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オーアスの薬師ギルドへ

 隠遁生活二十七日目。

 まだオーアスに滞在中なんだけど、今日は何をしようかな?

 昨日は特に予定が無かったからダンジョンに行ってみたり色々としてみた。でも、今日は予定を立てて何かしたいなぁ。

 予定を考えつつマジックドロワーに入れている物を確認していると、ダンジョン産の上級治癒ポーションがあるのを思い出した。

 そうだ! そろそろこれを売りに行こう!

 ついでにずっと考えてた薬師ギルドの登録も済ませれば一石二鳥だし。

 今後の隠遁生活で主に使う町は多分ヴァルメリオ辺境領の領都だと思うけど、どの町で登録してもギルドカードは同じ国の中なら関係なく使える。

 だから、ここで登録しちゃうのもありだよね。

 思い立ったら吉日、ちょうど起きたアーテルとリリーにも予定を話す。


「て事で今日は薬師ギルドに行こうと思ってるんだけど、いいかな?」

「うん、いいよ。姉さまのポーションはすごいからね! それで誰かが助かるなら早く登録した方がいいと思うんだ!」


 本当にうちの子、良い子過ぎでは?

 可愛すぎたのでアーテルを抱きしめて頭をわしゃわしゃ撫でた。


「ね、姉さま! なですぎだよー」

「あー、ごめん。アーテルが可愛過ぎてね」

「ふふ、でも姉さまになでられるのは好きだからまたしてね」


 うぐっ。あの、アーテルさんは私を可愛さと尊さで昇天させる気なんでしょうか?

 もう一度アーテルの頭を撫でておく。


「おねーちゃん、リリーもなでてー!」


 私とアーテルのやり取りを見ていたリリーも撫でて欲しくなったみたい。

 はい、撫でますよ! 可愛いうちの子を撫でないなんて選択肢は無いのでね!

 私が撫でるとキャッキャとリリーが喜んでくれた。

 ああ、可愛い。可愛過ぎるよー!

 一通り楽しんでわちゃわちゃし終わったところで、宿の食堂で朝食を食べる事にした。


「おはようございます」

「おう、おはよう」


 私たちが食べ終わった頃にちょうどバルツさん達が食堂にやって来た。


「リア達は今日何をする予定なんだ?」

「登録とポーションを売る為に薬師ギルドへ行くつもりです」

「そうか。俺もそれに……」


 バルツさんがそう言いかけたところでバルツさんの背後から冷気が漂ってきた。

 ギギギッと音がしそうな感じでバルツさんが振り向くと、そこにはとてもいい笑顔だけど背後にどす黒いオーラを纏ったクラルテさんが立っている。


「バルツ様、本日はオーアスを管理しているマルデストロ男爵との会議と会食の予定があるのはご存知のはず。

 それなのに、一体どちらへ行くおつもりですか?」

「そ、それはだな」


 バルツさんから助けてくれという視線をすごく感じるけど、お仕事は大切ですからね。

 私はそっと目を逸らし、アスティさんに出掛ける事を伝えてアーテルとリリーを連れて宿を出た。

 このオーアスはそこらの領地の領都と変わらないくらい大きく栄えている町。

 なので、各種ギルドが揃っている。

 小さな町だとせいぜい冒険者ギルドがあるぐらいで、薬師ギルドや職人ギルド、魔法使いギルドは無かったりする。

 ましてや、村だと冒険者ギルドも無い事が多いので近くの町に行かないといけないらしい。

 そんな情報を思い返しているとあっという間に薬師ギルドに着いた。


「結構大きいね」

「ねー!」


 アーテルとリリーを連れて中に入ればふわりと薬草の香りがした。

 あたりを見回して空いている受付に向かう。

 それにしてもなんだか暗いな。

 明かりがって意味じゃなくて雰囲気が暗い。

 冒険者ギルドとかはわちゃわちゃ騒がしいし、商人ギルドは忙しそうなのに落ち着いてる雰囲気でどちらのギルドも明るかったのに。

 薬師の人は静かなイメージがあるけど、そうは言ってもここまで暗くはないよね?

 そんなふうに思いつつ受付の女性に話しかける。


「すみません」

「はい。どのようなご要件でしょうか?」

「薬師登録とポーションを売りたいのですが」

「……かしこまりました。身分証をお持ちですか?」


 そう言われたのでマジックバッグの中から商人ギルドのギルドカードを出す。

 多分、こっちの方が良さそうな気がする。

 どっちでも大丈夫だとは思うんだけど。


「お預かりします。それでは薬師ギルドの登録方法について説明させていただきますね」


 説明を聞くと薬師ギルドではまず鑑定の魔道具で調合スキルの有無を確認して、その後別室で下級治癒ポーションを作る。

 そこで、下級治癒ポーションが規定の品質以上で作れたら登録できるらしい。

 うん、大丈夫そうだね。


「ではまずこちらで鑑定させていただきます」

「はい」


 アーテルとリリーが鑑定の魔道具を興味津々な感じで見ている。

 分かるわぁ。魔道具ってなんか面白くて気になるよね。


「調合スキルの確認が出来ました。それでは登録試験担当を呼んで参りますのでお待ちください」

「分かりました」


 二人と雑談しながら待っていると受付の女性に呼ばれた。

 案内された部屋には薬師っぽくない四十前後ぐらいの男性と、偉そうな雰囲気を纏った白髪の男性がいた。

 白髪の方は五十代ぐらいかな?


「登録試験担当のマカール・コルバノフだ。で、こちらが」

「オーアスの薬師ギルドのギルドマスターをしているムラト・ウストフだ。森の賢者と名高いエルフが薬師ギルドに登録してくれるのは心強い」


 登録試験担当のマカールさんはハキハキと喋って歯に衣着せぬタイプっぽい感じ。

 そして、ギルドマスターのムラトさんは歓迎している言葉とは裏腹に私達を見る、特に私への視線に嫌なものを感じた。

 軽く引っ掛かりを覚えつつ自己紹介をする。


「初めまして。私はリアで弟のアールと従魔のリリーです」

「じゅ、従魔?」

「はい。リリーは人化スキルを持っているので」

「そういう事か」


 私の説明で納得したギルドマスターは再度リリーを見た。

 また、その視線に嫌なものを感じる。

 なんだろう、この感じ。

 受付の女性や登録試験担当のマカールさんにはそんな事思わないのに。

 そんな事を考えながらマカールさんの説明を聞く。


「というように一定の品質で作る事が出来れば合格となる」

「分かりました」

「それでは作ってもらおうか?」

「はい」


 用意された素材から下級治癒ポーションに必要な物を選ぶ。

 ここはやっぱり普通のレシピで作ろう。

 そう考えてその手順で作っていく。

 クラウトとヒール茸を細かく刻んで乳鉢に入れすり潰し、魔法で出した水をそこに加えて混ぜる。

 そこに刻んだハルデニアの花を入れて混ぜて調合スキルのアーツで中身を濾す。


『フィルトレーション』


 漉した液体をポーション専用の瓶に移して、最後に魔力を注げば完成だ。


「出来ました」

「確認しよう」


 工程に問題は無かったし大丈夫だと思う。

 マカールさんが鑑定用の魔道具で調べているのを待っているとギルドマスターに話しかけられた。

ついに50話になりました。

読んでくださった方、ブックマークや評価をしてくださった方、本当にありがとうございます。

これからも拙作をよろしくお願い致します。

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