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誘拐の予兆と探検

 あっという間に時は過ぎ去り、お母様が亡くなって数年が経った。

 あれから、家の中はものすごく変わってしまっている。

 お父様は私達と殆ど話さなくなったし、顔を合わせる事も減った。

 そして、第二夫人のハイアシンス様は五年前ぐらいから本邸に住居を移している。

 そこからは思った以上に酷い日々が始まった。

 ハイアシンス様は、私達に日常的に嫌味や種族差別を言ってくるし、アウイナイト公爵家に仕えてくれている古参の人達にも当たり散らしていたりする。

 そのせいで何人かは仕事を辞めてしまい、また諌言をしたマーサはメイド長から降ろされた。

 だから、私はすぐにマーサを私専属のメイドにして庇えるようにした。でも、もっと出来ることがあったんじゃないかと後悔しているんだ。


 逆に学院の方は順調で、ミルフォイル様やアル君と一緒に来年のヘールフルンから特級院生になる。

 そして、アーテルやヴァイスも同じく来年のヘールフルンからソッレルティア魔法学院の中等部に入学するんだ。

 あと変わったことといえば、ヴァイスの性格が原作と違う。

 実はハイアシンス様の目を盗んで、こっそりヴァイスに会って遊んだりしていた。

 予想通りハイアシンス様はヴァイスの面倒を自分で見たりしないし、ヴァイスの乳母は私達の味方をしてくれたので会うことも遊ぶことも簡単だったんだ。

 その事に関してだけ、ハイアシンス様が本邸に住居を移してくれて良かったと思える。

 だから、ハイアシンス様がヴァイスに私達を蔑むよう、差別するように教えこもうとしても、私と話したり遊ぶ時にその考えのおかしさを伝えれば、ヴァイスはちゃんと正しい判断をしてくれた。


