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領都滞在四日目、依頼をこなそう

 隠遁生活十三日目で領都滞在は四日目。

 さて、今日はどうしようかな。

 薬師ギルドに行くのを先延ばしにしてるけど、せっかくBランクになれたんだから依頼を受ける事を優先した方がいい?

 しかも、特例でランクを上げてもらったし。

 うん、今日は冒険者ギルドに行って依頼を頑張るぞ! おー!

 今日の予定が決まったところで、部屋のカーテンを開ける。


「良かった。今日は晴れだね」


 アーテルと食堂に行って朝ごはんを食べた後、また調理場を借りて今回はお弁当を作った。

 雪月亭を出てギルドに向かう途中、例の翡翠国の商品を取り扱ってるお店に寄る。

 ちなみにお店の名前はジャーダ商会。この国の中でも結構大きな商会らしい。


「あれ、お嬢さん。また来てくださったんですね」

「はい。この前買ったもののおかげで、とっても美味しいご飯を作れました。また、何か私の欲しいものがあるかなと思って」

「おお、それは光栄ですね。どうぞ、お好きにご覧ください」


 そう言って貰えたので、自由に中を見て回る。

 さて、何があるかな。

 昆布や鰹節が置いてあるところを見ると、他に煮干しや干し椎茸などの乾物があった。

 おっ、いりこだしもいいよね。買おう。

 後は、寒天に海苔もある。これも欲しい。

 このお店に来るといっぱい買っちゃうな。

 本当に翡翠国は日本に似てるね。


「そういえば、翡翠国は果物が有名なんですよね?」

「ええ、そうですよ。お嬢さんみたいにこういう品を買う方の方が珍しい」

「その果物も見ていいですか?」

「もちろん、自慢の商品ですから」


 果物の方を見に行くと、本当に色々な物があった。

 どれも美味しそうだから、少しづつ色んな種類を買おう。


「林檎に梨、葡萄に桃と無花果。後は苺に西瓜、甜瓜もある。あれ、季節関係ないんですね」

「当商会には、アイテムボックス持ちが何人かいる上に、高機能のマジックバッグが沢山あるんですよ。だから、季節を問わずその中に入れている商品を店頭に並べられるんです」

「凄いですね。アイテムボックスのスキルは結構レアなのに」


 そう言うと、店員さんはここだけの話ですよと言って教えてくれた。

 ちなみに、時空間魔法スキルはそれよりずっとレア。ほんと女神様に感謝だな。


「ジャーダ商会の一族には、アイテムボックススキル持ちが生まれやすいんです。その上、皆さん商売が大好きなんでほとんどの人がジャーダ商会に就職する。結果、その人達のおかげで当商会はこんなにも大きくなれたって訳ですよ」

「ふふ、本当に皆さん商売がお好きなんですね。そして、仲が良いんだろうな」


 だって、仲良くないと協力して商会を大きくする事なんて出来ないと思うんだ。

 その後も店員さんの話は続き、翡翠国にもジャーダ商会のお店があってそこではフライハイト大陸の名産品を売っているらしい。

 そんな話を聞きながら、商品を見ているとその中に壺があった。


「えっと、これは?」

「あー、梅干しですよ。梅っていう果実を塩とシソなどで漬ける。お漬物です。好き嫌いは分かれますが美味しいですよ」


 やったー、梅干しまである。いつかは自分で作りたいけど、今回は買っちゃおう。


「これもお願いします」

「分かりました。これで最後ですかね?」

「はい!」


 私は、煮干しや干し椎茸などの乾物に、名産の果物とそれを加工したドライフルーツなど、そして梅干しを一気に大人買いした。

 買い物が終わったので、お店を出てギルドに向かう。


「姉さま、さっき言ってた梅干しって美味しいの?」

「アール、もしかして興味ある? それなら後で食べてみよっか」

「うん!」


 アーテルとそんな会話をしながら、歩けばあっという間にギルドに着いた。

 中に入ってすぐ依頼ボードを見る。

 うーん、どの依頼にしようかな?

