辺境伯を連れてギルドへ
私達は辺境伯を、いや、バルツさんを連れたままギルドへ向かった。
エルフな私も目立つけど、黒髪赤目なイケおじも結構目立つ。
しかも、周りの人が話している内容を聞く限り、バルツさんが辺境伯だとみんな知っているみたい。
じゃあ、辺境伯が偽名を使って冒険者をしてるってこの辺りじゃ有名な話なのか。
で、みんなそれを言わないのが暗黙の了解的な?
「あら、バルツ様だわ」
「また若手の冒険者を心配して、ついて行っているのね」
「相変わらず優しいねぇ」
もしかして、私達のことを気にしてるのは若い冒険者だから?
いや、何かしらに勘づいている可能性もあるけど。
それ以前に、若手の冒険者を心配してついて行くことが前にもあったの?
あの、辺境伯の仕事は大丈夫なんですか? あと、部下の人が大変だろうな。
前から思ってたけど、やっぱり優しい人、いや、優しいヴァンパイアなんだね。
みんなで雑談をしつつ歩けば、すぐギルドに着いた。
後ろにバルツさんを連れたまま、ギルドに入ると視線が一気に集まる。
「あの子って、この前Bランクになった子だよな?」
「そうそう。弟の方も強くてみんな驚いたのよ」
「で、なんでその子達とバルツ様が一緒にいるんだ?」
「まだ、子供だから心配して付き添うつもりなんじゃねーの?」
「ああ、Sランクだと思えないバルツ様のいつものあれか」
「というか、もっとちっこい子が一人増えてね?」
「ほんとだ」
えっ、Sランクなの? まぁ、強そうだからAランクぐらいにはなってると思ってたけど。
でも、よく考えると当たり前か。
五百歳を超えてるヴァンパイアで、ウーアシュプルング大樹海に部下二人だけで向かうんだもんな。
そりゃ、Sランクでもおかしくないや。
あと、リリーの存在にすぐ気づかれた。
この状態で従魔登録の話をするの目立ちそうだな。
そんな、周りの人達の会話を聞きながら、マカレナさんがいる受付に行く。
「マカレナさん、おはようございます」
「おはようございます!」
「おはよー」
「リアさん、アーテルさん、おはようございます。そちらの子は初めましてですよね」
「はい。新しい家族のリリーです。この子の事もよろしくお願いします」
マカレナさんにリリーを紹介して、従魔登録の書類が欲しい事を伝える。
少し不思議そうな顔をされたが、すぐに取りに行ってくれた。
「お前さん、リリーが従魔な事をどう伝えるんだ? 普通に伝えたら門の時と同じく騒ぎになるぞ?」
「それは……。一応考えているんですが、あまりいい案が浮かばなくて」
そうなんだよね。書類に書いて見せれば良いかな? って思ってたけどやっぱり騒ぎになっちゃうかな?
マカレナさんならそのあたりの配慮はしてくれそうだけど。
「それなら俺に任せてみないか?」
「えっ」
「どうする?」
どうしよう。でも、さっきも門のところでフォローしてくれてたし、お願いしてみようかな。
「それじゃあ、お願いします」
「了解。マカレナ、ちょっとアーメッドに用があるからこの子ら連れて会いに行っていいか?」
「ええ、分かりました。今は来客もありませんし、バルツさんならそのまま部屋を訪ねて大丈夫ですよ」
「ありがとな。この子が頼んだ書類はそのままアーメッドの部屋に持ってきてくれ」
「はい」
おお、その方法があったか。
確かに、ギルドマスターの部屋で話したり見せたりするなら、そこまでの騒ぎにはならないよね。
ただ、これはSランクで辺境伯のバルツさんだからすぐにできる方法だけど。
「ありがとうございます」
「できるだけ目立ちたくないように見えたんでな。当たってるか?」
「はい。極力目立ちたくないですね」
「まぁ、その強さじゃどうしたって目立つと思うが、この程度で助けになるならいくらでも頼れ」
そう言ってバルツさんは私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
なんだか、久しぶりに頭を撫でられたな。
お父様はお母様が亡くなってからそんなふうに接してくれなかったし、マーサ達も立場上あんまりそういう事はできなかったから。
精神年齢は大人な筈なんだけど、なんだか嬉しくて、また懐かしくて、少しだけ涙ぐんでしまった。
「もー! 髪の毛がぐちゃぐちゃになるじゃないですか」
そう返したけど、少しだけ泣いてる声で返したからバルツさんには多分バレているだろう。
そんな会話をしながら部屋に向かい、ノックをして中に入る。
「今日はどうしたんですか? この子達を連れて俺の所に来るなんて」
「俺はあくまで保護者みたいなもんだよ。この子の従魔登録を受付でするには目立ちそうだったんでな。ちょっと協力しただけだ」
「従魔登録? 従魔となる魔物が見えないが……」
そう言ってアーメッドさんが周りを見て、リリーと目が合う。
そして、数秒考え込んだあと驚いた顔で私達の方を見た。
「俺の予想があってるなら、もしかしてこの女の子が従魔になるのか?」
「はい、そうです。人化できる魔物はなかなかいないので、受付でそれを言うと目立つかなって思って」
「目立つどころの騒ぎじゃないぞ。人化できる魔物ってのは魔族の末端みたいなもんだからな。従魔にできる機会なんてまずねぇし、話題になんのは間違いなしだ」
バルツさんの言葉に頷いて同意するアーメッドさん。
ですよねと私も頷く。
しかも、ウーアシュプルング大樹海の深層に近い中層まで行かないとまず会えない、スイートアント達の女王、スイートクイーンアントだし。
私達が何とも言えない空気でいると、そこにマカレナさんが書類とお茶を持って来てくれた。
「あれ? ギルマスどうしたんですか? 何とも言えない顔をしてますが」
「期待の新人が規格外すぎてな」
「規格外?」
二人して私達の方を見るので、一連の流れを説明をする。
マカレナさんは言いふらしたりしないだろうし、リリーの事を教えてもいいよね。
そして、私の話を聞いて納得したようだ。
「ふふ、良かったじゃないですか! 試験の時点で分かっていましたが、本当に優秀な子達って事なんですから」
「いや、優秀は優秀なんだが。本人達が目立ちたくないと言っているのに、この状況じゃ無理だと思ってな」
「あー、それは無理かもしれませんね」
やっぱり、マカレナさんからしても無理だと思うんだ。
うーん、目立ちたくないけどもう割り切るしかないのかな。
まぁ、セレスタイト王国の王都からは遠いし、ここで目立ってもすぐに伝わったりしないよね?
そう思いたい。
「まぁ、トラブルに巻き込まれたくないなら俺が後ろ盾になろう。さっき他の連中が話してたから知ってると思うが、これでも一応Sランクだ」
「バルツさんが後ろ盾なら大丈夫ですね」
「そうだな。バルツさんなら任せられる。うちの期待の新人をよろしくお願いします」
あれ? なんか勝手に決まってませんか?
うーん、守ってくれようとしてるみたいだから、断らない方が良いのかな。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
「します!」
「ああ、よろしくな」




