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プロローグ

『貴方の新たな生に幸多き事を願っています』


 そんな言葉を聞きながら私は光の中に飛び込んで行った。




 ぼんやりとした意識の中、誰かの声が聞こえる。


「もう少しすれば貴方に会えるのね」


 その声は、とても優しくて安心するものだった。

 また意識が薄れゆく中、私もこの声の人に早く会いたいと願う。




 はい! そんなこんなで生まれました!

 赤ちゃんの頃から意識バッチリなんてどんな羞恥プレイなのかと女神様に文句をつけたいところだけど、そこは一旦置いておこう。

 初めましてどこかの誰かさん。

 私の名前はマグノリア・アウイナイト。アウイナイト公爵家の長女で転生者だ。

 前世の名前は悠木蓮華。ごく普通の一般家庭に生まれ、OLとして働いていた成人女性だった。

 取り立てて話せる事と言えば、一回りも年の離れた弟がいて猫可愛がりしてたぐらいかな。

 ちなみに趣味は乙女ゲーム。一番好きな作品は『薔薇騎士は愛を紡ぐ』だったんだけど、まぁそのおかげでこんな風に記憶あり転生をしてるんだよね。

 それでは、赤ちゃんでする事ないし暇だからここまでの経緯を振り返ろう。




 あの日、私は久しぶりに実家に帰っていた。

 仕事が忙しくてしばらく会えていなかった家族に会い、可愛くてたまらない弟にお小遣いをあげて喜ぶ姿を見て癒される。

 そんな楽しい時間を過ごしていたら、弟に買い物に誘われた。

 もちろん断るなんて選択肢は無く、近くのショッピングモールに向かう。

 弟と本屋などを巡って楽しんだ帰り際にそれは起きた。

 青になった横断歩道を渡っていると、信号無視した車がこちらに突っ込んで来るところが見える。

 私の位置は安全だけど、数歩先を歩く弟はこのままだと轢かれてしまう。

 一瞬の間に身体は動いて、弟を突き飛ばしていた。


「っ陽人!」

「えっ」


 ドンッという衝撃音と共に、表現出来ないほどの痛みが身体を襲う。


「ね、ねーちゃん? 姉ちゃん!」

「っいぁ、よ、ようと」

「きゅ、救急車よぶから! しっかりして姉ちゃん!」


 いつも冷静な弟が動揺してる。そりゃそうだよね。そういえば突き飛ばしちゃったけど怪我してないかな?

 私は朦朧としかけている意識の中でそう思った。


「っようと、は、ふぅ、けがしてない?」

「今は俺の事なんていいから! 無理に喋らないで」


 動揺しつつも携帯で救急車を呼び、私の事を助けようと必死に頑張る弟の姿が見える。

 そして、徐々に薄れゆく意識の中自分がもう長くないことを悟り、弟が私の事を引きずらずこの先幸せな人生を送ることを願った。




 次に私が目を覚ましたのは、見知らぬ白い宮殿風の部屋の中だった。


「ここは?」

『目を覚ましたのですね。初めまして私は幾つかの世界を司っている女神アレスと申します』


 えっ、女神様? うぇ、はぁ! どういう事!


『混乱していらっしゃる所申し訳ありませんが、説明を続けさせていただきますね』


 よし、落ち着こう。多分聞かないとヤバいやつ。ビークール、ビークール。ふぅー、大丈夫、落ち着いた。それにしても女神様はマイペースっていうか神ペース。


『落ち着かれたようですね。それでは説明を始めさせていただきます。

 まず、貴方は元の世界で事故により亡くなりました。その事を覚えていますか?』

「はい。それは覚えています」

『では、次に現状を説明しますね。

 私は幾つかの世界を司っているのですが、最近作ってしまった世界に少々不満があり、その不満を解消してくださる方を探していたのです』


 作ってしまった世界ってすごい神様感だよね。まぁ、マジで女神様みたいだから当たり前の事っぽいけど。


『そして、たまたま貴方の魂をこちらの世界に来ている時に見かけ、こちらの世界の神に交渉してこの場に来て頂いたという訳です』

「えっと、それは私が女神様の不満を解消できるという事ですか?」


 というか、女神様の不満って凄そうなんだけど私が解消できるとか有り得るのかな?


『はい! 貴方の記憶を見させて頂いたところ確実に私の不満を解消してくださる方だと断言出来ます。

 貴方は「薔薇騎士は愛を紡ぐ」という作品をご存知ですよね?』


 ふぇ、それは私の最推し作品では!


「は、はい。知っています」

『実は私も大好きな作品なのですが、まだそこまで知識は深くないのです。

 しかし、神の力とは厄介なもので好きな気持ちが溢れてしまったばっかりに、「薔薇騎士は愛を紡ぐ」を具現化した世界、ローゼリーベヴェルトを作ってしまいました』


 「薔薇騎士は愛を紡ぐ」の世界ができたって事でしょ? 凄すぎるよ。さすが女神様。

 けどそれがどう私に関わるんだろう?


