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第七話 決着

「あなたは……?」


「もう大丈夫ですよ、お嬢さん」


 少し長めの髪を後ろで束ね、銀色の艶やかな前髪を風に揺らし、私が月に思い描く美しさをそのまま人にしたかのような美丈夫が、瓦礫の山に片足を乗せて立っていた。


 よく戦いましたねと言いながら

 身を捻った次の瞬間、ザッと私の前に着地した。


 化け物がいる状況を忘れどぎまぎしている私に、彼は身をかがめて左手をスッ手を差し出してきた。


「立てますか?」


「あ、あの……」


 いきなりの紳士的な一連の行動に私は言葉を失い、なんとなく、上目遣いで彼の顔を見る。


 な、なんて格好イイのかしら!?


 頬まである長めのコートの襟が彼の端正な顔立ちに実に似合っていて、優しげな青い瞳がじっと私を見つめているのだ。

 目が合った私は、自分の顔がか~っと赤くなるのを感じる。きっと耳まで真っ赤に違いない。


 ふるふると右手を出すと、自然にスイッと引き起こされ。彼の胸にポスンと顔が埋まる。


「後のことは私にまかせてください」


「ふぁい……」


 あ、これはダメなやつですね。

 ダメな友達でごめんねアヴィ……


 急に現れた青年に化け物は苛立った風に問い掛けた。


「……ナンなんですか、あなたはァ?」


「答える必要が?」


「ははは、格好イイです……ね!」


「フッ」


 化け物の繰り出した一撃を手にした鞘で難なく弾いた彼は、見るからに余裕のある笑みを浮かべていた。


「今のが全力ですか?」


 その明らかな挑発に化け物は緑に光る瞳をチカチカ点滅させながら叫んだ。


「イチイチ、勘にサわる野郎だ!!」


 大きく腕をのばし、右上から斜めに凄まじい速度で振り下ろす。

 だが彼は「フッ」と息を吐き、そのまま鞘をぶつけて相殺する。


「鞘で……」


 私のつぶやきに彼は「抜く必要性は感じませんからね」と答えるが、それが聞こえた化け物は、最早怒り心頭といった感じで無茶苦茶に暴れだした。


「くあせフじこおオオおおお!!」


「あなたの言葉を返しましょうか。出来損ないのムーアなど、私の敵ではありません」


「きイイいいさああアアマあああアアアアーーーーー!!」


 化け物の身体がグンッと変形したかと思ったら、ぼこぼこと突起状になった部位から、自身の肉片のようなものをそこら仲にばらまき出した!


「全部キエロオオオオオオ!!!」


「やれやれ、これだから癇癪持ちは困るんです。……仕方ないですね、剣を抜いて差し上げましょう」


 剣を構えて、彼は告げた。


「あなたが最後に見る技です、とくとご覧なさい」


 青年の声と共に、鞘の側面の留め金がばちばちばちっと外れ、隙間が出来る。


「!?」


「この剣は少し特殊でしてね、本来の剣のような使い方は出来ないんですよ。鞘から剣を抜くのではなく、開いた隙間から外に振るうのです」


 化け物のばらまいた肉体は空中で針の形になった、もしあれがそこら一体に落ちたら大惨事になる……!


「懺悔なさい。 ―――全てを切り裂け、《ゼンライト》!!」


 彼が剣を横薙ぎに一閃すると、光が全ての針を切り裂いた!


「な、ば、か、ば」


 光は針だけでなく化け物の身体も細切れに切り裂いていた。


「あなたにこれを使うのは、少々勿体無かったですかね?」



 ◇



 細切れになった化け物が憎々しい表情のまま崩れていく。

 その肉片は、アヴィが靴になった時と同じようで、この化け物も何か別の形状に変化しているのだろうか……?


「一見、死んだ様に見えますが、彼らが死ぬことはありません」


 彼は化け物に詳しいのだろうか?

 崩れた化け物を見ながら、独り言のように教えてくれる。


「彼らは、現象が肉体を持っただけ。このように、得た肉体の生命力を他者が削りきる。……もしくは自身で使いきると、形状を保てなくなり崩れていくのです」


「……」


「自然界から現象というものが無くならない限り、彼らは再び肉体を得て何度でも甦るでしょう……」


「それじゃあ……」


「しかし、この残った物質……」


 彼は崩れた化け物が変化した、緑色の塊を手に取った。


「この物質が現世に残っている限り、彼らは肉体を得る前の状態、存在を確立できない」


 塊をコンコン叩いて彼は「ふむ、低ランクですが、まあいいでしょう」と呟いた。


「……そう、この塊は彼らの存在そのものと言っていいでしょう。 そしてこの塊を素材として作った武器は、彼らの現象をわずかながら操る事が可能なのです」


 彼は手にした剣を少し持ち上げた。


「この剣もその一つです。……あなたの靴と同じくね」


「……アヴィ……」


 結局アヴィはなんだったのだろうか?

 今の説明からアヴィが私の為に生命力を使いきったと理解しているけど……あ!


 今さらながら私は彼の名前も知らない事に気付いた。


「あの……名前を聞いてもよろしいですか?」


「……おっと、まだ名乗っていませんでしたね。 ええ、いいですよ」


 彼は腰のベルトに鞘をバチンと取り付けコートをバサッと払った。


「私の名はレンセ。 あなたの名前もお聞きしてよろしいですか? 美しいお嬢さん」


 ……ふぁああ……


「……レンセ様……、私の名はアーシャ・リベラルタです。……どうか私の事もアーシャとお呼び下さい」


「はい、アーシャさん。 実に勇敢でしたね、あなたのお陰で助かった命がいくつもありますよ」


「……レンセ様。 今宵は危ないところを助けて頂き、心からお礼申し上げます」


 私は膝を曲げ、もうぼろぼろになったスカートの裾をつまんで頭を下げる。


「……ですが、お礼の品を用意しようにも、屋敷が無くなってしまいまして……」


 私は崩れ落ちた屋敷を見る。これでは彼にお礼をするのも一苦労だ……


「礼など不要ですよアーシャさん。 ムーアを倒す事が私の使命であり、成すべき事なのです」


 そういえば、レンセ様はずっと化け物の事をムーアと呼んでいたと思い出した。


「ムーアとはあの化け物の事でいいのでしょうか……?」


「あっ」


 一瞬やっちまったという顔になったレンセ様は「忘れてください」と非常ににこやかな笑顔で私に言った。


「は、はい……」


「……さて、立ち話も疲れましたね。 アーシャさん、別邸があるでしょう? 連れて行ってあげますよ。夜ももう遅いですからね」


「別邸……」


 レンセ様は私の側を離れて屋敷の外で放心しているメイドや庭師など生き残った使用人を介抱し始めた。


「……というか、貴族、もうやらなくていいんじゃないかしら」


 私はその事実に気付き、ぽつりと呟いたのだった。

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