オーアス闇ギルド対策会議 二
「さて、闇ギルドの監視と情報収集はアスティに任せておくとして。トマス、今オーアスに滞在しているAランク冒険者は何人いる?」
「ここにいるダニエルさんとエドゥアルドさん、ボーダルさんとダレルさんの四人ですね」
ありゃ、今回の件の関係者しかいないのか。
「後はクラルテとアスティもAランクだな。被害者であるお前達にこんな事を頼むのははおかしいんだが、出来れば今回の闇ギルドの捕縛に協力して欲しい。もちろん強制ではないが」
「当然、報酬はしっかり出ます。冒険者ギルドに指名依頼として出すので、協力してくださる方は手続きをお願いしますね」
バルツさんとクラルテさんの言葉を聞いて、それぞれがパーティーで相談し始めた。
「ねぇ、姉さま」
「どうしたの?」
「悪い人達を捕まえるのってぼく達も行っていいのかな?」
「えー、いやそれは。危ないし……」
「行きたい! お手伝いしたい!」
まさかアーテルがこんなに行きたがるとは思わなかった。
でも、魔物の討伐とは違うし子供の私達が依頼を受けるのは駄目だと思うんだけどな。
私が考え込んでいるとアーテルはバルツさんに直接聞きに行った。
「バルツさん、ぼくも行きたい! お手伝いしたい!」
「おてつだいしたい!」
あれま、リリーまでついて行ってる……。
「流石に今回は危ないからな……」
「ええ。人しかも闇ギルドが相手ですからね」
バルツさんもクラルテさんも渋い顔だ。
私も良いよとは言えない。
「ただ、リアには手伝って欲しいと考えているんだが。その場合アール達は納得しないよなぁ」
「えっ、私って頭数に入れられてたんですか?」
「ああ。もちろん強制じゃないぞ。だが、リアがいてくれると助かるのは事実だ」
まぁ、Aランク冒険者が複数必要な状況でAランク並の実力があると認識されているBランクに協力して欲しいって考えるのは当たり前だよね。
さて、どうしようかな?
アーテルに渡してる魔道具の効果を考えればそこまで危なくないのは分かってるけど。
でも闇ギルド相手なら場合によっては相手を殺す可能性もあるし、出来ればそんな場面はまだ見せたくないんだよね。
コソッと小声でバルツさんに質問する。
「今回って相手の命を奪う可能性もありますよね?」
「そうだな。一番大切なのはこちら側の安全だ。それを考えればそうなる事もある」
「アールやリリーの安全はどうにかなるんです。それよりもそういう場面を見せたくなくて……」
私の言葉にバルツさんが深々と頷く。
「その気持ちはよく分かる。だが、冒険者として生きていくならいつかはそういう場面に遭遇するぞ。山賊などの犯罪者を相手する依頼も沢山あるし。避けて通る事は出来ないからな」
バルツさんの意見は最もだ。
アーテルやリリーの年齢を考えると見せたくはないけれど、いざ人を相手にする時に躊躇して何も出来なかったら困る。
何より、私達は一度命を狙われている身だ。
生きている事が知られれば二度目や三度目だってありえる。
SランクのバルツさんにAランクの冒険者多数、信頼出来る人達ばかりの状況で自分から対人戦を選んで経験するのはありかもしれない。
命を奪う奪わないは一度置いておくとして。
「そうですね。私達も参加します。色々と不慣れなのでご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします」
そう言ってバルツさん達に頭を下げた。
「リア、ありがとな! もちろん、経験が少ない事はわかった上で依頼してるんだ。全力でフォローするから心配しなくていいぞ」
「ありがとうございます」
私とバルツさんの会話を聞いていたアーテルとリリーはニコニコ笑顔で喜んでいる。
「アール、リリー、大切なお話があるの」
「姉さま、なぁに?」
「なぁにー?」
私はこの依頼の危険度や注意する事を一つ一つ伝えていく。
「魔物を倒すのとは違って相手は私達と同じ人です。魔物よりもずる賢くどんな卑怯な手を使うか分かりません。なので、絶対に一人で行動したり突っ走らない事。バルツさん達や私の言う事を必ず聞くこと。これが約束できないと連れて行けません。宿でお留守番です」
