オーアス闇ギルド対策会議 一
「あの、私達の事は秘密にしておいてもらえませんか?」
「もちろんだ。事情がある事は理解した。先祖返りとはいえ、同族や尊い精霊が危うくなるような事を言いふらしたりはしない」
「ありがとうございます」
話が終わったので食堂に戻る。
すると、バルツさんに声をかけられた。
「何かあったのか?」
「いえ、少しお話していただけですよ」
「そうか。悩みがあれば相談に乗るから無理はするなよ」
そう言ってくれたバルツさんにお礼を言ってから席に着く。
いつも通りの美味しい朝食を食べ終わると、クラルテさんが全員に向けて話し始めた。
「本日は休養日とします。それと、予定外の事態が起きている事を知っていると思いますが、その件に関しては他言無用で。また、その件で招集がかかる可能性も頭に入れておいて下さい」
「はい」
全員が声を揃えて返事した後各自解散になった。
さて、私達は今日どうすればいいんだろう。
「リアさん達には、この後の会議に参加してもらいたいのですが大丈夫ですか?」
「会議……。あの、部外者の私達が参加してもいいんでしょうか?」
「そんなに心配しなくて大丈夫だ。今回は関係者だし、無理強いをするつもりはないが協力してもらえると助かる」
「分かりました。私達でお役に立てるなら」
そのままバルツさん達と冒険者ギルドに向かいギルド内の会議室に通される。
そこにはオーアス冒険者ギルドのギルドマスターのトマスさんと知らない男性、今回狙われたダニエルさん達のパーティーと違法な奴隷にされていたエドゥアルドさん達がいた。
「さて、まずはそれぞれ自己紹介からだな」
バルツさんの言葉でそれぞれが自己紹介をしていく。
私達の自己紹介が終わり、トマスさんの自己紹介が終わると知らない男性の番になった。
「オーアス冒険者ギルドのサブマスターをしているマチアス・フェスターです。よろしくお願いします」
ああ、トマスさんの隣に居たのは冒険者ギルドのサブマスターだったんだ。
よし、ちゃんと覚えておこう。
それぞれの自己紹介が終わったところで会議室のドアがノックされた。
「すみません。遅れましたー」
「アスティ、今ぐらいダラっとした喋り方をやめたらどうです?」
「そう言うけどクラルテさんはなんだかんだそんな俺が好きでしょ?」
アスティさんがキリッとしたキメ顔で言い放った。
その返しはめちゃくちゃクラルテさんを煽ってるような……。
私はちょっと笑いそうになったけど。
「クラルテ、こいつがこうなのはいつもの事だから放っておけ。本当にあれな場所はちゃんとしてるしな」
「そうですね。言うのも疲れるので放置しておきましょう。それでアスティ、どうでした?」
クラルテさんに話を振られたアスティさんがいくつかの紙の束を取り出す。
「まぁ、薬師ギルドのギルドマスターと買取担当は真っ黒ですねー。これが盗ってきた諸々です」
今聞こえたとってきたは『取って』じゃなくて『盗って』の方な気がする。
でもまぁ、アスティさんの前職を考えればまだ穏便な方か。
薬師ギルドのギルマスと買取担当の二人はやっぱり真っ黒なんだ。
あの時の嫌悪感や違和感は間違ってなかったな。
「やはり、例の闇ギルドと繋がっているのか」
「そのようですね。さて、証拠は出ましたが薬師ギルドを先に潰すと闇ギルドの者達に逃げられかねません」
「ですねー。あと、そこにいるオレグくんの妹ちゃんの件もありますし」
私も薬師ギルドの二人を捕まえたら絶対に勘づいて闇ギルドの連中は逃げると思う。
それに、下手に手を出してオレグさんの妹さんに何かあったら駄目だし。
「まずはエドゥアルド達に闇ギルドの情報を聞くのが先か」
「そうですね。エドゥアルドさん、覚えている限りでいいので教えていただけますか?」
「ああ。まず、私達が使われていた闇ギルドはアンバー帝国のとある貴族子飼いの闇ギルドの一部に過ぎない。大元の闇ギルドは帝国にある」
エドゥアルドさん達がいた闇ギルドは分けられた一部なんだ。
「私達と私達を使っていた男を除けば残りは十人ほどだ。ただし、ここに来てから何人かごろつきを仲間にしていると思われる」
予想していたより人数は少ないけど、ごろつきを仲間にしてるのか。
ごろつきの方はさほど強くなさそうだけど数が増える事自体面倒だよね。
「連中はごろつきを捨て駒として考えている。また、確実ではないが違法な方法で精霊を使役している可能性がある」
「精霊を?」
「ああ。私は精霊魔法のスキルを持っているから精霊の気配が分かるのだが、連中と一緒に居た時にそれを感じた」
違法な方法で精霊が使役されているってエドゥアルドさん達につけられていた隷属の首輪みたいなやつって事かな?
エドゥアルドさんの言葉を聞いて、オレグさんが「あっ」と声を上げた。
「そういえば妹を人質に取って脅して来たのはエドゥアルドさん達と一緒にいたあの男なんですが、あの男が着けている腕輪には強力な精霊の力が宿っていると自慢しているのを聞いた事があります」
「精霊の力か。どこで使役されているかにもよるが助けられるのなら助けたいものだな……」
「ええ。今回、捕まえられるのはこのオーアスにある闇ギルドのみですから、その精霊が帝国の方にいるならば無理でしょう」
「いや、それは無い。私が精霊の気配を感じたのはこちらにある連中の拠点だ」
それなら助けられるかもしれない。
そこから、エドゥアルドさんに連中の拠点の位置を教えて貰い、それを元に計画を立てていく。
「オレグの妹の安全確保と闇ギルドの捕縛は同時進行でだな。さて、思ったよりも人数が少ないようだし、こちらですでに一人捕まえている事を考えればできるだけ早めがいいな」
「そうですね。遅くても一週間以内、早ければ明日明後日ぐらいには行動したいです」
「私達を使っていた男はよく私達を連れて連中と別行動をしていた。今回の依頼もあの男が受けた物だから、数日ぐらいなら連絡が取れなくても不審がられはしないだろう」
という事はまだバレたり警戒されている可能性は低いのか。
それならやっぱり今のうちがいいな。
「まず、俺が偵察してそいつらが揃っている時を狙うのが一番ですかねー」
「そうだな。アスティならそうそうにやられたりしないと思うが気をつけろよ」
「はーい。じゃ、行ってきまーす」
そう言ってアスティさんが会議室を出る。
私はその背中を追いかけて同じく会議室を出た。
「アスティさん!」
「あれ? リアちゃんどうしたの?」
「これ、もし良かったら持って行ってください」
マジックドロワーからバジリスクを倒した時に使っていたペンダントを取り出して渡す。
本当はあの時そのままあげてもいいつもりでいたんだけど、しっかり返されていたんだよね。
「バジリスクの時のペンダントです。魔力を注げばハイヒールを発動出来るので危ない時に使ってください」
「えっ、いいの?」
「はい! アスティさんに怪我をして欲しくないので」
「じゃあ、使わせて貰うよ。ありがとね」
ペンダントを受け取ったアスティさんがギルドから出るのを見送ってから会議室に戻った。




