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隠遁生活三日目と後悔

 隠遁生活三日目。

 昨日、家に帰ってから偽装工作以外にも一つ思いついた事があった。そのため、今日は早朝から出かけている。

 流石にだいぶ早い時間だからアーテルはまだ寝ていた。なので、念のため家の周りに結界魔法を重ねがけしておいて、私一人で行くことにした。

 今回の目的地は偽装工作をしたあの場所。

 そこにある木や川に、とある魔道具を設置する。

 その魔道具は簡単に言うと監視カメラみたいな物。

 水晶玉に魔石をくっつけて、『ビジョンワープ』と『ヒアリングワープ』を付与しておく。

 次に、もう一つ似たものを作ってさっきのやつとリンクさせる。

 すると、一つ目の周囲の映像や音が後で作ったもう片方に送られて、それを離れた場所で見る事が出来るようになるんだ。

 本当に監視カメラみたいでしょ?

 さて、設置した魔道具やその周りに偽装スキルと隠蔽スキルを使っておく。

 これで、魔道具がある事に気がつく人はいないはず。

 あらかた準備は出来たかな。


 この時の私は知らなかった。

 まさかこの日の昼頃に、マップ上でよく知っている人達の名前が表示され、早々にこの魔道具を使う事になるなんて。

 そしてその様子を見た時、私の決意が少しだけ揺らぐことになるとは……。


「さーて、せっかくここまで来たし採取しながら帰りますか」


 帰り道で少し薬草や山菜、キノコなどの採取をしてから時空間魔法で家に帰った。

 家に着くとまだアーテルは起きていないみたいで安心する。

 前にも言ったけれど、出来れば一人にしなくない。

 ただし今回はアーテルが寝ていたし、二日この家に泊まって、ここに張られた結界魔法が大丈夫だと確認出来たから残してきたんだ。

 でも、念の為に重ねがけはしたけど。

 さて、そろそろ朝ごはんを作りますか。


「まだまだ食材にも調味料にも余裕はあるけど、一度どこかで町とかに行きたいなぁ」


 うーん、ここから近いのは……。

 あっ、ネフライト王国のヴァルメリオ辺境領だ!

 しかも、領都が近い。

 明日ぐらいにはアーテルを連れて行けるかな?

 そんな計画を立てながら調理を進めていく。

 今日のメニューは、食パンに目玉焼きとチーズを乗せたものと、焼いたソーセージ。

 後は、昨日の夜に作り置きしておいた野菜たっぷりスープだ。

 デザートにリンゴをうさぎ型に切ったものも付けておく。

 この世界にも食パンがあってすごく嬉しい。

 しかも日本の食パンに近いやつ。日本の食パンは、元になってるイギリスやフランスのパンから独自の変化をしているんだってさ。

 ふふ、食パンがあればサンドイッチとか色々作れるよね。

 もちろん、ライ麦で作られた固くて酸味の強い黒パンや、ふわっと柔らかい白パンもある。


「よし、そろそろアーテルを起こそう」


 そう呟いたところでアーテルが起きてきた。

 

「アーテル、おはよう」

「姉さま、おはよう。今日も美味しそう!」


 そう褒めてくれるアーテルにお礼を言って、朝の支度を促す。

 テーブルに配膳が出来たところで、アーテルが戻ってきた。


「はい、いただきます」

「いただきます」


 まずは二人してチーズと目玉焼きの乗ったトーストに齧り付く。

 とろっとした黄身の甘みとチーズの塩気と旨味、そこにカリッと焼けたパンの香ばしさが合わさって美味しい!