「約束します!」
「やくそくします!」
アーテルもリリーも賢いから注意と約束をしておけばきちんと守ってくれると信じてる。
もちろん、何事にも想定外はあるから念には念を入れるけどね。
私達の会話が聞こえたらしく、先程の自己紹介で知ったオーアス冒険者ギルドサブマスターのマチアスさんに話しかけられた。
「あの、リアさんでしたよね?」
「はい」
「そんな幼いご姉弟を連れて行くつもりなんですか?」
「そうですね。非常識な事は分かっていますが置いていくと隠れてついてきてしまう可能性もありますし、守るとしっかり決めた上で連れて行くのが一番だと思ったんです」
私の言葉を聞いてマチアスさんは思案顔だ。
そこに話し合っていたギルドマスターのトマスさんとバルツさんがやって来た。
「マチアス、心配する気持ちは分かるがリアさん達の強さは俺も保証するぞ。バルツさん達とオーアの最下層まで行ってるし、戦闘でも活躍していたそうだからな」
マチアスさんはトマスさんの言葉で少しは安心してくれたみたいだ。
私の傍に来たバルツさんに小声で話しかけられる。
「時空間魔法は隠しているが、光属性と治癒魔法スキルがある事は隠してないよな?」
「はい。その二つは使う機会が多いので隠してないですね。人族の場合、光属性持ちや治癒魔法スキル持ちが他の属性やスキルに比べて少ない事も知っている上でそうしています」
「そうか。それならその事も追加で伝えていいか?」
私はその問いかけに頷いた。
するとバルツさんはマチアスさん達の方に近づいていく。
「それにリアは貴重な治癒要員だ。そういう理由もあれば納得しやすいだろ?」
「そうですね。バルツ様がリアさんを必要とする理由は分かりました。ですが、リアさんもアールさんもまだ成人していない子供なのでそのあたりはきちんとしてくださいね」
「もちろんだ。連れて行くからには責任を持って守るぞ。まぁ、大人しく守られるほどこの子達は弱くないがな」
少し笑いながらそう言ったバルツさんと目が合う。
「なんせ規格外だからな」って思っている顔をしてますね!
好きで規格外な訳じゃないんです! 自ずとそうなってしまっただけなんです!
何故か心の中でバルツさんに言い訳をしていた。
「クラルテさんが同行するのであればその辺はきちんと気をつけてくださるでしょうし、そこまで心配する必要はありませんでしたね」
最終的にマチアスさんが納得した理由が、バルツさんの言葉というよりクラルテさんの存在って……。
一人で呟きながら納得しているマチアスさんを見てバルツさんが何とも言えない顔をしていた。
その反応はちょっと笑いそうになるなー。
私達の話をエドゥアルドさん達やダニエルさん達も聞いていたらしく、それぞれ今回の作戦への参加を決めていた。
「命の恩人であるリア殿達が参加するというのにAランクパーティーの私達が協力しないというのは申し訳ない。それに連中を野放しにして新たな被害者が出る事を防ぎたいからな」
「俺達もリアちゃんのお陰で助かったし、可愛い後輩が頑張ろうとしてるのにのうのうと安全な依頼をこなすなんてありえないからな」
エドゥアルドさんとダニエルさんはそう言ってくれたんだ。
まさか、私達の参加が決め手になるなんて思ってもいなくて驚いた。
どちらのパーティーも優秀で優しい人達だからとってもありがたいね。
ちなみにセシリオはエドゥアルドさん達のパーティーのメンバーとして加わっている。
私達が作戦に参加するというのを聞いて一番に依頼を受けると言ったのは彼だった。
まだ知り合って間もないけれど、私達を信頼してすごく心配してくれた事がとっても嬉しかった。
作戦に参加するかどうかや今後の作戦の進め方が決まったので一度会議は解散に。
今後はアスティさんの報告を待って作戦を進めていく。
会議に参加した半数以上が同じ宿に泊まっているので、今後は宿の一室を借りてそこで話し合う事に決まった。
こうして私達は大切な会議を終えて宿に帰りゆっくりと休んだ。




