最初のお客さん
四人で待っていると最初のお客さんがやって来た。
来たのは身なりのいい商人っぽい男性。
奥さんらしき女性と子ども二人を連れている。
「いらっしゃいませ」
「春祭りには様々な場所に色々な店が出るものだが、このお店は何を売っているんだい?」
「ここでは、くじ引きをしています」
「くじ引き?」
私は男性にくじ引きの説明をする。
「ほう、面白い。代金はいくらかな?」
「大銅貨一枚です」
大銅貨一枚という事は百ペル、日本円にすると千円ぐらい。
思い浮かべたのは前世にあったゲームや家電が当たる千円のガチャガチャ。なのでそれを参考にしてこの値段に決めた。
ちなみに魔物の卵は当たり外れがあるけど、それでも売れば最低小金貨一枚はする。
時々行われるオークションや貴族に売る場合はそれ以上の値がつくと聞いた。
なので、冒険者は魔物の卵を入手しても売る人が多いらしい。
「よし、やってみようか。ほらヘルマン、引かせてもらいなさい」
「はーい」
私は男性から大銅貨一枚を受け取って箱を男の子の前に出す。
男の子がくじを引いてそれを私に渡した。
くじを開くとアタリで番号が書かれている。
おお、初っ端のお客さんからアタリが出るとは思わなかったな。
「アタリです! 景品を渡しますね」
「やったー!」
「ヘルマン、良かったわね」
「うん!」
書かれた番号の景品は水鉄砲の魔道具。
男の子向けの物が当たって良かったな。
景品を渡すとこれは何かと聞かれた。
「これは魔法銃に似せた水を撃てる玩具の魔道具です」
「玩具の魔道具?」
「はい、同じものでどんな風になるか試してみますね」
私は机を取り出しそこに小さな紙の箱を置く。
この箱はクッキーやキャラメルなどを入れる為に私が作ったやつだ。
その小さな箱目掛けて魔法銃型の水鉄砲の引き金を引けば、水が撃ち出されて的にした箱が倒れた。
「こんな感じで遊べる魔道具です。威力は弱いのでご安心ください」
「すごい! 楽しそう!」
「このような遊ぶ為の魔道具は珍しいね。魔力はどうするんだい?」
「魔力はこの魔石に注いでおけばすぐに使えますし、毎回魔力を注ぐ必要はありません。あと、必要な魔力も少ないのでお子さんでも使いやすいと思います」
私の説明を聞いてその男性はものすごく感心していた。
「もしかして、この魔道具は君が作ったのかい?」
「はい。自作の品です」
「素晴らしい! そうだ! 私はネフライト王国にあるジャーダ商会会長の息子でホーバル・ジャーダという者なんだが。もし君に売りたい物や何か思い付いた事があったらうちに来て欲しい」
「えっ」
「私なら色々と協力出来るし、協力したいんだよ」
この人、ジャーダ商会会長の息子なんだ。
というか言われている内容が凄い。
「この手紙を持って来ればすぐに私に会えるようにしておくからね。私はネフライト王国王都の本店にいるよ」
「分かりました。お気遣いありがとうございます」
「いやいや、私はただ君の才能を知って商機を逃がしたくないだけさ。君のアイデアは本当に素晴らしい!」
なんだかべた褒めされてしまった。
でも、ジャーダ商会にはお世話になってるし、こういう人と知り合えるのはいい事だよね。
私とアーテルもリアとアールの方の名前を名乗って冒険者だということを含めた自己紹介をした。
「お父さん、私もやりたい!」
「ああ、ミースもやりたくなったんだな。お願いしていいかな?」
「はい」
ホーバルさんから大銅貨一枚を受け取って女の子の前に箱を出す。
女の子がくじを引いて私に渡すと、中にはハズレと書いてあった。
「残念。ハズレですね。こちらが参加賞のお菓子詰め合わせです。どうぞ」
「お母さん、食べてもいい?」
「ええ、良いわよ」
ハズレでもそこまでショックを受けてなくてよかった。
女の子が箱の中からキャラメルを取り出す。
「お姉さん、これはなんてお菓子なの?」
「それはキャラメルってお菓子だよ。牛乳と砂糖で作った甘くてとろける味かな」
「教えてくれてありがとう!」
「いえいえ」
女の子がキャラメルを食べるとものすごく驚いたあとニッコリと笑った。
「お母さん、お父さん、これすごくおいしい!」
「そうなの? 一個貰うわね」
「私も貰うよ」
「僕も欲しい!」
ホーバルさん達も同じように食べて美味しさに驚きつつしっかり味わっていた。
「まぁ、すごく美味しいわね! これも貴方が作ったのかしら?」
「はい」
「リアさんは本当に素晴らしい才能を持っているね。無理にとは言わないが機会があればぜひ会いに来て欲しい」
「分かりました。その時はよろしくお願い致します」
その後、ホーバルさん一家は他の場所も回るらしく私をべた褒めしてから去っていった。
「良かったな。ジャーダ商会は信用できるから何かあれば頼るといい」
「そうですね。まさかこんなご縁があるとは思いませんでした」
「そういえば偽装魔法をかけているが大丈夫なのか? ジャーダ商会に会いに行ってもリアだと分かってもらえないんじゃ」
「大丈夫ですよ。私とアールにかけた偽装魔法は私達を知っている人には別人に見えたり、印象に残らなかったりするっていうものですから」
そう私が言うとバルツさんは納得したようで深く頷いていた。
バルツさんにかけた偽装魔法は誰が見ても別人に見えるやつです。
後から、辺境伯だと気づかれても何も無いと思うけど一応ね。