 美味しい口のまま、ソーセージを食べる。

 このソーセージもジューシーでいい味だ。


「美味しいね!」

「そうだね」

「ぼくねー、うさぎさんのリンゴ好きだよ!」


 嬉しそうに伝えてくれるアーテルが本当に可愛い。

 そろそろ、ヴァイスにも会いたいけどまだ早すぎるかな。

 誘拐の事は流石に気づかれてるだろうし、今見つかる危険を冒すのは得策じゃないか。

 この件は、もう少し経ってから考えよう。

 それにしても、スープも優しい味で美味しく出来てたし、今日の朝食も上手くいって良かった。

 朝食を食べ終わったので、後片付けをして今日の予定を立てる。


「そういえば私のスキルって今どうなってるんだろう?」


 急に気になったので見てみようと思う。


(ステータス)


 マグノリア・アウイナイト

 種族︰エルフ

 年齢︰13

 魔力︰8

 状態異常︰なし


 基礎属性

 火︰6 水︰7 風︰7 地︰6 

 光︰8 闇︰4 無︰6


 特殊属性

 氷︰4 雷︰3 金︰3 樹︰5


 スキル

 時空間魔法︰8 精霊魔法︰1 鑑定魔法︰7

 契約魔法︰6 治癒魔法︰6 付与魔法︰5

 結界魔法︰5 浄化魔法︰5 メニュー︰6

 隠蔽︰6 偽装魔法︰4 魔力察知︰5

 魔力操作︰7 言語理解︰5 調合︰6

 魔道具製作︰5 解体︰4 罠︰3

 料理︰7 清掃︰4 念話︰5

 弓術︰5 剣術︰2 格闘術︰2

 気配察知︰3 物理耐性︰3 精神耐性︰5


 称号

 異世界転生者

 先祖返り

 女神の趣味友

 努力家



 おお、全体的に属性もスキルもレベルが上がってる。

 結界魔法はアル君に教えて貰った後、直ぐに身につけることが出来たんだよね。

 取得が一番新しいスキルは、浄化魔法と結界魔法の二つか。

 その二つも、取得出来てから数年経っている。だからスキルレベルも五まで上がっていた。

 学院で使う事も多かったし、属性レベルも上がってるね。

 ただし、精霊魔法は王都では環境が合わなくて、練習出来てないからレベル一のまま。

 そして、中でも一番驚いたのは、魔力レベルが上がっていた事。

 レベルは属性でもスキルでも、五を超えると一つレベルが上がるだけで効果が段違いらしい。

 それは魔力レベルも同じで、一つレベルが違うだけで魔力総量はものすごく違う。

 しかも、魔力レベルはほとんど上がる事がないのに、上がっていて本当に予想外。

 でもこれは嬉しい誤算だな。

 いつも、ステータスを見る度に思うけど、すごいチートだよね。


「姉さま、今日は何するの?」

「あっ、そうだ。予定を立ててたんだった」


 ステータスも確認出来たし、今日は何をしようかな?

