ゴブリンを倒そう
翌朝。
「今日も天気が良さそうだな」
と、カーテンを開けながら呟く。
バルツさんとダンジョンへ行く事は決めたけど、それまでどうしようかな。
二日は暇なわけだし。
そうだ! 今日は、領都周辺でできる依頼をやってみよう!
「この辺りの魔物を倒す依頼もあったしね」
今までウーアシュプルング大樹海の魔物ばかり狩っていたけど、当たり前に普通の森や草原にも魔物はいるんだよね。
じゃあ、村や町を魔物からどんな風に守っているのか気になるんだけど、大体の村や小さな町は木の柵や塀とかで囲んで守っている。
そして、大きな町や領都、王都のような場所は城壁などで守られているんだ。
木の柵って聞くと少し心配になるけど、小さな村があるような場所は余程の僻地じゃない限り、ランクの高い魔物はいないから大丈夫らしい。それに、何かあれば近くの町などから冒険者が来てくれるし。
あと、町や領都の場合は、低中ランクの冒険者達が周りの魔物を倒すから、近くの魔物の数はそこまで多くならない。
また、村や町を繋ぐ道は警備隊や冒険者が見回るので結構安全なんだ。
もちろん、それでも冒険者に護衛依頼を出す事が推奨されているし、ほとんどの人が依頼を出している。
怖い話をすれば、危ないのは魔物だけじゃないからね。
色々と考え込んじゃったけど、そろそろ朝ごはんを食べに行きますか。
アーテルとリリーを起こして、宿の食堂に行く。
ベランカさん達に朝の挨拶をして、美味しい朝ごはんを食べた。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした!」
「した!」
きちんと三人でごちそうさまをして食事を終える。
そういえば、私が教えたマヨネーズがサラダに使われてて、それがまた美味しかったな。
もちろん、教える時にマヨネーズが日持ちしない事は伝えている。
まぁ、この雪月亭にはマジックバッグとかと同じ、時間停止機能付きの保存庫があるから大丈夫だろうけど。
一応、注意点を教えておくに越したことはないよね。
「今日は領都の周りでできる依頼をします」
「はい!」
「あい!」
アーテルもリリーをいいお返事で可愛いな!
私達はどんな依頼があるか確認するために、ギルドへ向かった。
ギルドに着いて、すぐに依頼ボードを見る。
おっ、ゴブリンの討伐依頼がある。
この領都から少し東にある森でゴブリンが増えてるらしい。
これは、早めに対処した方が良さそう。
あとは、最近その森の近くに住み着いたキラーカウの討伐依頼もある。
ゴブリンは有名だから分かるけど、キラーカウってどんな魔物なんだろう。
魔物図鑑を取り出して調べる。
キラーカウ
牛の魔物。
凶暴で人や敵とみなした者に突進する。
ただし、攻撃が単調なためDランク以上の冒険者なら簡単に倒せる。
キラーカウの肉は柔らかく旨味があり、色々な料理に合うため人気の食材。
また、角は武器にも薬にも使えるためこのランクの魔物にしては素材が高価である。
あれ? 名前からイメージしたよりランクが低いな。
この説明を読むと、冒険者に人気の魔物っぽいのになんで依頼が残ってるんだろう。
受付にマカレナさんがいるし、聞いてみるかな。
「マカレナさん、おはようございます。依頼を受ける前に、質問してもいいですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「このキラーカウの依頼って、人気そうなのになんで残っているんですか?」
私がそう聞くとマカレナさんが苦笑いした。
「そのキラーカウの依頼、討伐数が多いんですよ。しかも高値で売れる肉や角を討伐数分全て持って帰るには、余程良いマジックバッグを持っていないと無理なので残っていたんです」
あー、そういう事か。
キラーカウを倒せるDやCランクでも、容量が多くて良いマジックバッグを持ってる人は少ないんだ。
その上、討伐数が多いから大変だし、高性能なマジックバッグを持っていても、流石に解体してからじゃないと入り切らないよね。
それに、全員が解体スキルを持っているとは限らない。スキルが無くても解体はできるけどすごく時間がかかる。
ちなみに、レベル一の解体スキルでも持っているのと持ってないのじゃだいぶ違う。
幸い私には高レベルの解体スキルがあるし、マジックドロワーもあるから丸ごとキラーカウを持って帰る事もできるな。
他の人達が避けている依頼なら、私達で受けようか?
