ダンジョン都市へ行こう(到着編)
テントの中で目が覚めて、ゆっくりと起き上がる。
「う〜ん、よく寝たー! 流石メラン様が作った魔道具、寝心地最高!」
私達は何度もメラン様の魔道具に助けられてるな。
もしお会いできたら絶対にお礼を言うぞ!
これは、決定事項です!
私はバルツさんに朝ご飯も任せられたので、アスティさんとクラルテさんに手伝ってもらいつつ作ることになった。
さて、何にしようかな?
「そうだ! おにぎりにしよう」
三人できちんと手を洗って、念押しに『クリーンアップ』も掛けておく。
そして、複数の炊飯器をフル稼働させて、ご飯を炊きまくる。
ご飯の準備は終わったけど、おかずは何を作ろうかな。
おにぎり、おにぎり、おにぎりに合うおかず。
よし、卵焼きと、タコさんソーセージにしよう。
そうと決まれば、すぐに卵を取り出して卵焼きを作る。
タコさんソーセージの方は、切るところまでは私がして、焼くのはアスティさんとクラルテさんに任せた。
「卵焼きは作り終わったし、ご飯も炊けたからおにぎりを握りますか」
アッツアツのご飯を取り出して、用意した具を入れて固くなり過ぎないように握る。
料理スキルのおかげかあっという間に人数分を作れた。
ふぅ、こんなにおにぎりを作ったのは初めてだな。
一つのお皿におにぎりと卵焼き、そしてタコさんソーセージを載せて自由に取ってもらうようにした。
ちょうど、アーテルとリリーが起きてきたので二人の分を渡しておく。
「おはよう。はい、朝ご飯」
「姉さま、おはよう。やった、おにぎりだ」
「おはよー」
そういえば、アーテルはお米好きだったね。
お米続きになっちゃって心配してたけど大丈夫みたい。
私も自分の分のお皿を持って、アーテルとリリーの横に座る。
「いただきます」
おにぎりの具は、刻んだ昆布、梅干し、オーク肉味噌、エビマヨ、ツナマヨだ。
マグロの油漬けは普通に売っていた。
しかも缶詰で。
地球だとツナ缶の起源は十九世紀頃なはずだから、この中世っぽい世界だと早い気もする。
いや、魔法や魔道具があるんからそこまでおかしくないのかな。
何が進歩、進化するかは違う世界なんだから、異なっていて当たり前なのかも。
しかも、原作に描かれていた部分はほとんど再現されるようになっているし、この世界独自の進化もあるんだから、不思議に思えてもそういうものなんだろう。
うん、もう考えるのやめよっと。考え過ぎて頭がこんがらがってきたし。
美味しいものが食べれるんだから、それでよし!
スッキリしたところで、おにぎりを食べる。
中身は甘辛い昆布。うん、できたての温かいおにぎりも美味しい。
「美味しく出来てて良かった」
「おいしいね!」
「ねー!」
二人も喜んで食べてくれている。
私達が食べていると、バルツさん達もやって来た。
「リアが作るものはなんでも美味いな」
「同感です。俺、リアちゃんのご飯を毎回楽しみにしてるもんな」
「ええ、どれも美味しくいただきました」
「皆さんに喜んでもらえて良かったです」
三人も近くに腰掛けて食べ始める。
そういえば、梅干しは大丈夫なのかな?
誰にも聞かずに入れちゃったけど。
「ん、んぐ!」
突然、バルツさんが変な声を上げた。
「どーしたんですか?」
「一気に食べているから、喉に詰まらせたのでは?」
「ああ、ありそう」
と、アスティさんとクラルテさんが言う。
まぁ、結構な勢いで食べてたもんな。
「ごくっ。はぁ、リア、このおにぎり? だったか?」
「はい、おにぎりです」
「俺のやつの中身ってなんだったんだ? あと、そこの二人は心配ぐらいしろ!」
もしかして、梅干しのやつを取ったのかな?
