を読み解いていく。
闇属性の精霊だから光属性で封じ込めているのか。
魔法陣なら術者が持っていない属性でも魔宝石などの素材でどうにかなる。
鑑定で調べたところ強い光属性を持った魔宝石を素材として使っているみたい。
本来、魔石や魔宝石は属性関係なく電池のように使えるんだけど、時折強い属性を持った物が採取できたりする。
強い属性を持った魔石や魔宝石はその属性に合った武器や魔道具に使われるんだ。
今回はそういう魔宝石が悪用されたんだんだろう。
魔法陣の仕組みが分かったところで、闇属性の魔力を練って書き換える準備をする。
ただ、私の闇属性レベルは低いからどうにかできるか微妙なところなんだよね。
なんて事を考えた後、闇属性の魔力を注ぎながら魔法陣の効果を消そうとしたけど思った以上に反発する力が強かった。
「っ、私の属性レベルじゃ無理なのか」
「リア、どうした?」
「魔法陣の仕組みは分かったのですが、私は闇属性のレベルが低いので上手く打ち消せなくて」
「それなら俺が変わろうか?」
そうバルツさんが言った瞬間に六角柱を心配そうに見ていたアーテルが駆け寄ってきた。
「姉さま、バルツさん、待って! ぼくがやる!」
「アール、そんなに簡単じゃないよ?」
「でも、姉さまはやり方をぼくに教えてくれるでしょ?」
「もちろんそれは教えるけど。急にどうしたの?」
「あの子を助けたいんだ。ずっと苦しいって声が聞こえてるから」
そうか。同じ精霊でその上、同じ属性ならそういう事もあるんだね。
実際、アーテルの闇属性のレベルはとても高いし飲み込みも早いから教えながらでも出来ると思う。
私はアーテルに魔力の注ぎ方、魔法陣の打ち消し方を教えて一緒に魔法陣を壊す事にした。
「よし、やるよ」
「うん!」
「無理するなよ」
バルツさんの言葉に私とアーテルは声を揃えて返事をする。
私はアーテルと魔力を合わせながら注ぎ込んで魔法陣の効果を消していく。
効果が消えていくと同時に私は魔法陣を書き換えて魔法陣自体を無効化した。
「ふぅ。これで大丈夫。後はこの石を壊すだけです」
「どうやって壊すんだ?」
「精霊の力が戻れば彼女自身で壊せると思うんですけど」
「大丈夫だよ! ぼくの力を分けてあげるから!」
アーテルは六角柱に駆け寄り魔力を注ぎ始めた。
種族が精霊のアーテルの魔力なら彼女にも馴染みやすい。
まぁ、人から生まれた精霊だから多分普通の精霊と違う所もあるっぽいけど、感覚で正解を出すアーテルが大丈夫だと言うなら大丈夫なんだと思う。
実際、魔力を注がれている彼女の表情はさっきより穏やかで回復しているように見えた。
「もう君に意地悪をする人はいないから出てきても大丈夫だよ」
ピシッ、ピシッ!
バリバリと音を立てて六角柱が壊れ崩れていく。
「私を助けてくれたのは貴方?」
黒髪に濃い紫色の瞳を持つ彼女はアーテルを見ながらそう言った。
「ぼくだけじゃないよ。姉さまやみんなで助けに来たんだ」
「そう。人族なんて信用ならないと思っていたけどまともな者もいるのね。助けてくれてありがとう」
「私の領地でこのようなことが起きてしまい申し訳ない」
という謝罪の言葉と共にバルツさんが頭を下げた。
「貴方は?」
「このオーアスを含むヴァルメリオ辺境領を治めているシュバルツ・ヴァルメリオだ」
「そう。貴方は人族じゃないわね」
「ああ。魔族のヴァンパイアだ」
「人族じゃなくても人族の国の領主になれるなんて知らなかったわ」
「色々と事情があってな。分かりやすく説明するなら俺が先祖返りだから領主になれている。俺の両親はどちらも人族だ」




