血樹と花畑
翌朝。
気持ちのいい目覚めで、朝から幸先がいいな。
まだ、受けた依頼が残ってるから今日はそれを頑張ろう。
それじゃあ朝ごはんを作りますか。
「ご飯はマジックドロワーの中に炊いたやつが残ってたよね」
だから、作るのはおかずだけ。
さー、何を作ろっかなぁ。
あ、玉子焼きが食べたい。
そう思ってすぐに玉子焼きを作り始める。
卵を割って解きほぐし、そこに砂糖と少しの塩、醤油と昆布出汁も入れる。
後は、隠し味にマヨネーズを少々。
それを焼けば、玉子焼きの完成。
ちなみに、玉子焼き用のフライパンもジャーダ商会で売っていた。
あのお店には本当に助けられてます。ありがたや、ありがたや。
他には、焼いた塩鮭とお味噌汁を作った。
おお、今日も美味しそうな朝食だね!
「アーテル、朝ごはんだよ」
「はーい」
「いただきます」
「はい、いただきます!」
まずは、お味噌汁。
今日の具は玉ねぎとじゃがいも。
私、このふたつを入れたお味噌汁が大好きなんだよね。
あー、出汁が効いてて美味しい。ホッとする味だ。
次は、塩鮭かな。ついでにアーテルのやつも解しておく。
アーテルもお箸を使いたいみたいで少し前から練習してる。
手先が器用だからもう少しすれば全部自分で出来そうなレベル。
塩鮭を一口食べると鮭の旨みと塩気がすごくマッチ。これはご飯が進むね。
そして、急に食べたくなって作った玉子焼き。
出汁とマヨネーズを入れてるからふっくらとした食感、そこに玉子の甘みと出汁の旨みが合わさってこれも美味しい。
やっぱり、和食っていいな。
そう考えたけど中華も洋食も大好きだったわ。
朝食を食べ終えたら出掛ける準備をする。
「準備出来た人ー?」
「はーい」
いいお返事が聞こえたところで、出発しますか。
残る依頼は、フォレストベアの素材とスイートアントの砂糖。
スイートアントがどんな魔物か知らなかったから、メラン様の隠し部屋から持って来た魔物図鑑で調べた。
スイートアント
人間に敵意を持つ事がほとんど無い蟻の魔物。
ただし、先に人間が攻撃をした場合はその限りではない。
体長は一メートルから、一メートル五十センチ前後。
花の蜜や木の樹液を集め、巣の中に地魔法で壺を作りそこに貯めるという習性がある。
また、シュガープラントの樹液を集め、それに火魔法と風魔法を併用して使い砂糖を作る。
その砂糖は、旨みが強くとても美味しいので高値で取り引きされている。
その為、従魔としてとても人気だが主な生息地がウーアシュプルング大樹海の中層以降なため、従魔にしている者は少ない。
スイートアントは糖分を魔力に変換するスキルを持っている為、このような習性になったと推測される。
スイートアントと友好的な関係になりたい時は、果物などの甘い物を渡す事。
そこでお眼鏡にかなえば巣の中に案内し、砂糖やシロップを分けてくれるだろう。
っていう魔物なんだってさ。
うん、流石異世界面白い。
たまたま昨日ジャーダ商会で果物を買っているし、交渉できるかな?
ちなみにランクはA。集団で攻撃してくる上に、魔法も使えるからとっても強いって書いてあった。
強いのに敵意を持たないってすごいよね。
いや、むしろ強いからこそ余裕があるのか。
今日の目的をアーテルに伝えて、ウーアシュプルング大樹海の中を進む。
「フォレストベアはどうするの?」
「うーん、スイートアントを探してる間に見つかると思う。それを倒せばいいんじゃないかな?」
「分かった!」
たぶんスイートアントを見つける方が大変そうだし。
さて、今回は中層でも西側の方に向かう事にした。
そのまま、ウーアシュプルング大樹海を突っ切ればエレスチャル魔王国に辿り着く。
そこまで行くつもりは無いけど、一度は行ってみたい国なんだよね。
主に魔族が住んでいて、獣人族やエルフ族も多くいる国。
争いは少なく協力しあっていると聞いた。
聞きかじった内容的にはとてもいい国だよね。
やっぱり人族の国だと、他種族への偏見がどうしても少しはあるから。
そんな事を考えていると簡単にフォレストベアが見つかった。
「いや、早いな」
「姉さま、ぼくも戦っていい?」
「いいよ。気をつけてね」
一体のフォレストベアをアーテルに任せて、残りの二体を私が相手する。
まずは、片方の動きを止めよう。
『ブッシュバインド』
樹属性の魔法で低木が現れて、片方のフォレストベアを縛る。
よし、これで片方に専念できるな。
もう一体が爪を振り回して迫ってくるのを躱す。
「これでも身体能力は高い方なんでね!」
たまには格闘術も使った方が良いかな?
そう考えて、『身体強化』を掛けてフォレストベアに蹴りを入れた。
そのままよろけたフォレストベアの首を魔力を多めに纏わせた足でもう一度蹴る。
フォレストベアは倒れ込み、首が折れて息絶えていた。
「よし、身体強化を使ったら格闘術もそれなりに使えるな」
次は、もう一体を『ウォーターロック』に閉じ込めて倒す。
うん、ほとんど傷をつけなかったから目的の毛皮は十分な量が取れそう。
私が二体をマジックドロワーにしまうと、ちょうどアーテルも倒し終わったところだった。
「終わったよー」
「おー、上手く首を斬ったんだね」
「うん、これなら毛皮を綺麗に取れるでしょ」
「助かるよ。ありがと」
アーテルの倒したフォレストベアもしまって、スイートアント探しに戻る。
さて、どの辺にいるのかな。
もう少し、中層の奥に行こうか。
ついでに『ビジョンワープ』で色んな所を見ていると、少し離れた場所に血樹と精霊樹を見つけた。
精霊樹の周りには花が沢山咲いていて、しかも近くにシュガープラントも生えている。
お、ここならスイートアントが来そうだ。
アーテルと一緒に『ワールドワープ』でその場所に向かった。
「姉さま、きれいだねぇ」
「うん、いい景色だね」
沢山の花が精霊樹の下で咲き誇り、とても美しい景色が広がっていた。
しかも、そこにある花々の中に薬草がいくつもあったので景色を損なわない程度に採取させてもらう。
そして、近くにある血樹の樹液も調合のアーツを使って採取する。
『エクストラクション』
対象から目的の物を抽出するアーツだ。これ、すごく便利。
ちなみに血樹とは真っ赤な木で、樹液が血液に似た成分を持っている。
その為、樹液は増血剤などの薬に使われる素材なんだ。
そして、現在はヴァンパイアの食事である血の代用品としても重宝され、血樹の樹液を使った薬を利用しているヴァンパイアは多い。
これも、ウーアシュプルング大樹海の中層以降に多いからそんなに流通しないんだよね。
ただ、ヴァンパイアが多いエレスチャル魔王国では育ててるって聞いた事がある。
「姉さま、ここでお弁当食べようよ」
「そうだね、そうしよっか」
花が少ない場所に敷物を敷いて、二人で楽しくお弁当を食べる。
本日のお弁当、メインディッシュは野菜をオーク肉で巻いた甘辛い味の肉巻き巻き。
後はブロッコリーを茹でたものをマヨネーズで和えた物と、梅干しと肉味噌のおにぎり。
そして、朝の残りのお味噌汁をマジックドロワーから出した。
肉巻き巻きって美味しいよね。
食べ終わったら、少しだけここで休憩する事にした。




