初めての従魔
翌朝、目覚めるといつもと違う景色に驚く。
あっ、そうだ。
女王様に勧められて、スイートアントの巣に泊まったんだった。
実は、マジックハウスの中にあった予備のベッドをマジックドロワーに入れてたから、それをこの部屋で出してそこで寝たんだ。
「うーん、昨日は楽しかったな」
女王様がお砂糖などを沢山分けてくれたので、それを使って作った料理を振る舞った。
女王様も他のスイートアント達も、人族の料理を食べるのは平気らしくとても喜んでくれたんだ。
ついでに、買っていた果物と貰ったお砂糖でジャムを作りこれもおすそわけする。
すると、これにも喜んでくれてまたもやお砂糖に蜜やシロップを追加で貰ってしまった。
「流石に、貰い過ぎな気がするんだよね」
一人でそんなふうに呟いていると、アーテルが部屋に戻ってきた。
今日は私より早起きだったんだね。
この様子だと、この巣の中をまた探検してたな。
「姉さま、おはようー」
「アール、おはよう」
アーテルと挨拶をしていると、アーテルの後ろから小さな二、三歳ぐらいの子供が顔を出す。
「えっ、アール、その子は?」
「ぼくのお友達だよ!」
いや、それも合ってるんだろうけど、そうじゃなくて!
私が動揺していると、そこに女王様がやって来た。
「リアさん、アールくん、おはようございます」
「あっ、おはようございます」
「おはようございます!」
ちなみに今更だけど、女王様は黒髪ロングに黒い瞳の凄い美人です。
そういえばこの子、女王様に似てる?
もしかして、次期女王?
「あら、ここにいたのね。ふふ、アールくんその子の相手をしてくれてありがとう」
「あの、この子は?」
「私の娘で女王になれる子達の中で、一番下の子なの。けれど、この子が誰かに懐くなんて珍しいわ」
くりくりおめめのその子はとても可愛い。
私はその子に近づいて、そっと頭を撫でた。
「きゃっきゃっ」
ふふ、喜んでくれたみたい。
女王様は私達のその様子を見ながら、何かを考え込んでいる。
どうしたんだろう?
「リアさん」
「はい」
「無理なお願いかもしれないのですが」
女王様はそこで言い淀む。
「無理かどうかは聞いてみないと分からないので、何を頼もうとしているか教えてもらえますか?」
「そうですよね。あの、その子をリアさんの従魔にして頂きたいんです」
「えっ、理由をお聞きしても?」
私の質問に女王様が答える。
女王様曰く、この子は他の子達に比べ成長が遅くてこのままだと独り立ちしてもすぐに死んでしまうかもしれない。
であれば、この二日で信頼できると思えた私に託した方が生存する可能性が高いだろうと。
そう考えたらしい。
うーん、でもこの子はお母さんの傍に居たいんじゃないかな?
それを女王様に伝える。
「それは大丈夫でしょう。普段も世話は私以外のスイートアントがしていますから」
「本当に良いんですか?」
「私としては、ひとりでも多くの子に生き残って欲しいのです。だから、お願いします」
「分かりました。でも、その前にこの子に聞いてそれでいいと答えたら私達の家族として迎え入れます」
私がそう言うと女王様はしっかり頷いた。
アーテルの後ろから出てきた、その子の前にしゃがみ話しかける。
「私とここにいるお兄ちゃん、この二人についてくる? お母さんや他の子達と離れちゃうけどそれでも大丈夫?」
「……あい!」
少し考えた後、元気よく返事をしてくれた。
本当に良いのか。
それじゃあ、名前をつけて契約を交わそう。
こういう時に、契約魔法スキルを持っていて良かったなと思う。
さて、名前。名前ねぇ。
女王様やこの子を見て連想したのは、美しい黒百合だった。
でも、ブラックリリーは長いしな。
よし、リリーにしよう!
