ダンジョン「オーア」攻略編 五 (魔法武器)
マジックドロワーから普通のバッグを取り出して、そこに魔物の卵を入れる。
魔物の卵は生き物に分類されるから、マジックドロワーにもマジックバッグにも入らないんだよね。
前から魔物の卵の事を知っていたから、一応常にマジックドロワーの中に普通のバッグを入れていたけど、用意しておいて本当に良かった。
私が三つの魔物の卵がぶつからないように、気をつけながらしまっていると、その間にアスティさんがもう一つの宝箱を確認していた。
「こっちも開けれるよ」
「ぼく開けたい!」
「リリーも!」
罠とかを確認してもらったし、今度は完全に二人だけで開けても大丈夫かな。
私はそう考えて何かあっても対処できるように、二人の後ろに立つ。
「開けてもいいよ」
「やったー!」
アーテルとリリーは声を揃えて喜びながら、宝箱の蓋に手をかけて一緒に開けた。
中に入っていたのは、二つの腕輪。
ただの装飾品にしては、強い魔力を感じたので鑑定してみる。
まずは、白を基調に虹みたいに色が変化している腕輪の方。
《オパールの弓輪》
腕輪の中に弓がしまわれている魔法武器。
魔力を注げば、思い浮かべた場所に弓と矢筒が現れる。
矢は前もって矢筒に入れておけば、弓をしまった時に一緒にしまわれる。
弓は使いやすく威力が高い。
えっ、便利。
これが魔法武器か。
じゃあ、もう一つの黒い腕輪も同じかな?
《オブシディアンの剣輪》
腕輪の中に剣がしまわれている魔法武器。
魔力を注げば、思い浮かべた場所に剣が現れる。
剣はショートソード型。
軽い上に切れ味が鋭く、多少の傷や刃こぼれはしまうことで直せる。
うわっ、こっちも便利。
魔法武器って確かダンジョン産が多くて、買うとしたらランクが低くてもすごく高いやつだよね。
十階ボス部屋後の隠し部屋から出るにしては、豪華な気がする。
しかも、片方の宝箱からは魔物の卵が三つも入ってたし、こっちは魔法武器が二つとか規格外では?
「リア、何が入ってたんだ?」
「えっと、腕輪です」
「腕輪? 見ていいか?」
「はい」
鑑定魔法を使えることは言っていないから、腕輪ということだけを伝える。
バルツさんに二つの腕輪を渡すと、アスティさんやクラルテさんと一緒に見始めた。
「これは魔法武器ですね。魔法武器の中では普通のランクの品ですが、十階の宝箱から出てくる物としてはとても珍しい」
「もし使うなら、俺が使い方を教えてやるぞ」
「えっ、これも貰っていいんですか?」
「ああ、俺は自分の魔法武器を持っているし、アスティやクラルテが使う武器じゃないしな」
バルツさんはそう言って二つの腕輪を私に渡す。
そうか、バルツさんが急に剣を持っていたのは魔法武器だったからなんだ。
オブシディアンの剣輪をアーテルに渡して、私はオパールの弓輪に腕を通した。
「わっ! 腕輪が縮んだ?」
「ああ、魔法武器や魔法防具は使用者に合わせて大きくなったり、縮んだりするんだ」
そうなんだ。
流石、異世界。面白いなぁ!
アーテルもすぐに腕輪をはめた。
「面白いねー」
「ねー」
「くくっ、そうだな。まずは武器を出してみるところからやってみるか」
バルツさんの説明を聞きながら、腕輪に魔力を注いで武器が現れる場所を思い浮かべる。
すると、弓は手元に矢筒は背中に現れた。
「おっ、一発で成功か。これはなかなか難しいはずなんだが」
「姉さますごい!」
「すごーい!」
私はバルツさんと二人に褒められて嬉しくなる。
次はアーテルの番だ。
「ぼくも頑張るね」
そう言って集中すると、すぐにアーテルの手元に黒い剣が現れた。
「やった! できたよ!」
「アールも一発か。本当にお前さん達は優秀だな」
「アール、すごいよ!」
アーテルを撫でながら褒める。
私の弟はやっぱり優秀だよね!
