第五話 殺意
ぐーるぐーるー
ぐーるぐーるー
私は剣で池をかき混ぜている。
何故こんな事をしているのかと自分でも思うけれど、アヴィが池の中でわちゃわちゃ動いてなにかを催促して来たのだ。
最初は意味がわからなかったけど、渦を作ってやったら満足気だったのでこれでいいのかと、気にせずぐるぐるとかき混ぜる。
~~♪
うーん、本当に楽しそうね。
――――!!
「アヴィ!?」
急に。
屋敷の空気が変わったと同時に、アヴィは動きを止めて水底に沈む。
覗き混むとアヴィはゆっくりとこぽこぽ空気を出して沈んでいくのが見えた。
「空気がおかしいわ……一体なんなのかしら……?」
さっきまでの空気と全然違う。二の腕が粟立つ、というのかしら? 両腕を擦り体を抱き締めた。……アヴィも、何かを感じたのだろうか。
私は足元に落としていた剣を拾い上げ、颯爽と屋敷に駆け出す。
――――得体の知れない恐怖に、心臓が早鐘を打っている……。こんなことは、初めてだ。
◇
――――オデスト・リベラルタ侯爵。
アーシャの義父は書斎にてセプティオ家の弱味になりそうな過去の書類を探していた。
「ふん、セプティオ家……。思った以上に隙がないがないな。……やはりアーシャを使った方が確実か?」
オデスト家は元々この土地の王族だったのだ。それが数十年前に今の王族に取って変わられた。それを知った時、彼は決めたのだ、必ず王権を取り戻すと。
「む?」
書類に集中していたオデストだが、視線を感じ顔を上げる。
「……誰かいるのか?」
しん、と静まり返った部屋にはオデストの声しか響かない。だが、確実に視線を感じる。オデストは常に人目を気にして生きてきたのだ。視線には敏感で、今も誰かに見られていると確信していた。
カチャ……
内側のポケットから銃を取り出し、静かに息を吐く。
感じる視線は、扉の向こう……
オデストはゆっくりと扉に近付き、銃口を扉に向けて、発砲した。
ダァン!!
ガシャアアンと大きく音がなる。オデストは扉を蹴って破壊し、すばやく視線を走らせた。人影が倒れているのが目に入る。
「誰かは知らんが、無作法なのはいかんぞ」
オデストはくっくっと笑いながら、倒れている人影に近付く。
「どれ、顔をみせてみろ」
オデストは顔を見ようと手を伸ばしたが、それが間違いだった。
「ふゥむ、コレが、銃弾……」
人影は平然と立ち上がってきたのだ。
その姿を見たオデストは恐れおののいた。
「な、なんだ、お前は……!!」
全身が緑色の人間。だが、ところどころ歪で、手は枝のように細く先端は鋭く針のようになっていた。
「我か? 我は『破裂』という現象から、生まれし存在」
「い、一体何を言っている!?」
「貴様の事はよゥく知っているゾ、オデスト」
「様を付けろ、この化け物が!!」
ダァン! ダァン!
オデストは引き金を何度も引くが、この化け物は意に介さず近寄って来る。
その動きはどこか親しげで、まるで恋人のような気安さで、オデストに抱き付いた。
「その銃が、見事我ヲ生んだのだ」
「……は?」
「ありガとう。キミのおかげだオデスト。そシて……」
化け物はにっこり笑顔になるとオデストの耳元に顔を寄せ、囁いた。
「サヨナラだ」