『では、本題です。

 貴方には私が作ってしまった世界、ローゼリーベヴェルトに転生して頂き、貴方の記憶をお借りして「薔薇騎士は愛を紡ぐ」の舞台の時代をより原作に近づけさせて頂きたいのです』

「えっと、それは私が特に何かをするって事では無く、転生するだけで協力出来るって事ですか?」


 そこ大事だよね。何かしなくちゃいけないなら安易に引き受ける事はできないし。


『ええ、転生して頂くだけで世界に貴方の記憶から頂いた情報が入ります』

「それなら構いません」

『ほ、本当によろしいのですか? あまりにも簡単に決めすぎでは?』


 うーん。そうかな?

 私は女神様の提案をすごく魅力的に感じてる。

 それに、自分が頑張って何かしないといけないのならもっと考えるけど転生するだけでいいみたいだし、ぶっちゃけ死後なんだから楽しそうな事に挑戦するのもアリだよね!


「どうしたって元の世界で生き返るなんて事はできません。それなら女神様のお役に立てる上に、自分が大好きな作品を模した世界に転生して生きていくのは楽しそうだなって思ったんです」

『そう思って頂けるのは、とてもありがたいです。

 実は、神の力を使えば作品の全てを知る事もできるのです。しかし、そんな事をしてしまえば乙女ゲームの醍醐味である一人一人を攻略して楽しむという事ができなくなってしまいます。

 その為、あの作品の記憶を深く持っておられる方を探していました』


 あー、それは分かる。攻略前のネタバレは嫌だ。

 女神様は同じ趣味を持つ同志な訳だし、やっぱりここは一肌脱ぐべきでしょ!


『本当に蓮華さんはお優しいですね。

 ここからは、転生についての説明になります。

 蓮華さんには「薔薇騎士は愛を紡ぐ」の登場人物であり、ストーリー開始時には既に亡くなっているマグノリア・アウイナイトに転生して頂きます』


 えっ、成り代わり転生なの……。

 てっきりモブに転生するんだと思ってたよ。

 でもなんでマグノリアなんだろう?


「なぜ、マグノリアなんでしょうか?」

『それは、蓮華さんとマグノリアの魂の相性が良かった事と、マグノリアはチートでも周りに違和感を持たれにくい人物だからです』


 そういう事か。

 マグノリア・アウイナイトはエルフの先祖返りで両親は普通の人族。攻略対象のアーテル・アウイナイト、ヴァイス・アウイナイトの姉であり、またこちらも攻略対象の第一王子ミルフォイル・セレスタイトの婚約者でもあった。

 そのマグノリアが規格外な能力を持っていても、先祖返りやエルフという種族が理由になる。だからそこまで疑問を持たれることは無いんだろう。

 魂の相性っていうのは多分神様視点の理由だから、私にはよく分からないんだけどそういう物って考えとけばいいかな。

 あと、全然関係ないけど女神様がチートって言う違和感が凄い。


『魂の相性について簡単に説明すると、蓮華さんとマグノリアの考え方が似ているのですよ。

 特に弟に対する愛情の面などがそっくりで、混じり合うとしても困る事はありません』


 あー、それは、うん。

 ゲームに出てくるマグノリアの行動に私はずっと共感していた。

 弟を守る為に自分だけが誘拐されるのも、ずっと弟達を想って魂だけになっても守ろうとしていたその気持ちもすごくよく分かった。

 マグノリアは、主にアーテルルートの回想に出てきて、プレイ中は亡くなっているキャラクターだけどアーテルの為にも生きていて欲しかったと思ったりもしたから。

 でも、死んでしまうマグノリアに転生したらまた私死ぬのかな?


『大丈夫ですよ。蓮華さんにストーリー通りに亡くなる事を求めたりしません!

 私は作った世界をできるだけ原作に近づけたいと考えていますが、変化が起きる事を禁止しているわけではないのです』


 え、ストーリーが変わってもいいの?


「じゃあ、私は生きる為に行動して本来のストーリーから変わってしまっても良いんですか?」

『もちろんです。というより元々どこかは変わってしまうと思っています』


 ん? 元々どこかは変わってしまう?


『はい。この世界は「薔薇騎士は愛を紡ぐ」で描かれていて、その上私や蓮華さんの記憶にあった部分はその通りな人物になったり、その通りに歴史が進んだりします。

 ですが、描かれていない部分や記憶に無かった部分は世界自身が歴史を紡ぎ世界を作るのです』


 うーん。世界自身が歴史を紡ぎ世界を作るってどうなるんだろう?