 本当は、こんな事は考えたくはないけれどハイアシンス様はヴァイスをちゃんと愛しているのかと疑問に思う事がある。

 ヴァイスを当主にする事、そして自分が公爵家で権力を振るう事だけを考えているようにしか見えない。

 後は、父親であるエーアガイツ・カルミアの願いを叶える事、その為ならヴァイスさえも道具のようにしか見ていないんじゃないかと思えてしまうんだ。

 私はヴァイスの姉でもあるんだからあの人が愛さないのなら、私が愛せばいい。

 大切な弟達を不幸になんてしない。

 私は、正直誰が当主になってもいいと思っているんだ。

 私がやる方がいいならするし、アーテルやヴァイスがなりたいと言うならそれを助ける。

 だから、姉弟で争うなんていう不毛で不幸な事は絶対にしない。


 あと他に大きな出来事といえば、『薔薇騎士は愛を紡ぐ』の主人公ローズ・モルガナイトと会って仲良くなれた事。

 そして、私が王妃様の推薦でミルフォイル様の婚約者になったことぐらいかな。

 けれど、私にもミルフォイル様にも恋愛感情は全くない。

 もちろんミルフォイル様の事は親友として大好きだけどそれだけだし、それはミルフォイル様も同じようで。


「マグノリアの事は親友としてしか見ていないけれど、どこかの知らないわがままな令嬢や王女が婚約者になるより楽だなって思ってしまった。

 こんな考え方はだめだよね。だけれどマグノリアとならある意味、上手くいくと思うんだ」


 と言っていた。

 うん、言いたい事は分かる。

 多分、政略結婚ならミルフォイル様とが一番仲良く出来るし上手くいくと思う。

 それにしても、ミルフォイル様と仲良くなったと思ってはいたけど、ここまで明け透けな本心を話されるとは。

 ただ一応、お互いにルールを決める事にした。


 私に何かあったら気にせず、新たな婚約者を選ぶこと。

 どちらかに好きな人が出来たら、婚約を解消し後押しや応援をすること。

 表立っては婚約者として振る舞うこと。


 の三つだ。

 一つ目だけはミルフォイル様に不思議なというより、不審な顔をされてしまったけれど大切な事だから無理にでも入れた。


 なぜなら、少し前から誘拐の予兆があるんだ。

 こっそり作った盗聴、録音の魔道具にハイアシンス様と闇ギルドに所属する男の会話が入っていた。

 内容はやっぱり私とアーテルの誘拐計画。

 もちろんその魔道具はマジックドロワーに証拠として保管している。だっていつか使えるかもしれないでしょ。

 あくまで予想なんだけど、誘拐のトリガーは私がミルフォイル様の婚約者になった事と、アーテルとヴァイスがソッレルティア魔法学院に入学する事の二つだと思う。

 ハイアシンス様は第二王子を息子に持つ第一側室の妹だから、第一王子の婚約者が私だと邪魔で仕方が無い。

 そして、ソッレルティア魔法学院にはヴァイスだけを入学させてアウイナイト公爵家の嫡子はヴァイスなのだと他の貴族達に思わせたいんだ。

 まぁ、誘拐に関しては魔道具を作ったり、スキルを取得してレベルを上げたりと自分なりの対策を頑張ってきたからどうにかなるよね。


 さて、そんな事を自室で考えながら学院の課題を済ませていると、誰かが訪ねてきた。

 ノックの後、声をかけられる。


「姉さま、遊びましょう〜」

「姉上、今大丈夫ですか?」


 ニッコニコな笑顔で入って来たのはアーテル、うかがいながら入って来たのはヴァイスだ。


「うん、大丈夫だよ。何をして遊ぶの?」

「探検するの!」

「アーテルが面白い場所を見つけたって言うんです」


 ふふ、探検か。やっぱり男の子だね。

 目がキラキラしてるよ。

 それにしてもこの本邸に面白い場所なんてあったかな?

 そう思いつつも二人に手を引かれてついて行くと、本邸の庭にある東屋に着いた。


「ここがその面白い場所?」

「うん。ここからすごい闇属性の魔力を感じるんだ」

「闇属性の魔力か……。隠蔽とか偽装されてるのかな?」


 という事でこの東屋を隅々まで調べてみることにした。

 うーん、闇属性で思い浮かぶのは初代公爵夫人メラン様だけれど、もしかしてここに何か作っている?

 そうなると魔道具とかそういう物を想像するけど何があるのかな。

 すると、突然ヴァイスが見つけたと言った。


「何を見つけたの?」

「姉上、この宝石って魔宝石だと思うんです」

「えっ、魔宝石?」


 ヴァイスの指摘通り、装飾に使われている宝石に鑑定魔法を使うと魔宝石と出た。

 魔宝石とは魔石よりも膨大な魔力を貯められて、その上美しく魔道具兼装飾として使用されたりする希少な物だ。

 ちなみに魔石や魔宝石は鉱山などから採掘され、壊れない限り魔力を注いで繰り返し使える。

 あと、魔晶核ってやつもある。それは魔物の心臓付近とかどこかに必ずあって、こちらも魔道具の燃料などに使える。ただし、魔晶核の場合は中にある魔力を使い切ると消えてしまう。

 この三種類が主にここ数千年、この世界の魔道具文化を支えている大切な素材だ。

 後は、魔鉱石などもあるけれどこれは上の三種類とは違い武器や防具に加工される。


 さて、話が逸れてしまったけどこんな所に希少な魔宝石が嵌めてあるなんておかしいよね。

 よく見ると魔力が尽きているみたいだから、注げばいいのかな?


「どうする? 魔力を注いでみる?」

「うん! どうなるか見たいから姉さまお願い!」

「僕も見たいです。姉上お願いします!」

「分かった。でも何が起きるか分からないから少し離れててね」


 二人が元気よく返事をしてから離れてくれたので、さっそく魔力を注いでみる。

 するとみるみるうちに魔宝石は輝き始め、東屋の下に続く階段が現れた。

 おお、こんな仕掛けになってるんだ。

 さて、二人は入りたいって言いそうだけどどうするかな?

