アーテルの試験
試験内容が違うのでその準備があるらしい。そのため、その準備が終わるまで待つ事になった。
五分ぐらい経ったところで、私達の所にマカレナさんが来て準備が終わったと教えてくれたのでアーテルに頑張ってと伝える。
「うん、頑張るねー!」
はい、可愛い。
それにしても、いったいどんな試験なんだろう。
見ているとアーテルは刃を潰した剣を渡されて決められたフィールドに入る。
すると、そこにアーメッドさんが入って来た。
えっ、まさか。
「アール君には私と戦ってもらう」
「はい!」
いや、アーテル? アーテルさん? はい! って普通に言わないで。
いきなりギルドマスターと戦うのはおかしいでしょ!
「リアさん安心してください。治癒術師もいますし、何よりギルマスは手加減しますから」
「いや、そうかもしれませんが、相手はまだ六歳ですよ」
「……そうでしたね。本当にすみません。ああなったギルマスは誰にも止められないもので」
止めようよ。それは誰かが身体を張ってでも止めてよ。
本人も乗り気だし仕方ない。危なくなったら割って入ろう。
もしその行為が、ランク云々に影響したとしても別に構わない。
アーテルの方が大切です。
私の心配をよそに、アーテルはキラキラした目でアーメッドさんを見ている。
「剣術の他に魔法も使えるんだろう? それなら、そっちも使っていいぞ」
「はい、分かりました!」
「準備が出来たら言ってくれ」
アーテル、本当に楽しそうだな。
私は気が気じゃないのに。
「出来ました!」
「それでは、始め!」
アーメッドさんの合図と同時にアーテルは駆け出した。
そして、素早く斬り込んでいく。
それを、アーメッドさんは難なくいなしている。
でも、アーテルは攻撃の手を止めない。
本当に生き生きとした顔で戦っていて、剣術が好きで得意なことが分かる。
レルスさん達に教えて貰ってる時は、それぞれで練習していたからほとんど見た事が無かった。
「六歳であれだけの動きが出来るのかよ」
「その上、魔法まで使えるんだろ?」
「うわー、もう俺たち負けてるぜ」
観客の方からそんな声が聞こえる。
やっぱり、他の人の目から見てもアーテルの実力はすごいのか。
一度、アーテルは距離を取って魔力を練った。
魔法を使うつもりなんだ。
『アイスフィールド』
アーテルは地面を凍らせて滑りやすくする。
そして、自分の靴に地属性で土の刃をつけた。
その状態で、地面を蹴りアーメッドさんに斬り掛かる。
おお、考えたね。
踏ん張れないアーメッドさんは、とっさに身体を滑らして躱した。
その瞬間、アーテルは闇魔法『スモークスクリーン』を発動して辺りを暗闇で覆った。
魔法が切れて見えるようになると、アーテルがアーメッドさんの首元に剣を突きつけている。
「参った。降参だ」
「はっ? ギルマスが負けた?」
「あの子供、何者?」
周りがザワザワとざわめき、アーテルは嬉しそうに私の所に戻って来た。
「姉さま、ぼく頑張った?」
「うん、よく頑張ったよ! お疲れ様」
「ふふ! 楽しかった」
それはよく伝わってきたよ。
アーメッドさんとマカレナさんが二人で話している。
そして、私達の方に来た。
「君達の実力はよく分かった。二人のランクをBにまで上げよう」
「えっ、そんなに上げてもいいんですか?」
「ああ、十分それだけの実力があると判断した」
まさか、そこまで上げて貰えるとは。
私は良くてCランクだと思っていた。
だって、依頼は一度もこなしてないし。
まぁ、Bランクになったならこの前アーテルが持ってきた依頼は全部受けられる。
よし、すぐに受けておこう。
「ありがとうございます」
「後で、ギルドカードを受付に出してくださいね」
「はい」
私達は訓練場を出て、依頼ボードを見る。
そこから、素材を持っていて達成出来るものを持って受付に向かった。
「お願いします」
「はい、ではこちらに素材を出してください」
マカレナさんが出した入れ物に素材を出していく。
フォレストベアの爪と毛皮、デスパンサーの牙に爪、それと毛皮。
どちらも毛皮が高く売れるらしい。
他には、オークの肉や素材に色んな魔物の魔晶核。
「終わりました」
「凄い量ですね。確認させて頂きます」
