リリーを連れて領都へ
隠遁生活十六日目。
今日は、達成した依頼の報告のために領都へ行く。
なので朝ごはんは、ちゃちゃっとサンドイッチを作って、作り置きのトマトスープを用意した。
甘い物が大好きなリリーには、多めに作ったジャムのサンドイッチを渡す。
よし、朝ごはんが出来たし二人を起こしに行きますか。
アーテルとリリーは一緒のベッドで寝ている。
これは、本人達の希望で決まった。
アーテルからしたら、初めてできた妹みたいな存在だもんね。
そりゃ可愛いわ。
ヴァイスはアーテルの弟だけど同い歳で、どちらかといえば双子みたいなものなんだろうし。
「アーテル、リリー、朝だよ。起きて」
「うーん、姉さま、おはよう」
「はい、おはよう」
ベッドを覗くとアーテルに抱きしめられた状態で、リリーは寝ていた。
それ、寝苦しくないのかな? というか潰されでもしたら危ないんじゃ?
あー、でもアーテルは寝相がよくてあんまり動かないから大丈夫だと思いたい。
ただ、アーテルとリリーには二十何センチぐらいの身長差があるんだよね。
だから一応、アーテルに気をつけるように言っておこう。
それにしても、この光景可愛いなぁ。
出来るなら写真を撮りたい。
多分、カメラがあったら結構な時間写真を撮ってたわ。
「リリーも目が覚めたかな?」
「あい!」
朝の支度を終えた二人の前に朝ごはんを出す。
「はい、それじゃあ手を合わせて。いただきます」
「いただきます!」
「ましゅ!」
なんだかんだリリーも真似して言えてるんだよね。
言葉が遅いって聞いたけど、ほとんど困る事ないな。
「姉さま、美味しいよ!」
「おいちい!」
「良かった。ゆっくり食べてね」
私は先に食べていたので、この間に色んな雑用を済ませる。
さて、二人の朝食も終わったし出掛ける準備も必要ない。
なのでさっそく、外に出て領都に向かいますか。
家を出て『ワールドワープ』を使い領都の近くまで転移する。
「しゅごい!」
「うん、すごいよね」
ふふ、感心する二人が可愛い。
そこからは徒歩で領都に向かう。
ここで一つ問題が。
領都に入る門で私達はギルドカードを出せばいいんだけど、リリーはどうすればいいのか?
人化できる魔物ってそういないんだよね。
でも従魔登録は必要だし、一応リリーには従魔の証としてネックレスをかけさせている。
やっぱり、門で正直に言うか。
悩みながら進めば、あっという間に門に着いた。
「アールはいつも通りで、リリーは私の言う事をしっかり聞いてね」
「はーい」
「あい!」
列に並び待っていると、すぐに私達の番が来た。
「身分証の提示を」
「はい」
私とアーテルの身分証を出す。
すると、リリーの物も出すように言われた。
「実は、この子の身分証は無いんです」
「では、こちらの魔道具で確認を」
前の時と同じ魔道具を出されたので、リリーに魔力を注ぐよう説明する。
すると、すぐにやり方を理解したリリーが魔力を注ぐ。
もちろん、魔道具の色は変わらず犯罪歴がない事を証明した。
「あの、質問いいですか?」
「ええ、構いませんよ」
「従魔の場合、ここで申告が必要ですか?」
「はい。必要ですね。まだ、登録されていない従魔を連れて入る場合は、こちらで申告して許可証を発行する決まりです」
やっぱり、そういうルールがあるんだ。
さて、どうせ冒険者ギルドで登録する時にバレるんだし、だったらルール違反をしない方がいいよね。
「実はこの子、魔物なんです。なので、許可証を貰えますか?」
「えっ、え、いや、人、というか子ども」
「人化出来るんです」
「はっ、え、は」
警備隊の人は思考停止した。
えー、いや驚くだろうとは思ってたけどさ、思考停止されるレベルだとは……。
このままだと、話が進まないんですが。
騒ぎを聞きつけたのか、警備隊の上の人が出てきた。
そして、何故かその後ろに辺境伯がいる。
えっ? なんで、ここで会うの? 予想外すぎるんですが?