『そうですね。

 例えば、作品の主な舞台となるセレスタイト王国や登場キャラクター達はそのまま存在します。しかし、名前しか出てこないネフライト王国の人々や、名前さえも無い他の国々は世界自身が進化の過程をたどり、普通に生まれた他の世界と同じように人々が生きて歴史を紡ぐのです』


 ああ、そういう事か。

 地球で例えるなら、描かれていた日本やそこに出てくる人達はそのまま生きている。だけど、描かれていないアメリカやその他の国、そこに生きる人達はその人達が紡いだ歴史で生きてるって事なのかな?


『ええ、その解釈で構いません。

 もちろん、セレスタイト王国も全てを描かれていた訳では無いので、その時代に至るまでの過程や登場していない人々はこの世界独自のものなのです。ですから、その再現される時代であってもこの世界独自の部分が影響を及ぼして原作との相違が生まれる可能性があります。いえ、というよりも確実に原作との違いが生まれるでしょう』


 へぇ。そんな事になるのか。

 どこで使える知識かは分からないけど、面白いな。


「という事は、その原作との違いがあるかもしれないからマグノリアが生きていたとしても問題は無いということですか?」

『ええ、その通りです』


 生きる為に色々変えてもいいなら困る事はほとんど無いかな。


『では、次にスキルなどステータスのお話に移りましょう』

「はい!」


 おお、ザ・異世界転生って感じの話だ!


『まず、先祖返りのエルフですから魔力は多くしておきますね。元々先祖返りは普通のその種族の者よりも能力が高くなる事が多いので、蓮華さんもといマグノリアが強くても疑問を持たれる事は少ないでしょう。

 蓮華さんは何か欲しい能力はありますか?』


 えっ、えー、難しいな。

 転生系小説沢山読んでいたけど、こういう時には全然出てこない。


「あっ、えっと、アイテムボックスとかインベントリって呼ばれているスキルが出来れば欲しいです」


 一つでも思い浮かんで良かった。これって転生系で必須だよね。読む度に便利だなって思ってたからな。


『わかりました。この世界だとアイテムボックスのスキルがありますが、それよりも希少で万能な時空間魔法を付けておきますね』

「えっ! 良いんですか? なんだかとてもチートな名前のスキルなんですが……」


 どう考えてもチートな気しかしない。名前からするにワープとか転移とかを使えるやつじゃん。


『正解です。ワープや転移もできる魔法系スキルですよ。アイテムボックスの代わりにマジックドロワーが使えます。

 もちろん、時間停止機能付きで容量無制限なので使い勝手も良いですよ』

「あ、ありがとうございます」


 マジックドロワーって魔法の引き出しか。

 それにしても時空間魔法ってすごいチートじゃん! 女神様大盤振る舞いし過ぎです。アイテムボックスが貰えるだけで嬉しすぎたのに、能力高すぎなやつを貰ってしまった。


『ふふ、喜んで頂けたようで嬉しいです。

 蓮華さんは同じ趣味を持つ同士ですからね。多少のおまけは構いませんよ。

 他に欲しい能力はありませんか?』

「いえ、魔力が高い上に時空間魔法が使えれば既にチートだと思うのでもう大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

『やはり、蓮華さんは謙虚ですね。他の世界の神に聞いた話だと転生する際に山ほど能力を注文する者もいるというのですから、貴方をお呼びして良かったとしみじみ思います』


 あー、そういう人もいるのか。いやでも私はめちゃくちゃいいスキルと、多い魔力っていうそれだけでチート過ぎるやつ貰ってるから十分だもんな。


『それでは後は私が適度に色々選んでお付けしておきます。

 スキルの確認は心の中でステータスと唱えれば、目の前に自分だけが見えるパネルが現れますからそこで確認してくださいね。

 そろそろいい時間のようなので、転生に移りましょう』

「あ、あの、本当に充分満足しているので、そこまで付けて頂かなくて大丈夫ですからね?」

『ええ。わかっていますとも!』


 ああ、不安だ。女神様張り切ってるからやばい事になりそうでめちゃくちゃ不安だ。


『大丈夫です。理解していますから安心してください。

 それでは、転生の準備に移ります』

「は、はい!」


 女神様の言葉に返事すると、途端に周りが光り輝き目を開けていられなくなる。

 次第に光が落ち着き目を開けると、自分と女神様の間に輝く光の泉のような物があった。


「これは?」

『この泉に飛び込めば転生完了です。わざわざこの様な物を用意しなくても転生はできるのですが、少しかっこよくしてみました。

 決心ができたところで飛び込んでください』

「分かりました」


 少し泉を眺めた後、女神様を見る。


「できました」

『やはり、早いですね。

 それでは飛び込んでください』

「はい!」


 少し走りながら勢いをつけて飛び込む。

 その瞬間女神様からの言葉が聞こえた。


『貴方の新たな生に幸多き事を願っています』

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