首輪の解除と話し合い
私は眠っている一人に近づいて隷属の首輪を鑑定する。
《隷属の首輪 改造版》
現在は一部地域、または重犯罪者のみにしか使われる事の無い奴隷用の魔道具。
また、この隷属の首輪は闇魔法で強化されている為、本来の奴隷契約では命じる事の出来ない命令も出来るようになっている。
この魔道具を外すには、かけられた闇魔法を高レベルの光属性の魔力で打ち消しながら契約魔法の『コントラクトキャンセレーション』で解除する必要がある。
うん。出来そうだな。
試しに魔力を光属性に変換してから放出してみる。
よし、出来た!
そのまま鑑定した隷属の首輪に手を翳し光属性の魔力を注ぎながら、契約魔法の詠唱に入る。
『コントラクトキャンセレーション』
私が魔法を発動したと同時に首輪がガチャリと音を立てて外れた。
「これで隷属の首輪は解除出来たんですよね?」
「ええ、完璧です。他の三人にも出来そうですか?」
「はい。コツは掴めたと思うのでこのまま続けます」
クラルテさんに無理はしないでくださいねと言ってもらいつつ、次の人に向かう。
ちなみに、バルツさんやアーテル、リリーや他の人達にも見守られている。
嬉しいような、緊張するような……。
気を取り直して他の三人にも同じ様に魔法を掛けて、隷属の首輪を解除していった。
「終わりました」
「お疲れ様でした」
「よく頑張った! リアのおかげで助かったわ。ありがとな」
「いえ、お役に立てて良かったです」
そう答えると、バルツさんはいつも助けられてるぞと言いながら私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
そんないつも通りのやり取りにホッとして、思った以上に一連の騒動で緊張し疲れていた事に気づく。
バルツさんはそういう私の様子を察してくれたみたいで。
「ずっと頑張ってたからな。話は休みながらでも出来るだろ。よし、宿に帰るぞ」
「そうですね。では、隷属の首輪をつけられていた彼らと巻き込まれたパーティーの方達も一緒に来てもらいましょう」
そんなバルツさんの案にクラルテさんが賛成した事で、とんとん拍子に話が進みすぐ宿に帰ることになった。
バルツさん達と一緒に来ていた兵士さん達が眠っている人達を抱えて宿に連れていく。
貴族御用達の宿とあって部屋数が多く、クラルテさんは直ぐに部屋をいくつか取り、そのうちの一部屋にダニエルさん達は案内されていた。
Aランク冒険者でもここまで高い宿を使う事はまず無いらしく、緊張して戸惑っていたのが少し可笑しかったな。
ちなみにオレグさんはダニエルさん達と同じ部屋になっている。
彼にも色々と事情があったみたいなのでパーティーで話し合うそうだ。
あの時のオレグさんの攻撃は手加減されていたし、誰もそれで傷ついていないから拘束する必要は無いとバルツさん達も判断した。
アーテルとリリーを先に部屋に帰らせて、私はバルツさん達と話し合う為に隷属の首輪をつけられていた人達を寝かせている大部屋に向かった。
「おっ、来たか。その辺のベットは空いているからそこで休んでていいぞ」
「時々、質問をしたりすると思いますが無理はしないでくださいね。今日だけでとても疲れているでしょうから」
「そうそう、寝ちゃってもいいし」
「ありがとうございます」
お言葉に甘えてベットに腰掛けて少しぼーっとする。
うん、今日は疲れたな。
隠遁生活が始まって以来、一番腹が立って緊張した一日だった。
バルツさん達の会話に耳を傾けつつ、隷属の首輪で従わされていた人達を見る。
男性四人。全員、種族が違うんだよね。
一人はエルフ、一人はドワーフ、一人は犬系獣人、一人はなんだろう?
こっそり、種族だけを鑑定してみる。
すると、ハーフドラゴニュートと出た。
ドラゴニュートは竜人とも言われる種族。
所謂ドラゴン、それもその中で膨大な魔力を持ちとてつもなく長命な古代竜や聖竜などが人族と交わった事により、ドラゴニュートという種族が生まれたと言われている。
そのハーフはドラゴニュートと人族の間の子って事だ。
ドラゴニュートはそれこそウーアシュプルング大樹海や、大陸内にある人族があまり来ない山脈などに隠れ住んでいる。なのでドラゴニュート自体珍しいし、ハーフドラゴニュートは多分ものすごく珍しいんだと思う。
だから、余計に目をつけられて隷属の首輪を付けられることになったのかもしれない。
そんな事を考えながら彼らを見ているとその内の一人、エルフの男性が目を覚ました。
「……ここは? 奴らは!」
「目を覚ましたようだな。大丈夫か? ここは安全だからすぐには無理かもしれんが落ち着け」
「安全?」
「闇ギルドの奴なら拘束して別の部屋で見張られている。お前達を傷つける者はここにはいない」
バルツさんの言葉をゆっくりと噛み砕いた彼はホッと息を吐いた。
やっぱり、あの首輪をつけられていた時点で確定してはいたけど違法な方法で奴隷にされてたんだろうな。
エルフの彼が目を覚ました時に部屋を出たクラルテさんが戻って来た。
「疲労を回復させる薬湯です。飲めそうならどうぞ」
「あ、ありがとう」
クラルテさんはポットからいくつかのカップに注いでそれを渡す。
他のカップは私やバルツさん、そしてクラルテさん自身とアスティさんの分みたいだ。
そして、エルフの彼の前で一番にクラルテさんが口をつけて薬湯を飲む。
意図を察した私達も次々に飲み始めた。
あっ、結構美味しい。ハーブティーみたいな味なのね。
それを見ていた彼がおずおずとカップに口をつけて一口飲んだ。
「少しは落ち着いたか?」
「ああ。取り乱して申し訳ない」
「いや、今までの状況を考えれば仕方ないだろう。あの首輪は自我まで抑え込んでいたようだしな」
「礼が遅くなった。私や仲間を助けてくれてありがとう。貴方達は命の恩人だ」
あけましておめでとうございます。
更新が遅くなってすみません。
本年も拙作をよろしくお願い致します。




