再会は突然に
私もアーテルも、転移した場所で無属性の『身体強化』を掛けて大地を駆け抜ける。
アーテルがついてこられるか心配したけど、大丈夫みたいだね。
昨日の試験の時、アーテルは予想以上に身体能力が高かった。
元々の素質か、はたまた精霊の種族特性か。
その上、魔法も上手く使いこなせてたし、これなら魔物と戦闘になってもそこまで心配しなくて良いのかな?
もちろん危ない時は絶対に守るつもりだけど、もし想定外の事があった時にアーテル自身が戦えないのも困るし。
何よりレルスさん達が私に言ってたけど、いざって時にちゃんと動けるかどうかは、とても重要な事だから。
まぁ、結界魔法の魔道具は常に付けてるし、本人も強いから戦ったとしても大丈夫だよね。
ちなみに、昨日の内に魔道具の設定を少し変えた。
剣術が得意みたいだから、敵が近づいた時に魔法が展開されるのは邪魔だと思って、攻撃を受けた瞬間に展開されるように作り替えたんだ。
ついでに、魔力を注ぐだけで治癒魔法を発動できる機能もつけた。
アーテルは、闇の精霊だから光属性を持っていないんだよね。
「ねぇ、アーテル」
「うん? 姉さまどうしたの?」
「もしかして、アーテルも戦いたい?」
私がそう言った瞬間、目を輝かせる。
「うん! ぼく、戦いたい!」
「危ない事は分かってるよね」
「分かってる。もちろんゆだんもしないよ。だって、トレランツ先生にそう教わったもん」
あー、そうだ。剣術だから教えてたのはトレランツさんか。
だったら、油断したり相手を舐めてかかる危うさは教え込まれてるよね。
そこは、私もしっかり教えられたし。
「そっか。それなら、戦ってもいいよ。ただし、本当に気をつけて。後、結界魔法のペンダントは外さない事。危なくなったら逃げる事。約束だよ?」
「はい! 約束します! 姉さま、ありがとう!」
こうして、喋りながら走っているとあっという間にデスパンサーの群れに追いついた。
デスパンサーは人の気配が多い方にむかっていたみたいだけど、私達に気がついたようで標的をこちらに変える。
「好都合。あっちに行かれる方が困るからね」
現時点で想定していた以上に、外層の中間から外側に近い辺りにいるし。
これ以上、辺境領に近づいて欲しくない。
周りを見回してデスパンサーの数を確認する。
「大体、二十体はいるかな。アーテル、無理はしなくていいから遠慮せず力を使って、倒せるだけ倒していいよ」
「本当? やったー! ぼく、頑張るね」
「頑張って! それじゃあ、私も始めますか」
私とアーテルは背中合わせで、囲んできたデスパンサーを相手する。
「姉さま、この辺こおらせてもいい?」
「いいよ。昨日みたいにするんでしょ?」
「うん。すべるから気をつけてね」
私は了解と答えて、自分の靴に『アーススパイク』を掛けた。
咄嗟に昨日のアーテルを真似したけど、しっかり踏み込めるしいい感じ。
アーテルが『アイスフィールド』を使うと、結構な範囲が凍りつく。
これは、昨日より込める魔力を増やしたな。
そのまま、昨日と同じように靴に地属性で刃を付けて駆け出して、デスパンサーに斬り掛かる。
「じゃあ、私も『アースアロー』」
土の矢がデスパンサーに、襲いかかり貫く。
二体撃破、次は普通に弓を使って一体の額を射抜く。
この間に、アーテルは三体の首を落としていた。
「何を使おうかな〜。よし『ウィンドショット』」
空気の弾を何体かにぶつければ、衝撃で息絶える。
これで、七体。
ちょっと、面倒くさくなってきたな。
「アーテル、もう終わらせたいからちょっと避けてられる?」
「はーい」
アーテルも計七体を倒して満足したようだ。
残り、十体。あれ? 何体か増えたな。
さて、何で倒そうか。
『ウォーターロック』
大きな水の玉を作って、その中に残りのデスパンサーを閉じ込めた。