 あっ、デスパンサーを解体したし、鑑定魔法におすすめされた干し肉を作っておこう。

 後は、薬草も採取出来たし魔法薬作りもしたいね。

 アーテルにそれを伝えると。


「ぼくも干し肉作るのお手伝いする!」

「本当? ありがとう、助かるよ」


 お礼を言うとはにかんで笑うアーテルはすごく可愛い。

 弟を可愛いって思うのは定期です。


 さて、アーテルと一緒に干し肉作りに取り掛かっていると、マップに知っている人の名前が複数現れた。

 現在、マップは私達がいる精霊樹の場所を中心に、ウーアシュプルング大樹海の南側。

 そこの中層と外層、そして外層に面したネフライト王国の一部が表示されている。

 ちなみに、拡大も縮小も出来ます。

 そしてマップには、お父様とテリオス、レルスさん達に、ヴァルメリオ辺境伯の名前が載っていた。

 ちょうど、ネフライト王国からウーアシュプルング大樹海に入ってすぐの場所にいるみたい。


「もしかして、私達がウーアシュプルング大樹海にいる事に気がついた?」


 いや、違う。知り合いの中に紛れて誘拐犯の一人、プドル・メガスの名前がある。

 という事はミルフォイル様が動いてくれて、誘拐犯達が捕まったんだ。

 それで、私達がデスパンサーに襲われた事を知り、犯人の案内で捜索に来てくれたのか。

 そうしてマップに注意を向けていると、徐々に偽装工作をした場所に近づいていく。


「まさか、こんなに早く使う事になるとは」


 そう呟きながら私は魔道具を起動させた。

 魔道具が起動すると、周りにあちらの景色が投影される。


「姉さま、どうしたの?」


 私が魔道具を置いている部屋に何も言わずに来たからアーテルが覗きに来た。


「ああ、ごめん。ちょっとね」


 不思議そうな顔のアーテルに事情を分かりやすく説明する。


「じゃあ、姉さまの魔道具で父さまやテリオスの姿が見れるんだね!」

「うん、魔道具がある所にみんなが来ればね」


 ほわほわしながらすごいねと言ってくれるアーテルに少しホッとした。

 いつの間にか緊張していたみたい。

 まだ三日目だし、アーテルも寂しくなったりはしてないんだね。

 少し経つと起動させた魔道具に人の姿が映った。


「あー、エルンストさんの嗅覚で血の匂いを嗅ぎとったのか」


 聞こえて来た会話からそれを察して、さすが獣人なだけあると思う。

 血溜まりの周りをそれぞれが捜索し始めた。

 お父様が血溜まりに近づいて、その中を探す。

 そして、私の髪飾りを拾い上げた。


『これは……。マグノリアの髪飾りだ』

『えっ』


 お父様の動揺した声と、レルスさんの驚いた声が魔道具を通して聞こえる。


『この血溜まりは変色している。ここで襲われてから数十時間は経っているな』

『……ええ、正直マグノリアの生存は絶望的でしょう』


 そして、苦渋に満ちた声でそう辺境伯が言うと、お父様は絞り出すように答えて、崩れ落ちた。


「っ! お父様!」

「父さま?」


 お父様が泣き崩れたのを見て、自分の選択が彼を傷つけたのだと思い知る。

 私は正直、疎まれていると思っていたんだ。

 お父様にとって最愛はお母様で、そのお母様を奪ったのは先祖返りとして生まれた私達だから。

 けれど、ずっと泣いているお父様を見て、彼は私達のことも愛してくれていたのだと気がついた。


「お父様、ごめんなさい」

「姉さま、泣いてるの?」


 涙を流す私を心配そうにアーテルが見る。

 私はすぐに涙を拭って。


「ううん、大丈夫だよ」


 そう答えて、また考える。

 出来れば今からでもお父様に会って生きてる事を伝えたい。

 今のお父様なら、あの家に戻ってもお母様が生きていた頃のお父様に戻ってくれるはず。

 でも、もし今回のような事があってアーテルを守れなかったら?

 そして、原作のようにアーテルが虐げられて辛い幼少期を送る事になったら?

 そう考えると、私達が生きている事を伝える訳にはいかないんだ。


 ローズちゃんが騎士学校を卒業して、ソッレルティア魔法学院の高等部に入学する。その後、セレスタイト王国は、周囲の国々を巻き込んで激動の時代を迎えるんだ。

 それが原作本編であり、そこで最終的に第二夫人ハイアシンスと第一側室で姉のアキレギア、首謀者であり二人の父親のエーアガイツ・カルミアは罰を受けることになるのだから。

 それは何年も先だけど、それまで私達の生存がハイアシンス達にバレる訳にはいかない。

 そう考えて、揺らぎそうになった決意をしっかりと固める。


 そして、もう一度魔道具を見ると泣き崩れたお父様が立ち上がり、テリオスに支えられながら帰っていくところだった。


「お父様、全てが終わったら会いに行くから」


 それまでどうか元気で。

 お父様の後ろ姿を見ながら祈る。


「姉さま、本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ。少しだけ悲しくなったの」


 心配そうに覗き込まれてこれではだめだと、頭を切り替える。


「アーテルも寂しかったり、悲しかったら教えてね」

「うん。でも姉さまがいるから平気だよ!」


 嬉しくてまた泣きそうになる事を言ってくれたアーテルを思い切り抱きしめる。

 ありがとう。アーテルがいてくれて良かった。

 そんな気持ちを込めて、もう一度ギュッとしてから離れる。

 こうして、想定外の出来事が起きた一日はあっという間に過ぎていった。

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