マカレナさんが依頼書を見ながら確認して、オッケーがでた。
「では、依頼達成の報酬です」
「ありがとうございます」
大銀貨や小金貨が入っていた。
やっぱり、倒しにくいフォレストベアの毛皮が高かったみたい。
そして、他の採取した素材を売りたい事を伝える。
「それはとてもありがたいです。こちらに出して頂けますか?」
「はい」
貴重な薬草やキノコを出す。
取り過ぎないようにしてたけど、それでも多く取れたから、自分達で使う分は売ったとしても残るんだ。
「以上です」
「はい、確認しますね。サルーターリスにオールヒール茸、陽明草やジンセンまで。ありがとうございます」
こちらも結構な金額になったようで、小金貨と大銀貨が袋に入っていた。
手続きが全て終わったので、今日はもう宿に帰ることにする。
ギルドを出ようとしたら、冒険者の人達に囲まれた。
「えっと、何でしょうか?」
「君達、二人だけのパーティーだよね? 俺たちのパーティーに入らない?」
「お前らずりーぞ! そいつらじゃなくてうちに入ってよ」
「こんなむさ苦しい男達のところなんて嫌よね? 私達のところに入って欲しいの」
う、困った。
いや、入るつもり自体ないんだよね。
アーテルと二人で十分だし、秘密が多いから面倒だし。
「すみません。今は弟と二人で頑張りたいので、誰かと組むつもりは無いんです」
私がそう伝えると大半の人は思ったよりすんなりと引いてくれた。
ただ、しつこい人達も何組か居て、その人達にはアーメッドさんが。
「お前らじゃ、この二人の足を引っ張るだけだ。後、先輩が嫌がる後輩にしつこくするのはどうかと思うぞ」
と注意をしてくれた。
うん、やっぱりギルドマスターはギルドマスターなんだね。
ちょっと疑ってたけど、安心した。
流石に、ギルドマスターの言葉は重かったようでしつこい人達も帰っていく。
「アーメッドさん、助けてくださってありがとうございます」
「いや、気にするな。目立ったのは俺のせいだしな。他にもしつこいやつがいたら教えろよ」
「はい」
こうして、私達はギルドを無事に出て宿に帰った。
雪月亭の中に入るとすぐに、ベランカさんが気がついて声をかけてくれる。
「おかえり。怪我はないかい? 結果はどうだった?」
「ただいま帰りました。怪我はしてません。結果は良かったみたいでBランクにしてもらえるそうです」
「そうか、怪我が無くて良かったよ。それにしても凄いね。Bランクといえばもうベテランじゃないか!」
私達以上に喜んでくれて、心が暖かくなった。
そういえば、ちょうどお昼か。
ご飯どうしよう。
また、調理場をお借りできるかな?
「すみません。また、調理場をお借りしても良いですか?」
「かまわないよ。お客さん達はみんな外出してるしね」
「ありがとうございます!」
さて、何を作ろうかな。
まぁ、まずはいつも通りご飯を炊こう。
ご飯をセットしたら、メニューを考える。
そろそろ、お魚が食べたい。
そういえば、舌平目を買ってたな。
お醤油もあるし煮付けにしよう!
後は、酢の物にお味噌汁でいいかな。
それぞれの工程を手早く済ませてあっという間に料理が出来た。
久しぶりのザ・和食。楽しみだな!
出来上がったものを部屋に運んで、アーテルと食べる。
「いただきます」
「いただきます」
アーテルはまだスプーンとフォークなので、舌平目の煮付けはほぐしてあげた。
まずは、お味噌汁。昆布の出汁を丁寧にとったから出汁が効いていてとっても美味しい。
ちなみに具は玉ねぎとじゃがいも。
いつかお豆腐も欲しいなー。いや、もしかしたら自分で作れる?
そんなことを考えながら酢の物を口に運ぶ。きゅうりとワカメを三杯酢で和えた。さっぱりしててこれも美味しい。
じゃあ、メインの舌平目の煮付け。醤油と少しの砂糖、後はみりんを効かせた味付け。ふっくらとした身に甘辛い味、舌平目自体の旨味が合わさって最高ー!
今日も美味しく出来たな。
「姉さま、お魚美味しいね」
「良かった。アーテルは今日のこのご飯好き?」
「うん! 好きだよ」
アーテルの口にも和食は合うのか。
それなら、これからも作って大丈夫だね。
こうして、私達は試験を終え、美味しい食事を食べた後は部屋でゆっくり読書をして過ごした。