アーテルとリリーに聞くとやりたいと返事が返ってきたので、受ける事にした。
「それじゃあ、このゴブリンの依頼とキラーカウの依頼を受けます」
「はい。手続きをしますね」
手続きが終わったのでギルドを出る。
よし、領都を出て東にある森へ行こう。
領都の門に行くと、リリーの事でびっくりさせてしまった警備隊のお兄さんが立っていた。
「おはようございます」
「おはようございます!」
「はよー!」
そのお兄さんは私達を見てまたびっくりしつつ、挨拶を返してくれる。
「お、おはようございます。依頼のために外へ?」
「はい。朝から大変ですね」
「い、いえ、これが仕事ですから。皆さんお気を付けて」
「ふふ、ありがとうございます」
毎回びっくりしてるけど、いい人なんだよね。
ちょっと面白いなって思っちゃうのは性格悪いかな。
リリーはあのお兄さんを気に入っているらしく、また手を振っていた。
「ばいばーい」
「ば、ばいばい」
無視せずに返してくれるから、好感が持てる。
魔物ってだけで嫌う人族も一定数いるからね。
まぁ、人族に近いエルフやドワーフ、獣人などの亜人族に対してでさえ、差別して嫌う人族がいるんだから仕方ないか。
国によっては、テイマーや従魔術師が蔑まれている国もあるらしい。
まぁ、アンバー帝国の事らしいけど。
あの国は、他の国が認めていない違法な奴隷も許可されていたりするからな。
そうそう、この世界奴隷制度があるんだよね。
ただし、セレスタイト王国やネフライト王国などのまともな国だと借金奴隷と犯罪奴隷しか許可されていない。
それに、制度もしっかりしていて奴隷を虐げたりすると罰せられる。
借金奴隷はお金を返し終わると解放されるし、犯罪奴隷でも罪によって分けられて軽い罪なら一定の期間で解放されるらしい。
まぁ、犯罪によっては危険な場所で生涯働くとかもあるけど。
私達を誘拐した犯人達は、危ない所で働かされてるパターンかな。
ちなみに、アンバー帝国は誘拐したり戦争をしたところで略奪した人達を奴隷にしても許される上に、酷い扱いをしたり、虐待をしていても罰せられたりしないんだよね。
あの国だけは行きたくないな。
ありゃ、考え事してる間に森に着いてた。
よし、気を取り直して。
「それじゃあ、ゴブリンを探すぞー!」
「おー!」
「あい!」
まだ、森に入ったばかりだからそう簡単に見つからないだろうけど。
マップに表示されている魔物のアイコンの内、ゴブリンっぽいのはもう少し奥の方だね。
三人で薬草や木の実などの素材を採取しながら、進んでいく。
「姉さま、これって食べれる?」
アーテルが持ってきたのは山菜。
おお、ふきのとうだ。
そういえば、三月だもんね。
私も探してみよう。
アーテルがふきのとうを見つけた辺りを探すと、タラの芽やコシアブラ、ワラビがあった。
どれも天ぷらにできるね!
リリーも手伝ってくれたので、あっという間に結構な量が集まった。
色々な素材の採取に集中していたら、思ったより森の奥に来ていて少し先に複数の魔物の気配がある。
「ギャギャ!」
「ギャーギャー」
あら、ゴブリンさんじゃないですか。
ちなみに、この世界のゴブリンは見つけたら極力討伐するべき魔物。
よくある、仲間になれる系のゴブリンじゃなくて、他種族を襲い攫った女性をそういう事に使う醜悪な魔物なんだ。
「それじゃあ、ゴブリンを倒すよ」
「はい」
「あい!」
「油断しないで気をつけてね」
二人に注意をしてから、ゆっくりとゴブリン達に近づいていく。
まず、私が周囲の確認をする。
二十体ぐらいかな?
アーテルに数を伝えてから、戦闘に入る。
近くにいた二体のゴブリンに矢を放ち、額を貫く。
「よし、二体倒した」
今の攻撃で他のゴブリンが興奮し始めた。
私は地属性の魔法で、落とし穴をいくつか作る。
『アースピットフォール』
お、五体落ちたな。
残りは何で倒そう。
アーテルは今の間に剣術と魔法で五体のゴブリンを倒していた。
やっぱり、アーテルも強いね。
『アースバレット』
地属性の魔法で、土の弾を複数撃ち出して残りのゴブリンを倒す。
これで、全部終わったかな?
あれ、まだいるな。
そう考えた瞬間に、リリーが魔法を発動した。
『あーすばれっと』
残っていた二体を私と同じ魔法で倒す。
おおー、地属性のレベルも高かったし、地魔法も持っていたから使えるんだろうと思ってたけど、一度で真似して倒すなんて。
流石、スイートクイーンアント。
そして、流石うちの子だね!
読んでくださってありがとうございます。
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これからも拙作よろしくお願い致します。




