粗悪品のポーションを追って
私達はこっそり印象が薄くなるように偽装魔法を掛けた状態で、薬師ギルド内の椅子に座った。
ついでに私達がいる場所に他の人が座らないように私達の近くの印象も薄めておく。
私が試験を受けている最中もその後もアーテルとリリーは私の近くでその様子を見ていたんだ。
アーテルはあの話を聞いていた後からずっと怒っているし、あの場の異様な雰囲気とアーテルの様子でリリーも何かあった事を察してくれていた。
「姉さま、あの人達おかしいよね?」
「そうだね。あれがもしよくある事ならこのオーアスは危ないと思う」
「だよね。姉さまはどうするつもりなの?」
「それを今考えている最中かな」
「そっか。ぼくも手伝うからね!」
そう言ってくれたアーテルにお礼を言って頭を撫でた。
そんな会話をしつつギルド内を観察していると、ポーションを買いに来た冒険者に興味を惹かれる。
「ご要望の中級治癒ポーション二本です。金貨一枚、または小金貨十枚となります」
やっぱり、売値は通常通りなんだ。
新人に狙いをつけて搾取しているのか、それともオーアスの薬師ギルドを利用している薬師全員にあんな事をしているのか。
まぁ、どちらにせよあのままにしておく訳にはいかないと思う。
状況を少し整理出来たし、早めに宿に帰ってバルツさんに伝えよう。
私達は素早く薬師ギルドから出て宿に帰った。
「おっ、リアちゃんおかえり」
「ただいま帰りました。あの、バルツさんはいますか?」
「あー、まだマルデストロ男爵のところから帰ってきてないね。多分、今日はそっちに泊まると思うよ」
「そうなんですね。教えてくださってありがとうございます」
私がお礼を言うと兵士の男性が「こちらこそお弁当とかありがとね」と言ってくれた。
思いのほかどの兵士の人とも仲良くなれていて嬉しいんだよね。
さて、バルツさん達が帰って来ないとなるとどうすればいいんだろう。
考えを整理する為に今日の事を思い返していると、薬師ギルドで冒険者の人が買ったポーションの違和感に気がついた。
そういえばさっきの中級治癒ポーション、色が普通のより少し薄かったような……。
気の所為なら良いけれどもし粗悪品だったら一刻を争う。
だって、あの冒険者の人は今回オーアに行くと言っていたから。
何階まで行くかにもよるけど大怪我を負った時に粗悪品の治癒ポーションを使ったりしたら命に関わる。
私は直ぐアーテルとリリーにそれを説明して、宿を出てオーアに向かう事にした。
あっという間にオーアに着いた私達は入り口で受付の女性に質問する。
「虎系獣人の男性冒険者を連れたパーティーは何階あたりにいますか?」
「えっと、他の方の情報を勝手に話すのは……」
「すみません。もしかしたら一刻を争うかもしれないんです。絶対にその方達とトラブルを起こしたりしないと約束するので教えてください」
私がギルドカードを見せつつ緊急事態だと伝えると渋々教えてくれた。
その人達はAランクの冒険者を含むパーティーで、二十階手前まで攻略しているらしい。
私達はそれを聞いて直ぐに手数料を払い一階に向かって、そこから転移球を使って二十階のセーフティゾーンに転移した。
「さっき薬師ギルドで見た虎系獣人の冒険者のお兄さんを探すよ」
「はーい」
「あい!」
三人で二十階を回って探していると途中でマップに人のアイコンが表示される。
急いでそちらに向かえば四人組の冒険者を見つけた。
「あの!」
「えっ」
私が大きな声で呼びかけるとその四人組が振り返った。
「えっと、君達は?」
「こんな階に子供だけなんておかしいだろ」
「もしかしたら上のトラップでここまで飛ばされたのでは?」
「あー、それはありそうだな」
「俺たちで保護しよう」
私が話す前になんだか勝手にこっちの事情が決まっているね。
まぁ、ダンジョンには色んなトラップがあるからそう思われるのも仕方ないけどどうしよう。
いや、ある意味好都合か。
私達という足手纏いが居れば上の階に戻ってくれるだろうし。
そう考えていたけれど現実は甘くなかった。
「攻略はどうするんだ?」
薬師ギルドで見かけた虎系獣人の男性が他の三人に問いかける。
「二十階のボスはオークキングとジェネラルでしたよね? それならこの子達を連れていても攻略できると思います」
「そうだな。せっかくここまで来たんだし二十階の攻略を終わらせてから帰ろう」
「できるなら到達登録版に登録してから帰りたいよね」
マジか。
自分達の強さに自信があるんだろうけど、足手纏いがいる状態でそれは危ないのでは?
そう思って止めたかったけど、ポーションが粗悪品だと急に伝えるのもおかしいしどうすればいいんだろう。
ちなみに、このパーティーは獣人の男性三人と魔法使いっぽい人族の男性で構成されている。
あと、さっきからマップ上に私達や魔物以外の反応が一定の距離を保ちながら表示されていて怖い。
魔法かスキルを使って隠れているんだろうけど獣人の男性三人は気づいてないし、魔法使いっぽい男性は知っている上で黙っているように見える。
だって魔法使いっぽい人は、さっきからその隠れている人達の方を気にしているんだ。
なんだろう。何かがおかしい。
色々と考えている間に方針が決まり、ボス部屋に行く事になってしまった。
ボス部屋に向かう道中でそれぞれ自己紹介をする事に。
「俺はこのパーティーのリーダーで虎系獣人のダニエル・アーヴァインだ」
「僕はダニエルの弟でペーター・アーヴァイン。父さんに似た兄さんと違って、僕は母さん似だから猫系獣人なんだ。身軽な身体を生かした短剣使いだよ」
「二人の幼なじみで犬系獣人のケヴィン・マクニー。このパーティーの斥候だな」
「私は最近三人と知り合ってパーティーに入れてもらった魔法使いのオレグ・シュレポフです」
四人の自己紹介を聞きつつ考える。
やっぱり、この魔法使いの人怪しいな。
オレグさんを警戒しつつ私達も自己紹介をする。
「私はリアで弟とアールと従魔のリリーです。リリーは人化出来る従魔なんです」
「それは珍しいな。こんな子供を連れていて驚いたが人化出来る従魔なら納得だ」
他の三人も私の説明を聞いて納得したみたい。
けれど一瞬、私達を警戒するような目をしたオレグさんを私は見逃さなかった。
自己紹介から数分後、ついに私達はボス部屋の前に着いた。




