お客様は弟とお父様!
ホーバルさん達が帰った後、何組かのお客さんがやって来てくれた。
どのお客さんにもくじ引きは珍しがられたし、楽しんでもらえていたので一安心。
「ハズレのお菓子も大銅貨一枚以上な気がするね」
「ふふ、満足して頂けたならこのお店をしたかいがありました」
「ああ、珍しい上にしっかりと楽しませて貰ったよ」
お客さんは笑顔でそう言った後帰っていった。
目的はヴァイスのためだけど、やって良かったな。
そんな事を考えながらマップを見ると近くにヴァイスやお父様、マーサにテリオスの名前が表示されていた。
いよいよか。緊張するなぁ。
よし、頑張ろう!
私はそっとバルツさんの目を盗んで、アーテルとリリーにヴァイスがもうじき来ることを伝える。
二人は嬉しそうにニッコリ笑顔で頷く。
ヴァイスが現れるだろう方向の道を見ていたら、複数の護衛を連れた集団が現れた。
そういえば今気がついたけど、やっぱりハイアシンス様はいないのか。
その方が私としてはありがたいけど、子どもの事なんてどうでもいいのかな……。
その分、お父様がヴァイスを気にかけて愛してくれる事を願う。
もちろん、私達も思いっきりヴァイスを愛して大切にするけどね!
「父上、あのお店はなんでしょう? 気になるので行ってもいいですか?」
「ああ、いいよ。行ってみようか」
二人の会話が聞こえて心の中でガッツポーズをする。
ヴァイスの為にこの春祭りに来てるからダメとは言わないだろうけど、少し不安だったんだ。
「いらっしゃいませ」
「このお店は何のお店ですか?」
「こちらではくじ引きというものをしています」
「くじ引き? それはどういったものかな?」
最初にヴァイスが質問した後、お父様の方が食いついてきた。
これは少し予想外だな。
ちなみに、バルツさんはお父様達が来た時点でそっと私達の後ろの方に移動して気配を消して立っている。
偽装魔法をかけているから大丈夫なんだけど、まさか公爵家当主自ら徒歩で春祭りを回っているとは思っていなくてびっくりしたみたい。
少し焦っているバルツさんは可愛かった。
まぁ、私も偽装魔法を自分とアーテル、リリーにかけてるからそこまで気づかれる心配はしてなかったけど、お父様と目が合った瞬間は少しだけ緊張したな。
一通りくじ引きの説明を済ませれば、ヴァイスは興味津々な雰囲気でくじ引きをしたいとお父様に言った。
「うん、これは面白そうだ。いいよ、やってみようか」
「はい! 父上、ありがとうございます!」
その会話を聞いて私は屋台の中にある他の人用の箱ではなく、マジックドロワーからヴァイス用の箱を取り出してヴァイスの前に置く。
その様子をバルツさんに見られたようでなんとも言えない顔をされた。
あちゃー、これはやらかしたかな?
まぁ、いっか。今はヴァイスの事が優先だ。
ヴァイスは私が置いた箱に手を入れて、中からくじを取り出す。
私がそれを受け取ってくじを開けば、そこにはアタリの文字と一番という数字が書かれている。
「おめでとうございます! 今回の一番の目玉景品、魔物の卵です!」
「やった!」
「おお、ヴァイスすごいね!」
「父上、僕の従魔にしてもいいですか?」
ヴァイスが上目遣いで可愛くお父様に聞いている。
「うん、構わないよ。契約は私がしよう」
「ありがとうございます!」
「リエール様、確認の為に鑑定をしてもよろしいでしょうか?」
「そうだね。店の方には失礼だが一応させてもらおう」
私達に魔物の卵を鑑定してもいいか聞いてきたので大丈夫だと答える。
まぁ、偽物を掴まされてヴァイスがガッカリするのを防ぎたいんだろうな。
それに、大銅貨一枚で出来るくじ引きの景品に魔物の卵があるのも変だろうし。
テリオスが魔道具を使って鑑定するとしっかり魔物の卵という事が証明されたみたいだ。
お父様とテリオスに謝られた。
「お気になさらないでください。身分の高い方が自衛なさるのは当然の事です」
「ありがとう。しかし、失礼な事をしてしまったのには変わりない。何かお詫びをしたいのだが」
「では、また何人かくじ引きをして頂けると嬉しいです」
「よし、じゃあ私とテリオス、あとはマーサが引こう」
お父様がそう言ったので、一度しまった所から今度は他の人用の箱を取り出してお父様の前に置く。
ふと気になってアーテルの方を見ると、リリーを連れてヴァイスと三人で楽しそうに話していた。
さすがに注意してるから私達だと気づかれることは言っていないみたいだね。
意識をお父様達の方に戻すと、ちょうどお父様が箱の中に手を入れてくじを引いていた。
取り出したくじを渡してもらって開くと中にはアタリの文字が。
番号を確認したら中級解毒ポーションが当たっていた。
「おめでとうございます。アタリで景品の中級解毒ポーションです」
「ふふ、これは結構楽しいね。それにしても魔物の卵や中級解毒ポーションを景品にして大丈夫なのかい? とても大銅貨一枚でできるようなものではないと思うんだが」
「ええ、このお店は採算度外視と言いますか。弟達がお店をしてみたいと言ったので考えに考え抜いて出した今回限りのお店なんですよ」
「ほう、そういう事か。それならば少し納得がいくがそれでもとても損だろうに面白い子達だね」
お父様は結構その辺の金銭感覚がしっかりしてるんだな。
そしてそれはバルツさんも同じようで後ろで何度も頷いていた。
「一番の目的は思い出作りなので損をしても構わないんです。お客様達のような普段交流する機会のない方と交流できたりしますし、とても楽しく貴重な時間を過ごせていますから」
「そうか。私達が来た事で君達の思い出作りに役立てたなら良かったよ」
「もちろんです」
その後、テリオスはハズレをマーサはアタリを引いていた。
マーサのアタリは宝石の原石でまたもお父様達に驚かれる。
うん、今思えば少し景品の金額的なやつがおかしかったかもしれない。
でもいいんだ。今更だから!
ちなみに、テリオスが引いたハズレはハズレの中でもちょっとした特別なもので普通のハズレの三倍ぐらいのお菓子の箱なんだ。
これなら、ヴァイスやお父様、屋敷で働く他の使用人達にも行き届きそうだね。
ちょっと特別なハズレを用意しておいて良かった!
少し話したら他の店も回ると言ってお父様達は帰っていった。
よし! 目的達成! あとはもう少しお店を頑張ってから春祭りを楽しむぞ!
それをアーテルとリリーに伝えたらものすごく喜ばれた。
「ぼくも春祭りの他のお店に行ってみたかったんだ!」
「そっか、それなら良かった。じゃあ、もう少しお店を頑張ろうね」
「うん!」
「あい!」




