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雪月亭でバルツさんと雑談

 バルツさんと一緒にギルドを出て雪月亭に向かっていると、バルツさんがアーテルを肩車してくれた。

 ふふ、アーテルがすごく喜んでいて見ている私も嬉しくなる。

 そういえば、肩車をお父様にしてもらった事なんて無かったね。

 レルスさん達も頼めばしてくれただろうけど、先生と生徒って立場だったし、身分もあるから簡単には頼めなかったし。


「楽しいか?」

「うん! バルツさんありがとう!」

「よし、リリーも来い」

「あい!」


 バルツさんはリリーを呼ぶと抱き上げて高い高いをする。

 キャッキャと声を上げて喜ぶリリー。

 うん、可愛い。二人ともとても可愛いです。

 子供を二人も抱えてビクともしてないし、危ないようにも見えない。

 流石、冒険者。身体がしっかり鍛え上げられてるもんね。

 しかも、背も高くて百八十センチ以上っぽいし。

 そりゃ、そんな人に肩車や高い高いをしてもらったら楽しいわ。


「ん? リアも興味あるか?」

「いえ、私は大丈夫です」


 私が三人を見つめていたから、誘われてしまった。

 いや、これでも精神年齢は余裕で成人してるので。

 あと、今世だけだとしても肩車や高い高いで喜ぶ歳じゃないんだよね。

 そんなふうに四人で楽しく歩いていると、雪月亭に着いた。


「あら、リアちゃん、アールくんおかえり!」

「ただいま帰りました」

「ただいまです!」

「ただいま!」


 迎えてくれたベランカさんに三人で挨拶をする。

 そして、リリーの事を紹介した。

 どこまで話すか悩んだけど、人化できる魔物だということだけ伝えてておいた。


「へぇ、珍しい子を仲間にしたもんだね。よろしくね、リリーちゃん」

「あい!」


 リリーの紹介が終わったところで、ベランカさんがバルツさんに気づく。


「まぁ、バルツ様どうなさったんですか?」

「この可愛い子らとギルドで会ってな。アールにもう少し話したいって誘われたからついて来たんだ」

「あらまぁ、バルツ様らしいですね。この子達の部屋でお話されるんですか?」

「おー、そのつもりだ」


 バルツさんがそう言うと、ベランカさんがごゆっくりと返した。

 話が終わったところで、数日前まで泊まっていた部屋に行く。

 中に入れば相変わらず綺麗で清掃の行き届いた状態だった。

 やっぱり、この雪月亭を選んでよかったな。

 アーテルとリリーに『クリーンアップ』を掛けて綺麗にしておく。


「綺麗になったからベッドに上がってもいいよ」

「はーい」

「あい」


 バルツさんには、椅子に座ることを勧めて私も自分のベッドに座った。


「ねぇ、バルツさんはどんなところに行ったことがあるの?」

「そうだな、この辺境領にあるダンジョンに行ったこともあるし、ウーアシュプルング大樹海の最深層に行ったこともあるぞ」

「すごいね! ぼくもダンジョンに行ってみたいな!」


 キラキラした目で話を聞くアーテルが本当に可愛い。

 バルツさんもアーテルの可愛さにやられているみたいで、嬉しそうな顔をしている。

 うん、私の弟は可愛いですよね!

 それにしても、結局ダンジョンには一度も行ったことがないままだな。

 レルスさん達と約束したけど、この状況じゃ無理だし。

 私が考え込んでいると、いつの間にかアーテルとバルツさんで盛り上がっていた。


「それなら、アールもダンジョンに行くか?」

「いいの?」

「ああ、近々行く予定があるからな。一緒に行けばいい」

「やったー!」


 ちょっとお待ちを。

 私が考え事してる間に、勝手に予定が決まりかけてる。


「ちょっと待ってください。アール、勝手に決めちゃダメでしょ。バルツさんもアールを唆さないでください」

「姉さま、ごめんなさい」

「唆すなんて人聞きが悪いぞ。こんなにワクワクした可愛い顔をされたら誘いたくなるだろ?」


 それは、否定できないけど。

 アーテルの頭を撫でながら考える。

 ダンジョンかー。行ってみたいけどどうなんだろう。

 目立つ目立たないもあるし、色んな場所から冒険者が来るんだよね。

 まぁ、辺境領の領都も同じようなものと言えばそれまでだけど。


「いつ頃、行くんですか?」

「三日後だな。なんだ、リアも興味があるのか?」

「はい、興味はあります。ただ色々と考えなくちゃいけない事が多いので」


 私がそう言うと、それもそうだなとバルツさんが頷いた。

 なんだかんだバルツさんは無理やり勧めたりしてこないし、こちらの事情を慮ってくれるんだよね。

 こういうところが大人で優しいなと思う。


「姉さま、ダメ? ぼく、行ってみたいなー」

「うぐっ」


 可愛い。自分の武器をよく理解してるな。

 アーテルのそのお願い顔は可愛すぎる。

 うーん、私も行ってみたいしな。行っても大丈夫かな?

 すごく難しい。

 私が考え込んでいると、アーテルがリリーにこそこそと何か言っていた。

 すると、リリーが私の方を向く。


「おねがいしまちゅ!」

「ね、リリーも行きたいって!」

「くくっ、どうするんだ?」


 いや、そこが結託するのはずるくない?

 リリーにまで可愛くお願いされたら、私ノックアウト寸前なんですが。

 しかも、他人事だと思ってバルツさんは笑ってるし。

 まぁ、一度は行ってみたかったから行くのもありかな。


「よし、行ってみよっか?」

「本当にいいの?」


 アーテルの問いに頷く。

 その瞬間、いい笑顔で喜び始めた。


「うれしい! やったー!」

「やったー!」


 素直に喜んでるアーテルが可愛いし、そのアーテルの真似をしてるリリーも可愛い。

 結論、うちの子は全員可愛い!


「なんだかんだ弟には甘いんだな」

「弟だけじゃなく、リリーにも甘いですよ。逆に聞きますけどあんなに可愛くお願いされて断れますか?」

「まぁ、それは分からなくもない」


 うん、私には無理です。

 あと、魔法やその他もろもろスキルがあるし、今まで頑張って練習したのも身についているから多少は何があっても大丈夫だと思ってる。


「何か取り立てて準備する物ってあります?」

「そうだなー。マジックバッグがあるならそこに水やら干し肉やらは入れておけ」

「はい」


 バルツさんの話を聞きながら脳内メモに書き留める。

 私のマジックバッグにもマジックドロワーにも水や干し肉は入ってるな。

 アーテル用のマジックバッグにも、その二つは入れておいたはず。後で確認しよう。


「他は、自分の武器は当たり前として、下級や中級の治癒や解毒ポーションは持っておくべきだ。それは治癒魔法が使えるとしてもな」

「はい。どちらも持っていますね。上級はいいんですか?」

「上級はそんな簡単に手に入らないからな。あと俺たちもいるし、リアもアールも強いから中級で足りないような怪我をする事はないだろ」


 そっか。

 そりゃ、重症、重体になる可能性は低いよね。

 中級治癒ポーションなら、骨折や重症より軽めの傷ぐらいは治せる。

 うん、それがあれば十分か。

 こうして、私達はバルツさんと一緒にダンジョンへ行く事になった。

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