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ボス部屋での裏切り

「それじゃあ入るぞ」

「おう!」

「はい」

「リアちゃん達は端の方で固まっててね」

「分かりました」


 そう答えたけれど危ないと感じたら手伝うつもりでいる。

 全員の準備が整ったところでダニエルさんが扉を開いた。

 私達とダニエルさん達が入った後で、一定の距離を保って着いてきていた人達もボス部屋に入って来た。

 マジか。

 これで狙いがダニエルさん達なのが分かった。

 こんな状況じゃ何が起きてもおかしくない。

 私は咄嗟に念話でアーテルとリリーに話しかける。


〈アーテル、リリー、聞こえる? 聞こえたら頷いて〉

〈聞こえるよ!〉


 リリーは頷いてアーテルは念話で返事をしてくれた。


〈さっきからダニエルさん達以外の人達がついて来てるの。このボス部屋にまで入って来てるから気をつけてね。何をしてくるか分からないから〉

〈わかった。気をつけるね〉


 リリーも頷いた事を確認して意識を目の前のダニエルさん達に戻す。

 ダニエルさん達がボス部屋の中央近くまで進むと、そこに一体のオークキングと二体のオークジェネラル、そして複数のオークが現れた。

 ダニエルさん達はお互いに声を掛け合い順調に倒していく。


「はっ!」


 大剣で一体のオークジェネラルをダニエルさんが倒した。

 その間にもう一体のオークジェネラルを、短剣使いのペーターさんと斧使いのケヴィンさんで倒していく。

 魔法使いのオレグさんは両方の援護をしている。

 小さな怪我は負っているみたいだけど、中級治癒ポーションを使うほどの怪我はしてないな。

 流石、Aランクのダニエルさんを含むパーティーなだけある。

 後は、オークキングとオークを倒せば終わるし少し安心した。

 そう考えた瞬間、姿を隠してついて来ていた人達の魔力が動く。


『ファイヤーランス』


 僅かに聞こえた詠唱の後、複数の炎の槍が現れて獣人の三人に向かって行った。


『マジックバリア!』


 近くにいたペーターさんには何とか咄嗟にマジックバリアを張れたけど、他の二人には出来なかった。

 気を抜いてしまった私のミスだ。

 直ぐにそちらを見ると大きめの怪我を負ったダニエルさんとケヴィンさんがいた。

 しかも、その二人にオークキングが近づいている。

 私はアーテルとリリーに目配せをしてから駆け出し、弓輪から弓を出してオークキングを射る。

 残念ながら目や額ではなくオークキングの腕に当たったけど、そのおかげで標的が私に切り替わった。

 その間にアーテルとリリーが協力して周囲のオークを倒しつつ、私が渡しておいた中級治癒ポーションをダニエルさんとケヴィンさんに飲ませてくれている。


『アイスエッジ』


 私は向かって来たオークキングに魔法を放ち首を刈り取って倒す。

 そして、隠れている人達の方を見た。


「そろそろ出てきて貰えませんか? はっきりとした狙いは分かりませんが、そこにいるのは知っていますよ」


 私がそう声をかけると黒い服に身を包んだ人達が五人現れた。


「お前らは何者だ?」


 ポーションで怪我が治り起き上がれるようになったダニエルさんが問いかける。


「まさか、こんなイレギュラーが起きるとはな」


 真ん中に立っていた人物がそう言った。


「俺達は闇ギルドに所属している者だ。依頼を受けてお前達を捕まえに来た」

「捕まえるだと?」

「お前達はアンバー帝国で貴族を敵に回しただろう? その結果目をつけられて俺達のようなところに依頼が回ってきているんだよ」


 うわ、えげつない。

 闇ギルドに依頼するって怖すぎるでしょ。

 しかも、アンバー帝国はこのネフライト王国の南側に面した隣国だけど、ヴァルメリオ辺境領はアンバー帝国からだいぶ離れた反対側なのに。

 その辺境領にある闇ギルドにまで依頼が回るのか。


「敵に回したもなにも、とある貴族に子飼いの冒険者にならないか? と提案されたのを今は自由に国々を旅したいからと断っただけだ」

「それを根に持ったって事か」

「そんな。あれは提案で強制じゃないって言っていたのに」


 ダニエルさん、ケヴィンさん、ペーターさんの順で言葉を零す。

 あの国は怖いって聞いていたけどやっぱり本当なんだな。

 こんな邪推はしたくないけど、獣人から断られたという事を余計に腹立たしく思った可能性もある。

 アンバー帝国は人族至上主義者が多いらしいし。


「でもまさかこんなエルフのガキに邪魔されるとはな。まぁ、いい。ついでにこいつらも捕まえて売りつければ儲かるからなぁ」

「残念ながらそう簡単に捕まるつもりはありませんよ」

「そう言っていられるのも今の内だ」


 そう言い放った男は他の人達と共に戦闘態勢に入った。


『ウォーターロック!』


 そして、私達の意識がそちらに移った瞬間後ろから魔法を放たれる。

 けれど、私とアーテルは結界魔法が展開される魔道具を装備していたので、その結界で魔法は弾かれた。


「やっぱり、オレグさんはあちら側だったんですね」

「オレグ、お前……」


 信じられないという表情でオレグさんを見つめる三人。

 いくら最近知り合ったと言っても、それなりに信頼していたんだろうしショックを受けるのは仕方ない。

 でも今は気を抜いていい場面じゃないので、容赦なくオレグさんに魔法を放って拘束させてもらう。


『アイビーバインド』


 蔦で拘束してその上から地属性の魔法で固める。


『アースロック』


 頭だけ出ている状態なので息はできるし死ぬ可能性は低いと思う。


「……容赦ないですね」

「気を抜くと殺られるのはこちら側なので」

「冷静なのはいい事です」


 そう言ったオレグさんは悲しそうな、なんとも言えない表情をしていた。

 この人も悪い人じゃなさそうなのに、どうして闇ギルドの人達に協力しているんだろう。

 そんな事を考えながら、闇ギルドの人達に意識を戻す。

 私達もダニエルさん達もそちらを警戒していたので攻撃をする機会が無かったみたい。


「さて、どうします? 多分、オレグさんが裏切って私達を攻撃するのが奥の手だったんでしょう?」

「ちっ。使えねぇ奴だな。けど、他にも手はあるんだよ!」

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