「貴方の名前はリリー。美しい黒百合のように育ってね」
名前をつけてリリーの魔力に私の魔力を混ぜる。
そして、契約魔法使えば契約完了だ。
『コントラクト』
こうして、私は初めての従魔にスイートクイーンアントのリリーを迎えた。
契約が完了したので、もう一度リリーの頭を撫でる。
「これからよろしくね、リリー」
「よろしく!」
私とアーテルがそう言うと、リリーがにっこりと笑顔で返事を返してくれた。
「リアさん、アールくん、その子を、リリーをよろしくお願いします」
「はい! もう私達の大切な家族なので安心してください。もちろん、リリーのお母さんである女王様や他の子達も私達の家族ですよ」
「ふふ、ありがとう。これからいつでも訪ねてきてくださいね」
「はい、こちらこそありがとうございます」
そう言ってくれた女王様に見送られ、私達は巣を後にした。
巣から離れた所で『ワールドワープ』を使い家に帰る。
一応、リリーには教えたけれど思った以上に景色が変わってびっくりしていた。
可愛いなぁ。
アーテルも突然できた友達兼妹にテンションが上がりっぱなしだ。
「ここが私達の家だよ」
「リリーはぼく達と家族になったから、リリーのお家でもあるんだよ!」
「あい!」
アーテルが嬉しそうに教えている。
みんなで家の中に入り、アーテルがリリーを案内している間にリリーのステータスを確認する。
リリー
種族︰スイートクイーンアント
年齢︰1
魔力︰5
状態異常︰なし
基礎属性
火︰3 水︰1 風︰3 地︰5
特殊属性
樹︰2
スキル
眷属︰5 眷属生成︰3 人化︰5
地魔法︰5 採取︰3 加工︰2
砂糖精製︰2 糖魔変換︰5
称号
マグノリア・アウイナイトの従魔
基礎属性は光属性と闇属性と無属性が無いのか。
気になった眷族生成スキルは、普通のスイートアントを生み出すスキルかな。
そして、何よりまだ一歳なのね。
やっぱり、魔物だから成長が早いな。
女王様曰く言葉の方が少し遅めだって言ってたけど、私達の言ってる事は分かってるみたいだし、返事も出来るから大丈夫だと思う。
「姉さま、ぼくお腹減った。お昼ご飯を食べたいな」
「あっ、そうだね。もうそんな時間か」
女王様に聞いたら、リリーも普通に私達と同じ物を食べられるそうなのでリリーの分もまとめて作る。
従魔になったら私の魔力をエネルギーにするから、そこまで食事は必要ないらしいけどやっぱり一緒に食べたいよね。
さて、お昼ご飯は何を作ろうかな?
「アーテルは何を食べたい?」
あっ、ちゃんとリリーには私達の名前がマグノリアとアーテルだという事を伝えている。
あと、外ではリアとアールって呼ぶし名乗るって事も教えた。
ちゃんと頷いていたので、分かってくれたみたい。
「ぼくはねー、スイートアントさん達が作った蜜を使ったお料理が食べたい!」
「ほう、蜜ね。あれ、味は蜂蜜とほぼ同じだったんだよね。よし、決まった。ホットケーキを作るよー」
「はーい!」
小麦粉に卵と牛乳、この世界にもあって良かったベーキングパウダーと砂糖を用意する。
この世界のベーキングパウダーは、ベーキングの実から作られている粉。
これって、原作にも出てきたアイテムなんだよね。
これが無いと膨らまないから、ベーキングの実の存在はとてもありがたい。
もちろん、砂糖はスイートアント製のやつ。
後は、順番にダマにならないように混ぜて焼くだけ。
温めたフライパンにバターを落として、溶けるまで待つ。
溶けたバターをフライパンにいきわたらせたら、生地を流し込む。
プツプツなるまで待ってひっくり返す。
そして、火が通れば完成。
「よし、出来た!」
「いい匂い!」
完成したホットケーキにバターを落として、蜜をかける。
「はい、どうぞ」
「いただきます!」
「リリーもどうぞ」
「あい!」
黙々と、美味しそうに食べてる二人にほっこりする。
それでは、私も食べますか。
「いただきます」
ナイフで切り分けて一口。
ふわっふわの生地から優しい甘さが広がり、そこにバターの塩気と蜜の濃厚な味わいが混ざる。
これは美味しい! 本当にスイートアントの砂糖や蜜は美味しすぎます。
こうして、この日は三人でお喋りをしたり、ちょっとした作業をして楽しい時間を過ごした。




