ヴァイスに会いに行こう!
隠遁生活二十四日目。
昨日、セレスタイト王国の王都から宿に帰った後は三人でくじ引きの準備をした。
魔物の卵はヴァイス用なので、他の人用の当たりを用意しないとね。
考え抜いた結果、『ライト』を付与した魔道具や『ウォーター』を付与した水の出る魔道具などの効果が弱くて危険の少ない魔道具とかを作ってみた。
もう一つは、私が普通のレシピで作った下級治癒ポーションと中級治癒ポーション、下級解毒ポーションと中級解毒ポーションを用意する。
最終的に当たりは魔道具とポーション、それとダンジョンで採掘した宝石の原石のいくつかに決めた。
また、ハズレを引いた人用に参加賞として私が作ったお菓子を渡す事にする。
「お菓子は何がいいと思う?」
「う〜ん、プリン!」
「きゃらめる!」
プリンは美味しいから使いたいけど傷みやすいんだよね。
リリーが提案したキャラメルはプリンほど傷まないし、この世界にはまだ無いみたいだから参加賞で渡せば喜んで貰えるかな?
あとは、クッキーもありだと思う。
決まったところで、参加賞用に作り置きのクッキーやキャラメルを十個づつにまとめた物を箱に入れた。
クッキーやキャラメルに使われている砂糖の一部にスイートアントの砂糖や蜜、シロップを使ったので普通に売ったとしても結構高い。
まぁ、私達の場合は女王様のご好意で沢山貰ってるからほとんどお金がかかってないんだけど。
だから、この参加賞でも満足してもらえると思うんだよね。
ちなみに、屋台の建物は簡単に組み立てられるものを当日に商人ギルドで借りられる。
なので、そこの心配はしなくていい。
私が昨日のことを振り返っていると、アーテルに声をかけられた。
「姉さま、おはよう!」
「あ、アーテルおはよう」
リリーもその声で目を覚ましたみたい。
「ヴァイスの所には何時に行くの?」
「そうだなー。お昼前ぐらいには行くつもりだよ」
「分かった! 早く行こう!」
「ふふ、そうだね」
ヴァイスは四月から学院に通うので今はちょうど、家庭教師からほとんど習い終わって暇な時期だと思う。
だから、あの秘密の部屋に呼んでも来れるよね?
私は『ビジョンワープ』でヴァイスの部屋にヴァイス以外がいないことを確認して、『アイテムワープ』を使って用意しておいた手紙を送った。
そのまま『ビジョンワープ』で見ているとすぐにヴァイスは手紙に気がついてくれた。
よし、これで秘密の部屋に来てくれるはず。
私達は今日の予定を少し話した後、食堂に行って朝食を食べる。
食べ終わったら、食堂にいたバルツさん達に出掛けることを伝えた。
「気をつけていけよ」
「はい」
「野営になりそうなら、気にせず魔法で宿の部屋に帰ってきてもいいぞ?」
「えっ、いいんですか?」
「ああ、そのあたりは俺達が誤魔化しといてやるからな」
バルツさんはそう言って私達の頭を撫でた。
「ありがとうございます。それじゃあ、行ってきますね」
「おう、行ってらっしゃい」
「行ってきまーす!」
「きまーす!」
宿を出たら冒険者ギルドへ向かう。
一応、辻褄合わせのためにもう持っている素材の依頼を受けておくんだ。
それを済ませたらオーアスを出て近くの森で『ワールドワープ』を使う。
一瞬で秘密の部屋に転移して、後はヴァイスが来るのを待つだけ。
「早く会いたいね!」
「そうだね。お土産もあるし楽しみだね」
「うん!」
リリーには私とアーテルの弟で、リリーのお兄ちゃんだよと教えておいた。
リリーとヴァイスも仲良くなれたらいいな。
三人でまったり過ごしていると、秘密の部屋の扉が開いた。
「姉上、アーテル、いますか?」
「ヴァイス、いるよ」
「いるよ!」
私達が返事をすると入口の方から走って来る足音が聞こえた。
そして、ヴァイスの姿が見えた瞬間そのまま抱きつかれる。
「っ、あ、あねうえ、とあーてるがいきててよかった。ぼく、ふたりはぜったいに、ん、いきてるってしんじてたけど、っ、ひぅ、ずっと、しんぱいだったんです」
「ヴァイスに会いに来るのが遅くなってごめんね。信じてくれてありがとう」
思いっきりヴァイスを抱きしめる。
私は心配させてしまった事を謝りながら泣いているヴァイスの涙を拭った。
それを見てアーテルもヴァイスを抱きしめに来る。
「あ、アーテルも、っ、だいじょうぶだった?」
「大丈夫だよ。ヴァイスは元気?」
「うん、げんき。姉上とアーテルが亡くなったって聞いた後から、父上が僕の事をすごく気にかけてくれました。だから、二人のことが心配だったけど頑張れたんです」
二人が仲良く話しているのを聞きながら考える。
お父様はきちんと約束を守ってくれたんだね。
ヴァイスの事を気にかけてくれている事がとても嬉しい。
「ヴァイス、落ち着いた? 大丈夫?」
「はい、大丈夫です。泣いてしまってごめんなさい」
「ううん、謝らないで。私達のことを心配してくれてありがとう。とっても嬉しかったよ」
「そうだよ。ヴァイス、ありがとね」
私の弟達は本当に可愛い。
目に入れても痛くありません!
ヴァイスが落ち着いたところでリリーを紹介する。
「リリー、待たせてごめんね」
「だいじょうぶだよー」
「ヴァイス、この子はリリー。私の従魔で人化できるスイートクイーンアントだよ」
「リリーです!」
「姉上とアーテルの弟、ヴァイスです。よろしくね」
「よろしく!」
二人がニコニコ笑顔で自己紹介をしている。
あー、やっぱりうちの子は可愛いな!
リリーの紹介が終わったので、私達は今までの出来事を話していく。
「姉上もアーテルも楽しそうで良かったです」
「いつかヴァイスも一緒にダンジョンへ行ったりしようね」
「はい! 楽しみにしています!」
「あっ、そうだ」
私はマジックドロワーからプリンを出してヴァイスに渡す。
家にいた頃もクッキーは作ってたけど、それ以外はほとんど作った事が無かったからね。
「これは?」
「私が作ったお菓子なんだ。食べてみて?」
「はい! 美味しい!」
「ふふっ、良かった」
「姉さまのプリン美味しいよね!」
「うん、すごく美味しい!」
他にもキャラメルやスイートアントの砂糖を使ったクッキー。
色々と作り置きしている料理やお菓子を出した。
「そうだ、マジックバッグをヴァイスも持っていたよね?」
「はい、持っています」
「それを持ってこれる?」
「分かりました」
ヴァイスがマジックバッグを持って戻ってきた。
「マジックバッグをどうするんですか?」
「その中にね、私が作った料理やお菓子を入れておこうと思って」
「姉上、貰ってもいいんですか?」
「うん、ただ食べる時はこっそりバレないようにね。後、食べ過ぎてご飯を食べれなくなったりしたらダメだよ」
「はい! 約束します!」




