スイートアントと交流
蟻の魔物が出てきます。
虫が苦手な方、お気をつけください。
アーテルと話していると、周りに敵意のない気配を複数感じた。
なので、見回して気配の正体を探る。
「ギギギッ」
あれ、もしかしてお目当てのスイートアントさんですか?
少し離れた場所でそこに生えているシュガープラントに齧り付く、とても大きな蟻を見つけた。
その奥にも何匹かいるな。
「あれが、スイートアント?」
「うん、鑑定でそう出たからそうみたいだね」
一応、図鑑で説明を読んだから知ってはいたけど大きいな。
今まで、色んな魔物を見たけど動物系がほとんどで虫系を見た事が無かった。別に虫は苦手じゃないけど、流石にこの大きさの虫は初見だとちょっとビビるね。
「交渉ってどうすればいいんだろう?」
「むずかしいね」
二人で首を傾げながらスイートアントを観察する。
考えた末に、マジックドロワーから果物を複数出して敷物の上に並べた。
すると、何匹かのスイートアントがこちらに近づいてくる。
「ギギ、ギギギ?」
「ギー、ギギッ」
なんだか相談をしているようだ。
その中の一匹が私の目の前に来て、鳴きはじめた。
「ギギ、ギギギッ?」
「えっと、ごめんね。何を言ってるかは分からないんだ」
「ギー」
うん、今のは伝わった。
この子、ため息をついたな。
いや、従魔術師じゃないからこの子達の言葉を理解するのは難しいんだよと心の中で言い訳をする。
あの言語理解スキルは、対人族や亜人族系のみ対応なんだろうか。
それとも、スキルレベルが足りないかのどちらかなのかな。
ただ、今のやり取りを考えると人間の言葉は伝わるみたいなので、そこにある果物は君たちにあげるために置いたという事を伝える。
「そこに置いてある果物は持って行っていいよ。その代わり貴方たちが作っているお砂糖を少し分けて貰えませんか?」
「ギギギ」
「ギー、ギギ?」
「ギギギ!」
私の言葉を聞いて果物を確認し、三匹で相談をし始めた。
うん、全然わからん。
「ギー、ギギギ」
一匹が果物を咥え、私達に背を向ける。
そして、他の二匹も同じように続く。
それを見守っていたら、三匹が振り返って鳴きはじめた。
「ギギギッ」
「ギギッ」
「ギー」
うーん、これはついて来いって事であってるんだろうか?
それしかないかな。
アーテルを見ると、アーテルも私を見ていて二人でアイコンタクトをとる。
結果、ついて行くことに決めた。
「行ってみよっか?」
「うん」
こうして、その子達について行くとしばらく歩いた辺りで周りにスイートアントがよく現れ始めた。
やっぱり、巣が近いのかな。
ちょこちょこすれ違うスイートアント同士で会話をしつつ進んでいく。
三匹が止まるとその前に大きな穴があった。
「ここが巣なのかな?」
「みたいだね」
二匹が穴に入り、一匹は私達と一緒に待っている。
そして、横を何匹ものスイートアントが通り過ぎていった。
「いっぱいいるね」
「そうだね。スイートアントのお家だから、帰ってきてるんだと思うよ」
「そっか!」
少し経つと入っていった二匹だと思われる子達が出てきて、私達の背中を優しく押す。
「入ってもいいの?」
「ギギ」
「これは良いってことかな?」
「うん、ぼくもそう思う」
三匹の後に続いて穴の中に入る。
入り口はスイートアントが二匹すれ違えるくらいだったけど、中は広かった。
そして、三匹はどんどん下へ向かって行く。
「広いね」
「うん!」
いくつも部屋があってその中には壺が沢山置いてある。
あの中に花の蜜や樹液、作った砂糖を入れているんだよね。それにしてもすごい数だ。
どんどん奥に進むと、とても広くて大きな部屋に出た。
「おー、広い」
「姉さま、あそこ!」
アーテルが指さした方向を見ると王座の椅子みたいな物があって、その椅子に女性が座っていた。
「えっ、人?」
思わずそう呟いてしまった。
すると、その女性が私達の方を向いて微笑んだ。
「こんにちは、冒険者の方」
「こ、こんにちは」
「こんにちは!」
人の姿をしているだけあって普通に人の言葉を喋れるみたいだ。
意思疎通がちゃんと出来そうで安心した。
「初めまして。私はここにいるスイートアント達の女王。全員の母ですね。お二人は私達が作る砂糖を求めていらっしゃるとか?」
「初めまして。はい、依頼で必要なので分けていただけるか交渉するために来ました。先程渡した物以外にも果物はあるので、交換して頂けませんか?」