それは私も思ったけど、多分アスティさんとクラルテさんはバルツさんがらそう簡単にやられることはないと知っているから、そういう対応なんだろう。
さっきのやり取りは、ちょっと笑いそうになった。
「メモを付けておいた筈なんですけど、どんな味でした?」
「めちゃくちゃ酸っぱかった」
「ふふ、それで驚いていたんですね。その中身は梅干しです」
「梅干し?」
やっぱり、翡翠国の食べ物は馴染みの無いものが多いみたい。
私は『マジックドロワー』から壺を取り出して、梅干しを見せる。
「翡翠国の食べ物で、梅を塩や紫蘇で漬けたものです。こちらのピクルスとかに似てますね」
「ああ、それなら酸っぱいってのも納得だ」
「ねぇ、俺も興味あるんだけどそれ一個もらえる?」
「良いですよ」
「私もお願いします」
アスティさんとクラルテさんも食べてみたいと言うので、二人に一個づつ渡す。
齧るぐらいの方が最初はよさそうだけど、二人とも丸ごと口に放り込んでしまった。
「種があるので気をつけてくださいね」
おにぎりの方は種を抜いて、果肉だけを具にしたからね。
まぁ、注意はしたけどそれどころじゃなさそう。
「っ、すっぱー」
「んん、これは、とても酸っぱいですね」
うん、一口で入れたらそうなります。
バルツさんはお米と一緒に食べたからそこまでじゃないけど、そのまま丸ごとだからね。
「どうでした?」
「ここまで酸っぱいとは思わなかったけど、悪くないね」
「ええ、酸味がとても強いですが美味しいですね」
へぇ、二人とも大丈夫なんだ。
アーテルも大丈夫だったし、やっぱりそこまで味覚が違うって訳でもないんだね。
というか、割と寛容な気がする。
「さて、食べ終わったら後片付けをして出発だ」
「はい」
「昼前にはオーアスに着くからな」
じゃあ、もうすぐなのか。
みんなでテキパキと片付けを済ませて、すぐに出発となる。
私はまた御者台に座らせてもらって、アスティさんや馬車の中に乗っているアーテルやリリーと楽しく話して過ごした。
二時間ぐらい経つと、ダンジョン都市オーアスの城壁が見えてきてそこからはあっという間。
普通ならあるはずの門でのやり取りもなく、そのまま門を通ってオーアスの中へ入って行った。
「あれ? 身分証とか見せなくて良いんですか?」
「バルツ様がいるから、確認無しでも大丈夫なんだよ」
「そういう事なんですね」
「それに、今回は来る事を先に伝えてるからさ」
Sランク冒険者でもあるけど、それ以前に辺境伯だもんね。
そりゃ、辺境領で辺境伯に身分証を出せなんて言わないか。
そういえば、領地の中にある大きな町は領地を持たない下位貴族が治めてたりするらしい。
領都はバルツさんがそのまま治めてるんだろうけど、こういうダンジョン都市みたいな大きな所にはバルツさんが任命した男爵とか子爵の人がいるんだよね。
だから、そういう人に伝えてるって事だろう。
うん、顔パスで当たり前だわ。
私達が乗っている馬車は、そのまま大通りを通って大きな宿の前に止まった。
ここって、とても高級な宿では?
「ここがこのオーアスにいる間、泊まる宿だ」
「すごく大きいですね」
「まぁ、バルツ様みたいな貴族や高ランク冒険者御用達の宿だからね」
「たっ、高そうです」
「お金は気にする必要ありませんよ。リアさん達には料理を作って頂いていますし、バルツ様も子供に払えなんてケチ臭いことは言いませんから」
えっ、甘えていいのかな?
だって、料理しか作ってないし。
けど、断るのも失礼な気がする。
よし、ダンジョンの時に料理や戦闘を頑張ってお返ししよう。
「ありがとうございます」
私はそう言ってバルツさん達に頭を下げた。
「このぐらいで気にすんな。元々少し強引に俺が誘ったんだしな」
こういうところが大人でかっこいいよね。
私が罪悪感を持たないようにフォローしてくれてる。
その後、バルツさん達と一緒に宿に入り用意された部屋に向かった。
私とアーテルとリリーの三人で一室を取ってくれている。
至れり尽くせりでは?
相部屋でも良かったのにと言おうとしたが、その前に釘を刺された。
「リアは女の子だからな。お前さん達が三人だけで一部屋でも気にするなよ。他の男達と同じ部屋にするなんてできねぇんだし」
そうでした。
バルツさん達は、ちゃんとそのあたりも気を使ってくれていた。
相部屋でも大丈夫ですよ、なんて言う前で良かったー。
お昼と夜は宿の食事を食べて、この日はゆっくり休む事に。
明日はついにダンジョンへ入るから、しっかり寝なきゃね。
アーテルほどじゃないけど、ダンジョン私も楽しみだなぁ。