 危ない気もするし、でもやめようって言っても素直に諦めてくれるか……。


「すごい! すごいね! 早く降りてみようよ!」

「うーん、それはどうしようかな」

「ダメですか?」

「危ないかもしれないからね」


 二人は納得していない顔で私を見る。

 だよねー、男の子がこんな面白い仕掛けを見て探検を諦めたりしないよね。

 仕方ない。私も弱い訳じゃないし何かあれば二人とも時空間魔法で転移させて逃げればいいか。

 という訳で、腹を括って階段を降りる事にした。

 あーあ、マーサにバレたら大目玉だな。


「思ったよりも明るい。ああ、魔光石の照明があるのか。二人とも私より先に行っちゃダメだよ。あと、足元に気をつけて」

「はーい。ねぇヴァイス、ワクワクするね」

「うん! アーテルは何があると思う?」


 二人はニコニコ楽しそうに話しながら歩いている。

 この素敵な笑顔を見ると仕方ないなって思っちゃうよね。

 だけどちょっと、弟達に甘すぎるなー私。

 さて、しばらくすると階段が終わり真っ直ぐな通路になった。

 通路の先、突き当たりまで行くと扉がある。


「ここが終着点だね」

「姉さま、この扉開かないの?」

「うーん、開きそうにないなー」


 二人は思ったよりも面白くない終わりに不満そうだ。

 仕方ない、もう少し調べてみようか。

 そう思って扉を調べると、一部気になる場所があったのでそこのホコリを浄化魔法で消す。


「あっ、ここにも魔宝石。いや、使い過ぎでは?」

「姉さま、また魔力を注いで!」

「お願いします!」


 二人の目がまた楽しそうに輝く。

 まぁ、そうなるよね。

 また、さっきと同じように魔力を注げば、魔宝石が輝いて扉が開いていく。

 それにしても希少な魔宝石を二つも使ってるなんて、ここに何があるんだろう。

 二つとも思った以上に魔力を注いだし、これ魔力の少ない人じゃ開けれないよね。

 扉が完全に開いて現れたのは、魔石や魔宝石が使われた沢山の魔道具などが置いてある部屋だった。


「まさかこんな部屋があるなんてね。二人とも危ない魔道具があるかもしれないから勝手に触っちゃダメだよ」

「はい。姉上すごいですね」

「うん。びっくりしたよ。闇属性の魔力はこの沢山の魔道具にかけられた隠蔽魔法や偽装魔法のものみたいだね」


 多分、アーテルがその魔力に気がつけたのは闇の精霊だからだ。

 私は東屋にいてもほとんど分からなかった。


「姉さま! これ見て。こんなおっきい魔宝石、初めて見たよ」


 アーテルが指さすのは部屋の中央にある机に置かれた、宝玉と言えるレベルの魔宝石だ。

 私も気になっていたので近づいてまじまじと魔宝石を見る。

 この魔宝石には魔力がしっかりと詰まっているけど、なんの役割をしているのか分からない。

 あまりにも気になったので少し触ると、魔宝石から光が溢れ人の姿が壁に投影された。


「えっ、これって」

「姉さま、ぼく達に勝手に触っちゃダメって言ったのに、すぐ触っててずるい」

「あー、ごめんね」


 不満そうなアーテルに謝っていると、投影された人が喋り始めた。


『この部屋を見つけた者よ、よくぞ見つけましたね。

 この部屋は私、メラン・ウィリディス、いやメラン・アウイナイトが作ったもの。

 私には少しだけ未来視の力があって、凄く先の未来に生まれる二人の先祖返りが苦労するのが見えた。

 だから、私の色々な力を使ってこの部屋を作り、この部屋を先祖返りにしか開けられないようにしたの』


 これは原作に無かった。

 ということはこの世界独自の出来事だ。

 そういえば、今更気がついたけどゲームでメラン様の名前が出てきた事は無かったな。

 出てくるのは先祖にエルフと精霊がいた事だけ。

 という事はメラン様もこの世界独自の歴史で生まれた人なんだ。

 それにしても、三千年も先の子孫の心配をしてくれるなんて、流石優しくてすごい人って有名なだけある。


「姉さま、このお姉さんはだれ?」

「あれ、姉上に少し似てませんか?」


 そうか二人はまだメラン様の話を聞いた事が無いんだね。

 私はお父様やお母様から聞いたけど、最近のお父様は私達と話さないし、人族至上主義のハイアシンス様が教える訳ないよね。


「この方はね、私達のご先祖さまだよ。アウイナイト公爵家の初代様の奥様。私やアーテルはこの方のお父様やお母様とかの先祖返りなの」

「知らなかった!」

「じゃあ、ここは姉上とアーテルのためのお部屋なんですね」


 先祖返りにしか開けられないだけで、部屋にはヴァイスも入れている。先祖返り以外が入っちゃダメって訳でもないのか。

 私達のことを気遣い作ってくれた部屋みたいだし、好きに使ってもいいのかな?