その状態で少し待てば、デスパンサー達は呼吸が出来ず息絶えていく。
「よし、終わった」
その時、背後で人の足音が複数聞こえた。
「これはいったい、どういう事だ?」
振り返るとそこにはヴァルメリオ辺境伯と、あの時に見た部下の人が二人いて、私達を驚いた表情で見ている。
あっ、戦うのに夢中になって魔力察知と気配察知、マップを見るの疎かにしてた……。
あちゃー、これはやらかしたな。
「これは、お前さん達が倒したのか?」
「えっと、はい、そうです」
「名前は?」
「私はリアで、この子は弟の」
「アールです!」
元気よく答えるアーテル。
あれ、なんだか辺境伯の喋り方に少しだけ違和感がある。
もしかして、あの時の喋り方は対貴族用のものだったのかな。
それにしても、相変わらずかっこいい。
いや、今はそんな事考えてる場合じゃなかった。
「質問ばかりですまんが、もしかしてリアとアールは冒険者か?」
「はい」
「冒険者です!」
「ランクは?」
「えっと……」
「Bランクだよ!」
アーテルは私が言い淀んだところまで全部答えていく。
うん、この歳の子供達がそのランクおかしいから、言うの悩んだんだけどね。
まぁ、どうせ辺境領の領都で活動するから濁してもすぐバレるだろうけど。
「バルツ様、この歳でそのランクは流石におかしいのでは?」
「ああ、だが実際デスパンサーをこれだけ倒しているからな」
「それは俺も思った。この子達、隠してるみたいだけど結構実力ありますよ」
二人の部下の人と小声で話す辺境伯。
いや、身体能力が高いんでそれ聞こえるんですよね。
丁寧な口調の銀髪ロングの眼鏡をかけてるお兄さんは疑ってる感じで、ちょっとチャラそうなオレンジ短髪のお兄さんは私達の実力を見抜いてる感じか。
これは、どうしましょう?
「あの、鮮度が落ちるのでデスパンサーをマジックバッグにしまっていいですか?」
「うん? ああ。いいぞ」
「アール、手伝って」
アーテルに手伝って貰いながら、マジックバッグに入れるふりをしてマジックドロワーにしまう。
よし、全部回収完了。
「それじゃあ、私達は失礼しますね」
「いや、待ってくれ。もう少し話を」
「すみません。ちょっと、急いでるので!」
そう言ってアーテルと一緒に駆け出す。
また『身体強化』を使って、結構な距離を稼いでから時空間魔法で家に戻った。
「ふー、びっくりした」
「ふふ、楽しかったね」
私は、流石にあの状況を楽しむのは無理だったな。
色んな意味でドキドキし過ぎて。
まぁ、楽しいってにこにこしてるアーテルは可愛いんだけどね。
それにしても、辺境伯は私に気がついたんだろうか?
いや、会ったのはあの一度きりだし、いくら私がエルフでも亡くなったと思われてるマグノリアをリアと直ぐに同一人物だと疑ったりしないよね。
一旦、それは置いておくかな。考えても仕方ないし。
「そうだ、アーテル。梅干し食べてみる?」
「いいの? 食べたい!」
箸を使って壺から一粒取り出し、アーテルの口の中に放り込む。
「はい、あーん」
「あーん。んんん!」
噛んだ瞬間に思いっきり酸っぱさを感じたんだろう。
酸っぱそうに顔を顰めている。
「ふふ、どう? 美味しい?」
「しゅっごく、しゅっぱい」
ふふ、可愛い。私の狙い通りですね。
まぁ、そのまま食べるのが苦手でも梅のドリンクやドレッシングとか、キュウリと和えたりとか色々できるから。
「どう? 梅干し嫌いかな?」
「ううん、びっくりしたけど美味しかった」
「ほんと? それならまたあげるね」
嬉しそうに頷くアーテル。
おー、苦手じゃないんだ。
今のところアーテルに嫌いな食べ物って無いよね。
それは、作る側からするととってもありがたい。
さて、もう今日は晩ご飯を食べて休みますか。
こうして、この日は家でゆったりと過ごした。