「ええ、構いませんよ」
そう女王様が言った後、女王様は他のスイートアントに話しかける。
すると、そのスイートアントは別の部屋に行った。
「今、取りに行かせたので少々お待ち下さい」
「はい。ありがとうございます」
「先程からそわそわしているようですが、なにか気になる事でも?」
「あの、聞いていいのか分からないのですが、女王様はどうして人の姿なんですか?」
私がずっと気になっていた事を聞くと女王様は少し驚いた顔をした後、微笑みながら答えてくれた。
「ふふ、エルフだからご存知なのかと思っていました。私が人の姿をしているのはそういうスキルを持っているからです。私達、スイートアントの女王は人族などと交流をするようになってから、人化のスキルを持って生まれるようになったのですよ」
「へぇ、凄いですね。必要に応じて進化しているんだ」
私が感心していると微笑ましいものを見るような目で見られた。
「あっ、さっき案内してくれた子達にありがとうと伝えて貰えますか?」
「ええ、分かりました。それにしても私達は魔物、まぁ、私の分類は魔族に近いですが。そんな者達を相手にしているのに平然としていますね?」
あー、なんて言うか敵意がなければそこまで警戒しないんだよね。
敵意は些細なものでもすぐに分かるから、それも感じないのに警戒する必要ないよねって思っちゃうし。
何より、取引相手を無駄に不快にさせる必要はないと思うんだ。
「襲ってくるならば敵ですが、友好的な関係を築ける相手におかしな態度で接するのは失礼だと思うので」
「珍しい方。エルフ族によくある傲慢さも無ければ、人族特有の魔物に対する偏見もない」
め、珍しいかな? 女王様は話せるし、話せないあの子達だって一生懸命伝えてくれた。
それなのに、魔物だと決めつけてそんな態度をとるなんて馬鹿らしい。
慣れればスイートアント達は可愛いし。
「多分ですが、先祖返りだからだと思います」
「それはまた、珍しい。では、そこにいらっしゃる方も?」
「はい。私の弟で闇の精霊の先祖返りです。でも、偽装を掛けているのによく分かりましたね」
「魔力の質が人族とは少し違うように感じたので」
流石Aランク。多分、女王様は凄く強い。
私と女王様が話していると、突然アーテルが手を挙げた。
「はい!」
「アール、どうしたの?」
「女王様に質問があります!」
「ふふ、どうしました?」
アーテルは、なんだかワクワクした顔をしている。
何を聞くんだろう。
「このお家の中を探検してもいいですか?」
「えっ、アール? アールさん?」
「構いませんよ。危ない場所はほとんど無いと思いますが気をつけてくださいね」
えっ、しかも許可が出てしまった。
「姉さま、行ってきまーす!」
「あっ、ちょっと。もう行っちゃった。本当にいいんですか?」
「大丈夫ですよ。彼はイタズラをしたりするようには見えませんし、蜜の壺を壊したりされなければ巣の中を見て回るくらい構いません」
「すみません。そして、ありがとうございます」
女王様はずっと、微笑ましいものを見守る感じで笑っている。
「そう言えばお二人の名前を聞いていませんでしたね」
「あっ、私はリアで弟はアールです」
「リアさん、私は名前を持っていないので先程のように呼んでいただければ」
「はい」
そうか、魔物は名前を持っていないんだった。
魔物で名前があるのは、従魔術師などの従魔だったり、魔族などから名ずけられた者だけって魔物図鑑で読んだ事がある。
女王様と二人で話していると他のスイートアント達がやって来た。
その、スイートアント達は大きな顎に壺を咥えている。
「これが、砂糖でこちらが蟻蜜とシロップです」
「こんなにも持ってくれるなんて。本当にありがとうございます。じゃあ、私も果物を出しますね」
私はまた敷物を敷いて、その上にこの前買った果物を並べていく。
スイートアントの砂糖も蜜もシロップもとても高価だし、釣り合うようにしなくちゃ申し訳ないよね。
「リ、リアさん。出しすぎでは?」
「でも、スイートアントさんの作る物って高いんですよ。それをこんなに沢山頂くのに対価が釣り合ってないのは私が許せないので」
「ふふ、本当に面白くて珍しい方」
こうして私達は果物と、沢山のお砂糖に蜜、メープルシロップのようなシロップを交換した。
その後、私達は女王様に勧められるままスイートアントの巣に泊まることになったんだ。