 気づくと投影された映像が止まっていたので、もう一度触ってみる。


『この部屋は貴方達の好きなように使って欲しい。そして、ここにある魔道具は全て自由にしてかまわないわ。

 だからどうか生き延びて、幸せな生を送ってね。

 貴方達が生まれた頃に、私が生きているか分からないけれどいつか会える事を願って。

 ちなみに先祖返り以外が一人でこの部屋に入るためには、東屋の魔宝石に魔力を登録する事。

 そうすれば入れるから、もし貴方達以外にここを使いたい人がいるなら試して見てね』


 至れり尽くせりでは?

 さっき考えた疑問を全て解決してくれてる。

 流石、メラン様。


「姉上、もしかして僕もこのお部屋使っていいんですか?」

「ええ、大丈夫よ。後で魔力を登録しようね」

「はい! やったー! 嬉しいです」


 ああ、ヴァイスが可愛い!

 うん? 弟馬鹿だって? そうだよ。

 大丈夫、自覚してるから。

 あれ、まだ映像には続きがあるみたい? なのでもう一度触ってみた。


『そろそろ時間か。うーん、伝え忘れは無いかしら?

 あっ! ここには魔道具以外にも魔法薬のレシピを纏めた本や魔法の本もあるからそれも使ってね。魔法薬のレシピは私の努力の成果だから大切に。

 あと、この魔宝石が置いてある机の中にとっておきの魔道具があるから楽しみにしてちょうだい!

 それでは、さようなら。

 メラン・アウイナイト』


 マジか。

 魔法薬のレシピって自分が作った物は秘匿する人がほとんどなのに、教えてくれるんだ。

 それはとても助かる。

 メラン様、本当にありがとうございます。

 さて、とっておきの魔道具ってなんだろう?

 言われた通りに、宝玉の魔宝石が置いてある机の中を探す。

 あっ、これかな?

 見つけたのは、さっきまで映像を再生していた魔宝石と同じ宝玉レベルの魔宝石だった。


「それはなあに?」

「さっき、メラン様が言っていたとっておきの魔道具だと思うんだけれど」

「姉上、どうしたの?」

「いや、どんな効果があるのかなって考えてたの。よし鑑定してみますか」


 効果が分からないのに使う訳にはいかないから、鑑定をしてみる事にした。

 あっ、さっきの映像を投影したやつはノーカウントでお願いします。後になって鑑定してから触ればよかったって気がついたんです。

 それは置いておいて、鑑定魔法を発動するとこんな説明文が出てきた。


《マジックハウス》

 時空間魔法で異空間に家を保存してある魔道具。

 起動すれば、その場に家が現れる。

 家の中は使用者の魔力と材料で増改築可能。

 とっても優れた持ち歩ける家。

 製作者メラン・アウイナイト。


 おおう、とんでもない物が出てきたよ。

 そりゃとっておきってメラン様言ってたけどさ、こんなにすごい魔道具が出てくるとは思わないでしょ。

 でもこれで誘拐された後、家に困らなくなったな。

 まず、誘拐されても逃げる事は簡単だ。

 だって、時空間魔法があるからね。

 魔法を封じられても、魔法封じを無効化する魔道具も作ってるし。

 ただ、この家に帰ってもまた命を狙われ続ける事は確実。

 なぜかというと、アーテルルートでアーテルが命をずっと狙われていたって言っていたから。

 だから、誘拐された後はどこかの街に隠れ住むつもりだった。

 もちろん、アーテルを連れてね。

 ヴァイスは命を狙われないから、このまま家に居てもらう。

 ただ、こっそり時空間魔法で会いに来るつもりでいるけど。


「……さま、……ねえさま、……姉さまってば!」

「ああ、ごめん」

「ぼーっとしてどうしたの?」

「ちょっとこの魔道具のことを考えてて」

「その魔道具ってどういう物なのか分かったんですか?」


 すっかり思考が誘拐後の事ばかりになっていた。

 鑑定魔法使った後にぼーっとされたら困るよね。

 二人にどんな魔道具なのか説明すると、思ったよりも反応は薄かった。


「あれ? すごい魔道具なのにあんまり面白くなかった?」

「メラン様がとっておきって言ってたからもっとすごい物だと思ったの」

「十分すごいけれど、期待していたのとは違うなって思ったんです」


 一体どんなものを期待していたんだろう。

 男の子だから攻撃魔法のすごいやつが出るとかそういうのかな?

 私的にはこの魔道具の方が実用的でとっても助かるんだけど。


「じゃあ、私がこの魔道具を貰ってもいいかな?」

「いいですよ」

「いいよー」


 こうして私は素晴らしい魔道具を手に入れた。

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