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お昼ご飯と依頼の報酬

 そんなやりとりの後、マカレナさんから従魔登録の書類を渡される。

 名前と種族、必須ではないけど持っているスキルや得意な事を書く欄があった。

 私がリリーの名前と種族を書いたところで、バルツさんに止められた。


「ちょっと待ってくれ。スイートクイーンアントってどういう事だ?」

「そのままですよ。リリーの種族はスイートクイーンアント、スイートアントの女王です」


 バルツさん、アーメッドさん、マカレナさんの三人が動きを止める。

 あれ、思考停止した?

 いや、普通のスイートアントは人化出来ないから、すぐに納得してくれるって思ってたんだけど。


「あの、普通のスイートアントは人化出来ませんよね?」

「ああ」

「それなら、この子がスイートアントじゃないって知ってると思ってたんですけど」


 そう言うとバルツさんが何とも言えない顔をしながら、答えてくれた。


「いや、ごく稀に、すげーごく稀になんだがどの種族の魔物でも人化スキルを持って生まれることがある。だから、リリーもそのパターンだと思ってたんだ。まさか、こんな子供のスイートクイーンアントを従魔にしてるなんて思わないだろ」


 ああ、そういう事だったんだ。そっか、元々人化スキルを持っている種族じゃなくても、突然変異的な感じで人化スキルを持っている事があるんだね。

 それは、知らなかったな。

 この様子だと、スイートアントを従魔にできる事はあっても、スイートクイーンアントを従魔にできる事は本当に少ないみたい。

 はい、目立つ要素が増えました。

 でも、だからといってリリーを従魔にした事を後悔したりしないけど。

 もう、リリーはうちの子ですからね!

 アーテルなんて目に入れても痛くないレベルで可愛がってますから!


「そういう事だったんですね。やっぱりこちらで従魔登録をさせてもらえて良かったです」

「本当にな。受付でやってたら前以上にパーティーの勧誘が増えただろう。しかも、厄介な連中に目をつけられる可能性もあった」

「スイートアントの砂糖は高値で売れる。リリーの事はあまり話さない方がいい。もし、種族を言わないといけなくなってもスイートクイーンアントだとは言うな。スイートアントだと誤魔化しておけ。そうそうにそこを見抜ける奴はいないからな」

「はい、そうします。教えてくださってありがとうございます」


 私はそう言って頭を下げた。

 すると、またバルツさんに撫でられる。

 なんだろう。癖になったんですか?


「本当に面白い子だ。エルフがこんなにも素直なのは初めて見た。まぁ、こんな幼いエルフが保護者無しで人族の弟を連れて冒険者をやってる時点でおかしいんだが」

「訳ありっぽいですからね。本人達は聞かれても答えるつもりは無さそうですし」


 聞こえてますよー。

 というか、聞かせてるんですか?


「聞こえてます。そのあたりの事はそっとしておいて頂けると助かります」

「そうだな。隠し事の一つや二つ誰にだってあるもんだ」

「マカレナ、ギルドカードにはスイートアントと表記しておけ。その程度の違いは俺の許可でどうにかなる」

「ギルマス、いいんですか?」


 マカレナさんの問いにアーメッドさんが頷く。


「俺も許可するから大丈夫だ。面倒な連中に目をつけられる方が困るからな」

「分かりました。ギルドカードに記載される従魔の欄はそのようにしておきます」

「あっ」


 私が声を上げたので、三人の視線が私に集まる。


「どうした?」

「いや、あの、依頼の納品と報告もここでしていいですか?」

「何かあるのか?」

「スイートアントの砂糖と蜜、後はシロップもあるんですよね」


 そう言った瞬間、アーメッドさんとマカレナさんがアイコンタクトをしてマカレナさんが部屋を出た。


「ここでしていいぞ」

「ありがとうございます」

「マカレナにギルドカードを渡しているみたいだから、すぐに受けている依頼書を持って来るだろう。あと、あいつなら受けていない依頼でも納品できるものがあれば持って来そうだな」


 アーメッドさんの言う通り、戻ってきたマカレナさんは私が受けていないけど達成できるスイートアントの蜜とシロップの依頼書を持って来てくれていた。

 流石、優秀って有名なギルド職員だね。

 他の冒険者の人が言ってたもんな。

 すぐに、マジックバッグから出したように見せつつマジックドロワーから依頼の品を出す。


「デスパンサーの毛皮に牙。フォレストベアの毛皮と爪。後は、スイートアントの砂糖に蜜、そしてシロップですね」

「量が多いな。その依頼以外にも同じ品を納品するやつがあるか?」

「ええ、ありますよ。持って来ています」


 あれ、そんなに多かった?

 マカレナさんはすぐに、同じ条件の他の依頼を出してくれる。

 うん、出した量を全部捌けそう。

 そして、マカレナさんが手早く依頼の処理をしてくれた。

 なんだか、お手数をお掛けして申し訳ないな。

 そうだ、もうお昼が近いし、お昼ご飯をご馳走しよう!

