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セシリオの過去

 そこからさっきと同じようにそれぞれ自己紹介をしていく。

 全員の自己紹介が終わった所でセシリオさんがバルツさんに質問をする。


「……僕の種族も言った方が……いい?」

「知っていれば種族特徴などの困り事で助けたりできるが、言いたくなければ言わなくてもいい。義務じゃないからな」

「……そっか。……別に言いたくないわけじゃないから……言う。……僕の種族は……ハーフドラゴニュート」

「そうか。教えてくれてありがとな」


 バルツさんは笑顔でそう言ってセシリオさんの頭を撫でた。

 撫でられた事があまり無いのかセシリオさんは驚いて固まっている。


「これから聞にくいことを聞く。答えたくなければ言わなくていい」

「……うん……分かった」

「お前さんの両親も奴隷だったのか?」

「……そう」

「やはりそうか。今、両親は?」

「……人族の母は僕を産んで直ぐにどこかに売られて……その後、そこでの扱いが酷くて……亡くなったって聞いた」


 セシリオさんの話を聞いてすごく心が痛む。

 長い間奴隷であんな首輪をされていたんだから、辛い境遇って事は予想していたけどここまでだとは思わなかった。


「そうか」

「……ドラゴニュートの父は多分僕が生まれたところで奴隷として今も生きていると……思う。……あの奴隷商にとって父は護衛でもあったみたいだから」

「父親とは話した事があるのか?」

「……うん。……あの奴隷商は僕が五歳になった頃、父さんに会わせてドラゴニュート特有の魔法やスキルの使い方とか……剣術や文字の読み書き等を一通り教えろって命じてたから」


 セシリオさんの話を聞いている全員が苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 彼は生まれた時から商品として扱われていたんだろう。

 母親とは一度も会えず、五歳になってやっと父親に会えてもそれは奴隷商の命令。

 彼の身体も心配だけれど、何より心が心配だった。


「……僕は……そのおかげで魔法やスキルも上手く使えるようになったし、文字の読み書きも出来るようになった。……それから五年ぐらい経ってエドゥアルド達があそこに来た。その後、エドゥアルド達と一緒に帝国の貴族に買われて……闇ギルドの奴らに使われるようになった」

「そうか。あの首輪はいつから?」

「……父さんから魔法やスキルを教えてもらい始めて少し経った頃かな。……奴隷商が父さんに暴力を振るってるのを見て、助けようと魔法を使ったら着けられた。……だから、七年ぐらい着けてると思う。

 ……父さんは俺の事なんて気にするなって、自分を大切にしろって言ってたけど……僕にとって大切なのは父さんだけだったから」


 あまりにも辛すぎる。

 セシリオさんの話を聞いているうちに私の頬を涙が伝っていた。

 けれど、一番辛いのは彼であって私じゃない。だから直ぐに頬を拭った。


「少しいいですか?」

「クラルテ、どうした?」

「セシリオさん、貴方は今何歳ですか?」


 あっ。

 セシリオさんは見た目も十五歳以上の大人に見えるし、思考や喋り方もおっとりはしているけど大人のそれに見えた。

 けれど辛い境遇に身を置いていたのなら、耐える為に考え方が大人びる事はよくある。

 十五歳は人族の成人年齢だけど、人族と別種族のハーフの場合はそちらの基準で考えることの方が多い。

 だけど、聞いた話の年数を計算するとまだ十五歳にさえなっていない可能性に気がつく。

 その為クラルテさんの質問を聞いた全員の視線がセシリオさんの方に集まった。


「……? ……今年のリフトブラウで十二歳になったと思う。……あまり歳を意識しても意味ないから自信がないけど……」


 クラルテさんの言葉でみんな少し察してはいたけど実際の年齢を聞くと驚いてしまった。

 多分、ドラゴニュートは身体の成長が早い種族で、それはハーフのセシリオさんにも当てはまったんだろう。

 今世の私よりも歳下のセシリオさんがこんなにも辛い経験をしていてそれを淡々と話している姿を見た私は、どうしても耐えられなくなって自己満足だと分かった上で彼を思いっきり抱きしめた。


「えっ」

「私は偉そうな事を言える立場ではないし、貴方が経験してきた辛さを分かるなんて事も言えません。

 でも、よく頑張りましたね。セシリオさんが生きていて本当に良かった」

「……僕は……頑張ったの?」

「ええ。ものすごく。幼い頃から辛い思いをしてそれでも耐えて生き抜いた貴方は本当によく頑張っていると私は思います」

「……あり、がとう」

「リアの言う通りだ。よく生き抜いたな」


 バルツさんはそう言ってまたセシリオさんの頭を撫でていた。


「これからの事はここに滞在しながらゆっくりと考えればいい。時折、話を聞いたり証言を頼んだりするかもしれんが、いいか?」


 バルツさんがエドゥアルドさん達やセシリオさんの顔を見回しながら問いかける。


「構わない」

「助けて貰ったんだから当たり前なんだの」

「おう」

「……大丈夫」

「そうか。ありがとな。この部屋はお前さん達用に取っているからゆっくり休んでくれ。クラルテ、アスティ、リア、一度自分の部屋に戻って今日は休むぞ」


 バルツさんの言葉に私達はそれぞれ頷いた。

 バルツさん達に続いて部屋を出ようとすると、セシリオさんに声をかけられる。


「どうしました?」

「……えっと、リアって呼んでもいい?」

「はい、もちろん!」

「……僕の事も……セシリオって呼び捨てで呼んで欲しい」

「分かりました」


 思った以上に心を開いてくれたみたいで嬉しい。

 それにしても私の返事、少し硬かった気がするな。


「……あと、もっと砕けて話してくれると嬉しい。……リアの方が歳上だよね?」

「分かった。私は今度のへールフルンで十四歳だから二歳上だね。セシリオ、これからよろしくね」

「……うん。リア、よろしく」


 優しい笑みを浮かべながらそう言ったセシリオと握手をする。

 こうして私に新しい友人が出来た。

 私とセシリオのこの会話は、同じ部屋にいたエドゥアルドさん達やドアからそっと覗いていたバルツさん達に微笑ましく見守られていたみたい。

 いや、同じ部屋にいたエドゥアルドさん達は分かるけど、なんでバルツさん達は覗いてるんですかね!

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