「何を騒いでいる」
「いや、その、あの」
「くくっ、まぁ、落ち着け。ほら、深呼吸してみろ」
「はっ、はい! すー、はー、すー、はー」
この警備隊の人、今喋ってる片方が辺境伯だって気がついてるのかな?
気がついたらまたびっくりしそう。
「で、何があったんだ?」
「そこにいる方の連れている子供が、魔物だと申告されて。人化出来る魔物を従魔にしているなんて、思ってもいなくて驚いてしまいました」
「ほぉ、人化出来る魔物か。お前さん、その従魔の人化を解くことは出来るのか?」
「ええ、出来ます」
まぁ、見せるのが一番早いよね。
家で一回、試したから出来るだろうし。
「リリー、元の姿に戻れる?」
「あい!」
返事をした瞬間にリリーはスイートクイーンアントの姿に戻った。
「種族はスイートアントか。規格外な従魔だな」
「ほ、本当に人化できるんですね」
「惚けてないで許可証を取ってきなさい」
「あっ、すみません!」
警備隊の上の人に言われた警備隊の人は、走って裏に消えていった。
辺境伯はすぐにスイートアントってわかったけど、本当はスイートクイーンアントなんですよね。
わざわざ、余計にびっくりされる事を言うつもりはないけど。
「今日は、領都で何をする予定なんだ?」
「あの、私達の予定を聞いてどうするんですか?」
「くくっ、質問に質問で返すなよー。じゃあ、俺も答えるから答えてくれ。この前、お前さん達に逃げられたからちゃんと話を聞きたくてな」
「冒険者ギルドで依頼の納品と報告をします。後は、宿に戻るぐらいしか決めていません」
「そうか。了解」
えっ、何が了解?
私達、辺境伯と話す予定は入れて無いんですが。
もしかして、強制的にお話するコースですか?
「あ、あの許可証です」
「ありがとうございます。お手数をお掛けしました」
「い、いえ。騒いでしまってすみません」
許可証を受け取り、小部屋を出て領都に入る。
リリーは面白かったのか、警備隊のお兄さんに手を振っていた。
お兄さんはぎこちない感じで、手を振り返している。
そして、後ろを見ると辺境伯がついて来ていた。
「どうしてついて来ているんですか?」
「お前さん達の仕事が終わるのを待とうと思ってな」
「はぁ。一つ言っておくと私達はまだ貴方の名前も、何をしている方かも知らないんですが」
そう辺境伯に伝えると、一瞬驚いた顔をしてから笑い始めた。
「ふっ、くくっ、そうだったな」
「はい」
「すまん。俺の名前はバルツ・メリオだ。お前さん達と同じ冒険者。ただ、色々あってこの辺境領だとちょっと特殊な立ち位置だけどな」
辺境伯の自己紹介を聞いて、ツッコミどころ満載じゃんと思う。
まず、私が言えることじゃ無いけど、偽名が安直すぎませんか?
シュバルツ・ヴァルメリオからバルツ・メリオって……。
あー、あの時も冒険者として振る舞っていたから、部下の人がバルツ様って呼んでいたんだね。
あと、特殊な立ち位置は本当の身分が辺境伯ってことか。
うわー、上手い濁し方するなぁ。
「前にも自己紹介をしましたが、私の名前はリアで弟の」
「アールです!」
「私はエルフで弟は人族です。そして、この子はリリー。従魔ですが私達の大切な家族です」
「丁寧な自己紹介をありがとな。これからよろしく頼む」
う、うん? この感じは積極的に交流するつもりって事かな?
いや、辺境伯はかっこいいし、優しい人だと思うから嫌いじゃないよ。
ただ、親しくすると私達がマグノリアとアーテルだと気づきかねないじゃん。
というか、もう何か疑ってるのかもしれないけど。
だから、関わるのはちょっとって思っていたのに、関わる事になりそうですね。