 いい案を思い付いたので、すぐにそれを伝えた。


「お昼ご飯ですか?」

「はい! アーメッドさんが良いって言ってくれたらここで。ダメだったら外に出て食べましょう」

「ふふ、リアさんの料理はとても気になりますね。ギルマス、ここで食べさせて貰ってもいいですか?」

「まぁ、それはかまわんが、俺やバルツさんの分は無しか?」


 そっか。私達とマカレナさんだけで食べるのもおかしいよね。

 作り置きの料理は沢山あるし、お誘いしますか!


「もちろん、お二人の分もありますよ。もし良ければですが、食べますか?」

「俺は興味あるからな。貰うぞ」

「俺もですよ」

「じゃあ、用意しますね」


 何がいいかな?

 最初からお米はハードル高い?

 作り置きの中からどれを選ぶか悩む。


「なんでも大丈夫ですか? あと、お肉とお魚だとどっちがいいですか?」

「なんでも大丈夫ですよ。そうですね、私はお肉が食べたいです」

「俺も大丈夫だ。肉で頼む」

「なんでもいいぞ。あと、俺も肉が食べたい」


 三人ともお肉か。

 よし、オーク肉の生姜焼きを乗せた生姜焼き丼があるからそれを出そう!

 後は、お味噌汁とサラダを出せばいいかな。

 すぐに、マジックドロワーからその三種類を出して並べる。

 その様子を三人とも興味深そうに見ていた。


「はい、どうぞお召し上がりください!」

「美味しそうですね」

「食べた事の無い料理だな」

「これは、翡翠国の主食か?」


 バルツさんの質問に頷く。

 やっぱり、お米は知ってるんだ。

 でも、あんまり食べたことは無さそうだな。

 それぞれ、生姜焼き丼から食べ始めた。

 そして、男性二人は一口食べた瞬間、口に入れるスピードが上がった。


「美味しいですね。お肉の味付けが甘辛くてその下にある翡翠国の主食とよく合います」

「翡翠国の主食はお米って言うんですよ。皆さんのお口に合ったようで良かったです」


 私がそう言うとマカレナさんが二人を見て苦笑いしていた。


「はぁ、バルツさんもギルマスも少し行儀が悪いですね。もう少しゆっくり食べた方がいいですよ」

「んぐ、あー、美味い。そこまで腹が減ってるつもりは無かったんだが、食べ始めたら止まらなくてな」

「本当に美味いぞ。スープもサラダも食べたことねぇ味なのに美味くて驚いた」


 おお、全員に好評なんだ。

 やったね。別にこの国の人達の口に合わないって訳じゃなく、やっぱり広まってないだけなのかな。

 あっという間に三人は食べ終わった。

 ついでに私達も食べてたけど、三人の方が圧倒的に早い。


「さて、お仕事をしますか。リアさん、依頼のお支払いをしてもいいですか?」

「はい」


 私も食べ終わったので、マカレナさんの問いに頷く。

 そして、マカレナさんがお金の入った袋を持ってきてくれた。


「こちらが報酬です。ご確認ください」

「はい。なんだか、思ったよりも多い気が」

「ふふ、デスパンサーやフォレストベアの毛皮は元々高いですし、何よりスイートアントの砂糖は本当に人気で高値がつきますからね」


 そっと袋の中を確認する。

 大銀貨に小金貨、あれ金貨まで見える気が……。

 金貨って十万ペルで日本円だと百万円?

 えー! 嘘でしょ。どれだけ高いのスイートアントの砂糖!


「あの、金貨まで入ってるんですが……。スイートアントのお砂糖ってそんなに高いんですか?」

「ええ、少し前にスイートアントを従魔にしていた方が他国に行ってしまって。安定して入手する事が難しくなったので値段が上がっているんです」

「へぇ、その方はなんで他国に?」

「結婚したから相手の方の母国に行ったそうです」


 ああ、おめでたい話なのね。

 それは、引き止められないわ。

 でも、ここまで値段が上がるなんて。

 そんな事を考えていると、アーテルに話しかけられる。


「姉さま、この後はどうするの?」

「あー、雪月亭に行こうと思ってるけど、何かしたい事でもあった?」

「ぼく、バルツお兄さんともっとお話したい!」


 えっ? あれ、いつの間に仲良くなってたの?

 いや、まぁ、私がマカレナさんと話してる間、アーテルやリリーの相手をしてくれてるなとは思ってたけど。

 マジか。でも、色々助けて貰ったのに関わるのが嫌なんて失礼だよね。

 それに、ぶっちゃけ目の保養だし。

 言葉遣いが違ってもかっこいいんだよな。

 むしろ、今の方が似合ってる。


「お、嬉しいこと言ってくれるな。でも、お兄さんって歳じゃねぇからおじさんでいいぞ」


 そう言ってバルツさんは、アーテルの頭を撫で回す。

 そして、アーテルも嬉しそうに撫でられていた。

 やっぱり、子供が好きなのかな?

 ずっと思ってたけど、すごく面倒見がいいよね。


「じゃあ、もう少しお話ししていただけますか?」

「ああ、いいぞ。どこで話すんだ?」

「雪月亭の部屋を取っているのでそこででも大丈夫ですか?」

「了解。依頼のやつが終わったなら行くか」

「はい」


 こうして、私達はバルツさんを連れて雪月亭に向かうことになった。

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