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第八話 レンセ

 崩壊した屋敷の庭に馬車を呼んで、生き残った使用人を乗せて別邸へと送り出した。


「アーシャさん、あなたで最後ですよ」


 私は最後でいいとレンセ様と一緒に使用にの介抱を手伝っていたのだが、いよいよ私で最後になってしまった。

 チラリとレンセ様の顔を見るが、私がこのまま別邸に向かうと信じて疑っていないようだ。


「レンセ様、私、実は折り入って頼みたいことがあるのですけれど……」


「頼みですか?」


 レンセ様は、自分に出来ることならと言って、にこやかな顔で私を見る。その顔からは、特に何の感情も読み取る事が出来なかった。

 私はスカートをぎゅっと摘まんでレンセ様に心の内を伝えた。


「私もレンセ様と共に戦いたいのです!」


「……はい?」


「レンセ様はさっきのあの化け物と戦っているのでしょう!? 私にも手伝わせて下さい!!」


 私の全身全霊の訴えは、しかしレンセ様には届かなかったようで……眉を下げてどうにも困った子を見る表情になった。


「アーシャさん、遊びではないのですよ」


「私にはこの靴があります!!」


 私は靴を指して訴える。


「これはアヴィの願いでもあります、二人分の願いです!」


「……それは欺瞞では……」


「うっ……」


「いいですか、アーシャさん。今日ここであなたが生き残ったのは奇跡です。その奇跡は次は起こらないかもしれない……いえ、きっと起きないでしょう」


 レンセ様は遠くを見ながら続けて口をひらく。


「私も今まで多くの友を失いました。その中にはとても優秀で皆に死ぬはずがないと言われていた戦士もいます。……ですが、ふとした油断で化け物に負けてしまい帰らぬ人となってしまった……」


「レンセ様……」


「あなたは貴族としての人生を送った方がきっと幸せですよ」


 貴族の幸せ……?

 私はこのまま貴族で過ごす責任と結果を想像する。

 お父さまが亡くなった以上、次の当主は別邸にいる叔父が継ぐはず。

 そして叔父は私が血の繋がった姪ではない事を知っている(孤児だとは知らないはずだけど)


 叔父はお父さまのような野心家の顔はしていないが、真面目一辺倒で貴族の矜持を一番と考える性格だ……。

 どっちにせよ私は放逐されそうな気がするんだけど。


「レンセ様、あの……実は私、貴族じゃないので、ここでの幸せなんてないんです」


「そうですか、ならば平民として普通に過ごせるように祈っておきます」


 レンセ様の話は終わったとばかりの空気を感じて私は慌てて追いすがる。


「お願いします! なんでもします!」


「……はあ……」


 いよいよレンセ様がため息をついた。

 しかし苛立った様子はなく、心底困った顔で私を見た。


「アーシャさん、……いえ、アーシャ」


「は、はい」


「私が今から戻る場所について、少し話ます。その上で、まだ私に付いて来ると言うのなら……もう止めません。その命、奴らを倒す為に使わせ頂きます」


 私はレンセ様の言葉を聞いて嬉しくなった。


「はい!」


「なんで嬉しそうなんでしょう……」




 ◇




「さて、何から教えましょうかね……」


 私とレンセ様はあれから屋敷から離れ、町のはずれを歩いていた。

 あの戦いからずいぶんと時間も経ち、体力の限界だった私は、こっくりこっくり船を漕ぐ。


「アーシャ、限界ですか?」


「まだ……へーきです……」


 私は平気と言ったのにレンセ様はヒョイっと私を抱き抱え「軽いですねぇ」と気楽そうに呟いた。


「レンセ様……!?」


 私はじたばた暴れるが、レンセ様は暴れる私を抱え直しながら楽しそうに笑う。


「アーシャ、こんな所に置いていったりはしないので、無理はしなくていいですよ」


「で、でも……!」


「無理は、私の話を聞いた後からになさい。あなたはまだ子供でしょう」


「子供……」


 はい、おっしゃる通りです。


「今日1日は宿でゆっくりするので、あなたも体を休めて下さい」


「……はい」


 襲ってくる睡魔に抗うのをやめたとたん、私の意識はすぐさま落ちた。




 ◇




  ~レンセ視点~



 ふうやれやれ、ようやく寝ましたね。

 頑固な子供です。


 腕の中ですやすや眠るアーシャを見ながら今日の出来事を反芻する。


 間に合わなかった。


 何人かは殺されてしまった。


「……ムーアめ……」


 ぎりっと歯を食い縛る。


「アーシャがいてくれて、感謝しないといけませんね」


 彼女がムーアを押さえていたから何人かの命が助かったのは間違いなく事実で……


「そういえば、貴族じゃないと言ってましたが」


 彼女の寝顔を見るが、どこからどう見ても貴族の令嬢としか言い様のない容姿は――――


「狂言とも思えないんですがねえ」


 彼女の必死な訴えを思い出す。

 まあ、あの侯爵家を調べたら分かる事なんですが……


「どうでもいいですね」


 自分には何の関係もない事だ。

 それより、大事なのは、アーシャが使える人材である、と言う事だ。


 くくっ……


 まさかこんないい拾い物があるとはね……


「ようやく、強い戦士が手に入りました」


 私とロキスだけが特級ムーアに対抗出来る今の状況を、何とか解消出来るかもしれない……


「アーシャ、あなたには期待していますよ」


 この若さで、上級ムーアに対抗できたこの少女なら、私を超えれるかもしれない……

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