「出し入れが自由自在になれば、かなり使いやすい武器になるはずだ。よし、今度はしまってみろ」
「はい」
「はーい!」
私とアーテルが少し集中すると、すぐに武器をしまえた。
「できました」
「できた!」
「あとは、練習だな。元々使っていたやつより、威力や性能もいいみたいだから、その魔法武器を使う方がいいと思うぞ」
「はい」
「はーい!」
思った以上に使いやすいし。
このオパールの弓輪を主な武器にしよっと。
一通りの確認が終わったので、これからどうするかを考える。
「到達登録版には登録したか?」
「はい、しました」
「さーて、どうする?」
「思った以上にペースが早いですし、一度脱出球を使って戻ってもいいと思いますよ」
そっか、それもありなんだ。
転移球を使えば、また一つ前の小部屋にまで来れるもんね。
「あっ」
「どうしたアスティ?」
「リアちゃんが時空間魔法を使えるなら、脱出球を使う必要ないんじゃないですか?」
「そうですね。ダンジョンの中への転移は出来ませんが、ダンジョンからの脱出は時空間魔法で出来ますから」
えっ、そうなの?
でも、呪文を知らないんだけど?
「どんな魔法なんですか?」
「『エスケープ』という魔法です。ダンジョンの外へ転移するものですね」
「初めてでも大丈夫でしょうか?」
「今まで『ワープ』や『ワールドワープ』を使った事はあるんだろ?」
「はい」
うん、あります。
というか、隠遁生活を初めてからは結構な頻度で使ってる。
「それなら大丈夫だ。脱出先はこのダンジョンの入り口。あそこを意識すれば出来るぞ」
「はい。それじゃあやってみますね」
「おう、頑張れ」
そう言って頭を撫でられた。
ここにいる自分を含めた六人を対象にして、ダンジョンの入り口を思い浮かべる。
あとは、魔法を使うだけ。
『エスケープ』
すると、一瞬であの階段の横に転移した。
ふぅ、成功してよかった。
周りを見ると、バルツさん達が笑顔で頷いてくれる。
時空間魔法を持っている事がバレないように、言葉で言うのを避けてくれたんだね。
その頷きだけで嬉しい。
ついでのようにバルツさんには頭を撫でられたけど。
「思ったより、早く戻ってきましたね」
「ああ、十階のボスまで終わったんでな」
「それはまた、早いですね」
バルツさん達は私がリリーの事を言った時に出て来てくれた男性、確かトマスさんだったよね?
そのトマスさんと話し込み始めた。
「隠し部屋ですか?」
「ああ、毎日あるとは限らんが新しくできたみたいだな」
うん? 毎日あるとは限らない?
どういう事なのか気になったので、話に加わってないアスティさんに聞く。
「毎日あるとは限らないってどういう意味ですか?」
「ああ、それはね。宝箱や採取できる場所は一日で変わるんだよ。ダンジョン内の構造とかは大きな変化の時じゃないと変わらないけどね」
「知りませんでした」
「だから、さっきの隠し部屋も毎回そこに現れるとは限らないんだ。あと、宝箱は中身を取ると消えるけど、日が変わらなくても一定時間で違う場所に出てきたりもする」
へぇ、すごい。
じゃあ、同じ階層で回っていれば沢山の宝箱を開けられるのかな?
気になったのでそれも聞いてみた。
「あー、できないわけじゃないけど結構大変かもね。いつ、どの場所に出てくるかは分からないし、それよりも下の階を目指す方が効率がいいと思うよ」
「そうなんですね」
そっかぁ。そりゃあ、多分確実に下の階の方が宝箱あるもんね。
バルツさんとクラルテさんの方を見ると、今度は魔物の数が少なかった事を伝えていた。
「やっぱり、少ないんですね」
「なんだ、他の奴らからも報告が上がっているのか?」
「はい。十階のボス手前までなら、何パーティーも探索しています。そのほとんどのパーティーが魔物の数の違和感を報告してきているんですよ」
「そうか。明日から十一階の調査だが、いつも以上に注意しよう」
「そうですね。これがダンジョンの異常の予兆という可能性もありますから」
クラルテさんの言葉でそういう可能性もある事に気がついた。
それなら色んな想定をして慎重に調べないと。
よし、私も気を引き締めて明日から頑張ろう!
ついに四十話になりました!
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