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第二話 お父さま

 ガラガラと音を立て、私を乗せた馬車が屋敷への道を進む。


「お嬢様…… どうしてあのような事に?」


 御者のおじさんが私に聞いて来た。

 パーティー会場の外にも話は届いていたらしい。


 あのような事、か……


 私は目を閉じて考える。

 王子も婚約破棄出来るなら、今日のパーティー会場で剣を向けて来た事も、子供のやる事であるし、不問にすると言ってきた。

 婚約破棄に対しては、実際思うところはない。

 王子が強くなるなら、あのまま婚約していても良かった、それぐらいの気持ちだ。

 王子との出会いは私が8歳の時……

 その頃の王子は私に剣で負けても呑気にしていたが、表情に悔しさが見えて来た頃には、露骨に私を避けるようになっていた。

 今日も王子の15歳の誕生日パーティーだったが、私ではなく件のミリエッタ嬢の方ばかり見ていたので、婚約破棄は時間の問題だっただろう。


「うーん、意外に頭に来ていたのかもしれませんね」


「お嬢様は王子の事がお好きだったという事ですか?」


「それはないですけど、盗られるのも面白くないのですよ…… でも、もう終わった事ですから」


 そうして私は目を開けて、馬車から外を見る。


 日は完全に沈み、月が顔を見せていた。


 はぁ…… 月は相変わらず美しいですね……




 ◇




「婚約破棄されただとぉぉぉ!?」


 バーーンッ!!


 屋敷に帰って報告したところ、お父さまは怒りの表情のままに机を叩き付けた。


「ひっ」


 男の癇癪に耐性がないのか、屋敷の若いメイドが小さく悲鳴を上げた。


「お父さま、落ち着いて下さい」


「これが落ち着けるか!」


 お父さまは私を睨みつけ、手元にあった本を勢いよく投げつけた。


 ゴツッ


「ああっ、お嬢様……!!」


 メイドは本を額にぶつけられた私を心配して近寄って来るが、お父さまは手を横に払い「お前達は今日はもういい、外に出ていろ」と退出させた。


 二人きりになったお父さまは、苛立ちが収まらないのか、私に近付き、さらに頬を手のひらで叩いた。


「お父さま、いくら叩いても、もう婚約は破棄されましたよ」


「お前……! わざとか!? わざと王子に嫌われようとしていたのか!!」


「いえ、わりと真面目に好かれようとはしていたんですよ。 ほら、男の子って剣を振り回して遊ぶの好きじゃないですか」


「毎回ボコボコにするのは間違っていると思わなかったのか?」


「一度手加減したら怒って来たので」


「剣などお前が持つものではい!」


「でも、好きなんですよ……剣」


 私との問答に疲れたのか、お父さまはため息をついて椅子に倒れ込んだ。


「……昔は、冒険者、という職業があった。 もし、今もあればお前が剣をふるっていても咎めなかっただろう」


「……」


「私が子供の頃は、まだ冒険者ギルドとプレートに書かれた建物も残っていた…… 今はどの町も自警団の建物になっているだろう」


「仕方ない事です」


「冒険者ギルドというものがあったのは、魔王と呼ばれる存在や、そこから産み出された魔物という生物が、人を襲っていたからだ。 だが魔王が倒された事で、人の世から魔物は消え去った…… 結果、冒険者は食いぶちを失った」


 お父さまは引き出しから黒い鉄の武器を取り出し、ゴトッと机の上に置いた。


「そうして、子供の頃から何も考えず将来は冒険者になる…… という者もいなくなった。 人は脳を生かすようになり、技術を伸ばした……。 その結果の一つがこの銃だ」


「この銃があればもっと簡単に魔王を倒せていたんでしょうね……」


「そう。 ……つまり剣など時代錯誤の代物だ。お前も無意味な事に時間を費やさず、王子に謝罪し、関係を戻すのだ」


「それはもう無理ですよ」


「……私がお前を孤児院から引き取って子供としたのは、王子と結婚させ、王配とする為だ」


「存じてますよ。 無茶しますよね、見た目が良いだけで孤児を子供って偽るの……」


 私は鏡に自分の顔を映す。


 本の当たった額と、叩かれた頬が赤くなっているが、私の美しさに変わりはない。


「びっくりでしたよ。 孤児院に貴族の、ヒゲを生やしたおっさんが来て、私を見て『こいつだ!』と歓喜したのは…… わりと身の危険を感じましたね」


 ふふっ、と思い出し笑いをする私をお父さまは胡乱な目で見つめる。


「お前は当時7歳で…… その頭のよさ、その見た目…… 私の目に狂いはないと思っていたのだが……実に残念だ……」


「もう用無しと放逐なさいますか?」


「……いや。 セプティオ家の娘、ミリエッタと言ったか、まだ子供であるし、問題が無いとも限らない」


「したたかそうでしたよ」


「……そうか、まあ、娘が突然いなくなったとなれば私も疑われるであろうな、……今はまだいい」


「お父さまはそんなに国を乗っ取りたいのですか?」


「もちろんだ、その為にお前はまだ使わせてもらう」


「わかりました。では、まだしばらくここのお世話になるとします」


 私は悪い顔をしているお父さまを横目に見つつ、部屋を出ていく。


 ……私は、孤児院にも、ここにも、居心地の良さを感じないから、追い出されてもいいのだけれどね。

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