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襲撃者との戦闘

 男は振り返り後ろに控えていた四人に命じる。


「お前ら、やれ」


 男の言葉で四人がそれぞれ私達に襲いかかって来た。

 私の方に来た一人から繰り出される斬撃を身体強化した身体で躱していく。


「奥の手って程でもなさそうなんですが?」


 正直、拍子抜けしたので心の声が漏れてしまった。


「言っておくがそいつらはそれぞれAランクの強さだぞ」


 その言葉に疑問を持つ。

 Aランクレベルの能力を持つ冒険者が闇ギルドに堕ちる事がそんなにあるんだろうか?

 Aランクとなればそれなりに名が売れて、高額な依頼も沢山ある。

 その状態の人達がそう簡単にそちら側にいくとは思えないんだよね。

 私に襲いかかって来た一人以外に、ダニエルさん達の方に二人、アーテルとリリーの方に一人が向かっていた。

 けれど、それぞれ敵の攻撃を受け流し時間を稼いでいる。

 私達もダニエルさん達も、不意打ちでなければこの人達にやられる可能性は低い。

 だからこそ、愚かかもしれないが殺してしまう事に迷いを感じているんだ。

 よし、まずは私の相手の人を無力化しよう。

 相手の剣撃を身体強化した体術で躱したり、受け流しながら隙を狙う。


『サンダーショック』


 威力を弱めた電撃で意識を落とし、一人目を無力化できた。

 後ろを振り返ると私のやり方を見て気がついたアーテルが、リリーと協力して闇魔法で意識を落としている。

 そして、ダニエルさんも一人の腹部に思いっきり拳を叩き込んで無力化。

 ペーターさんとケヴィンさんは協力して相手を翻弄し、ペーターさんのナイフが掠った瞬間に相手が崩れ落ちた。


「ちっ」


 状況の不利を察した男が逃げようとする。


『アイスフィールド』


 私は地面を凍らせて相手を滑らせ。


『アイスロック』


 そのまま下半身を氷に閉じ込めて拘束した。


『サンダーショック』


 そして逃げ出せないように意識も落とす。


「リアちゃん、強かったんだな」

「ちゃんとした説明をしないでついて来たりしてすみません」

「それはいい。そのおかげで俺達は助かった」

「そうだよ。リアちゃん達がいなかったら兄さんもケヴィンさんもやられてた。僕も動揺してそのまま捕まってただろうし」

「本当に助かった。ありがとな」


 ダニエルさん達にそれぞれお礼を言われた。

 私も助ける事が出来て良かったと思う。

 まさか、粗悪品のポーションを使わないよう阻止するため来たのが、こんな事になるなんて思わなかった。

 私は三人にポーションの事も話す。


「さっき買ったポーションが?」

「はい。あの薬師ギルドはおかしいので今日買ったポーションを見せて貰えませんか?」

「それは構わない。これなんだが」


 ダニエルさんからポーションを受け取って鑑定する。


 《中級治癒ポーション 偽装版》

 中級治癒ポーションに見せかけられた粗悪品兼麻痺薬。

 中身は中級治癒ポーションを薄めた物に麻痺する効果を持った薬草を加えられた麻痺薬。

 製作者ベック・カルマジン。


 詳細な鑑定を意識したら製作者まで出てきた。

 ベックって薬師ギルドの買取担当だ。

 やっぱり、あの人はギルドマスター側だったのか。

 それにしても、麻痺薬ってどういう事だろう。

 最初は正規品の中級治癒ポーションを薄めて沢山の粗悪品を作って売り捌いて儲けているんだと思ってたけどそれだけじゃないの?

 一体どういう目的があるんだろうと考え込む。

 あっ、そうか! 薬師ギルドのギルドマスターやベックも闇ギルドの連中の仲間なんだ。

 ダンジョン内で中級治癒ポーションをダニエルさん達が飲めば麻痺で動けなくなって捕まえやすくなる。

 私がそれに気づいた時、ダニエルさんに話しかけられた。


「リアちゃん、これを見てくれ」


 そう言ってダニエルさんが見せたのは、ダニエルさん達を襲った人の首元だった。

 そこには、首輪が着けられていた。


「これは?」

「こいつは奴隷に着ける隷属の首輪だ。しかも、強力で違法な物。あの喋っていた男以外の四人全員に着けられていた」

「じゃあ、この人達は命令されて闇ギルドの仕事をさせられていたという事ですか?」

「だろうな。俺達を捕まえようとしていたように、優秀な冒険者を騙して捕まえて商品や手下にしていたんだろう」


 そこで私はハッとしてオレグさんを振り返る。


「私に隷属の首輪はありませんよ」

「それならどうして……」

「妹が人質に取られているんです。助けるには従うしかなかった」

「そういう事か」

「裏切ってしまいすみません」


 私はオレグさんの拘束を解いた。


「いいんですか?」

「後悔している事は伝わって来たので」

「あまり簡単に信用するべきではありませんよ」

「それに、この人達を運ぶのにも人手が必要ですし。オレグさんなら逃げないで協力してくれるでしょう?」

「分かりました」


 私達は五人の拘束を運びやすい形に変えて、ちゃんとボス部屋のドロップアイテムや奥にある宝箱を確認してから、脱出球でダンジョンを出た。

 出てきた私達を見て受付の女性が目を丸くした後、慌てて奥にいる人を呼びに行った。


「受付の方、驚いていましたね」

「そりゃそうだろうな。拘束された人間を五人も連れてるわ。異様な雰囲気だわってなりゃ、驚くのも無理はない」


 ケヴィンさんがなんとも言えない表情でそう言った。

 その後、直ぐに奥からトマスさんがやって来た。


「一体何があった?!」


 これまでの事をトマスさんに話す。

 この時、初めて知ったんだけどこのオーアスの冒険者ギルドのギルドマスターがトマスさんだった。

 バルツさん達とオーアに来た時にトマスさんがいたのは、ギルドマスターとしてバルツさんと話す為だったんだね。

 しかも、オーアスにとって大切なダンジョンを辺境伯自ら調べるんだからギルドマスターがいて当たり前か。

 全てを聞いたトマスさんは驚きつつも納得してくれた。


「信じてくれるんですね」

「そりゃ、Aランク冒険者の証言がある上に犯人達もいるんだ。納得するさ。さて、これからどうするか……」

「辺境伯にお伝えしますか?」


 受付の女性がトマスさんに問いかける。


「そうだな。闇ギルドの事となれば俺の一存で決めれる範囲を超えてる。悪いがケリー、エラにこれを伝えてバルツ様を伝えるよう頼むのと、ギルドから何人か人を寄越してくれ。その後はここに戻ってきてくれると助かる」

「分かりました」


 受付の女性、ケリーさんが行こうとしたので声をかける。


「あの!」

「どうしました?」

「バルツさんは今、マルデストロ男爵のところに行っているので、宿ではなくそちらに行った方が会えると思います」

「分かりました。教えてくださってありがとうございます」


 ケリーさんからいい笑顔でお礼を言われる。

 ふぅ、伝えて良かった。

 さっき、強引にダニエルさん達の居場所を聞いたから罪悪感があったんだよね。

 本当ならギルド職員としてやってはいけない行為だっただろうし、私の必死さとBランクという身分を信用して教えてくれたんだろうから。

 こうして、私達はバルツさん達がやって来るのを待つ事になった。

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