ダンジョン「オーア」攻略編 一 (ダンジョンに入ろう!)
隠遁生活二十一日目。
今日はついにダンジョンへ行く日だ!
私が起きると、アーテルとリリーも起きてきた。
やっぱりめちゃくちゃ楽しみなんですね、アーテルさん。
私達は早々と朝の支度を済ませて、宿の食堂へ向かった。
「おはようございます」
「おはようございます!」
「はよー!」
食堂にはもうバルツさん達がいたので、きちんと三人で挨拶をする。
「おう、おはよう。昨日も思ったがリア達は早起きだな。良い子だぞ」
「朝ごはんは、そこのメニュー表から選んで頼んでね」
「はーい、了解です」
子供だから仕方ないし、主にアーテルとリリーに言ってるんだと思うけど、なんだか良い子って言われるのは恥ずかしい。
まぁ、それは置いておいて私はパンとシチュー、サラダのセットを頼んだ。
アーテルやリリーも私と同じものにしたみたい。
美味しい朝食を食べた後は、ついにダンジョンへ行く。
「ダンジョンは初めてなんですけど、入る前に何か手続きみたいなのはあるんですか?」
「ああ、入り口の受付で冒険者ギルドのギルドカードを見せる。あとは入場料として一人、大銅貨一枚を払う事ぐらいだな」
「了解です」
へぇ、入場料がいるんだ。
ダンジョン都市オーアスで管理しているダンジョンだから、当たり前か。
管理するのだってお金がかかるだろうし。
えっと、大銅貨一枚って事は百ペル。日本円だと千円ぐらい。
真面目に依頼をこなせば、低ランクでも余裕で手に入る金額だな。
「あの、従魔も入場料って必要ですか?」
「普通の従魔なら必要ないんだが、人化できる場合は払えと言われるかもしれんな」
「そうですね。言われる可能性はあります。これは町によって変わるので、その都度確認するしかないでしょう」
町によって違うんだ。
まぁ、そんなに高くないし揉めたくないから用意しておこう。
「じゃあ、リリーの分も準備しておきますね」
「リア達の入場料は俺が払うつもりだったんだがな……」
「ありがたいですけど、何もかも甘えるのは違うと思うのでここは自分達で払います」
「そうか、分かった。本当に健気というかなんというか。もし何かあればどんな事でも相談してくれ。大概のことは何とかしてやれるはずだ」
「ありがとうございます」
私がお礼を言うと、バルツさんが頭を撫でてきた。もう、完全に私達の頭を撫でるのが癖になってません?
あと、現時点で結構甘えまくってるのに優し過ぎると思います。
でも、こんな風に心配して気にかけてもらえるのはすごく嬉しい。
本当にバルツさんは優しくてかっこいいなぁ。
初めて会った時と喋り方とかは違うけど、その時に持った印象は変わらないままだ。
余裕があってかっこよくて優しい人。
私の事だって初対面なのに同じ先祖返りだからと、とても心配してくれていた。
それに、リアになってからは色々と助けてもらってるし。
そんな事を考えながら歩いていると、あっという間に目的地に着く。
ダンジョンの入り口がある建物に入ると、そこに地下へと続く大きな階段があった。
その階段はなんというか遺跡っぽい。
そして、その階段の上の建物も遺跡っぽくしてある。
その、建物の方は普通に人の手で作られたものらしいんだけど、なんで遺跡みたいなダンジョンがあるかは、元々そういう物という認識で理由は解明されてないんだってさ。
流石、摩訶不思議な存在と言われるダンジョン。
まぁ、そのあたりの事は考えだすと宇宙の事を考えるみたいになるからやめやめ。
受付に向かうと受付のお姉さんに声をかけられる。
「こんにちは。ギルドカードの提示をお願いします」
「はい」
「はい!」
私とアーテルがギルドカードを見せる。
そして、リリーの従魔証明書も出しておく。
「リアさんとアールさんですね。もう一枚は……。えっ」
「どうした?」
受付のお姉さんが声を上げたので、奥からここのお偉いさんっぽい人が出てきた。
あー、やっぱり人化してるリリーに驚いたのかなー。
「トマスさん、この方の従魔証明書を見て驚いてしまって」
「俺も見せてもらえるだろうか?」
「ええ、どうぞ」
まぁ、リリーの人化に関しては隠すつもりもないし。
流石にリリーの種族がスイートクイーンアントって事は隠すけどね。
従魔証明書にも、領都の冒険者ギルドでギルドマスターをしてるアーメッドさんの配慮でスイートアントって表記されている上に、何かあったらバルツさんが後ろ盾になってくれるみたいだからとても安心です。