 薬草系で、採取した事のあるやつは受けられるし、後は魔物を討伐して素材を納品するものもやろう。

 Bランクなので受けられる依頼は多い。しかも、その依頼はウーアシュプルング大樹海の中層が目的地なものが多かった。

 そうだ、ついでに一度家に帰ろう。

 私はそう考えながら、受ける事を決めた依頼書を持って受付に向かう。


「こんにちは」

「こんにちは。この依頼を受けるのでお願いします」

「かしこまりました」


 手続きを済ませたら、一度宿に戻り何日か出かけることを伝えた。


「部屋はそのままにしておくよ。後、美味しい料理を教えて貰ったからね、いない間の部屋代はタダ。危ない所に行くんだから怪我に気をつけてね」

「はい。ありがとうございます。行ってきますね」

「いってきます!」

「行ってらっしゃい!」


 領都を出たら、雑木林に入って『ワールドワープ』を使う。

 まず、転移したのは精霊樹の下にある私達の家だ。


「ただいま」

「ただいまー!」


 家の周りも中も変わりはない。

 やっぱり中層だから、他の冒険者もほとんど来ないみたい。

 アーテルは一度家に入ったあと、すぐ外に出て精霊樹と話していた。

 ふふ、アーテルは精霊樹の事が大好きだね。

 精霊樹と話すアーテルの声を聞きながら、荷物の整理をする。

 ついでに、暇な時間だし料理を作り置きしておこうかな。


「あっ、もうこんな時間」


 気がつくとお昼を少し過ぎていた。

 料理って作り出すと没頭するよね。

 アーテルを呼んで、依頼をやりに行くよと伝える。


「姉さま、お腹減った!」

「お弁当を作ったから、森の中で食べよっか?」

「うん! あっ、ぼくいい場所知ってるよ」


 そう言ったアーテルは私の手を引いて、樹海の中を進んで行く。

 あれ、ちょっと待った。結構、家から離れてませんか?

 いつの間に一人でこんな場所に来たのか。

 ちょっとこれはお話が必要ですね。


「ここだよ! 泉がすっごくきれいでしょ!」

「……うん、本当にきれい」


 アーテルが案内してくれたのは、木々が少し開けた場所にある泉だった。

 日射しが当たる水面が輝いていて、とても美しい。

 そこに敷物を敷いて二人で座る。


「アーテルさんや、少しお話があります」

「えっ、ね、姉さま、なぁに?」

「いつの間に、一人でこんな奥に来たのかな?」


 そろーっと目を逸らされる。

 うん、私の言いたいことは伝わってるようだ。


「まぁ、アーテルの強さも昨日知ったし、そこまで危なくないのかもしれない。でも、一人で何も言わずに行くのはやめてね」

「はい」

「私はアーテルの事が大好きだから、何かあったらって心配になるんだ」


 ちゃんと話を聞いて頷くアーテル。

 もう、このあたりでいいかな。


「よし! 分かってくれたみたいだから、このお話はもうここでおしまい。さー、お弁当食べよう」

「はい。でも、姉さま、ごめんなさい」

「いいよ。アーテルは賢いから一度言ったら分かるもんね」


 そう言いながらアーテルの頭を撫でた。

 そして、お弁当をアーテルが開くと嬉しそうな声を上げる。


「すごい、美味しそう! しかも可愛い!」

「ふふ、良かった」


 お弁当には、小さなハンバーグを入れてそこにニンジンやゴマで顔をつけたんだ。

 そこまで手の込んだ物じゃないけど、喜んでもらえて良かった。

 いつかは、もっと手の込んだキャラ弁を作りたいな。


「姉さま、これはなぁに?」


 アーテルが指さしていたのはおにぎりだ。


「それはね、お米をさんかくに握ったおにぎりだよ。そのまま手で持って食べてね」

「うん、はむっ」


 アーテルがおにぎりに勢いよくかぶりつく。

 おにぎりの具は昆布の佃煮と、オーク肉の肉味噌だ。

 うん、どちらも美味しい。


「これも美味しいね! ぼく、お米大好きなんだ!」

「ほんと? 私もお米大好きだから嬉しいな」

「ふふ、姉さまとお揃いだね!」


 はい、私の弟は可愛い!

 姉バカと言われても構いません!

 あー、ヴァイスにも会いたいな。

 後もう少し経ったら、会いに行こう。

 アーテルと二人で楽しくお弁当を食べて、後片付けをしたら次はお仕事です。


「まずは、薬草採取かな」


 私もアーテルもこの数日で作業に慣れて、あっという間に依頼を達成出来る量を集める事が出来た。


「さて、次は魔物を倒すんだけど、どうしようかな?」

「どうしたの?」

「いや、お目当てのデスパンサーやフォレストベアが近くにいないんだよね」


 メニュースキルのマップ機能と『ビジョンワープ』で近くを確認したけどいなかった。

 うーん、もう少し遠くを見るか。


『ビジョンワープ』


 頭の中でマップをスクロールして、デスパンサーやフォレストベアの名前を探す。

 ちなみに、ウーアシュプルング大樹海で魔物を倒してから、倒した魔物のみ名前がマップに表示されるようになった。これはとても便利。

 さて、色々と場所を変えてマップを見ているとある所でデスパンサーの名前を見つけた。

 ここって同じ中層だけど、外層寄りでしかもヴァルメリオ辺境領の方向に向かってるな。

 やばい、まだ時間はあるけどこのままじゃ外層にいる低ランクの冒険者が危ない。

 私はすぐアーテルに事情を伝えて、二人で少し手前の場所に『ワールドワープ』で転移した。

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