「ほぉ、そういう事か」
「人化できる従魔を連れていらっしゃる方に初めてお会いしたので、驚いてしまいました。本当にすみません」
「ふふ、別の方にも驚かれた事があるので大丈夫です。リリーの入場料はどうすればいいですか?」
「えっと、トマスさんどうしましょうか?」
「そうだなぁ」
私達が話し込んでいると、心配になったのかバルツさん達がこちらに来てくれた。
「何か問題でもあったのか?」
「いえ、リリーの事で驚かれてしまっただけです。あとは、リリーの入場料をどうするかで悩んでいるみたいで」
「そういう事か」
「私としては、揉め事になるのも嫌ですしそこまで金額も大きくないので払うつもりなんですが」
「この子はそう考えているみたいだが、どうするんだ?」
バルツさんの問いかけによって二人がこちらを向く。
「正直そうしてもらえるとありがたいんだが、君はそれでいいのかな?」
「ええ、かまいませんよ。他の冒険者の方に勘違いされるのも困りますし」
「そうだな。ここで二人分しか払っていないのを見て、君たちにイチャモンをつけるバカがいるかもしれん」
「やっぱりそういう可能性はありますよね。えっと大銅貨三枚、お願いします」
「はい。きちんと受け取りました。こちらが入場許可証です。お気をつけて」
「はい、ありがとうございました」
思ったよりすんなり終わって良かったな。
バルツさん達も他の受付で手続きを終わらせていたみたいで、全員入り口の階段の前に集まる。
「えー、班ごとに別れてダンジョンへ入る。一番は俺とアスティ、クラルテとリア達だ。後の班はそれぞれ時間を置いて入れ」
「はい!」
アスティさんとクラルテさんを除いた、全員が元気よく返事をする。
あ、声の圧がすごい。
「今回の目的は魔物との戦闘訓練及び、ダンジョンの調査だ。異変、異常はすぐに知らせろ。また、怪我をしたり、体調が悪くなったらダンジョンから脱出するように」
「それぞれの班に治癒術師が一人はいますが、危ないと感じたら戻ってください。決して無理はしない事、報告連絡相談を心がけること」
「はい!」
バルツさんとクラルテさんが諸注意を話している。
するとまた、いいお返事が響き渡った。
男性ばっかりだから、全員が大きな声で返事をすると響く響く。
諸注意が終わると私達の所にバルツさん達が戻ってきた。
「じゃあ、行くか」
「はい」
「はい!」
「あい!」
「準備はいいな?」
「万端です」
私がそう返すと、バルツさんは頷いて階段を降りて行った。
クラルテさんがその後ろについて行って、私達が次に階段を降りる。
アスティさんは私達の後ろについて最後尾を歩いてくれていた。
これは、ダンジョンが初めての私達に配慮してくれたんだろうな。
ほんと、気遣いが嬉しい。
地下一階に降りると、地上より少し肌寒く感じた。
「ダンジョンが変わってから何階まで終わってるんだ?」
「はい、現在規則通り十階までの探索が終わっていて地図もそこまでならあるようですね」
このダンジョンの名前はオーア。
階層は三十階まで。
特色は、鉱石や宝石を落とす魔物が多いこと、鉱石などの採掘スポットが沢山あること。
採掘スポットからは魔石やごく稀に魔宝石も入手できるらしい。
ちなみに、ダンジョンは一定期間で中の構造が変わる。
今回のダンジョン探索の目的も、変わったばかりのダンジョンの中を調べる事だ。
変わったばかりのダンジョンは、どこもだいたい十階までしか行ってはいけない。
その後の階層は、冒険者ギルドからの指名依頼を受けたA、またはSランクの冒険者がいるパーティーが確認する。
バルツさんはSランク冒険者で、ダンジョン都市オーアスがあるヴァルメリオ辺境領の領主。だから、この依頼を自分で受けたらしい。
普通は、伯爵位の領主が自ら調べに行ったりしないんだけどね。
クラルテさん曰く、バルツさんは仕事能力は高いけどときどきこういう息抜きをしたくなるんだって。
うん、分かる。ずっと書類仕事ばっかりだったりすると、外に出たくなるよね。
「ここが一階の広場か。前とそこまで変わらねぇな」
「ええ、十階までの地図を確認しましたが、前回とさほど変わらないように思えました」
「そうか。それでも、一階ずつ丁寧に見て回るぞ」
「はい!」
そんな会話をしていると、私達の前に魔物が現れた。




